羽丘の元囚人   作:火の車

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未練

「__こらぁ!環那君!!」

 

 キーンと耳鳴りがするほどの大きな怒声

 

 その声に俺は顔をしかめた

 

「なんでムシさんをやっつけちゃうの!可哀そうでしょ!」

環那「なんで?」

「え?」

環那「なんで可哀そうなの?」

「そ、そりゃあ、生きてるんだから......」

環那「生きてたら、何なの?」

 

 俺は、こんな子供だった

 

 祖父母に不気味だからと突っ込まれた幼稚園で

 

 自分で振り返ってみても、好き放題してたって思う

 

環那「虫にとって生きることは正義、俺にとっては友希那の笑顔が正義。そして、この正義は絶対に共存できないんだよ?だったら、反発する異分子は処分するしかないんだよ?」

「え、え?い、いや。(五才児のくせに、なんて思想を持ってるの......?)」

 

 己の思想を信じて、友希那を守る

 

 友達を作るとか、皆で遊ぶとか

 

 そんな下らないことに興味はなかった

 

「__園長先生!あの子は一体何なんですか!?」

園長「まぁまぁ落ち着いて。どんなに賢いといってもまだ5才。少し話せば、分かってくれますよ。」

 

 それで俺は園長に呼び出され

 

 園長と何人かの保母と話すことになった

 

 正直、面倒くさいとしか思ってなかった

 

園長「環那君は同じクラスの友希那ちゃんが大切なんだね?」

環那「うん。」

園長「でもね、そのために他全てを犠牲にするのは少しおかしくはない?」

環那「どこかが?」

 

 園長の問いにそう答える

 

 何がおかしいのか理解できなかった

 

 俺にとってはごく自然なことで

 

 罪悪感なんてもの、持ち合わせてなかったから

 

園長「もし、幼稚園で飼ってるうさぎさんが友希那ちゃんを傷つけたらどうするの?」

環那「殺すけど?」

園長「......!?」

 

 分かりやすく園長の顔が歪んだ

 

 元から皺の多い顔なのに

 

 さらに皺が増えたらどうするんだろうと思った

 

園長「も、もし、幼稚園のお友達だったら?」

環那「え、同じじゃん。殺すけど?虫やうさぎと何の違いがあるの?」

園長「~っ!!!」

(こ、これは......)

 

 この出来事から、幼稚園は変わった

 

 これは、園長と話した日、南宮の使用人を待っていて

 

 夜まで1人で幼稚園にいた時のことだ

 

園長『__先生。友希那ちゃんのことはよく見てください。虫一匹近づけないように。あと、出来る限りの願いはかなえてあげなさい。』

『それは、特別扱いをしろ、と言うことですか......?』

園長『その通りです。あの子は私たちの手に負えません......出来る限り刺激せず、卒園まで時間を稼いでください。』

『......はい。』

 

環那「......くふふっ。」

 

 計画通りだ

 

 これで友希那の生活が楽になる

 

環那「......」

 

 それからの日々は楽しかった

 

 友希那はおやつをたくさんもらって嬉しそうで

 

 保母がよく見てるから怪我をすることもほぼなかった

 

?「__ねぇ、そこの僕?」

環那「?」

 

 年長になった時くらいだったか

 

 幼稚園に見たことのない女がいた

 

 明るい茶髪に若く見える容姿

 

 見えるって言うのは、細かい特徴的に推定40代だったと思う

 

?「すごい子がいるって聞いて来たんだけど、その子って絶対に僕でしょ?」

環那「なんでそう思うの?」

?「全然周りとオーラが違うんだもの!誰だって分かるよ?」

環那「ふーん。」

 

 別にそんな風にしてる気はなかったけど

 

 こういう風に思う人間もいるんだ

 

 出来るだけ改善しないとって思った

 

?「それで、さっきから何してるの?他の皆はお友達と遊んでるけど。」

環那「友希那を見てるんだよ。何かあったら、すぐに対応できるように。」

?「おー、君はその子のナイトってわけか。」

環那「別になんでもいいよ。俺はどんな称号よりも、友希那の幸せが欲しいから。」

?「ストイックなんだね。」

環那「そうでもないよ。自分を厳しく律する気なんてさらさらないから。」

 

 てか、この人なんで話しかけてくるんだ?

 

 保母たちは基本的に俺に関わろうとしないし

 

 今も、焦った様子でこっちを見てる

 

 つまり、誰かの差し金じゃない

 

 ただただ、自分の興味だけで動いてるっぽい

 

?「やっぱり、僕はすごいんだねー。」

環那「そう。」

?「ねぇ、その力さ、もっと色んな人のために使ってみない?」

環那「?」

 

 何言ってんだ?って思った

 

 イメージ的には見えない所から銃弾が飛んできたみたいな

 

 そんな感じ

 

?「この世界には恵まれない子どもたちがたくさんいるの。何人も、生きたいって願いながら死んでいく。けど、もし、僕みたいなすごい子が力を貸してくれれば、そういう子供たちも少しは減らせると思うの。」

環那「興味ない。」

 

 俺は迷いなくそう答えた

 

 その女は笑みを浮かべたまま止まってる

 

環那「この世にそう言う人間がいることは理解してるよ。けど、それは俺には関係ない。あんたが言うすごい人間が率先してそう言う人間たちを助けなきゃいけないなんて暴論だよ。」

?「うーん、確かにそうかもしれないね。」

 

 そんな話をしつつ友希那の方を見る

 

 そして、小さくため息をついた

 

 それでも女は口を止めない

 

?「でも、力を持つ者にはそれを正しく使う責任があると思うんだ。」

環那「正しく、ねぇ。」

?「すごく嫌そうな顔するね。」

環那「いやだって、あんたから迷いを感じないだもん。」

 

 この女は本気で大勢の人間を救うことが正しいと思ってる

 

 質の悪い正義の味方だ

 

?「やっぱり、苦しい時にはヒーローの存在が欲しいよ!僕みたいな、ね!」

環那「言ってて恥ずかしくない?」

?「全然?なんで?」

 

 マジかこいつ(素)

 

 何か、怪しい薬やってる?

 

 え、ヤバいじゃん

 

環那「何にしても、俺には関係ない。友希那を守るのに忙しいんだ。」

?「君がまだ知らないこと、教えてあげようか?」

環那「!」

 

 俺がその場から立ち去ろうとすると

 

 女はそんなことを言ってきた

 

 それについ、俺は足を止めてしまった

 

?「お、気になっちゃう?」

環那「なに?俺が知らないことって。」

?「それはねぇ、出会うことだよ。」

環那「出会うこと?」

 

 何言ってるんだ

 

 別に、そんなの間にあって__

 

?「今、間に合ってるって思ったでしょ?」

環那「......!(読まれてる?)」

 

 初めての感覚だった

 

 いや、最初から違和感があったんだ

 

 この女は面倒に感じても嫌悪感は感じなかった

 

 その時点で、俺にとっては異常だった

 

?「でも、違うんだよ。人は人と出会って成長するんだよ。そして、特に大きく人を成長させるのは、所謂運命の出会い。」

環那「運命の出会い、か。」

?「心当たり、あるんでしょ?それこそ、あの銀髪の女の子。友希那ちゃん、だったかな?」

 

 やっぱり、俺の心読んでるな

 

 どういう仕組みかは分からないけど

 

 ほぼ間違いなく、そう言うことができる人間だ

 

?「でも、まだまだだよ。人生長いんだから、いつか、今の価値観を全部壊すような運命の出会いが訪れるよ。」

環那「......ふぅん。」

 

 この時の俺は全く考えてなかった

 

 所詮、戯言だろうと

 

環那「まっ、あればいいね。」

?「あるよ、きっとね。」

 

 そこで俺と女の会話は終わった

 

 これ以来、この女とは会っていない

 

 名前も素性も知らない、謎の人物だ

 

 けど、一つ分かったこと

 

 それは、あの女は特別な人間だったってことだ

___________________

 

環那「__!」

 

 目を覚ますとそこはいつもの俺の部屋だった

 

 横にはエマが用意したであろう医療機器がある

 

 それで大体の状況は理解した

 

 やっぱり、あれを使いすぎるのはよくない

 

環那(流石にまだ無理だったか。もう少しで行けると思ったんだけど......ん?)

燐子「すぅ......すぅ......」

環那(り、燐子ちゃん?)

 

 なんでか、部屋に燐子ちゃんがいる

 

 さっきの夢を見た後だと、深読みしちゃうな

 

 てか、あの人マジですごいな

 

 未来でも見えてるの?超能力者?

 

環那(時間は......午後11時か。1日以上寝ちゃったよ。)

燐子「んぅ......?あ、お、起きたの......!?」

環那「お、おはよう。」

燐子「ね、寝ちゃった......///」

 

 燐子ちゃんは焦った様子でそう言った

 

 まぁ、心配してついててくれてたんだろう

 

燐子「え、えっと......今はどっち、かな......?」

環那「え?......あー、そういうこと。安心して。いつもの俺だから。」

 

 うっすら記憶ある

 

 そうだ、入れ替わってるときに会っちゃったんだ

 

 また失敗した

 

 来ることは予想できたし、その前に終わらせようと思ってたのに

 

環那「ごめんごめん。あれは滅多に出るものじゃないから、心配しないで。」

燐子「そう、なの......?」

環那「そうそう。」

 

 どうやら、かなり心配をかけちゃったみたいだ

 

 まぁ、急に「初めまして!」とか言われたら気になるよね

 

 やっばぁ、マジでやっちゃった

 

燐子「......グスッ。」

環那「!?」

燐子「怖かった、怖かったよぉ......環那君に、忘れられたと思って......」

環那「ごめんごめんごめん!ほんとは燐子ちゃんたちが来る前に終わらせるつもりだったけど、思ったより手間取っちゃって。」

 

 あーマジで最悪だ

 

 俺が燐子ちゃん泣かせてどうするんだ

 

 あの程度に手間取るなんて、情けない

 

燐子「うん......大丈夫。あの環那君も環那君だもん......」

環那「まぁ、そうなるのかなー......?その辺に関してはちょっと複雑になるけど......」

 

 多分、エマ辺りは気づいてるのかな

 

 俺がアレをいつもの状態じゃ使えないってこと

 

 使うにしても他の感覚はなくさないといけないってこと

 

環那(流石に無意識同然じゃ無理と思って変わったけど、ダメだ、あれは。)

燐子「環那君......」

環那「なに?どうしたの?」

燐子「言いたいことが、あるの......」

環那「__!」

 

 燐子ちゃんは小さな声でそう言ったかと思うと

 

 ベッドの上に飛び乗って

 

 俺の上に跨った

 

 突然のことで反応できなかった

 

環那「燐子ちゃん?いきなりどうしたの?」

燐子「......嫌なの。」

環那「え?」

燐子「昨日......あの環那君を見た時、思ったの......次元が違うって、遠くに行っちゃうって......」

 

 次元が違う、か

 

 いや、別にそんなこともないんだけど

 

 そう感じちゃったわけか

 

燐子「それで、気づいたの......私の気持ちはもう、学生の恋愛の範疇を超えてるって......」

環那「っ!?」

 

 いつもと雰囲気が違う

 

 せき止められたものが決壊したって感じだ

 

燐子「前までの私なら昨日の光景を見たら、きっと環那君を怖いって思ってた......けど、そうならなかった......むしろ、私を守ってくれたんだって、頑張ってくれたんだって......思ったの。」

環那「......!」

燐子「もう、育ちすぎたの......嫌いになるとか、失望するとか、そんな次元じゃないの......っ!」

 

 燐子ちゃんの声が悲鳴に近づいていく

 

 手が震えてる

 

 きっと、自分の異様な変化に恐怖してるんだ

 

燐子「でも、でも......っ!一つだけ、どうしても、気持ち悪いことがあるの......っ!」

環那「っ!」

燐子「昨日、私を守ってくれたんだって思った......今井さん達の為でもあるのは分かってるから、それも許容できる......でも......未練みたいな感情だけは、許容できないの......っ!」

環那「っ!!」

 

 その言葉を聞いて、心臓が飛び跳ねた

 

 なぜかって?

 

 そんなの理由は一つでしょ

 

 ......心当たりがあるから

 

燐子「環那君はまだ......友希那さんに未練があるんじゃないの......?だから、誰かを恋愛的に好きなるって気持ちを理解できない......いや、理解したくないんだよね......っ」

環那「......なん、で。」

 

 無意識のうちに言葉が出ていた

 

 自覚してなかった

 

 けど、図星を突かれた気分だ

 

燐子「分かるよ、環那君のことだもん......」

環那「......」

燐子「友希那さんが環那君にとってどれほど大きな存在かは知ってるよ......でも、もう、断ち切らないといけないんだよ......環那君が、未来を望むなら......」

環那「......」

 

 ほんと、運命の人って言うのは恐ろしい

 

 俺の見たくないものを突き付けて来て

 

 人生という物語を強引に進めてくる

 

 元から燐子ちゃんがそういう人柄ってわけじゃない

 

 他でもない俺が、そのルートに引き込んでしまったんだ

 

 数ある燐子ちゃんの未来への道の中で

 

燐子「......でも、焦らなくていいよ?」

環那「......!」

燐子「私は......待ってるから......」

 

 その、溶けるような優しい言葉

 

 いつもの燐子ちゃんだ

 

燐子「簡単に割り切れるものでもないと思うし......」

環那「り、燐子ちゃん?」

燐子「今日は、一緒に寝ようね......?///」

 

 そう言って、燐子ちゃんは俺の隣に寝転んで

 

 そのまま、こっちに抱き着いて来た

 

 いつも通りの優しい燐子ちゃんだ

 

燐子「おやすみ、環那君///」

環那「......うん、おやすみ。」

 

 情けない、ほんとに情けない

 

 この優しい雰囲気に、甘えようとする自分がいる

 

 でも、ダメだ

 

 今みたいな心持で燐子ちゃんに甘えちゃダメだ

 

 こんな、中途半端な状態の俺に

 

 燐子ちゃんの優しさを享受する権利はない

 

 

 そんなことを考えてると、俺は眠れなくなって

 

 燐子ちゃんの寝息を聞くうちに夜が更けていった

 

 

 

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