羽丘の元囚人   作:火の車

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分岐点

 今の環那はどこか異常だ

 

 まず、普通に感情を感じる

 

 今までと違って、人間らしく

 

 喜怒哀楽を明確に感じる

 

 それは環那にとっては大きな変化で

 

 すごく、喜ぶべきことだと思う

 

 でも、それも些細な問題なのかもしれない

 

 だって__

 

浩二郎「あああっ!!!もう、もう、やめてくれえええええ!!!」

環那「......」

 

リサ「何が......起きてたの......?」

琴葉「わ、分かりません。ただ......恐ろしいとしか。」

 

 あの男は発狂してる

 

 けど、体には傷一つない

 

 環那は一度も攻撃してない

 

 それどころか、一歩たりとも動いてない

 

 ただ、その場に立って、攻撃を受けてただけ

 

 けど、ただ一つ、おかしかったのは......

 

リサ「なんで、一度も音がしなかったの......?」

 

 そう、音がなかった

 

 攻撃は確かに環那に当たってた

 

 けど、ダメージどころか音もない

 

 まるで最初から何もなかったみたいに

 

 全部、無になった

 

エマ「あれが、お兄ちゃんのオンリーワンの才能......」

燐子「エマちゃん......?」

エマ「今の光景を見ての予想だけど、今のは元のお兄ちゃんが持ってた感覚ともう1人のお兄ちゃんが使っていた相手を基にした未来予知の合わせ技。遅く動く世界の中で相手を見て未来を計算する。そうすることで、お兄ちゃんは体のどこに当たっても、ダメージも音も限りなくゼロにすることができる。いくらフェイントを入れようが相手はゆっくり動いてるから、相手が行動する限り、ほぼ無限に計算を練り直せる。」

 

 それ、普通に反則じゃん

 

 けど、それでおかしいことがある

 

 なんでそれだけ、あの男はあんなになってるの?

 

 環那って、攻撃を受けてただけだよね?

 

エマ「これは、いわば相手の攻撃を無にする。いくら鍛錬しようが、工夫しようが、無意味。」

琴葉「......なるほど。」

エマ「特にあの男は暴力に絶対の自信を持ってた。そんな人間がもし、その全てを否定されれば......」

 

 そりゃあ、発狂もしたくなるか

 

 今までの人生全部を否定されたようなもんだし

 

環那「もう、やめようか?」

浩二郎「へ......?」

環那「君がいくら頑張たって時間の無駄でしょ?君の今までの人生のすべてをかけても、届かないよ?」

浩二郎「ひっ......」

 

 環那は屈託のない笑みを浮かべながらそう囁く

 

 正直、これがダメージ増やしてる感はある

 

 人の感情になれてないから、親切が親切になってない

 

 むしろ、心を粉々にしに行ってる

 

環那「ほら......」

浩二郎「あ、ああ......っ!!」

環那「......諦めておうちに帰りなよ。本当の意味で、これが起きちゃう前に。」

浩二郎「ああぁああぁああああ!!!」

 

リサ、燐子、琴葉、イヴ、エマ「!?」

 

 今までで、一際大きな発狂

 

 男の顔は涙と鼻水でグチャグチャで

 

 何か、とんでもなく恐ろしいものを見たような、絶望的な表情をしてる

 

浩二郎「く、来るなぁ!!!来ないでぇぇぇ!!!うわあああああ!!!」

 

 男は気が狂ったように叫んで

 

 その場にうずくまってしまった

 

 目も耳も塞いで、真ん丸になってる

 

 マジで、なにしたの......?

 

環那「はい!これで病院送りだね!」

 

 環那の雰囲気が元に戻った

 

 さっきまでの禍々しいオーラはない

 

 いつも通りだ

 

環那「琴ちゃん、怪我は大丈夫?」

琴葉「私はエマちゃんが守ってくれたので。」

環那「それは良かった。エマはちゃんと手当てしてから、うんと褒めてあげよう。」

エマ「お兄ちゃん......♡」

 

 ビックリするくらい、いつも通りだ

 

 いや、少しだけ違う......かも

 

イヴ「カンナさーん!///」

環那「おっと、イヴちゃん。」

燐子「環那君......!///」

環那「燐子ちゃんまで?珍しいね。」

 

 イヴと燐子は環那に抱き着いた

 

 まぁ、そりゃあそうだよね

 

 あんな状況の後だし

 

琴葉「あなたにしては遅かったですね。何かあったんですか?」

リサ「!」

 

 そこだよ

 

 あの環那があんなに遅れるなんて珍しい

 

 あたしも気になってたところだ

 

環那「......まぁ、ちょっと、返して貰ってただけ。」

リサ「どういうこと?」

環那「そのまま。」

リサ「!」

 

 ......やっぱり、ちょっと変わってる

 

 今までのとってつけたような笑顔じゃない

 

 色んな感情を感じる、普通の笑顔になってる

 

 それに、なんだろ、この違和感......

 

リサ「って、友希那は!?どうなってるの!?」

 

 完全に安心しちゃってた

 

 そうだ、まだ友希那がいるんだ

 

環那「友希那は大丈夫。もう、終わってる頃だろうから。」

リサ「え?」

環那「向こうはノア君が向かってる。問題ないよ。」

リサ「っ!?」

 

 その言葉に、あたしは驚いた

 

 あの環那が、あたし達を優先した?

 

 そんなこと今までありえなかった

 

リサ「な、なんで!?友希那は、よかったの!?」

環那「どっちを助けたいかって聞かれて、皆の方が助けたかった。だから来た。」

リサ「!」

 

 あたしはその言葉を聞いて、また驚いた

 

 けど、それも一瞬で

 

 すぐに別の感情へと変わった

 

リサ「......そっか。」

環那「リサ!?」

イヴ「ど、どうしたんですか!?」

 

 あたしは、涙を流した

 

 初めて、環那に選ばれた

 

 14年かけて、やっと、選んでくれた

 

リサ「あたしのこと選ぶの、遅すぎだよ、バカ......っ!」

環那「ご、ごめんなさい。」

琴葉(あの南宮君が素直に謝った!?)

燐子(め、珍しい......)

 

 やっと、報われた気がした

 

 あたしって単純なのかな?

 

 たった一回なのに、もう心が満たされちゃってる

 

環那「......もう、全部持って行ってくれたから。どこも痛くならないで言える。」

リサ、燐子、琴葉、イヴ「?」

 

 環那は一度、小さく呼吸をして

 

 あたし達を真っ直ぐ見た

 

 その表情は珍しく、緊張してるみたいで

 

 あたし達も息をのんだ

 

環那「俺は、皆が好きだよ。かもしれないじゃなくて、ほんとに。」

 

 その言葉は本物だった

 

 今までと全く違う、本心

 

 そこで気づいた

 

リサ(......そっか。)

 

 感じてた違和感の正体はこれだ

 

 環那は、断ち切ったんだね

 

 友希那への未練を

 

リサ「環那、よかt......」

環那「?」

リサ「......いや、やっぱりいいよ。」

 

 よかったの?なんて聞かないよ

 

 環那が決めたことだもん

 

 きっと、悩んで悩んで悩んで、その上で選んだはず

 

 これ以上、苦しめる必要はないよね

 

リサ「こんな4択中々ないよ?贅沢だね、環那~。」

環那「あはは、そうだね。」

 

 あたしは環那の脇腹をつついた

 

 ほんと、こんなに取り合うことになるとは思わなかった

 

 けど、それをちょっと嬉しいと思ってる自分もいて

 

 なんだろこれ、ちょっと複雑かも

 

 でも......

 

リサ(一つ、心残りがあるとすれば......)

 

 友希那が環那の中でどんな存在になったのか

 

 そして、友希那の気持ちはどうなのか......

 

 取り残された経験のあるあたしはそれが心配、かな

___________________

 

 “ノア”

 

ノア「__ふぅ。」

 

 湊友希那が囚われていた体育館

 

 俺はそこにいた奴らを片付け

 

 湊友希那救出の任務をこなした

 

ノア「体に異常はないか?湊友希那。」

友希那「あなたは......エマと一緒にいた......」

ノア「ノアだ。偽名だが、そう呼んでくれ。」

 

 見た所、怪我などはない

 

 近くにいたのは技に溺れた雑魚だったが

 

 それが幸いだったか

 

友希那「あの、環那は......」

ノア「奴は今井リサ達を助けに行った。」

友希那「っ!......そう、なのね。」

ノア「......」

 

 なんだ、今のこいつの気配は

 

 なぜか引っかかる

 

 取り合えず、奴のところに連れて行くのが正解だが

 

 そうしてはならん気がする

 

ノア「......」

友希那「助けてくれてありがとう。私は教室に戻るわ。」

ノア「......待て。」

友希那「?」

ノア(......なぜだ?)

 

 なぜだか分からんが、今のこいつは放っておけん

 

 理由は分からんが

 

 俺の本能がこのまま返すなと言ってる

 

 奴を無理矢理覚醒させたことへの罪悪感か?

 

ノア「思い悩んでることがあるのなら、話を聞こう。」

友希那「え......?」

ノア「今の貴様の気配は危うい。吐きだしたいものがあるのなら、俺が聞こう。」

友希那「......あなたは、信頼できるの?」

ノア「口は堅い方だ。」

友希那「......なら、人を利用するだけ利用した人間の戯言を、聞いてくれるかしら?」

ノア「いいだろう。」

 

 湊友希那はそう言った後、落ち着いて話せる場所に移動した

 

 奴が湊友希那を選ばなかったのは俺の責任でもある

 

 話くらい聞かんと割に合わん

 

 

 ......そう、この時の俺は思ってた

 

 だが、これが俺の命運を左右する分岐点になることなど

 

 この時の俺は考えもしてなかった

 

 

 

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