羽丘の元囚人   作:火の車

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最終確認

 朝、俺はいつも通りの時間に目を覚ました

 

 けど、風景は今までと少しだけ違う

 

 なんだか、少し景色が明るく見える気がする

 

 それに、体も少し軽い

 

環那(でも、軽すぎるな。)

 

 軽すぎるって言うのも悩みものだ

 

 今までと一つの行動で使うエネルギーが違う

 

 少し感覚のズレが生じてる

 

環那(肩の荷が下りた......とでも言いたげだね。)

 

 変な感じだ

 

 意識の内ではそう感じてなかったのに

 

 本能的にそう思ってたのか......

 

エマ「__おはよう、お兄ちゃん。」

琴葉「おはようございます!」

環那「あ、おはよう、2人とも。」

 

 朝食の用意をしてると2人がリビングに入って来た

 

 寝起きって言うのが見てわかる

 

環那「朝食、もうすぐ出来るから座って。」

琴葉「はーい。」

エマ「分かった。」

 

 2人はそう言って、いつもの席に着いた

 

 それを確認して、サッと仕上げをして

 

 それをテーブルにもっていった

 

琴葉「南宮君?」

環那「どうしたの?」

琴葉「昨日から思ってたんですが、また少し変わりました?」

環那「......そうでもないよ。」

 

 俺は軽く首を振った

 

 別にこれは変化ではない

 

 ただ、状態がよくなっただけ

 

 統合した時みたいに大幅に変わったわけじゃない

 

環那「ただ、肩の荷が下りただけ。俺はもう大袈裟に変わることはないよ。」

琴葉(この雰囲気は......)

環那「さぁ、朝ご飯の時間だ。」

エマ「いただきます。」

琴葉「い、いただきます。(肩の荷が下りた、ですか。出れたのですね、長年いた檻から。)」

 

 それから、俺たちはいつも通り朝ご飯を食べ

 

 2人にお弁当を渡して、朝の分の洗濯をして

 

 朝の家事をすべて終えてから、エマと一緒に家を出た

___________________

 

 学校に来ると、もう見知った2人の姿が見えた

 

 俺はその1人を見て、胸が躍った

 

 こんな感覚は初めてだ

 

環那「リサ。おはよう。」

リサ「あ!環那!おはよ!」

 

 今まで通りな要素とそうでない要素

 

 この2つが混在する、不思議な感覚だ

 

 ......いや、落ち着かないと

 

環那「これ、あげるよ。」

リサ「これは?」

環那「昨日のお礼。筑前煮作って来た。」

リサ「マジで!」

 

 俺はタッパーを机に置いた

 

 リサは嬉しそうにしそうにそれを見てる

 

 こんなに喜んでもらえるなら、作った甲斐がある

 

環那(......さて、リサの方はいい。あとは。)

リサ「環那?」

環那「......ちょっと、行ってくる。」

 

 確認は念入りに、必ず複数回行う

 

 それが俺の信条だ

 

 だから、今しないといけない

 

環那「友希那。」

友希那「環那。」

環那「少し、話さない?」

友希那「えぇ。来ると思ってたわ。」

 

 友希那はそう言って席を立った

 

 ......いい目をしてる

 

 そう思いながら、俺は友希那を連れて教室を出た

___________________

 

 俺と友希那は屋上に来た

 

 ここ、朝はほとんど人が来ないし

 

 聞かれたくない話するのにはちょうどいい

 

環那「__もう冬だね。」

友希那「そうね。」

 

 肌寒い風が通りすぎて

 

 うっすらと冬の気配を感じる

 

友希那「それで、話と言うのは何かしら?」

環那「分かるでしょ?14年の付き合いなんだから。」

友希那「そうね。大体わかってる。」

 

 友希那はそう言って頷いた

 

 流石に察してくれてる

 

 助かるよ

 

友希那「だから、あえて言うわ。もう、心配ない。」

環那「......そっか。」

 

 目に迷いがない

 

 幼かった少女が少し大人になって

 

 自分の足で道を進んで行こうとしてるのがわかる

 

 もう、俺に守られてるような子じゃないな

 

環那「ノア君とは上手くやれそう?」

友希那「......!そ、それは......」

環那「?」

 

 友希那の表情が変わった

 

 何かあったのかな?

 

友希那「......一つ、言いたいことがあるの。」

環那「どうしたの?」

友希那「私は、あなたが......環那のことが好きだった。」

環那「知ってる。」

友希那「!」

 

 普通に知ってた、けど、目をそらしてた

 

 当時の俺には理由が分からなかった

 

 けど、気づいてみれば答えは単純で

 

 ただ俺が友希那を恋愛対象として見れなかっただけ

 

 そんなことだった

 

友希那「......環那には、なんでもお見通しね。」

環那「長い付き合いだからね。友希那の気持ちが他に向いたことも気づいてるよ。」

友希那「っ!」

 

 義理堅い子だ

 

 別に気にしなくてもいいのにわざわざ言ってくるなんて

 

友希那「......ごめんなさい。」

環那「気にしなくてもいいよ。見ないようにしてたのは俺だから。」

友希那「......」

 

 謝る必要なんてない

 

 むしろ、謝るのは俺の方だ

 

 悪いのはこっちなんだから

 

友希那「私たちが結ばれた未来も、あったのかしら。」

環那「......さぁね。俺はよっぽどのことがない限り100%を語る気はないよ。」

友希那「その反応と言うことは、なかったのね。」

環那「......敵わないね。」

 

 俺なりにオブラートに包んだんだけど

 

 まぁ、慣れないことはするものじゃないね

 

 こういうのはやっぱり向いてない

 

環那「今世では無かったんだって思ってるよ。」

友希那「......そうね。今となっては、私もそう思うわ。」

環那「そっか。」

友希那「......あの、環那。」

環那「?__っ!」

 

 友希那は少し震えた声がしてそっちを向くと

 

 深く、頭を下げていた

 

 そして、こう言葉を続けた

 

友希那「今まで私を守ってくれて、ありがとう。そして、ごめんなさい......奪ってしまって。」

環那「あぁ、そんなことか。」

友希那「え?」

環那「いいんだよ。気にしなくて。」

 

 ほんとに律儀で優しい子だ

 

 こんな風に真っ直ぐ育ってくれて嬉しいよ

 

 これで安心して見送れる

 

環那「友希那。これ、あげる。」

友希那「!」

 

 俺はそんなこと思いながら友希那にある物を投げた

 

 これは、銀のペアネックレス

 

 1日遅れたけど、誕生日プレゼントだ

 

友希那「これは......」

環那「いつか、大切な誰かに渡すといいよ。」

友希那「そんな、こんなの、貰えないわ......」

環那「別にいいよ。」

 

 そう言って、小さく笑った

 

 これはお見送りだ

 

 門出を迎え、歩いていく背中を見てるんだ

 

環那「なにも気にしないでいい。今までの全部とそれは友希那にあげるよ。」

友希那「......っ!」

環那「命の恩人への最後の投資さ。」

 

 これで、少しくらい恩返し出来たのかな

 

 何となく終わった感じするし、出来た気がする

 

環那「さて、したかったことは出来たし。友希那は先に教室に戻ってて。」

友希那「環那はどうするの?」

環那「俺は、もう少しここにいるよ。静かだし。」

友希那「そう。なら、先に戻っておくわ。」

 

 そう言って、友希那は歩き出した

 

 その足取りは一定のリズムで綺麗な音をしてる

 

友希那「ありがとう、環那。」

環那「あぁ。お幸せに。友希那。」

 

 そんな会話の後、ドアの開閉の音が聞こえた

 

 その数秒後、俺は小さくため息をついた

 

 安心したのか、疲れたのかは分からない

 

 けど、別に悪いものではない

 

環那「さて、俺も俺で、頑張らないとね。」

 

 そう呟いて、俺は少し遠くを見た

 

 今日はいい天気だ

 

 不安も迷いも雲もない、晴れの空

 

 出来る事なら、友希那の人生もこの空のようにあってほしい

 

 これが、俺が命の恩人の為に祈る最後の願いだ

 

 

 

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