羽丘の元囚人   作:火の車

114 / 200
リレー

 “友希那”

 

司会『__次は、3年生によるクラス対抗リレーです。』

 

 司会の子のそんな声が聞こえてきた

 

 もう、みんな入場口にいる

 

 けど、そこに環那の姿はない

 

 さっきどこかに行ったきりだけど

 

 どうしてしまったのかしら......?

 

リサ「も、もう時間ないよ!?環那どこ行ったの!?」

琴葉「わ、分かりません。ですが、きっとすぐに来ます。」

エマ「そう。焦る必要はない。」

リサ「で、でも!」

 

 環那が逃げるわけがない

 

 そう思ってるけれど、あまりにも遅すぎる

 

 一体、何をしているというの?

 

 準備とはなんなの?

 

環那「......」

 

琴葉「あ、き、来ましたよ!」

リサ「環那ー!もうみんな入場してるよー!」

 

環那「......」

 

リサ「......あれ?」

 

 少し遠くからトラックの方に向かう環那が見える

 

 けど、その様子があまりにおかしくて

 

 私たちは環那の方に駆け寄った

 

友希那「環那?一体どうし__!?」

環那「......ん?あ、友希那にリサに琴ちゃんにエマ。」

琴葉「な、なにをしてたんですか?」

リサ「すごい汗かいてるけど、大丈夫?」

環那「......大丈夫。アップしただけだから。」

友希那(なんなの、これは......!?)

 

 様子がおかしい

 

 今の環那はあまりにもおかしい

 

リサ「てゆうか、どうしたの?声かけても反応なかったけど......」

環那「......?......あ、ごめん。」

友希那「!」

 

 環那は軽く謝りながら、私の手をすり抜けていき

 

 ボーっとした様子でトラックの方に歩き出した

 

環那「......聞こえてなかった。」

リサ「えっ?」

琴葉「!」

エマ「っ!?(まさか......!?)」

 

 環那はそう言って、トラックの中に入って行った

 

 私はその時に自分の手を見つめた

 

友希那「......なに、これ。」

リサ「友希那?どうしたの?」

友希那「今の環那は、おかしいわ。」

琴葉「確かに、彼が今井さんの声を聞き逃すなんて。」

友希那「いえ、そうじゃなくて。」

リサ、琴葉「?」

 

 今もなお残る、環那の体温

 

 暖かい......じゃなくて、熱い

 

 まるで熱された鋼鉄のように

 

 環那の体は触れればやけどしそうなほど、熱くなっていた

 

友希那「環那の体温が、高すぎたの。」

リサ「え?」

琴葉「どういう、ことですか?」

友希那「そのままの意味、です。」

 

 また、熱が出てる?

 

 いや、そう言う雰囲気ではなかった

 

 だとするなら、なに?

 

エマ「......心当たりはある。」

リサ「え!?分かるの!?」

エマ「分かる。けど、あまり考えたくはない。」

友希那(あのエマが......?)

琴葉(心なしか、焦ってるようにも見えます。こんなエマちゃんは初めて見ました。)

 

 エマの白い肌が少しだけ青くなっている

 

 一体、今の環那に何が起きているの?

 

琴葉「と、とにかく、いったん戻りましょう。」

リサ「そう、ですね。」

エマ「......」

友希那(環那......)

 

 皆がそう言うので、私も自分の席に戻ることにした

 

 けれど、なんなの?

 

 この、胸にまとわりつく大きな不安は

 

 環那に何か、とんでもなく不吉なことが起こる予感は

___________________

 

 “環那”

 

審判「位置のついてー!よーい!......ドンっ!!」

 

環那(......うるさ。)

 

 遠くから、声が聞こえてくる

 

 声、大きいな

 

 普通に言っても聞こえるよ

 

実況『おーっ!速い!我らが生徒会長、氷川日菜さん!圧倒的だー!』

 

環那(......いつからだろう?)

 

 俺はいつから、こんなに人に甘くなった?

 

 小さい頃から友希那友希那友希那で

 

 友希那以外の人間なんてほとんど見えてなかった

 

 俺が人生と言う道を走り続ける中で

 

 友希那だけ、はっきりと姿が見えていた

 

環那(......じゃあ、いつだ?)

 

 リサの姿を認識したのはいつだ?

 

 小中高のどこだ?

 

 いや、思い上がるつもりはない

 

環那(......答えは?)

 

 答えは高校だ

 

 リサに手を引かれ、段々ゆっくりになって

 

 走る続けていた俺は止まって

 

 初めて、周りにある景色を見た

 

環那(......そこには。)

 

 そこには、綺麗な景色があった

 

 優し光を与えてくれる太陽

 

 倒れた体を受け止めてくれる草原

 

 安心していられる止まり木

 

 自分を写している鏡のような湖

 

 見ているだけで気持ちがいい美しい宝石 

 

 それらが友希那しかいなかった俺の世界を彩った

 

環那(......誰だ。)

 

 外から来た何者かが、止まり木を傷つけた

 

 泣いていた、俺の止まり木が

 

 安心できる居場所が何者かに傷つけられた

 

 俺の景色を誰かが汚した

 

日菜「__ねぇー、かーんな君♪見てた?あたしが走るとこ♪圧倒的だった__」

環那「......君か?侵入者は?」

日菜「え?」

 

 侵入者は嵐

 

 無慈悲に木を揺らし、葉を巻き上げ

 

 最後には倒木にしてしまう

 

 俺の安寧を無差別に破壊しようとする、災害

 

環那(......俺の楽園は汚させない。)

日菜「な、なに?(この雰囲気、やばっ。)」

「南宮君!もうすぐだよ!準備して!」

環那「......あぁ、まだそこなんだ。」

「へ?まだ?」

 

 2つ前の走者はまだ半分しか走ってない

 

 時間なんてまだまだ余裕だ

 

 そんなに焦ることでもない

 

実況『さぁー!第5走者にバトンが渡りましたー!』

環那「......」

 

 内側にいるのは、2人

 

 前の5人は3位でバトンを回してくれるんだ

 

 タイムは何秒だろう

 

 ......いや、気にする必要もないか

 

琴葉「南宮君ー!頑張れー!!」

環那(分かってる。)

リサ「いけるよー!環那ー!」

環那(分かってる。)

エマ「お兄ちゃん!!」

友希那「頑張って!環那!」

環那(分かってる。)

イヴ「環那さーん!」

燐子「頑張れ......!環那君......!!」

環那(分かってる、全部分かる。)

 

 分かってるから、思う

 

 俺はやっぱり、学生に向いてない

 

 だって、限界を限界で更新しなきゃいけないんだもん

 

 そこまでしなきゃ、感動を与えてあげられないんだから

 

「来るぞ!南宮ー!」

「お願い!!」

 

「南宮ー!!頼むっ!!」

環那(あぁ、任せて。)

 

 俺は、(いかずち)になる

 

 嵐をも切り裂く、鋭い雷

 

 なぁに、無理なことは絶対にない

 

 今の俺なら、全てが斬れる

 

 “友希那”

 

友希那、リサ、琴葉、エマ「__!!!」

 

 その時、私たちの前を雷が駆け抜けた

 

 風すら切り裂くような切れ味をもつそれは

 

 圧倒的な輝きで会場を魅了し、閉口させた

 

 一瞬のようにも永遠のようにも感じるその時間

 

 それが終わり、誰かが口を開こうとした時には

 

実況『__ご、ゴォォォォォル!!』

環那「......」

 

 その雷は、真っ白なゴールテープを切り裂き

 

 勝利を確信するかのように

 

 天高く、その右腕を振り上げていた

 

『オォォォォォオ!!!』

 

 その瞬間、会場からは歓声が沸き起こった

 

 せき止められたものが一気に流れ出したように

 

 溢れんばかりの歓声が、会場にいるたった1人に注がれた

 

 “環那”

 

環那「はぁ、はぁ、はぁ......」

 

 なんか、周りがうるさい

 

 頭がガンガンする

 

 もうちょっと静かにしてほしい

 

司会『えぇ、ただ今のタイムは......』

環那「!」

 

 そうだ、タイム

 

 何秒だ?目標には届いたのか?

 

 どうなんだ、早く教えろ

 

司会『1分19秒。繰り返します、ただ今のA組のタイムは1分19秒です。』

「って、ことは......」

司会『A組には30点が入り、順位が変動。よって優勝は......A組となります!』

 

「__よっしゃー!!!」

「やった!やったー!」

「うそっ!ほんとに出来ちゃった!!」

 

環那「......」

 

 周りから、嬉しそうな声が聞こえる

 

 間に合ったんだ

 

 あぁ、そうか、そうなんだ

 

環那「......そっかぁ、間に合ったんだ。」

琴葉「__南宮くーん!」

環那「んぇ?__ぐへぇ。」

 

 安心して力を抜いた瞬間

 

 向こうから琴ちゃんが走ってきて

 

 そのまま飛びつかれた

 

 勘弁してよ、疲れてるのに......

 

琴葉「すごい!すごいです!あなたは本当にもう......!」

環那「苦しい苦しい。顔面が胸に埋もれてるんだけど。」

琴葉「構いません!」

環那「構って。」

 

 ほんと、この子は騒がしい

 

 けど、可愛い

 

 そうだよ、俺はこの笑顔が見たかったんだ

 

 無邪気で汚れのない、この笑顔が

 

日菜「__負けたよ。」

環那「ん?」

日菜「負けた負けた!生まれて初めてかも!スポーツで負けたの!」

 

 日菜ちゃんがそう言いながら近づいて来た

 

 まぁ、別に日菜ちゃん単体に勝ったわけじゃないし

 

 俺はまだ勝ったつもりはないんだけど

 

 まだ、ね

 

環那「日菜ちゃん。」

日菜「ん?」

環那「今のここは起承転結で言う転だ。だとしたら、結もあると思わない?」

日菜「どーゆーこと?」

環那「すぐに分かるよ。」

 

紗夜「__日菜?」

日菜「!(ビクッ)」

 

 俺との会話が終わった瞬間

 

 日菜ちゃんの後ろから紗夜ちゃんが現れた

 

 穏やかに笑っているかのように見えるその表情

 

 だがその実、背筋が凍りそうなほどの恐怖を感じる

 

紗夜「少し、2人でお話しましょう。久しぶりに。」

日菜「え、あ、あー、すっごく嬉しいけど、それはまた今度__」

紗夜「駄目よ。今すぐこっちに来なさい。」

日菜「うああー!!やぁだぁー!!誰か助けてー!!」

 

環那「お達者でー。」

 

 日菜ちゃんの叫びもむなしく

 

 紗夜ちゃんにズルズルと引きずられていった

 

 まぁ、閉会式もあるし、そんなに長くはならないでしょ

 

 ......多分だけど☆

 

リサ「紗夜は環那の仕込み?」

環那「いいや?こうなることは考えなくても分かるし、仕込むまでもなかったよ。」

リサ「あはは、だよねー。」

環那(はい、終わり。)

 

 これは、俺の完全勝利だね

 

 はぁ、疲れた......

 

 もう二度とあの子とは争いたくないって

 

 心の底からそう思う

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。