羽丘の元囚人   作:火の車

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本物の気持ち

 ノア君が決めた場所

 

 そこはほぼ放棄された工場地帯

 

 その中にある、木材や鉄骨を置いてある場所だ

 

 その真ん中には準備されたようにスペースが空いていて

 

 まるでリングのようになってる

 

ノア「勝負だ、南宮環那。」

環那「うん。」

 

友希那(だ、大丈夫なの......?2人とも......)

 

 ノア君はそう言い、構えた

 

 オーソドックススタイル

 

 あんまり奇抜なことはしないみたいだ

 

環那「......じゃあ、来なよ。」

ノア「あぁ......行くぞっ......!!」

 

友希那「!?」

 

 ノア君は勢いよく地面を蹴って、勢いよく突っ込んできた

 

 速い、やっぱり、今までの相手とはレベルが違う

 

 でも......

 

環那「それじゃあ、ダメだよ。」

ノア「知っている。」

環那「おっ。」

 

 直進のスピードのまま、ノア君は横に移動した

 

 なるほど、今の直進は最高速じゃなかったんだ

 

 最高速はむしろここから

 

ノア(こいつにはどうせすべて読まれている。ならば、こいつの想定を超えるしかない!)

環那「すごいよ、ノア君。」

ノア(なっ......!?)

環那「でもね、それは想定以上であっても、想像以上じゃあない。(フワッ)」

ノア「クッ!(音のない防御も使えるのか!)」

 

 俺はノア君の攻撃を受けた

 

 威力は殺し切ったけど、重いのが分かる

 

 やっぱり、この子は強い

 

 前までの俺なら、あいつを出さないと負けてたかも

 

環那「ノア君、君は強いよ。けど、負ける。純粋な身体能力と武術の戦いは俺と相性が悪すぎる。」

ノア「まだ始まったばかりだ。勝った気でいると、寝首を掻くぞ......!」

環那「......」

 

 ノア君は再度攻撃を仕掛けてくる

 

 左右、上下、パンチ、キック、掴み技

 

 色んな武術に精通する技術を持つ彼は引き出しが豊富だった

 

 互角の相手位なら、彼は余裕で勝つことだろう

 

 でも......

 

環那「__分かってるよ。君がどんな手を打ってくるのか。」

ノア「はぁ、はぁ......!」

 

友希那(全て、さばき切ったの......!?)

 

 俺はその全てを捌いた

 

 彼の動きは確かにすごい

 

 叩き上げてきた肉体で人間の限界ギリギリのパフォーマンスを可能にし、それを生かす技もある

 

 けれど、あまりそれに意味はない

 

環那「君がどんな手を打っても、俺の想像は越えない。」

ノア「なん、だと......!?」

環那「君の動きはすごい。けど、それでも、人間の域は出ない。」

ノア「っ......!」

 

友希那「人間の域を、出ない......?(あれが......?)」

 

 俺はありとあらゆる戦闘をシミュレーションしてきた

 

 その中にはノア君レベルはいた

 

 だからこそ、想像の範囲内

 

 かなり鍛錬を積んだのか、想定してた強さは越えてた

 

 けど、俺の想像は絶対に超えない

 

環那「人間では扉は空けられない。」

 

 この子の力は限りなく俺に近い

 

 けど、学生で言えばテストでトップ10に入るくらい

 

 秀才レベルだ

 

ノア「だが、貴様も攻撃はしていないではないか。意外と余裕がないのではないか?」

環那「出来れば、お互いに怪我無く終わるのがりそうだけど、ダメだった?」

ノア「っ......!!(なんて気配だ......!!)」

環那「なら、攻撃するよ。痛いけど、我慢してね。」

 

 諦めさせたかったんだけど

 

 この子の心は折れてくれないみたいだ

 

 あんなにことごとく攻撃を消されても闘志が萎えない

 

 やっぱり、レベルが違う

 

ノア「来い、南宮環那......!!」

環那「じゃあ__」

ノア「っ!?(なんだ!?)」

環那「__ちょっと痛いよ。」

 

 俺はノア君に接近し

 

 そのまま、ノア君の腹部を打ち抜いた

 

ノア「グホッ......!?(なんだ......!?ゆっくり動き出したと思ったら、いきなり目の前に移動しやがっただと......!?)

環那「出来れば、これで倒れてよ。」

 

 ノア君の体がクの字に折れる

 

 彼が何をしたかったかは分からない

 

 けど、きっと、友希那と何かあったんだろう

 

 感謝してる、でも、ノア君を傷つける事は俺は望まない

 

 これで終わることを祈るよ

 

 “ノア”

 

ノア(届か、ねぇ......)

 

 心からそう思う

 

 恐らく、このレベルの化物はそうは生まれない

 

 次に生まれるとすれば、もっと先

 

 100......いや、1000年は先だろう

 

ノア(ここまで、歯が立たないのか、俺は......っ!)

 

 情けなくなるぜ

 

 チビの時から戦場にいたってのに

 

 18のガキに手も足も出ないとはな

 

ノア(......いいや、分かっていたことか。)

 

 こいつは世が世なら伝説

 

 いや、現代でも何らかの形で名を残す化物だ

 

 生き物としての格が違う

 

 俺は言ってしまえば、太陽に近づいたイカロスと同じなのだろう

 

ノア(だが......っ!!!)

環那「!」

友希那「!?」

 

 無理矢理体を起こす

 

 俺はそう簡単に諦めるわけにはいかんのだ

 

 まだ、何もできていない

 

 このままおめおめと引き下がれんのだ

 

ノア(......湊友希那。)

友希那「っ!の、ノア......」

ノア(伝えてやるよ。そこの、感情が1か100しかない奴に。お前の、本当の気持ちを......!!)

 

 ダメージが残る体に鞭を打つ

 

 そうだ、今は自分自身のために戦うのではない

 

 ただ、伝えるために戦ってるのだ

 

 あの日に聞いた、本物のために

___________________

 

友希那「__私は、環那が好きだったのかしら......」

 

 そう言う声は弱弱しかった

 

 自信がなく、自己嫌悪も感じられる

 

 そんな声だった

 

友希那「何か、特別な切っ掛けがあったわけではないの。ただ、一緒にいて、優しいから好きだった。」

ノア「......」

友希那「でも、それは、無条件に尽くしてくれる環那を好きだったと思っていたようで、本当は恋愛感情じゃなくて他の邪な何かじゃないかって思った......っ」

 

 ずっと、湊友希那には興味があった

 

 あの化物を作り出した存在として

 

 何か、特別なものがあるのかと

 

 だが、実際に話してみればなんてことはない

 

 チビで運動能力も並以下で泣きたいときは泣く

 

 自己犠牲の精神が特別あるわけでもない

 

 そんな特別でもなんでもない普通の女だった

 

友希那「でも、なんでかしらね......」

ノア「......?」

友希那「環那がリサ達を選んで、安心してるはずなのに......悲しいの、どうしようもなく......っ」

ノア「......!」

 

 水滴がいくつか、床に落ちた

 

 泣いているのだ

 

 だが、俺には理解できなかった

 

友希那「気づいてたの......環那の気持ちが、私から離れていってることは......」

ノア「......」

友希那「それも仕方ないとは思ってた......私は、環那から奪うだけ......時間も、目も、右腕も、すべて私が奪ってしまった......なのに、私は、何もしてあげられなかった......っ」

ノア「......」

 

 さらに、悲しみの感情が大きなってる

 

 だが、俺に気の利いたことは言えん

 

 静かに聞くことしか、俺には出来ない

 

友希那「だから、良かったのかもしれない......あの4人の気持ちは本物だわ......きっと、環那を幸せにしてくれる......偽物の私に、出る幕はない。だから、これでいいはず......なのに、なんで、こんな......っ!」

ノア「......っ。」

 

 奪ったことをこんなに後悔し

 

 こんな風に自分を犠牲に出来る人間の持つ気持ちが、本当に偽物なのか?

 

 俺には......分からない

 

ノア(......いや。)

 

 分かる

 

 こいつの気持ちは本物だ

 

 俺は知ってるのだ

 

 自分よりも他の幸せを願い

 

 そのせいで傷つき、命を落とし

 

 生きてる間に思いを伝えることすら出来なかった、大馬鹿を

 

ノア「......それは、貴様の気持ちが本物だからだ。」

友希那「え......っ?」

ノア「偽物にこんな涙は流せん。」

友希那「!」

 

 俺は湊友希那の涙を指で拭った

 

 一点の濁りもない、綺麗な涙だった

 

 ......偽物なわけがない

 

 この涙を流す者は、本物なのだ

 

ノア「......貴様の気持ちをここで殺すわけにはいかん。」

友希那「え......?」

 

 俺はそう呟き、立ち上がった

 

 そして、覚悟した

 

 俺はこの気持ちを運ぶ、運び手になると

 

ノア「......さらばだ。もっとも、すぐにまた会うことになるだろうが。」

友希那「それは、どういう意味......?」

ノア「......今は知らなくてもいい。」

 

 俺はそれ以上何も言わず、その場を立ち去った

 

 

 そうだ、俺はこいつの気持ちを運ぶのだ

 

 もう、本物を殺すわけにはいかない

 

 そのために__

___________________

 

 “環那”

 

環那(......立った?そんな馬鹿な。)

 

 いくらノア君が頑丈と言っても限度がある

 

 ベストショットだった

 

 ノア君レベルでも、終わらせるレベルの

 

ノア「まだ、終われんのだ......っ!!」

友希那「の、ノア......」

 

 何が、あの子を突き動かしてるんだ

 

 いいや、分かってる

 

 きっと友希那のためだ

 

 それでも分からないのは、何がこの子をここまで本気にさせるかだ

 

ノア「......貴様の隣を歩く4人。」

環那「!」

ノア「あの女たちの気持ちは、本物だ......それを否定する気は、ない。」

 

 ノア君は息を切らしながらそう言う

 

 もう、体も精神も限界だろうに

 

 声を絞り出してる

 

ノア「だが......進んでいく貴様の後ろにいる者にも、気持ちがあることを、忘れるな......っ!!」

環那「......っ!!」

 

 ......分かった

 

 そう言うことか

 

 あいつが言ってた、あの日の俺と似た経験をノア君が過去にしてる可能性がある

 

 それが本当にそうで、今度はノア君が救えなかった誰かと友希那を重ねてるんだ

 

ノア「貴様を覚醒させた、責任は取ろう......」

環那「っ......?(なんだ?)」

 

 ノア君から異様な気配を感じる

 

 けど、俺はこれを知ってる

 

 これは、まさか......!

 

環那「ノア君!それを使うのはダメだ!」

ノア「一発叩きこんで、思い出させてやる......っ!!この俺が......っ!!」

環那「チッ......!(マズい......!)」

 

 この感覚は、扉が開かれる時のものだ

 

 いや、それだけならいい

 

 けど、もう一つ

 

 この感覚は......

 

ノア「貴様に普通の状態で勝てぬことなど分かっていた......だからこそ、覚悟は決めてきた......っ!!」

環那「......まさか、ノア君までそれを使うなんてね。」

 

 ノア君からすごい熱量を感じる

 

 そう、俺はこれをよく知ってる

 

 だって、元は自分が使ってたものだから

 

環那(......どうする。)

 

 あれを使えばタダではすまない

 

 俺も何回か死にかけてるんだ

 

 しかも、初めてでここまで入れ込んでる

 

 コントロールが効かなくなるのが一番まずいんだ

 

環那(......仕方ないか。)

ノア「これで、最後だ......っ!!」

 

 ノア君はそう言い、殺気を放った

 

 流石に、ここまで来るとお互い無事では終われない

 

 もし俺が負けることがあれば、ノア君と共倒れだ

 

 だったら、俺の取る選択肢は一つ

 

環那「終わらせてあげるよ、ノア君。」

ノア「っ......!」

 

 俺も同じのを使って、終わらせる

 

 出来るだけ早く

 

 ノア君の体が限界を迎える前に

 

環那「無事でいてよ......ほんと、お願いだから。」

ノア「行くぞ、南宮環那......っ!!!」

環那「あぁ、来なよ!」

 

友希那(ノア......っ!)

 

 俺とノア君は同時に地面を蹴った

 

環那(ほんと、この子には敵わないな)

 

 まるで、ヒロインを守る正義のヒーローだ

 

 つくづく思うよ、俺は正義のヒーローにはなれない

 

 南宮環那はどこまで行っても、悪に帰結するんだと

 

 でも、それでいい、俺はそう言う運命なんだから

 

 死ぬまでそれを貫いてやるよ

 

 俺はそんなことを思いながら、ノア君に向けて右の拳を振るった

 

 

 




そろそろキリがよくなるので、次の話を出すときにアンケートを取ります。
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