対峙したら分かる
この子は本当に俺そっくりだ
だからこそ分かる
俺がこの子を嫌いな理由は、ただの同族嫌悪だと
拓真「俺は、先生を守りたい。」
環那「あぁ、分かってるよ。」
曇りのない目だ
純粋な、夢を語る子供の目だ
でも、まだまだダメだ、淡すぎる
拓真「......でも、今の俺じゃ無理だ。」
環那「!」
拓真君は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた
今までとは一味違うみたいだ
取り合えず、話を聞こう
拓真「あんたを見てるとよくわかる。俺には何もかも足りてない。」
環那「......」
拓真「知識も経験も強さも、俺は守るための力を何も持ってない......っ」
悔しそうだ
それはそうだ
自分の無力を悟った時ほど悔しい時はない
今、自分自身を死ぬほど呪ってるだろう
拓真「それに、俺はあんたみたいに1人で強くなることは出来ない......だからっ!」
環那「......!」
視界から、拓真君の姿が消えた
俺がすぐに視線を下に動かすと
拓真君が地に膝をついて、頭を地面に着けていた
拓真「生意気なガキで、今まであなたを敵視してきた自覚はあります......俺は何もできないちっぽけな人間であることも自覚してます。でも、無理を承知でお願いします......!俺に、先生を守る方法を教えてください......っ!!」
環那「......(そうか。)」
この子は俺と違う
1人では強くなれない
それを欠点と言うか否か
その答えすら、周りに依存する
環那「......クフフ、あはは。」
拓真「......!?」
環那「良いよ!君、すごく良い!」
これは予想以上だ
まさか、土下座までするなんて
バカだ、マジなバカだ
環那「こんなに愚直でバカな人間、初めて見た。いやぁ、面白いもの見た。」
拓真「な、なにを......」
環那「けど、君は強くなれるよ。俺よりも。」
拓真「......!」
この子は1人では強くなれない
けど、周りと一緒に強くなれる
色んなものを吸収して、糧に出来る
それなら、1人の俺より強くなるのは当然だ
環那「......でも。」
拓真「?」
環那「俺が危惧しているのは君じゃない。そっちだ。」
春日「......」
俺は黙ってる春日の方を見た
正直、こいつの事は一切信用してない
環那「拓真君は覚悟を示した。だから聞く。お前は本当に、守る価値のある人間?」
拓真「っ!」
春日「......っ。」
こいつは友希那を守らなかった
自分だけを守る道を選んだんだ
そんな奴が、この純粋な少年に守られていいのか?
俺の答えは否だ
春日「......本当は、私はそうあるべき人間じゃないです。」
環那「......」
春日「5年前、私は自分の保身のために、湊さんを見捨てました......そんな私が拓真君と一緒になって、ましてや守ってもらうなんて、おかしな話です......」
拓真「先生......!」
春日は静かな声で言葉を連ねていく
こいつの言ってることは正しい
こいつは拓真君に相応しくない
そんなの誰が見ても明らかだ
春日「別れようと思いました......今の彼の気持ちは思春期故の思い込みだと、そう思っていました......でも、違いました。彼は、私の汚い部分を見ても、それでも、見捨てずに一生懸命、私のために頑張ってくれました......」
環那「......」
春日「だから、誓ったんです......もう、見捨てないと。過去は取り戻せないけど、これからは見捨てない。最後まで、彼の隣にいようと......」
環那「......」
過去よりも未来、ってことか
実に都合の良い話だ
環那「......はぁ。」
拓真、春日「!」
嫌いだよ、ほんとこいつだけは嫌いだよ
けど、馬鹿には馬鹿が相性がいいんだろうね
結局、拓真君の目的意識はこいつなしでは成り立たない
......仕方ないか
環那「ほら、これあげる。」
拓真「うわっ!って、これは?」
環那「あの無駄にデカい家のカギだよ。どーせだれも住んでないし、あげるよ。」
正直、扱いに困ってたんだよね
俺は琴ちゃんのマンションに住んでるし
遊び場にしようにも微妙だし
拓真「えっと、これをどうしろと......」
環那「2人で住めばいいよ。春日はボロアパートに住んでるんでしょ?ちょうどいいじゃん。」
春日「!?(な、なんで知って......!?)」
環那「2人で生活しないよ。間違えても親には頼らないようにね。」
あの母親は拓真君の害だ
あれは拓真君を成長させるのに都合が悪い
出来れば、切り離しておきたい
環那「あと、拓真君。君、来週からバイトね。」
拓真「バイト!?」
環那「毎日うちの会社のどこかしらの支社の清掃をしてもらう。完全週休二日で。ちゃんと給料出すから、それで適当に生活すれば?」
ひとまずはこれでいいかな
やっと、長期プランが始まった
ステップ1でこれとか、あと何年かかるんだか
まぁ、いいや
気長にやって行こう
?「__おいおいおい、そういうことかよー。」
環那「!」
拓真「っ!(この声は......!)」
春日「だ、誰ですか......!?」
勝「......俺だよ。」
そんな声とともに1人の男の姿が現れた
少し前に俺にビビッて泡吹いて倒れた南宮勝だ
この期に及んで何の用だ?
環那「なに?君。いい感じに話がまとまったのに、無粋じゃない?」
勝「おいおい、それを言うならお前も一緒だろ?上手くいってた俺たち一族をぶっ潰したんだからなぁ。」
環那「上手くいってた?あの程度で?笑わせんなよ。」
こいつらにとっての都合の良いだけの生活
それをうまく行ってたと思うならおめでたすぎるでしょ
環那「で、何の用?」
勝「んなもん、分かってるだろ?」
環那「......」
拓真、春日「っ!!」
南宮勝がそう言った瞬間
周りの草がガサガサと音を立て始め
ガラの悪そうな男達と前にクビにした南宮の奴らが出てきた
勝「__復讐だ。」
環那「ほう。」
勝「お前に味あわされた屈辱、今でも昨日のことのように思い出せる。最初は恐怖だった。だが、日が経つごとに憎悪に変わったんだ。」
さて、話は程々に状況を考えないと
周りには結構いるっぽい
暗いから詳しい数が把握できないけど
勝「ずっと準備してきた。お前について調べ、仲間を集めたんだ。」
環那「へー。それで、その集めた仲間と一緒に俺をボコボコにしてやろうって?」
勝「......いいや?」
環那「......(なんだ?)」
南宮勝は気持ち悪い笑みを浮かべた
ほんとになんだ?
勝「そのくらいじゃ済まさねぇ。俺らが奪われた分、お前からも根こそぎ奪ってやるんだ......!」
環那「......どういう意味?」
勝「お前の周りの女、みんな上玉だよなぁ?」
環那「......!」
勝「おっ、やっと表情が変わったな。」
なるほど、調べたってわけね
そうなるとちょっと面倒だぞ
ここにこいつがいるってことは
勝「利口なお前ならわかったよな?」
環那「......」
勝「お前の大事な女たちをお前の目の前でぶち犯して、その上でボコボコにするんだよ!もう、100人の仲間が羽丘に向かってる!早けりゃあと10分でお前の女たちは捕まるだろうよ!」
環那「......」
なるほど、そこそこ賢いね
うん、普通に賢い
全員で俺をボコりに来なかったのは評価できる
寝る間も惜しんで一生懸命考えたんだろう
ちゃんと努力したんだって分かるよ
ただ......
環那「悪いことは言わない。その100人、引かせた方がいいよ。」
勝「あ?」
環那「どっちにしろ失敗するだろうけど......俺の目の前で、俺の大切な人たちに邪な言葉を吐くな。あまりにもイラついちゃうから。」
勝、拓真、春日「__っ!!」
学校には篤臣さんとノア君がいる
組員の人たちもいるだろうし
100人くらいなら別に問題ないだろう
勝「ふ、ふん。その自信は浪平組がいるからか?」
環那「......なに?」
こいつ、浪平組を知ってる?
だとすればなぜ、このタイミングで仕掛けた
......いや、まさか、あるのか?
勝「くっくっく、浪平組がいるからこそ今日なんだよ。」
環那「どういうことかな?」
勝「おかしいと思わなかったのか?組長がいるのに、周りにいる組員が少なくないかって。」
環那「......!!(そう言えば。)」
そう言えば、護衛の数、少なかったっけ
最初は体育祭だからと思ってた
けど、そういうことか
こいつらは何らかの方法で浪平組の人員を削っていたのか
環那(......ちょっと、やばいかも。)
流石に篤臣さんでも100人相手はキツイだろう
もう、結構いい歳だし
それに狙いを把握してないんだ
隙を突かれて、みんなに手を出されたらアウトだ
勝「さぁ、お前ら!やっちまえ!まだ殺すなよ?半殺しにして__」
環那「......おい。」
勝「あ?」
環那「本当に、引かせないんだな?後悔しないな?」
勝「するわけないだろ!こっちの勝ちはほぼ確実、お前はもう蹂躙されるだけだ!」
環那「......はぁ。そっか。」
こいつらに気づかなかったのは俺のドジだ
知っていれば対策は容易に出来ていた
こいつら位どうにかなると思った俺の慢心が招いた結果だ
でも、失敗は取り返せばいい
そのためには、切るしかないか、切り札
“拓真”
環那「殺すしかないか。全員。」
勝「はぁ!?出来ると思ってんのか!?100人割いてるといってもこっちは200人、流石のお前でも__」
環那「......はぁ、ゴチャゴチャうるさいんだよ。」
勝「__っ!!??」
拓真「えっ?」
その時、グチャと言う音が静かな雑木林の中に響いた
何が起きたか分からなかった
だが、数秒後、嫌でも状況を理解することになった
勝「ぎゃぁあああああ!!!目が、目が、目がぁぁぁぁあ!!!」
「な、なんだ!?」
「って、おい、こいつ、目が......」
「つ、潰れてやがる!!」
勝兄さんの目が、潰れた
理由なんて分かってる
あの人が、何かしたんだ
全く見えなかったけど、間違いない
環那「......」
「あ、あいつ、だよな......やったのは。」
「俺はちょっと見えた......石だ、石を投げたんだ。」
「それにしたって、躊躇いがなさすぎるだろうがよ......」
環那「ねぇ、君たち。」
暗くてよく見えない、けど
ゆっくりと勝兄さんの方に歩み寄っていくがかろうじて見える
その足取りはフラフラとしてて、覇気がない
けど、なんだよ、これ
なんでこんなに、震えてるんだ......
「こっちに来るぞ!」
「そいつを移動させろ!そして、病院に__」
「だめだ!眼球が粉々になってる!病院に言ったって治療できねぇよ!」
「は?え、は......?」
環那「......」
「ひっ__」
様子がおかしい
そこにいるのは間違いなく南宮環那、のはずだ
だけど、雰囲気が全然違う
さっきまでとは全くの別人みたいだ
環那「そいつ、貸して?」
「な、なに言ってんだ。」
「な、仲間を売るような真似は__」
環那「じゃあいいや。」
「__ぐふっ......!!!」
「あがっ......!!!」
今度は、勝兄さんを守ってた2人の顔が吹っ飛んだ
倒れた姿を見てみると、顔が変形してる
まず間違いなく、何個も骨が砕けてる
環那「......」
勝「うぎぃ......!!!」
環那「ほら、さっきみたいに喋ってみなよ。」
片手で首を掴んだまま持ち上げてる
勝兄さんは苦しそうなうめき声をあげて
逃れようと体を動かしてる
勝「な、んだ、よ......!なに、も、みえな、い......!くら、い、くらいよぉ......!!」
環那「......こんなもんか。」
「こ、このっ!!!」
「調子乗ってんじゃねぇぞ!!」
「勝!今助けるぞ!」
環那「......」
勝「!?」
南宮環那は勝兄さんを宙で一回転させ
今度は両手で足を掴んだ
その間にも3人は南宮環那の方に向かってる
環那「ほら、返してやるよ。ちゃんと受け取れよ。」
「は__うぐっ!!!」
「なっ__!!!」
「ぐほ......っ!!!」
勝「ああああああ!!!」
南宮環那は勝兄さんで3人を攻撃した
誰のか分からない血しぶきが舞っている
なんだよ、これ......
環那「ほら、取れよ。」
「あぎぃ!!!」
環那「ほらほらほら。」
「ぐはぁ!!!」
「がっ!!!」
「ぐふっ!!!」
環那「ほらほらほらほらほらほら。」
勝「だ、れか、たすけ、たす、けて、くれぇ!!!」
人間を武器にしてる
そう言うしかない
すごい速度で人間が倒れていく
そして、人間が倒れるたび、勝兄さんが無残な姿になっていく
環那「__あれ?」
勝「ヒュー......ヒュー......」
環那「もう壊れたか。(ポイッ)」
勝「......」
ドサっと音を立て、勝兄さんが地面に投げ捨てられた
体の状態がおかしい
見えずらいけど、足の長さが変わってる
恐らく、股関節が完全に外れてるんだ
どんな力で振ったらどうなるんだよ
「に、人間、じゃない......」
「なんだよ、聞いてないぞ......こんな奴が相手なんて......!」
「敵だとしても、心は痛まないのかよ......?ここまでやって......?」
俺も同意見だ
普通の人間なら、こんなことは出来ない
勝兄さんはもう、虫の息だ
いっそのこと、殺してくれた方がありがたいだろうって思う
それくらい、ひどい状態だ
環那「......君たち、甘いね。」
「は......?」
環那「敵は確実に殺すんだよ?大人であろうが子供であろうが、男であろうが女であろうが。」
拓真「っ!!!」
本気だ、本気で言ってる
あの人の目には一切の迷いがない
昔テレビで見た殺人鬼のニュース
そこで出てた殺人鬼の男すら、もう少し優し目をしてた
環那「さぁ、やり合おうよ?頑張って時間稼ぎしなよ?君たちが逃げたら、学校にいるお仲間が同じ目に合うよ?」
「く、クソっ!行くぞ、お前ら!」
「あ、あぁ......!」
「舐められたままでいられっか!!」
「皆の仇うつぞっ!!」
『うおぉぉぉおお!!!』
今度は何十人もが南宮環那の方に向かっていく
俺は無意識で手を伸ばした
ダメだ、ダメなんだ、逃げろ
そう思った
だって、あの人の前じゃあ......
『ぎゃぁぁぁああああ!!!』
拓真「あ......」
環那「ヌルい。」
間に合わなかった
散った桜の花の様に血しぶきが降り注いで
赤く、生暖かい液体が俺と先生の頬を汚した
「み、みんな......」
環那「後悔してる?」
「ヒッ......!」
環那「でも、もう遅いよ。」
表情が変わらない
何人倒しても、誰がどんな傷を負っても
何もなかったかのように次の敵に詰め寄っていく
環那「もう覆らない。誰も助けてくれないし、希望もない。そんな最低最悪な世界を教えてあげるよ。」
雰囲気を変えず、南宮環那は言葉を連ねる
その時、雲が晴れて、一筋の光が差し込んだ
そこで初めて、周りがちゃんと見えた
環那「__僕が、この場にいる者すべてに。」
周りの景色はまさに地獄だった
血が混じりあって出来た水たまり
生きてるか死んでるかもわからない人間
それを見て、絶望した表情を浮かべる人間
誰もがこれを見れば、地獄と形容するだろう
だが、違う、まだまだだ
この凄惨な地獄ですら、まだ入口なんだ、と
静かに佇む化物の姿を見てると、嫌でも理解させられた