羽丘の元囚人   作:火の車

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正体不明

 最近は体育祭関係で忙しい

 

 けど、俺にはこなすべき仕事がある

 

 面倒なことこの上ないけど、やるべきことはこなさないと

 

環那「......」

 

 カタカタという音が部屋の中に響く

 

 パソコンは獄中でもいじってたし

 

 正直、普通の仕事をこなすなんて造作もない

 

 テロ組織をハッキングした時の方が苦労した

 

環那「......こんな感じか。」

 

 俺がこなしてるのは通常の業務

 

 それに加えて、組織体制を整える為の策を考えてる

 

 まぁ、元々いくつか考えてるんだけどね

 

 策なんて過剰なくらいあった方がいいんだから

 

 考えられるときにいくらでも考えておかないと

 

環那「......はぁ。」

 

 時計を見ると、時間は午後11時

 

 社内には恐らく、俺以外の人間はいない

 

 俺がそういう業務命令を出したんだけどね

 

 全員、例外なく定時に帰って、仕事の持ち帰りも禁止って

 

 焦らないといけない仕事は俺が捌けばいいしね

 

 それよりも社員の意識改革が優先しないといけない

 

 だから、まだもう少し仕事しないと、なんだけど......

 

環那「何か用かな?」

ノア「__気づいてたのか。」

環那「まぁね。」

 

 俺が声をかけると、ノア君が窓から飛び込んできた

 

 一応、ここは地上20階で高さは99.4mあるんだけど

 

 まぁ、彼なら何ともないか

 

ノア「せっせと働く貴様を見に来たんだ。」

環那「あはは~、ノア君って実は俺のこと大好きだよね~。」

ノア「そんなわけあるか。お前のことは好きじゃない。嫌いでもないがな。」

 

 あら、この子デレ期だわ

 

 やっぱり、お友達だからね~

 

 いや~、やっとデレてくれたよ

 

環那「冗談は置いといて。何の用でここに?」

ノア「ただの様子見だ。」

環那「なら、そこに座りなよ。」

ノア「あぁ。」

 

 ノア君はソファに座った

 

 それを見て、俺も向かいに座る

 

環那「休憩しようと思ってたから、ちょうど良かったよ。」

ノア「今考えただろ。」

環那「あれ?バレた?」

 

 意外と俺のこと理解してるな

 

 嬉しい限りだよ

 

 この子とは仲良くしておきたいからね

 

環那「まぁ、休憩も大事だからね。切っ掛けをくれたという意味ではナイスだよ。」

ノア「貴様には必要のないことだろう。」

環那「そう?今は結構疲れてるけど。」

 

 いや、ほんと、マジで

 

 流石にこの量の仕事となると頭が痛くなる

 

 並列思考の使い過ぎは良くない

 

ノア(こいつの能力、やはり異常だな。あの量の作業をこなすとは。)

 

 いやぁ、疲れた

 

 意識したら頭痛くなってきた

 

 このくらいなら問題ないけど

 

環那「ねぇねぇ、ノア君。」

ノア「なんだ。」

環那「折角来たんだから、ちょっと話そうよ。」

ノア「いいだろう。俺もエマの様子を聞こうと思ってたところだ。」

環那「相変わらずロリコンだねー。」

ノア「......」

 

 茶化すようにそう言うと、ノア君はこっちを睨んできた

 

 怖いなぁ

 

 ちょっとした冗談なのに

 

環那「ごめんごめん。」

ノア「次にふざけたことを抜かしたら殺すぞ。」

環那「怖いって......まぁ、いいや。」

ノア(よくないが。)

環那「それで、エマの様子だっけ?」

 

 って、言ってもね?

 

 護衛してるノア君の方が詳しいんじゃない?

 

環那「見ての通りだよ。学校行って、家では研究して、好きなように楽しく生きてる。」

ノア「そうか。貴様が言うならそうなんだろう。」

環那「知っての通り、悪いようにはなってないから。ご心配なく。」

 

 別にこれからも何かする予定はない

 

 家族になったからね

 

 流石にその辺りの節度は持ってる

 

ノア「随分お優しいことだな。化物が。」

環那「ひどいなぁ。化物なんて。」

ノア「貴様が化物じゃないなら何と言えばいい。」

環那「環那君とか?」

ノア「断る。」

環那「えー。」

 

 そろそろ打ち解けてくれていいと思うんだけど

 

 流石の俺もちょっと泣いちゃいそう

 

 攻略難易度高すぎでしょ......

 

ノア「貴様と話してると疲れる。」

環那「ひどい。」

ノア「複数人と話してる気分になるんだ。」

環那「?」

 

 複数人?って、どういうこと?

 

 ここには2人しかいないのに

 

ノア「俺は貴様に聞きたいことがあるんだ。」

環那「なになに?何でも聞いて。」

ノア「なら聞こう。」

 

 ノア君はふぅと一つ息をつき

 

 鋭い刃物のような瞳を向けてきた

 

 すごい威圧感だ

 

 “ノア”

 

ノア「貴様、何者だ?」

環那「......どういうこと?」

 

 俺は奴にそう質問した

 

 奴はわざとらしく首を傾げ

 

 うすら笑いを浮かべている

 

ノア「俺はずっと疑問だった。今まで、嘘をつく人間はいたが......貴様のような、常に嘘の気配を感じる人間はいなかった。」

環那「......」

 

 こいつが一番異常なのはそこだ

 

 生粋の嘘つきかと言われればそうだが

 

 それでも、常に嘘の気配があるのは異常だ

 

ノア「貴様は__」

環那「いやだなー。」

ノア「!」

 

 俺が喋ろうとすると、奴は口を開いた

 

 気配が動いてない

 

 一切、動じていないというのか?

 

環那「俺は南宮環那だよ。今も昔も。」

ノア「っ......!!」

 

 恐怖だ

 

 久しく感じてなくて忘れたが、直感で理解した

 

 俺はこいつに恐怖している

 

 俺の殺し屋人生で、こんなことは初めてだ

 

ノア(こ、こいつは......)

 

 俺が恐怖を感じる理由

 

 その一つはこいつの放つ雰囲気

 

 だが、これはそこまで大きな理由じゃない

 

 最も大きな理由は、まだこいつに嘘の気配があることだ

 

ノア(どこまでが真実で、どこまでが嘘なんだ。)

環那「どうしたの?らしくない顔して。」

ノア「......」

 

 こいつは、本当に何者なんだ

 

 なぜ、ここまで嘘で塗り固められる

 

 こいつには脳が複数あるのか?

 

 そうでない限りあり得ないほどの嘘つきだぞ

 

ノア(......まさか。)

 

 考えるうちに一つの結論にたどり着いた

 

 少し無理があるかもしれんが

 

 これなら納得がいくぞ

 

ノア「貴様、どこに置いて来た?」

環那「なんのこと?」

ノア「......いや、もういい。」

 

 俺はそう言い立ち上がった

 

 もし、俺の予想が正しければ不味い

 

 エマのためにも調べないといけない

 

環那「もう帰るの?」

ノア「あぁ。」

環那「そっか。じゃあ、またね。」

 

 奴のその言葉を背に

 

 俺は入ってきた窓の前に立ち

 

 逃げるような気分を味わいながら

 

 夜の街へ飛んだ

 

 

 

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