羽丘の元囚人   作:火の車

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到来

浩二郎「ふぁ~ぁ......」

 

 あれから、何分経っただろう

 

 長すぎて、時間が分からない

 

 けど、一つ言えること、それは......

 

エマ「う......ぐっ......」

琴葉「はぁ......はぁ......」

リサ「エマ!浪平先生!」

 

 絶望

 

 あの2人でも、あの男には敵わなかった

 

 手は尽くしてた、でも、届かなかった

 

浩二郎「中々、楽しかったぜ。こりゃあ、殺す時が楽しみだ。」

エマ「......クソ、男......」

 

 エマはもう、まともに声を出せてない

 

 もしかしたら、骨折もしてるかも

 

 それくらい、あの男にやられてた

 

燐子「エマちゃん......!」

エマ「......大丈夫。まだ。」

 

 エマはそう言ってるけど、実際は違う

 

 体は震えてるし、顔色も悪い

 

 けど、心配させないためになのか、笑みを浮かべてる

 

エマ「こんなの......お兄ちゃんを幸せに出来ないと分かった時に比べれば、何てことはない......」

リサ、燐子、イヴ、琴葉「!」

 

 エマはそう言って、立ち上がった

 

 もう、限界のはずなのに

 

 どうして......

 

エマ「甘く見ないで欲しい......たかが暴力ごときでやられる私じゃない。真の絶望って言うのは、この程度じゃない......」

浩二郎「ほー?じゃあ、どの程度なんだ?」

エマ「教えてあげる、それは......」

 

 エマはそう言って拳を握り締め

 

 絞り出すように、声を出した

 

エマ「好きな人と、結ばれないことだよ......」

浩二郎「は?」

リサ「っ!(それって......)」

琴葉(恐らく......)

イヴ(カンナさんのこと、でしょう......)

燐子(エマちゃん......)

 

 エマの環那への気持ちは知ってる

 

 最近は影を潜めてたけど

 

 やっぱり、辛い思いをしてたんだ

 

エマ「初恋が絶対に結ばれない人で、思いを伝えてたら、完全に拒絶された時の気持ち、あなたなんかに分かる......?死にたくなるし、消えたくなるよ......?」

浩二郎「だから、それがなんだってんだよ。」

エマ「まだ分からないの?」

 

 エマはあの男を見下すような目で見た

 

 そして、乱れた呼吸を整えて

 

 ゆっくり、口を開いた

 

エマ「お兄ちゃんにフラれた瞬間に比べれば、あなた程度の攻撃なんて、ないも同然と言うこと。」

浩二郎「......ほう。」

琴葉「っ!(マズい!)」

リサ「エマ!!」

 

 あの男がエマに近づいてる

 

 その表情はさっきまでのとは違って

 

 険しくて、明確な殺意を持ってる

 

イヴ「エマさん!逃げてください!」

燐子「エマちゃんに何かあったら、環那君も悲しむよ......!!」

エマ「......問題ない。」

リサ「え?」

 

 エマは小さく笑った

 

 それは悪戯が成功した子供みたいな

 

 純粋な、可愛らしい笑顔だった

 

浩二郎「じゃあ、今度は手加減なしだ。死んでも文句言うなよ。」

エマ「あなたにもう一つの絶望を教えてあげる。」

浩二郎「もう御託は良いんだよ!!さっさと死にな!!孤独の姫様__」

 

環那「__心外だな。エマが孤独なんて。」

浩二郎「は__っ!?」

リサ、燐子、琴葉、イヴ「!?」

 

 エマに男の手が振り下ろされる直前

 

 聞きなじんだ声が教室内に響いた

 

 どこから聞こえたのか、一瞬分からなかった

 

 けど、すぐに、声の出どころは分かった

 

環那「心配してくれる人がいる、守る人がいる、そんな女の子が孤独なわけないでしょ。」

リサ「か、環那......?」

 

 声の出どころは、教壇の上

 

 その声の主はいつの間にかそこに座って

 

 男の方をボーっと眺めていた

 

浩二郎「......お前、いつから、そこにいた?」

環那「さっきだよ。普通に入ってきて、普通に座ってた。」

浩二郎「そこらへんにいた見張りは、どうした?」

環那「はい、これ。」

 

 そう言って、環那は男に何かを放り投げた

 

 一瞬しか見えなかったけど

 

 あれは、包丁よりも大きな刃物だった

 

浩二郎「なん、だと?」

イヴ「え?」

琴葉「あれは、どういうことですか......?」

 

 皆が驚く理由は明白だった

 

 だって、その刃物には持ち手がなくて

 

 それがあったであろう場所には

 

 他の刃物でそれを切断したような、綺麗な断面があったから

 

環那「あと、40本はあるけど、いる?経費で落ちないなら返すけど。」

浩二郎「......いいや。構わねぇ......よっ!!」

琴葉「っ!南宮君!」

 

 男は思い切り、環那に刃物を投げつけた

 

 ヤバい、と思った

 

 あんなのが当たったら、流石にタダじゃ済まない

 

 そう、思ってた

 

環那「......そっか。じゃあ、これはリサイクルに回すね。」

浩二郎「っ!!?」

リサ「へ......?」

燐子「うそ......」

環那「さてと。」

 

 環那は音もなくそれをキャッチし

 

 静かに教壇にそれを置いた

 

 そして、静かに教壇から降りた

 

 “環那”

 

 この感情は何だろう

 

 ここまで何人かを気絶させてきたけど

 

 少し、胸がチクチクと痛んだ

 

 そして、今、エマと琴ちゃんの姿を見て、煮えたぎる溶岩のように何かが体の中で煮えたぎってる

 

環那「エマ。」

エマ「お兄ちゃん......ごめんなさい、琴葉、ちゃんと守れなかった......」

環那「大丈夫。」

エマ「!」

環那「よく頑張ったね。えらいえらい。」

 

 そう言って、エマを抱き寄せ、頭を撫でた

 

 すると、エマは泣きそうな顔で俺の服を掴んで

 

 そのまま、胸に顔をうずめた

 

環那「遅くなってごめんね。でも、もう大丈夫。お疲れ様。」

エマ「う、ん......お兄ちゃん......」

浩二郎「__おいおい。無防備すぎるんじゃないかい!!ヒーローさんよ!!!」

リサ「環那!!」

環那「......は?何が?(フワッ)」

琴葉「!?」

 

 俺はエマを抱き上げた

 

 結構、酷い怪我だ

 

 これは俺のミスだ

 

 けど、エマはよくやってくれた

 

環那「燐子ちゃん、エマのこと、見ててあげてくれないかな。」

燐子「う、うん。」

環那「ありがとう。」

燐子(な、なんだろう、この感覚。今までとは、何かが違う。けど、いつもの環那君みたいにも思える。)

 

 なるほど、そう言うことか

 

 俺は今、すごい怒ってるんだ

 

 殺意とは違う、怒り

 

 今まで曖昧だった感情が自分の中で確立される

 

 なるほど、これは今まで感じてたことあったな

 

環那「エマと琴ちゃん傷つけたの、君だよね?」

浩二郎「だったらなんだってんだ?」

環那「そうか。」

 

 エマと琴ちゃんを傷つけたのか

 

 どんな気分だったんだろうか

 

 どうで下らないから興味もないけど

 

環那「そこの奴の依頼で来たんだよね?」

浩二郎「あぁ、そうだ。」

環那「そう。」

浩二郎(なんだ?)

 

 俺は寝転がってるゴミの方に歩み寄った

 

 なんで刑務所から出て来てるのか、とか

 

 そんなことはどうでもいい

 

 問題は、俺の大切な2人を傷つけたことだ

 

環那「おい、起きろ。」

源蔵「ぐほっ......!?」

浩二郎「!?」

 

 俺はゴミの腹を思い切り踏んずけた

 

 気持ち悪い感触だ

 

 まるで生ゴミが入ってるゴミ袋みたいだ

 

源蔵「き、さま......!なにを......!」

環那「......ねぇ。」

源蔵「__!!!」

 

リサ(この雰囲気......!)

燐子(この感覚、本気で怒ってるときのだ......!)

琴葉(敵には一切の情けをかけず、確実に仕留める。)

イヴ(あの日のもう1人のカンナさんにも似ています......!)

 

 尋常じゃないくらい、怒りが湧いてくる

 

 こいつには何の感情も湧かない

 

 じゃあ、いいや

 

環那「一回、死んでみる?」

源蔵「な__グホっ!!!」

 

 俺はもう一度、ゴミを踏みつけた

 

 そして、右手で奴の頭を鷲掴んで

 

 そのまま、攻撃を仕掛けた

 

環那(もっと、秒単位に攻撃を圧縮して......)

源蔵「へっ、ぶっ、グフッ、ガッ!も、う、やめ__」

 

浩二郎(お、おいおいおいおい。)

 

 ゴミに容赦はいらない

 

 別に世の中の害になるからとかじゃない

 

 ただ、俺の大切な人達を傷つけたから

 

 こいつを殺す理由なんて、それだけでいい

 

源蔵「......アッ......アッ......」

環那「なんだ、まだ死なないの?じゃあ、もういいや。」

 

 俺はそう言いながら、ゴミをもった

 

 ほんと、汚れもゴミもしつこいといけない

 

環那「ゴミはゴミ箱に、ね(ポイッ)」

源蔵「......」

 

 俺はゴミをゴミ箱に捨てた

 

 これでやっと、一つ片付いた

 

 予想以上に大変だ

 

環那「さて。」

浩二郎「__ひっ。」

環那「決めた。君の処遇は、病院送りだ。」

浩二郎「う、うわああああああ!!!」

 

 俺はそう言いながら男に歩み寄った

 

 近づくたびに俺の世界から色が失われて行って

 

 周りの動きも遅くなっていく

 

浩二郎(当たってくれ当たってくれ当たってくれぇぇぇぇぇ!!!)

 

 必死な顔で攻撃を仕掛けてくる男

 

 でも、それはあまりにも遅くて、滑稽で、無様で

 

 俺は色がなくなった世界の中で1人

 

 それを冷めた目で眺めていた

 

 

 

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