“同時刻”
篤臣「__フゥ、大体片付いたなァ。」
日が沈んで暗くなった校庭
そこにはいくつもの人間が倒れている
数にして100人分
南宮勝が送り込んだ数ちょうどだ
人見「何とか片付きましたわね。」
篤臣「意外だなァ。お前ェも戦えるってよォ。」
人見「こちらの世界に身を置いて久しい故、多少の嗜みはありますのよ。」
篤臣「なるほどなァ。」
人見「私としましては、彼に手助けに入っていただけた方が意外でしたわ。」
人見はそう言い、一際多くの人間が倒れてる方を見た
そこから、1人の影が近づいてくる
ノア「これで終わりか。口ほどにもない。」
篤臣「マァ、そうだなァ。あの銀狼が出張ってくるとはなァ。お前ェも環那に従ってんのかァ?」
ノア「勘違いするな。俺が従っているのはエマのみだ。」
人見「......ロリコンですか?」
ノア「殺すぞ。」
ノアが人見を睨みつけ、篤臣がそれを仲裁する
それでノアは軽く咳払いをし
篤臣の方に目を向けた
ノア「即逃げた奴を含め、貴様らについては言わなくても分かる。南宮環那に従っているのだろう?」
人見「えぇ、そうですよ。」
篤臣「そっちのが利口ってもんだからなァ。」
ノア「ふんっ。」
ノアは忌々しげな表情を浮かべた
気に入らないというのが態度に出てる
篤臣「むしろ、お前ェはなんで環那を気に入らねェんだ?」
ノア「ふん、知れたことだ。」
人見「その心は?」
ノア「......奴のことを格上と認めているからだ。」
篤臣、人見「!」
その言葉を聞き、2人は驚いた表情を浮かべた
仮にも世界に名の知れている殺し屋
その力は常人からすれば異次元にあたる
だが、それでも環那が格上と言うのだ
ノア「俺はまだ、奴を超えることを諦めていない。むしろ、今までの人生で最も充実している。だが、今日で奴の背中がさらに遠ざかりやがった。」
人見「あの、リレーの時でしょうか。」
ノア「あぁ。あれはいったい何だというんだ?ただでさえ異常なあいつの身体能力がさらに跳ね上がりやがった。あの時間のみで言えば、人類の限界なんて優に超えている。」
篤臣「......あれかァ。」
ノア「何か知っているのか。」
人見「そうなら是非ともご教授願いたいですわね。」
ノアと人見が篤臣の方を見る
それに少し戸惑いを覚えた様子を見せつつ
篤臣は大きなため息をついてから口を開いた
篤臣「ありゃあ、諸刃の剣だァ。」
ノア「諸刃の......」
人見「剣......?」
篤臣「原理は簡単だァ。体の中にあるエネルギーと言うエネルギーを使い果たし、代謝を爆発的に上げ、筋肉に過剰なエネルギーを爆発させる......って、環那は言ってたァ。」
ノア「......それだけか?」
人見「思ったよりも簡単ですわね。銀狼さんでも出来るのではなくて?」
篤臣「バカ言ってんじゃねェよ。」
2人の会話を聞き
篤臣は険しい表情を浮かべた
その様子に2人は少し驚いた表情を見せ
また、篤臣の方に耳を傾けた
篤臣「死ぬ寸前に味わうようなスローモーションな世界に身を置いて通常の人体の稼働時間の感覚を狂わせ、それを利用して体を暴走させるんだァ。まず、アイツの感覚なしには成立しねぇ。いや、仮にアイツの感覚があってもほとんどの人間は廃人になるだろうよォ。」
人見「......っ!?(確かに......!)」
篤臣「それに加えて、体の中のエネルギーを使い切るってこたァ、他から補填することになる。それは、体脂肪、筋肉、そして行き着く先はァ......命だ。」
ノア「なに......!?」
ノアすらも表情を崩した
勿論、ノーリスクとは思っていなかった
だが、それでも代償が重すぎる
いや、むしろ驚くべきは......
ノア「奴はどうやってその領域に達したというんだ?奴が普通の境遇で生きていたとは思わんが、それでも異常だぞ。」
篤臣「そこまでは分かんねェ。だが......」
篤臣はスッと目を閉じる
その表情は子を心配する親のように見える
篤臣「アレはお前らが知ってるアイツものじゃねェ。」
人見「どういうことでしょうか?それだと、環那さんが2人いるという風に聞こえますが。」
篤臣「それで正解だァ。今確信したァ。」
人見「え?」
ふーっと、篤臣は大きく息をした
そして、少し落ち着こうという様子で呼吸を整え
重々しい口を開いた
篤臣「信じらんねェがァ、環那は2人いやがるぞォ。しかも、今まで見てきたアイツとは全く別のスタイル、性格でよォ。」
ノア、人見「......!」
その時、秋とは思えないほど冷たい風が吹いた
それと同時にノアと人見の背筋はこの上なく冷たくなり
この場にいない、どこにいるかも分からない1人の人間に恐怖した
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“リサ”
体育祭から一夜明けた
今日は代休で学校が休みで
あたし達は昨日のメンバーで環那の家に集まってる
リサ「__おはよう、環那。」
環那「......」
環那は昨日から目を覚ましてない
エマ曰く、エネルギー不足になってるから
点滴を打っていればいつか起きるって言ってた
友希那「リサ、もうみんな集まってるわよ。」
リサ「う、うん。」
友希那にそう言われ
あたしはリビングに行った
そこには、昨日あの現場を見たメンバーがいる
全員、暗い顔をしてる
エマ「大体の状況は分かってると思う。」
あたしが席に着くと、エマが口を開いた
状況......ってのは環那が倒れたことじゃない
もう少し前に聞いた
環那が2人いるっていうこと
エマ「そもそも、お兄ちゃんは常に脳がいくつもあるような状態にある。こういうことも起こりえる可能性は十分にあった。」
琴葉「そもそも、彼の悪ふざけと言う可能性はないんですか?演技、みたいな。」
エマ「ここにいるのは仮にもお兄ちゃんが愛した女達だよ?そんな人間にあんな冗談、言うと思う?」
琴葉「......ですよね。」
勿論、答えはノーだ
環那は親しい人間にあんな冗談は言わない
しかも、あの状況だったし
エマ「私が立てた仮説はこういう感じ。」
エマはそう言ってテレビにある図を写した
そこには2つの丸、その片方にはいつもの環那の特徴
もう片方には昨日の環那がどういう存在かの予想が書いてある
エマ「私が予想するに、お兄ちゃんはいつからか不明だけど役割分担をしている。」
イヴ「ヤクワリブンタン、ですか?」
エマ「そう。お兄ちゃんは自分の持ってる能力を分担して、それぞれの役割をこなすようにしてる。」
そこでエマはもう一つの図を出した
それには、環那の能力が書いてある
エマ「私達の知ってるお兄ちゃんは、自分を中心として周りで起きる事柄の過程と結果を予想する。つまり、不特定多数の未来を見ることができる。」
琴葉(......改めて聞くと、なおおかしいですね。)
エマ「けど、これには欠点があって、範囲が広い故に精度が落ちる。的中率が100%から90%ほどに落ちるということ。」
燐子(それでも90%なんだ......)
改めて、環那のすごさを痛感する
90%正しい未来を見れるなんて
そんなの反則もいいところだよ
エマ「それに対して、昨日のお兄ちゃん。これに関しては想像の域を出ないけど......狭い範囲の未来を見ること。」
友希那「......それは、同じじゃないの?」
エマ「いや、恐らくだけど原理は全く違う。」
イヴ「どういうことですか?」
エマ「いつものお兄ちゃんは自分の行動からの予測、それに対してあのお兄ちゃんは恐らくだけど、相手の動きから予測してると思う。」
琴葉「でも、彼って似たようなことしてませんでしたっけ?」
エマ「それはあくまでも似てるだけ。恐らく、琴葉が思ってるそれとはレベルが違う。」
レベルが違う......って
まじで超能力とかそう言うレベルってこと?
ただでさえあんなにすごのに?
エマ「それで最大の問題はこの次だけど、あのお兄ちゃんはどういう存在なのか、どういう条件のもと出てくるのか。これも、大体予想できる。」
琴葉「そうなんですか?」
エア「恐らく、自身をプレイヤーでも駒でもなくすこと。」
イヴ「どういうことですか?」
エマ「自分1人で全てを片付けるということ。つまり、周りに頼ることを完全にやめること。」
確かに、会社奪った時も環那は味方を作ってた
流石に1人じゃ無理なのかなって思ってたけど
あれはただのスタイルみたいなもので
あっちの環那が出てたら、別に1人でも出来たってこと?
......化物すぎない?
エマ「リレーの時のあの身体能力。あれも恐らく、昨日のお兄ちゃんのもの。」
琴葉「つまり、普段の彼では使えないのですか?」
エマ「使えない......と思う。ただでさえ広い範囲を見るのは負荷が重い。それであの身体能力を扱うなんて、流石のお兄ちゃんでも難しい。」
友希那「そこまで出来るなら、誰も手を付けられないでしょうね。」
リサ(あれ?)
じゃあ、おかしくない?
昨日のリレーの時の環那
あれは完全に雑木林の時と同じくらいの身体能力に見えたけど
あんな風に変わったりはしなかったよね......?
エマ「どうしたの?今井リサ。」
リサ「いや、あのリレーの時はどうなんだろうって思って。」
エマ「それは分からない。アレを使ったのに人格に変化は見られなかった。恐らくは未来を見る感覚を遮断して、極限まで集中してたんだろうけど。」
そういうこと......
普段の状態じゃできないだけで
そうじゃなかったら別に使えるんだ
エマ「確認したいことがある。」
リサ「どうしたの?」
エマ「今井リサはいつ、お兄ちゃんと出会ったの?」
リサ「えっと、5歳のころ、公園で鬼ごっこしてた時かな?」
エマの質問に答えると
エマはまた考え出した
そして今度は友希那の方を向いた
エマ「湊友希那は?」
友希那「私も、リサと同じタイミングだと思うけれど。」
リサ「いや、違うよ。」
友希那「え?」
リサ「環那が入院してた時に聞いた話だけど、2人は4歳の時に会ってるんだよ。」
友希那「!?」
そっか、友希那は覚えてないんだった
4歳だったから仕方ないところもあるけど
エマ「そうなると、1つ答えが出るね。」
友希那「どういうこと?」
エマ「今井リサにも初対面のような対応をし、湊友希那には久しぶりと言った。つまり......」
琴葉「今の南宮君は4歳の時に形成されたということですか?」
エマ「そういうこと。」
言われてみれば、これは簡単だ
じゃあ、あの時から環那は環那なんだ
エマ「......そう、4歳からお兄ちゃんは今のお兄ちゃんだった。14年間、あの人格で生きてたんだよ。」
友希那、リサ、燐子、イヴ、琴葉「!」
エマの声にびっくりした
泣きそうって言うか、悲しそうって言うか
いつもの落ち着いた感じじゃないから
エマ「一つ、留意してほしい......今まで、お兄ちゃんが皆と過ごした時間に嘘はない。どちらも本物なの。だから......お兄ちゃんのことを、嫌いにならないで欲しい。」
リサ「だ、大丈夫だって!」
琴葉「そうですよ!今さら彼が二重人格であろうが何であろうが、気になりませんよ!」
イヴ「カンナさんはカンナさんです!」
ほんとに環那のこと好きだよね、エマって
ちょっと前まではおかしいって思ってたけど
今は何と言うか、家族って感じがする
家族として環那を愛してるっていうのが分かる
燐子「人格がどうあっても、心は一つだよ。」
友希那「元から、多重人格と同じくらい豹変することもあったもの。戸惑いはあるけれど、大した問題じゃないわ。」
エマ「......うん、ありがとう。」
こうしてると、年下なんだって思う
初めて、年相応に見えた気がする
環那のためなら、こんな風になれるんだね
リサ(環那。あんまり、エマに心配かけちゃダメだよ。)
どうせ、いつも通りなんでしょ?
いつも通り、全部計算通りで
対応する策なんていくらでも用意してるんでしょ?
そう、全部いつも通り
だって、環那は環那なんだから