環那「ねぇ~、聞いてよ~......」
紗夜「......」
ここは花咲川学園生徒会室
そう、そのはずなのです
でも、なぜか彼がいます
しかも、ひどく落ち込んだ様子で
環那「友希那にさ、もう優しくしないでって言われたんだよ......」
紗夜「聞くとは言ってないんですが。」
環那「いいじゃん!紗夜ちゃんの好きなポテト、好きなだけ奢るから!」
紗夜「うるさいですよ......聞きますから、もう少し静かに喋ってください。」
あまりにもうるさいので、根負けしました
彼がここまで悩むのも珍しいというのもありますし
仕方ないので聞いてあげましょう
紗夜「それで、なんでしたっけ。湊さんに優しくするなと言われたんでしたっけ?」
環那「そうなんだよ......」
紗夜「あなたの過干渉が嫌になっただけでは?」
環那「そんな!?別にそんなでもなかったと思うんだけど......」
紗夜「前までのあなたは普通に気持ち悪かったですよ。」
環那「酷い!」
と言うのは世間一般の意見で
別に湊さんはそんな風に思っていなかったはずです
なのに、昨日いきなり優しくするなと言われた
何かあったのかと考えるのが自然ですね
って、こんなに考える前に
紗夜「取り合えず、あなたはいつも通りに喋ってください。調子が狂うので。」
環那「......ダメだった?」
紗夜「キモイです。」
環那「辛辣すぎない?」
彼の雰囲気が変わりました
今井さん達から彼の多重人格のことは聞きましたが
本当は2人格じゃなくて5人格くらい入ってるんじゃないですか?
紗夜「今回の相談は白金さんには聞かせられない内容と言う認識でいいですね?」
環那「察しが良くて助かるよ。」
まぁ、察するというほどでもありません
彼は私にはエマさんに関する相談しかしません
それ以外は今井さんか白金さんかエマさんに相談します
にもかかわらず私に来たということは、他に話せない事情があるということになります
環那「燐子ちゃんにはちょっと、痛い所を突かれてね。」
紗夜「それが今回の湊さんの発言と関係があると?」
環那「まぁ、関係あると言えばあるし、ないと言えばないって感じ。」
珍しいですね
曖昧な物言いはよくしますが
本気で分からなそうにしてるというのは
いつもの何もかも見透かしてるような雰囲気を感じません
環那「最近感じてたんだよね。俺の中で友希那っていう存在の大きさが変わってるって。」
紗夜「......!」
環那「だから痛かったよ、燐子ちゃんにそこを突かれて。胸に風穴空いたと思った、マジで。」
あの白金さんが......?
にわかには信じられませんね
良くも悪くも彼には特に優しかったのに
紗夜「それは、湊さん以上に大切な人が現れたということですか?」
環那「......やっぱり、そう言うことになっちゃうのかな。」
紗夜「認めたくなさそうですね。」
環那「そりゃあね。友希那への思いは永遠だと思ってたから。」
永遠......
彼の境遇を考えればそうなのでしょうか
湊さんは彼にとって神であると聞いたことがあります
そんな人への愛は永遠であると思っていたのでしょう
でも、実際は違った、と
紗夜「変わらない人間などいませんよ。」
環那「!」
紗夜「成長にしろ、退化にしろ、人は変化していくものですから。」
環那「......そっか。」
彼は寂しそうな声でそう呟きました
おかしな話ですね
彼は何かを変えられるだけの力を持っているのに
自分の変化となるとてんでダメだなんて
環那「__そうだね、認めるしかない。」
紗夜「!?」
環那「おっと、失礼。」
一瞬、そこに誰がいるか分かりませんでした
大袈裟でもなんでもなく、背筋が凍りました
見た目は変わらない、けれど雰囲気が全く違う
ドッペルゲンガーと言われたら信じてしまうでしょう
それほどに一瞬で彼は変化したんですから
環那「初めまして、紗夜。」
紗夜「......あなたが、もう1人の南宮君ですか?」
環那「うーん、そう言うのは少し語弊があるけど、まぁ、紗夜にとってはそっちの方が納得いくかな。」
対面したらわかりますが、別人ですね
いつもよりも幼いというか、表情豊かと言うか
人間味や生命力を感じます
それと、語弊があるとは......?
環那「それで、僕が友希那をどう思ってるかって話だね?」
紗夜「は、はい。」
気を取り直しましょう
いつもよりも人畜無害そうに見えますし
話は出来るでしょう
環那「ハッキリ言って、僕はもうリサや燐子や琴葉やイヴの方が大切だと思ってるよ。」
紗夜「!」
今まで彼が出せなかった答えをあっさりと
いや、違いますね
ただ、素直なんです
自分が置かれた現状を素直に受け入れて、素直に答えを出す
通常に彼に比べて、思考がシンプルなんでしょう
環那「でも、結局、友希那も大切だから僕はそっちも捨てられない。そういう状況なんだよ。」
紗夜「......なるほど。」
環那「そこでだよ、これから僕には何が訪れると思う?」
紗夜「え?」
いきなり投げかけられた問
全く意味が分かりません
これからの彼に何が訪れるのか?
そんなこと、知ってるのは未来人だけです
紗夜「分かるわけないでしょう。」
環那「そうかな?簡単だよ?」
紗夜「じゃあ、あなたには分かると?」
環那「分かるよ。答えは、選択。分岐点さ。」
彼は笑いながらそういいました
分岐点......?
それが、彼に訪れると?
環那「人生と言うのは選択の連続だと思うんだ。小さい選択肢の積み重ねで、未来は変わる。けど、極稀に一つだけで人生を一変させる選択肢が訪れる。」
紗夜「それが、近々来るというのですか?」
環那「え、分からないけど。」
紗夜「!?」
ここまで来て!?
こういうところは元の南宮君と似てますね
やはり、どっちもまともじゃありません
環那「ただ一つ、言えることがあるとすれば、僕が出た時点で運命は動き出してるってこと。」
紗夜「!」
環那「必ず来るよ、何か......そして、その時には。」
紗夜「?(なんですか?)」
線香花火が落ちる一瞬のような
熱くも儚い雰囲気
こんなことを感じるのは初めてです
環那「じゃあ、そろそろ行くよ。僕が出てられる時間もそろそろ切れるし。」
紗夜「......えぇ。」
環那「じゃあね。」
彼はそう言って部屋を出て行きました
白金さんに見つからないであろう時間ピッタリ
らしいですね
紗夜(......苦労が絶えませんね、彼は。)
彼がどういう運命を辿るのかは分かりません
ですが、悪いことにはならないでしょう
彼がどうこうなる場面なんて、想像できませんから
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“ノア”
「ぎゃああああ!!!」
ノア「......ふぅ(どういうことだ。)」
羽丘学園の周り
その至る場所に覗きのような気配を感じ
取り合えず、全てに対処したが
明らかに不自然だな
ノア(ふむ。)
全員から押収したカメラを確認すると
そこにはエマを始め
奴の周りにいる女の映像が多くある
ただの盗撮と判断するか、それとも......
ノア(......何か不穏なものが動いてるな。)
動きが素人ではない
俺の予想する人間とは少し行動にズレがある
どう考えるべきか......
いや、ともかく、しばらくは警備の強化が必要だ
俺はそう考え、取り合えず、元の場所へ戻った