いつからだろう
いつ、完全にタガが外れたんだろう
剛蔵「__立て!いつまで倒れてるつもりだ!」
環那「......」
昔は弱かった
毎日、祖父母のストレスのはけ口にされてた
血を流しても、頭をぶつけても、骨が折れても
あいつらは構わず、死なない程度にいたぶって来た
歌代「サンドバッグにもならないわね、この出来損ないは。」
4歳の子供にする仕打ちじゃない
まだ体も発達してないのに
大人の力で容赦なくボコボコにされてた
剛蔵「チッ、おい、歌代。そいつ、外に放り出すぞ。」
歌代「はい。」
環那「......っ」
じいさんにズルズル引きずられ
家の前まで連れてこられた
剛蔵「ほら、よっ!!」
環那「ぐっ......!」
道に投げ捨てられ
正面の家の塀に右半身をぶつけた
恐らくこの時、肋骨と右腕は折れてたと思う
剛蔵「夕方には帰って来いよ!世間体があるからな!」
歌代「目障りだから死んでくれてもいいけれど。」
剛蔵「あぁ、そうだな!折角だから事故にあってくれてもいいな!がはは!」
歌代「そうですねぇ、ふふっ。」
そんなクズ発言をしながら、2人は家に入って行った
ほんと、こいつらはクズだったと思う
もしこいつらが世間体を気にするタイプじゃなかったら、とっくの昔に死んでたかもしれない
環那(なんだ、なんなんだ......)
生まれたくて生まれてきたわけじゃない
こんな扱いされる位なら、生まれない方がよかった
自分は何のために生まれたのか、分からなかった
環那(なんで人間は生まれるの......?こんな思いしてまで、生きないといけないの......?生きることは、ほんとに幸せなの......?)
そんな自問を繰り返しながら
俺は適当に歩いて、公園まで歩いて来た
公園なら、喉が渇けば水が飲める
環那「......」
でも、俺はとても水を飲む気にはならなかった
喉が渇いて、体中も水分を欲していた
けど、俺が生命を維持することを拒否してた
環那(このまま死ねば、誰か一人くらい、心配してくれるかな......)
少しずつ、視界が白くなっていった
この時に悟った
もうすぐ、死ぬんだって
でも、別によかった
死んでも、見つけた1人が心配してくれれば
それで......
友希那「__こんなところでなにしてるの?」
環那「......?」
友希那「だいじょうぶ!?ケガしてるよ!?」
環那「......君は。」
白い景色から現れた少女
俺は、やっとか、と思った
天国にでも来れたのかと本気で思ってた
友希那「わたし、みなとゆきな!4さい!」
環那「......そっか。」
初めて、誰かの名前を聞いた
嬉しかった
最後にいい思い出が作れたと思って
ここで死ねば、全て不幸だったと言わないで済むと思って
友希那「ねぇねぇ!ここでなにしてるの?」
環那「......すわってた。」
友希那「なんで?」
環那「......帰ってくるなって、いわれたから。」
友希那「そうなんだ?」
恐らく、理解はしてなかったんだろう
その少女は首をかしげていた
けど、別にそれでもよかった
言葉を聞いてくれるだけで、嬉しかった
友希那「ねぇねぇ!ゆきなね、ようちえんでおうたほめられたんだー!」
環那「そうなんだ。」
友希那「きいててね!」
その時は流石に理解できなかった
話がかみ合ってない
けど、楽しそうなのに水を差すのも悪い
取り合えず、聞いておこうと思った
友希那「こーとりはとってもうたがすきー♪かあさんよぶのもうたでよぶー♪」
環那「......!」
まだまだ拙い歌だった
けど、つい聞き入ってしまった
歌が好きなんだという気持ちが溢れていた
自分の気持ちを表現できる力
この子には、それがあるんだと思った
友希那「むー。」
環那「ど、どうしたの?」
友希那「わらってない!ゆきなのおうたきいたのに!」
環那「え?」
友希那「わらって!にこーって!」
環那「え、えーっと、こ、こう?」
自分に出来る限りの笑顔を作った
今までしたこともないんだから、やり方なんて知らない
だからなんとか、目の前の少女の真似をしようとした
すると......
友希那「__ぷっ、あはははは!」
環那「??」
友希那「へんなかおー!おもしろーい!」
環那「そ、そんなに?」
今の自分の顔なんて分からない
けど、笑われてるからおかしいんだろう
友希那「でも、そっちのほうがいい!」
環那「え。(どっち?)
友希那「じゃあ、そのままわらててね!もういっかいうたうよ!」
環那「あ、う、うん。」
それからまた、少女は歌い出した
さっきよりも一際大きな声で
環那(あぁ......そっか。)
この子だ
きっと、自分はこの子のために生まれてきたんだ
そう直感したし、確信めいたものもあった
環那(......あれ?なんで、さっきまで傷ついてたんだろう?)
そんな疑問が浮かび上がった
愛してくれない、笑わせてくれない、危害だけ加えてくる
そんな人間のためになんで、死のうとしてたんだろう
そう思うようになってた
友希那「あ、あなたのおなまえきいてない!」
環那「あ、そうだったね。」
友希那「あなたのおなまえは?」
少女は首をかしげながらそう聞いてくる
それを見てふと笑い
ゆっくり口を開いた
環那「僕は、環那。南宮環那。」
友希那「かんな!かわいいおなまえだね!」
環那「アハハ、そっか。」
その日、僕は手を差し伸べてもらう喜びを知った
それと同時に生まれたもう一つの感情
この子を守りたい、この子のために生きたい
他の人類なんて、どうでもいい、と
思い出した、ここだ
ここでタガが外れたんだ
そして、壊したんだ
目の前にあった、扉を
___________________
剛蔵「__やっと帰って来たか!」
夜になって家に帰ると、じいさんがいた
ばあさんもいる
なんだ、律儀に待ってたんだと思った
剛蔵「夕方には帰れと言ったはずだぞ。こんな簡単なことも出来んのか!」
歌代「犬以下ね。」
剛蔵「こい!躾けてやる!」
環那「......(なんだ?)」
軽い足取りで2人の前に歩み寄る
恐れなんかない
さっきまであんなに怖かったのに
環那「......くふふっ。」
剛蔵「なにを笑ってる!気持ち悪い!このっ__」
環那「!」
その時、いろんな景色が見えた
まず、スローモーションなじいさんの拳
そして、拳の周りに見える知らない数字と文字
環那「こう?」
剛蔵「っ!?(なっ......!?)」
歌代「えっ?」
理解してたわけじゃない
けど、なんとなく、どう動くべきか分かった
するとどうだろう?
じいさんの拳はどこかへ吹っ飛んで
ダメージが一切なかった
剛蔵(な、なんだ......!?今、何が起きた......!?)
環那「......くふふ、そーゆーこと。」
剛蔵、歌代「っ!!」
こうすれば、何ともないんだ
なんだ、大人ってこんなに弱かったんだ
一回予想外のことが起きたら動かないじゃないか
剛蔵「な、なんなんだお前は......!?」
歌代「一体、なにがあったというの......!?」
環那「さぁ?けど、今、力が湧いて仕方ないんだ。」
体中から力が湧いてくる
けど、足りない
あの子を、友希那を守るには足りない
けど、自分を守るには十分な力だ
環那「アハハ、全部止まって見えるよ!おじーちゃん!」
剛蔵(ゾクッ)
環那「楽しいのかな?人を殴るのって。どうすれば痛いのかな?どうすれば死ぬのかな?どこまでやったら絶望するのかな?ねぇ、試していい?ねぇねぇねぇ!」
その日から、俺は完全に壊れた
それと同時にご飯におかずがついた
シャワーからお湯が出るようになった
月10万円のお小遣いが出るようになった
高性能なパソコンが与えられた
けど、前よりも厳重に閉じ込められるようになった
___________________
環那(あぁ、なるほど。)
「ぎゃぁぁぁああ!!助けて、助けてぇぇぇぇえ!!!」
初めて、夢を見た
なるほど、そう言うことか
僕はあの時に変わったんだ
友希那「__環那......?」
環那「......あっ。」
見えないところから友希那の声がする
それに、他にいくつか気配がある
何人だろ......多分、5人だ
環那「あ、正解だ。」
リサ「こ、これは......」
環那「?」
ふと、周りを見渡してみる
さっきいた200人が全員倒れてる
取りこぼしはないかな
琴葉(なんですか、これは......?)
燐子(目の前にいるのは、環那君、だよね......?)
エマ(やはり、私の仮説は正しかった......!)
イヴ(これは......)
リサ(......エマの、言ってた通り。)
友希那(でもまさか、本当にこんなことがあり得るなんて......)
環那「?」
皆、困惑してるように見えるな
あ、そっか
まだ自己紹介してないんだった
環那「久しぶりだね、友希那!」
友希那「っ......!」
環那「そして、そちらの5人は初めましてになるかな!もっとも、僕は知ってるけどね!」
リサ、燐子、イヴ、琴葉、エマ「......!!」
環那「......?......??(なんだ?)」
今、頭の中にノイズが走った
これは、なんだ
なんだか、辛い
この5人に初めましてと言ってる事実が
なんだ、なんなんだこれは
そんなことを考えてると、いきなり体の機能が停止した
環那「......あれ......なんでだろ......意識の、維持、が、できな......い__」
リサ「環那!?」
燐子「環那君......!!」
エマ「私が診る!」
イヴ「取り合えず、どこかへ運びましょう!」
琴葉「お手伝いします!」
その瞬間、目の前が真っ白になった
しまった、完全に使いすぎた
俺もまだまだ、みたいだ......