燐子「ん......っ?」
目を覚ますと、私はベッドの上にいた
昨日の最後の記憶はソファだったけど
環那君が寝かせてくれたのかな?
燐子(昨日はすごかったなぁ......ちょっと腰痛い......)
あんな環那君、初めてだった
優しいだけじゃなくて、意地悪な感じ
あれも、環那君の素なんだと思う
ああいう顔を気軽にできるようになれば、もっといい関係になれるのかな?
燐子(あれ、環那君は?)
段々と目が覚めて来て、環那君を探す
ソファにはいない
お風呂にでも入ってる......と思ったけど、シャワーの音がしない
環那「__んん......っ。」
燐子「!」
周りをきょろきょろしてると、横から呻くような声が聞こえてきた
少し驚いて、声のした方を見ると
そこには、穏やかに眠っている環那君がいた
燐子(と、となりで寝てたんだ///)
意外過ぎてビックリした
出会って間もないころは断られてたのに
いや、今となっては意外でもないのかな?
今は彼女だし、それに、婚約者だし.......
燐子(結婚かぁ......///)
こんなに早くすることになるとは思ってなかった
去年までは男の子が苦手で、まともに話せなかったのに
今でも環那君以外は苦手だけど
環那「......すぅ。」
燐子(はうっ///)
あの環那君が完全に気を許してくれてる
いつもは同じ人間と思えないくらいすごいけど
寝てる姿はかっこいい男の子なんだなぁ
燐子「結婚したら、毎朝こんな風に隣にいられるのかな......///」
環那「じゃあ、大き目のベッド買わないとね。」
燐子「!!??///」
右下から聞こえた声を聴いて、私は飛び跳ねた
完全に起きてない前提の独り言だった
環那君、こういうところあるよね......
燐子「お、起きてたの......!?///」
環那「まぁ、朝だし、独り言もよく聞こえたしね。」
燐子(は、恥ずかしい......///)
よりによって恥ずかしいの聞かれた
顔が熱い
環那「燐子ちゃんが思ったより嬉しそうでよかったよ。」
燐子「あうっ......///」
環那君は穏やかに笑いながらそう言った
すごく恥ずかしい
嬉しいのはあってるけど、あの独り言聞かれるのは恥ずかしすぎる
環那「俺も嬉しいよ。燐子ちゃんが思ってるより、ずっと。」
燐子「......!///」
環那君に手を握られる
左手だから、人間らしい温度と感触を感じる
こんな風に手を握っていられるのが、嬉しい
それに、すごくドキドキする
環那「愛してるよ。」
燐子「私も、愛してる///」
それからしばらく、私たちは手を繋いだままでいた
何も特別なことはなく、ただ、そうしてるだけ
それだけなのに、胸がポカポカして、幸せを感じていた
__________________
”環那“
燐子ちゃんと付き合うようになってから、1年ほどが経過した
俺は高校を卒業し、本格的に社長業に勤しんでいる
本格的と言っても、学業と両立してた時に比べれば随分と楽な生活だ
今は家で仕事をしながら家事をしたりする生活を送れるくらいの余裕がある
環那(さて、そろそろ起きるかな。)
朝食の用意を始める
今は朝の8時00分、燐子ちゃんが起きてくる時間だ
学生の頃に比べれば、随分ゆっくりな起床だろう
まぁ、今はこれくらいがちょうどいいんだけどね
環那(それにしても、あれから、10ヵ月くらい経つのか。)
あれとは、クリスマスのことである
あの日以降も俺と燐子ちゃんは良好な関係を築き、今は入籍してる
どうしてこんなに早く入籍したかって言うと、理由はいろいろある
けど、最たる理由は......
環那(もうすぐ、産まれるんだな。)
燐子ちゃんは今、臨月真っただ中だ
もう、いつ産まれてもおかしくない
そんな状況の中、俺も燐子ちゃんものんびりした日常を過ごしている
少し前までは燐子ちゃんの体調が悪すぎて大変だったけど
環那(この俺が、父親か。)
燐子ちゃんのお腹が大きくなる度に、楽しみに感じる
けど、それと同時に漠然とした不安に襲われる
子どもをちゃんと幸せにできるか、ってね
環那「......」
俺の体には、あの醜い血が流れてる
それを抜きにしても、俺は俺と言う存在を信用できない
いくら感情が戻ろうが、欠落したものはある
今までにない状況でそれがどう作用するか、不安で仕方ない
環那(その時にならないと、分からないな。)
燐子「__おはよう、環那君。」
環那「!」
朝食を用意してるところに、燐子ちゃんが起きてきた
よかった、体調は大丈夫そうだ
今は本当にいつ陣痛が来てもおかしくないから
ほんとはあんまり目を離したくないんだよね
環那「おはよう。朝ご飯、もうすぐ出来るから座ってて。」
燐子「うん。ありがとう。」
環那「お礼なんてやめてよ。奥さんを支えるのは当然のことなんだから。」
そう言いながら、俺は朝食を皿に盛りつけ、それをテーブルに運んだ
燐子ちゃんは寝起きらしく、パジャマで少し寝癖がある
こういう姿を見せてくれるようになったのは嬉しい
なんとなく、夫婦になったんだって気がするから
燐子「いただきます。」
環那「どうぞ。召し上がれ。」
俺は燐子ちゃんの向かいに座った
一時の休息だ
やるべきことはまだあるし
燐子「おいしい......!」
環那「よかった。」
スープを口に入れると、燐子ちゃんはそう言った
好評なようでよかった
環那「よく噛んで食べるんだよ。」
燐子「うん......!」
母親になって、燐子ちゃんは少し変わったと思う
子どもを守ろうとする、強さが生まれたように感じることがある
けど、変わってない部分もある
燐子ちゃんは大切なものを持ったまま、強くなってる
燐子「あの、環那君。」
環那「どうしたの?」
燐子「家事のことなんだけどね、やっぱり、私ももうちょっとしたい。」
燐子ちゃんは急にそんなことを言い出した
今、この子は簡単な拭き掃除くらいしかしてない
けど、それもあくまで健康維持の目的でしかない
しなくていいなら1日中ゆっくりしててほしいくらいだ
燐子「洗濯くらいなら__」
環那「ダメ。」
燐子「えぇ......!?(は、早い.......)」
環那「体冷やしたらダメだからね。」
それに、重量のあるものは持たせられない
そもそも、燐子ちゃんの運動力は少しの拭き掃除と軽い散歩で十分だ
万が一でもリスクのあることをする意味はない
環那「この家には俺だけじゃなくてエマもいるんだから。今は出産に集中して、家事とかは後でもいいでしょ?」
燐子「うーん......」
燐子ちゃんは不満そうだ
まぁ、これも可愛いものだからいいんだけどね
家事なんかよりも燐子ちゃんの体の方が大切だし
環那「今は1人の体じゃないんだから。のんびりしときなよ。」
燐子「うぅ......///」
頭を撫でられ、燐子ちゃんは頬を赤くした
こういう所は変わらない
可愛すぎる
環那「今日は久しぶりに2人でゆっくりしよ。」
燐子「うん///」
それから、燐子ちゃんはゆっくり、朝食を食べた
今日は、燐子ちゃんとのんびりするか
急ぎの仕事も家事もないしね
__________________
“燐子”
私は今、リビングのソファに座ってる
環那君は私が食べた食器を洗ってる
私がしたかったんだけど、即答でダメって言われた
環那「終わったよ、燐子ちゃん。」
燐子「あ、お疲れ様。」
環那君が私の隣に腰を下ろす
なんだか、1年前より、大きくなった気がする
身長、少し伸びたって聞いてるし
環那「今は大事な時期だから。」
燐子「でも、もっと家事したい。一応、専業主婦だし。」
環那「すぐに大忙しだよ。家事に子育てもあるんだから。」
燐子「あ、そっか。」
私は、大きくなったお腹を撫でた
妊娠に気づいたのは、卒業式の直前だった
あの時点で妊娠3か月だから、クリスマスの日で間違いない
燐子「なんだか、あっという間だった気がする。」
環那「そうだね。」
しばらく、体調が安定しなくて、辛い時間が続いてた
ご飯も全然食べられなかったし、お腹も痛かった
最近は胃への圧迫感も少なくなった
燐子「でも、環那君も言ったみたいに、これからなんだね。」
環那「生まれてからの方が長いからね。それに、育てるのって大変だから。」
子どもを育てるのは、きっと想像以上に難しい
お腹の子は女の子だけど、私とは全然違うと思う
育つ環境が違うし、なにより、この子は環那君の血を継いでる
確証はないけど、この子も特別な才能を持ってるような気がする
それがどんなものかは分からないけど
燐子「どっちに似るかな?」
環那「俺には似てほしくないな。」
燐子「なんで?」
環那「この子には、普通の子になってほしいから。」
燐子「!」
そう言いながら、環那君は私のお腹を撫でた
いや、赤ちゃんのことを撫でてるのかな
燐子「環那君も、父親になってきてるね。」
環那「え?」
燐子「ちゃんと、この子に愛情持ってるよ。」
環那「......!」
私がそう言うと、環那君は驚いた顔をした
ちゃんと、分かってた
環那君がこの子について、不安に思ってることを
自分の過去とか、血を気にしてることを
燐子「環那君は環那君だよ。優しい、私の旦那様。」
環那「......そっか。」
燐子「!?」
環那君の目から、一筋の涙がこぼれた
ど、どうしたの!?
なんで、こんな急に......ていうか、泣くなんて今までもあんまり......
環那「俺が、この子に愛情を持てるか......それが一番の不安要素だった。」
燐子「......うん。」
環那「いや、今でも分からない。実際に生まれないと、どうなるか分からない。」
燐子「大丈夫。私がちゃんと支えるから。」
環那「ありがとう。」
こんな風になるのは珍しいかも
いつもは頼り甲斐があるのに
でも、少しくらい位よね
今まで、不安な私を支えてくれくれてたんだし
環那「俺が今まで取り零したもの全部、この子にあげられるようにしたいな。」
燐子「うん、そうだね、パパ。」
環那「これからもよろしくね、ママ。」
環那君と出会ってから、私の人生は変わった
普通では体験できないようなトラブルもあったし、考えられなかったような恋もした
今思えば、本当に私たちの出会いは運命だったんだって思う
出会わなかったら、私は今も、普通の人生を歩んでた
それも一つの幸せだけど、今の方が、私は幸せだと思う
だって、大好きな人がいて、その人との赤ちゃんも、私のところに来てくれるなんて、これ以上ない幸せだと思うから
でも、私も少し不安がある
私は果たして、環那君より赤ちゃんを愛することが出来るかな?
環那君の方が好きなまま......なんてことにならないかな?
......なんて、2人とも同じくらい愛せばいいだけだよね
そんなことを考えながら、私は残り少ない、2人だけの幸せを嚙み締めた
燐子ルートはここまでです。次回からは琴葉ルートになります。
ここしばらく投稿頻度が低くなってるので、何とか戻したいと思います。