羽丘の元囚人   作:火の車

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理性

 高級ホテルのディナーって、すごい

 

 私は本当にお料理素人だから、どういう工夫がされてるとかは全く分からない

 

 だけど、口に入って感じる味で惜しいことが分かる

 

 でも......

 

燐子(環那君のお料理の方が好きかも......)

 

 どんな高級料理と比べても、贔屓目抜きにして美味しいってわかる

 

 やっぱり、環那君は特別な存在なんだと思う

 

 私にとってだけじゃなくて、この世界から見ても

 

燐子(やっぱり、環那君ってすごいんだ。)

 

 どんなことでもプロ以上のパフォーマンスを見せられる

 

 普通の人が何年もする努力を数日、もしくは数分で凌駕してしまう

 

環那「どうしたの?」

燐子「あ、なんでもないよ......」

環那「緊張が解けて、ボーっとしちゃった?」

 

 ニコニコしながら、そう問いかけてくる

 

 その顔はいつもよりも優し気で、安心する

 

環那「デザートがまだだけど、ここの料理はどうだった?」

燐子「美味しかったよ。どう美味しいかはよくわからなかったけど。」

環那「あはは、そっか。」

 

 私が言った感想を笑いながら聞いてる

 

 私が言うのもなんだけど、すごく楽しそう

 

 ちゃんと、好きって思ってくれてるんだって思う

 

燐子「それにしても、すごいね。こんなホテルを予約できるなんて。」

環那「まぁ、折角のクリスマスだからね。(それに、ずっと考えてたことだし。)」

燐子「そ、そうなんだ......///」

 

 楽しみにしてくれてたんだ

 

 環那君がちゃんと準備する人なのは知ってるけど

 

 今日はなんだか特別な気がする

 

 雰囲気も少しだけ違うような気もするし

 

燐子「今日はすごく楽しいし、嬉しかったよ......?///」

環那「それはよかった。燐子ちゃんが喜んでくれたなら何よりだよ。」

 

 そう言って、環那君は水の入ったコップに口をつけた

 

 その後に、ふぅっと息をついた

 

環那(......落ち着け。)

燐子(どうしたんだろう?)

 

 目を閉じて、何かを考えてるのかな?

 

 どうしたんだろう?

 

 何か問題が起きたのかな?

 

環那「この後はデザートだけど、食後のコーヒーはいる?」

燐子「甘めがいいかも。」

環那「分かった。注文しておこうか。」

燐子「ありがとう。」

 

 いつも通り、なのかな?

 

 ちゃんと気を利かせてくれるし

 

 気のせいだったのかな?

 

環那「まぁ、のんびり話しながら待とうか。」

燐子「うん。」

 

 それからしばらく、私たちはお話をして、デザートを待った

 

 その間も、少しだけ環那君は落ち着きがないように感じた

 

 これまで結構一緒にいたから気づけるくらいの違いだけど、すごく珍しいし

 

 本当にどうしたのかな?

__________________

 

 “環那”

 

 今、俺は本当に緊張をしてる

 

 不思議なものだ

 

 今までの俺なら、どんな状況でも動じなかったのに

 

 そんな自分がこんな状態にあるのは不思議でしかない

 

燐子「__美味しかったね、環那君。」

環那「そうだね。」

 

 食事を終えて、俺と燐子ちゃんは部屋に向かってる

 

 燐子ちゃんは食事に満足してくれたようで、嬉しそうな顔をしてる

 

 本当に素直でかわいい子で

 

環那「あ、ここだよ。今日泊まる部屋。」

 

 そう言って、俺は部屋のキーを出し、それで扉を開けた

 

 部屋の第一印象としては「綺麗」だ

 

 きちんと掃除されてるし、窓からは夜景もよく見える

 

 思ったよりもいい部屋だ

 

燐子「すごく綺麗......!」

環那「そうだね。」

 

 燐子ちゃんは子どもみたいにはしゃいでる

 

 こういう部屋、好きなのかな?

 

 燐子ちゃんの部屋もすごく綺麗だったし

 

燐子「環那君、今部屋とれるんだ......!」

環那「まぁ、折角だからね。」

 

 俺はそう言いながら、燐子ちゃんに続いて部屋に入った

 

 落ち浮く空間だ

 

 過度に明るすぎなくて、好きな感じだ

 

環那「どうする?少しだけゆっくりする?」

燐子「うん。今日は結構歩いたし、疲れたかも。」

環那「あはは、だよね。」

 

 そんな会話の後、俺と燐子ちゃんはソファに腰掛けた

 

 ソファに座ればちょうど綺麗なやけが見える

 

 いい雰囲気だ

 

環那(あー、どうしよ。)

 

 ボーっと夜景を見ながら、そんなことを考えた

 

 今日はなんだか上手く行かない

 

 変な感じにブレーキがかかってる気がする

 

環那(チャンスは結構あったんだけどなぁ。)

 

 ディナーの時も、何回か考えたけど

 

 なぜか、踏ん切りがつかなかった

 

 これはあれか、後でしようと思ってるけど、実際にしないやつ

 

 これが人間の気持ちか

 

燐子「環那君、どうしたの?」

環那「ううん、なんでも__」

燐子「ディナーの時から、少しおかしいかも。」

環那「!」

 

 燐子ちゃんはそう言いわれ、少し驚いた

 

 まさか、気づかれていたとは

 

 流石は燐子ちゃんと言うべきか

 

環那「よく見てるねぇ。」

燐子「彼女だから......///」

環那「そっか。」

 

 ほんとに可愛い

 

 燐子ちゃんがこんな風になるなんて、だれが想像したのかな

 

 俺ですらできなかったのに

 

燐子「それで、どうしたの?」

環那「んー。」

 

 燐子ちゃんも人を見れるようになった

 

 まぁ、俺が頻繁に嘘つくから、よく見るようになったのかもね

 

環那「そうだなぁ......燐子ちゃんと結婚したいなって思ってるだけだよ。」

燐子「.......えぇ!?///」

 

 あっさりとそう言った俺に、燐子ちゃんは真ん丸な目を向けた

 

 反応までに少しタイムラグがあったけど、それくらい驚いたんだろう

 

 それくらいにあっさり言ったし

 

環那「体育祭の少し後さ。」

燐子「う、うん///」

環那「燐子ちゃんの俺への気持ちは学生恋愛の範疇を超えてるって話、してたよね。」

燐子「し、したね......///」

 

 あの時からずっと思ってる

 

 あれがターニングポイントだった

 

 燐子ちゃんがあの時いなかったら、俺はどうなってたか分からない

 

 もしかしたら、文化祭で負けてたかもしれない

 

 負けなかったとしても、体が壊れてたかもしれない

 

 それくらい、重要なポイントだった

 

環那「今、俺もそう思ってる。これから先も燐子ちゃんといたい。」

燐子「,,,,,,うん///」

 

 今までの緊張は何だってくらい、ちゃんと言葉が出てくる

 

 思ってた形とは少し違うけど、雰囲気は申し分ない

 

 いいシチュエーションなのかも

 

 そう思って、俺は懐から小さな箱を出し、燐子ちゃんの方を向いた

 

環那「愛してる。俺と結婚して、ずっと傍にいてほしい。」

 

 そう言って、俺は小さな箱、その中にある指輪を差し出した

 

 燐子ちゃんは顔を真っ赤にして、口元を隠してる

 

 目線はあっちこっちを向いて、慌ててるのが良くわかる

 

燐子「は......はぃ///」

 

 そんな状態の中、燐子ちゃんは小さな声でそう答えた

 

 最早声と判定できるかも分からないくらいだった

 

 けど、確かに「はい」と言った

 

環那「......よかった。」

燐子「!」

 

 その瞬間に俺は全身の力が抜けた

 

 今日やりたかったことはやり切った

 

 安堵、喜びなどの感情が渦巻いて、思考回路がおかしくなってる

 

燐子「だ、大丈夫......?///」

環那「大丈夫。安心してるだけだから。」

 

 この俺がこんな風になるとは、運命の人は恐ろしい

 

 別に激しい運動をしたわけでも、奥の手を使ったわけでもないのに、疲労感があるし、動悸が激しい

 

燐子「あのね、環那君......///」

環那「どうしたの?」

燐子「私も、愛してるよ///ずっと......///」

環那「!」

 

 その時、心臓を掴まれたような感覚に襲われた

 

 顔を紅潮させ、そんな言葉を絞り出す

 

 その姿がどうしようもなく愛おしい

 

 ......もっと、彼女が欲しい

 

燐子「__ひゃ......!///」

環那「......(なんだ、これは?)」

 

 気づけば、燐子ちゃんをソファに押し倒していた

 

 自分でも信じがたい動きだ

 

 何をしてるんだ、さっきの今で

 

環那(バカか俺は!?さっきプロポーズしたばかりだろ!?他にやることなんていくらでも__)

燐子「いい、よ......?///」

環那「っ!?」

燐子「一緒の部屋に泊まるってわかった時点で、そういうことって思ってた///何より、環那君だから、嫌じゃないよ......?///」

 

 その甘い言葉で、理性と言う一種の外面が剝がされる

 

 この最低極まりない行動が肯定され、これでいいんだと思わされる

 

燐子「それに......赤ちゃん、ほしいよね///」

環那「......(ダメだ、これ。)」

 

 抗えるわけがない

 

 愛してると言われただけで押し倒してしまうほど、俺はこの子を欲してるんだから

 

 こうなってしまったら、出来ることなんて何もない

 

環那(俺が理性を保ってる内に......せめて__)

燐子「環那君からは、初めてだね......///」

環那「......!」

 

 恐らく、彼女にとっては些細な感想だったんだろう

 

 けど、その言葉を発する姿は、頬は紅潮し、瞳は潤んでいて、綺麗だった

 

 別に対して誘惑するような言葉ではなかったのは間違いない

 

 けど、今の俺にとって、その姿と言葉はあまりにも刺激的で

 

 最後に残っていた頼りない理性の糸を切ってしまうには十分すぎるのだった

 

 

 

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