羽丘の元囚人   作:火の車

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開戦

 甘えるわけにはいかない

 

 そう思ってたのに、イヴちゃんに甘えてしまった

 

 あの後結局、3時間もあのまま寝てしまった

 

 色んな危険を考えられる状況だったのに

 

環那(バカだ......マジで。)

 

 人間は弱い生き物だ

 

 どうやっても、綻びが出てくる

 

 俺は特別じゃない、例外なく弱い

 

 いや、むしろ、優しさには人よりも弱いかもしれない

 

環那(まだまだ足りない。もっと、強くならないと。)

 

 俺に足りないものはなんだ?

 

 フィジカルも能力も叩き上げてきた

 

 精神面も出来る限り鍛えた

 

 今の俺にこれ以上の成長はあるのか?

 

環那(何が足りないんだ。)

 

 瞳を閉じて、精神を集中させる

 

 こうすると、いつも見えるものがある

 

環那(......またか。)

 

 目の前に聳え立つ扉

 

 押しても引いても、動く気配はない

 

 あの扉を開いた日から、ずっとそこにある

 

環那(これは、なんだ?)

 

 自分をコントロールする術は身に着けた

 

 けど、これだけは動かせない

 

環那(......)

 

 一つ目は簡単に開いた

 

 それと同時に数式が現れ、感覚がなくなった

 

 そして、痛み、罪悪感などの感情を受信しなくなった

 

 そこにあると分かってるのに、それが体の奥までこない

 

 俺はそれを時間の流れが遅くなったと表現した

 

環那(俺は__)

ノア「__こんなところで何をしている。」

環那「......ノア君?」

 

 接近に気づかなかった

 

 少し集中し過ぎたかな

 

環那「最近よく会うね。」

ノア「それだけ、事態が動いているということだ。」

環那「!」

 

 事態が動いてる?

 

 どういう意味だ?

 

 ノア君はなにか掴んでるのか?

 

ノア「だが。」

環那「?」

ノア「今のお前では話にならん。」

環那「......!」

 

 ノア君は冷めた様子でそう言った

 

 それで、俺の心臓は飛び跳ねた

 

ノア「無論、今回狙われるのも貴様の周りにいる奴らだ。そして、狙ってくるのは......」

環那「......?」

ノア「恐らく、俺や浪平篤臣よりも年季が入った殺し屋だ。」

環那「っ!」

 

 マジか

 

 篤臣さんも相当年季が入ってる

 

 それ以上の殺し屋となるとかなり腕が立つ

 

 それに、相当高くつくだろう

 

 そんな奴を寄越してくるってことは、相当俺に恨みを持ってる

 

 となると、心当たりは......

 

ノア「主犯のみなら今の貴様でも勝てるだろう。だが、他の要素を含めればどうだ?」

環那「......さぁね。」

ノア「勝てんぞ。迷ってる状態で勝てるほど、甘くはない。」

環那「......」

 

 それは俺もだ......とでも言いたげだ

 

 気づいてるんだろうね

 

 今の俺がいつもみたいに戦える状態じゃないってことに

 

ノア「今の貴様からは何も感じん。誰だ?貴様は。」

 

 ノア君はそう言いながらゆっくり歩き出した

 

 この子も痛いとこ突いてくるね

 

 あれほどじゃないけど

 

ノア「......今のままでは、大切なものを失うぞ。」

環那「っ......!」

ノア「俺も今回ばかりは手を貸そう。だが、限度があるということを忘れるな。残念ながら、本来の貴様ほど強くないんでな。」

 

 そう言って、ノア君は歩いて行った

 

 それを見送って

 

 俺は一つ、大きなため息をついた

 

環那(分かってるよ、そんなこと。)

 

 まだ、大丈夫だ

 

 俺の手札はまだ無くなってない

 

 今あるもので、乗り切ってやる

___________________

 

 “友希那”

 

 今日は文化祭当日

 

 私たちのクラスの準備は滞りなく進んで

 

 おおよそ学校の文化祭レベルじゃないお化け屋敷になった

 

友希那(......今日も、いないのね。)

 

 しばらく、環那の姿を見てない

 

 理由は会社の方が忙しいからとなってるけれど、恐らく違う

 

 環那がそんな状況にするわけがない

 

友希那(私のせい、よね......)

 

 申し訳ないとは思う

 

 けれど、これで、私への気持ちを断ち切ってくれれば

 

 今の環那の周りにいる人たちの誰かと幸せになってくれたら

 

 私はそれでいい

 

リサ「友希那ー?どうしたの?」

友希那「なんでもないわ。」

リサ「そう?なんかボーっとしてるけど。」

 

 リサと私は廊下に出て客引きをしてる

 

 リサが怖がりで驚かす側になれないからこうなったのだけれど

 

リサ「もしかして、環那のこと気にしてる?」

友希那「っ!」

 

 その言葉に心臓が大きく跳ねた

 

 まぁ、バレてるわよね

 

 最近の様子は今までのそれとは違ったもの

 

リサ「何があったかは分かんないけど、あんまり気にし過ぎたらダメだよ。」

友希那「でも__」

リサ「きっと今、壁にぶち当たってるから。」

友希那「!」

リサ「それを超えた先に何があるかは分からないよ。でも、あたし達がどうにか出来ることじゃない。」

 

 少し、驚いた

 

 リサなら心配してると思っていた

 

 なのに、こんなあっさり......

 

友希那「心配じゃないの?」

リサ「......そりゃあ、心配だよ。でもさ、今回は環那自身が超えなきゃいけない気がするんだ。」

友希那「......そう。」

 

 これが、支えられた人間と支えた人間の差

 

 敵わないわね

 

 輝かしすぎて、手も伸ばせないわ

 

リサ「でも、甘えられたら甘やかしちゃうかも。」

友希那「......ありえないわよ。環那だもの。」

リサ「あははー、そうだねー。」

友希那(......?)

 

 会話が一区切りして周りを見て、私は違和感を感じた

 

 それは、周りに人が多すぎること

 

 人と人が押し合うほどじゃないけれど、肩が当たりそうなほど接近してる

 

 文化祭と言うこと踏まえても、おかしい

 

友希那「リサ、人が多いわ。出来るだけ離れすぎないように__!」

 

 後ろにいたリサに声をかけたけど、返事はなく

 

 振り向いても、人混みしかなかった

 

友希那(......なんなの?)

 

 向かい側の校舎の方を見ると分かる

 

 明らかにこちら側に人数が集中してる

 

 あまりにも様子がおかしい

 

 まるで、リサと意図的に引きはがされた気すらする

 

友希那(ともかく、教室に戻らないと。それから__!)

?「......」

友希那(な、だ、誰......!?)

 

 人混みの中で私は口元を覆われた

 

 感覚的に男性の力で

 

 私の体はびくともしない

 

?「......こっちに来てもらう。あまり抵抗しないことだ。」

友希那「......!!!」

 

 私はそのまま、その男に引っ張られた

 

 どこへ行くかは分からない

 

 けど、抵抗なんてできなかった

 

 

 まさか、環那がしばらく来てなかった理由はこれなの?

 

 そうだとしたらこれは

 

 かなりどころじゃないくらい、不味いかもしれない

 

 私はそう思うと怖くなって、声も出せず

 

 ぎゅっと目を閉じた

___________________

 

 “環那”

 

環那「......来たか。」

 

 学校の裏門

 

 俺はそこに立って、そう呟いた

 

「おーおー、こっちから来るのは分かってたことかい?」

環那「予想するまでもないよ。」

 

 俺が声をかけた方から、1人の男が歩いて来た

 

 恐らく、身長は2m、体重は100kgはあるか?

 

 かなりのサイズだ

 

環那「君たちが篤臣さん達が来る前に動くことは分かってた。仮に部隊を2つに分けたとしても、人目につきやすい表から大駒は投入しない。」

「ほう?もし俺が表から来たらとは考えなかったと?」

環那「来ないでしょ。この学校でテロを起こしても意味がないって、君の依頼主は分かってるからね。」

「可愛げのねぇガキだ。もうちょっと焦れよ。」

環那「出来れば焦りたくはないな。」

 

 取り合えず、こいつさえ倒せば戦力激減でしょ

 

 さっさと片して、リサ達の所いかないと

 

 ノア君もいるだろうけど、急ぐに越したことはない

 

環那「焦らないけどさ、時間もかけられないんだ。さっさと片づけさせてもらうよ。」

「へへっ、かかって来いよ、坊ちゃん。遊ぼうぜ。」

環那「遊べるゆとりがあるといいね。」

 

 俺は男に近づいて行った

 

 さぁ、開戦だ

 

 ノア君の忠告が正しいか否か

 

 それを確かめるとしよう

 

 

 

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