まだ日が落ちてない、お昼といわれる時間
午後の授業も残っている中、私はタクシーに乗っています
その理由は、あの電話です。
琴葉(お、お父さん......!)
あの電話は、組の人達からでした
そして、告げられたのはお父さんの危篤でした
好き嫌いは置いておいて、強いと思ってたお父さん
そんな人が危篤なんて、一体なにが......!?
「お客さん、目的地に__」
「こ、これでお願いします!」
「は、はい。」
私は運転手さんにお金を渡して、タクシーから降りました。
久しぶりに足を踏み入れる我が家ですが
何かを感じる暇もなく、急いで門を開けました
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「__親父!お嬢が来ました!」
家に入って、私は組の人に寝室に案内されました
昔に比べて、組員が増えています
それに、寝室の場所も変わっていました
篤臣「なんだぁ......来やがったのかぁ......」
琴葉「っ!」
お父さんの姿を見て、私は驚きました
この間まで元気だったお父さんが、点滴を打たれて
見るからに衰弱しています
こんな姿、もちろん初めてです
琴葉「一体、何が......!?」
わかりません
お父さんは南宮君ほどじゃないにしても、人外といえる存在です
その強さは何度もこの目で見てきました
ついこの間も......
環那「__肺がんでしょう。」
琴葉「南宮君.....?なぜ、ここに.....?」
環那「呼ばれたからだよ。大丈夫。エマはリサたちに任せてる。」
私が呆然としていると、背後から南宮君が現れました
彼も呼ばれてからすぐに来たんでしょう
制服のままです
環那「ステージは3くらいですか。」
そう言いながら、彼はお父さんのほうに歩み寄ります
驚くほどの冷静さです
篤臣「くくっ......病名は正解だァ。だがなァ、ステージは4だァ......」
環那「っ!」
琴葉「っ!?」
お父さんの言葉に彼は驚いたような表情をしました
ステージ4ということは......まさか......!
環那「まさか、そこまで進行してるとは。なぜ、そこまで放置を?」
篤臣「......俺の役目は、終わったからだァ......」
環那「?(どういうことだ?)」
琴葉(役目......?)
言ってる意味が分かりません
お父さんの役目とは、なんなのですか?
がんを放置してまでしなければいけないこと......もしかして......
琴葉「南宮君......ですか?」
篤臣「......さすが、俺の娘だァ。」
環那「俺?」
それにしても分かりません
なぜ、お父さんが彼を知ってたのですか?
繋がりなんてなかったはずなのに
環那「聞かせてくれませんか?そこまでした理由を。」
篤臣「......ちょっとした、昔話だァ。」
“回想”
俺にも、昔は嫁がいたァ
元は俺が学生で、あいつは教師だったァ
あいつはいつも、息をするように生徒を寄り添おうとしてた
俺も、その1人だァ
?「__ねぇねぇ!聞いてよ篤臣君!」
篤臣「なんだァ......薫子。」
薫子「すごい子みつけたの!」
六つは上のくせに、俺より若々しい奴だった
40超えてるくせに、世界中飛び回って、誰かを助けようとしてた
そして、いっつも求めてやがった
特別な人間ってやつを
薫子「あの子はすごいよ!化け物だよ!この世界を根本から変える力持ってるよ!」
篤臣「どんな奴だァ......そんなのが本当に要るなら見てみたいもんだァ。」
薫子「きっと、見たら驚くよ。多分、今でも篤臣君より強いかも。」
篤臣「冗談言えェ。そいついくつだァ?今日行ったの幼稚園だろうがァ。」
薫子「5歳!ただし、世界最強の!」
篤臣(バカかァ......)
この時の俺は、気にも留めてなかった
いつも、わけのわからないことを言ってたやつだァ
今回も発作みたいなもんだろう、と
また、こういう話を聞かされるんだろうなぁ......と
琴葉「__おかあさん!おかあさあん!」
篤臣「......」
薫子「......」
そんな日常は、ある時に消し飛ばされた
銃弾をぶっ放してから的に当たる時間よりも短く感じた
あいつは紛争地なんかに向かって、重症で帰ってやがった
何の関係もない奴らのために、馬鹿みたいに命を......
篤臣(......俺がァ、潰すしか__)
琴葉「ぐすっ......ぐすっ......」
篤臣「っ!」
俺が組を総動員すれば、薫子を殺した奴らは潰せたかもしれねェ
だが、もし俺が死ねば、琴葉はどうなる?
まだ中学生のガキを1人にしろってのか?
そんなこと、あいつの忘れ形見にしてもいいのか?
その考えが、俺を人間に留めた
篤臣(ヤクザの頭になっても、出来ねェことがあんのかァ......!)
自分の無力さを知った
所詮、俺はどこまで行っても人間だった
じゃあ、誰が、誰が薫子の仇をとれる、琴葉を守れる
俺ですらできないことを、誰ができるってんだ......!
薫子「篤臣......君......こと......は......」
篤臣「っ!バカ!喋んじゃねェ!」
薫子「いい......の......も、う、長く、ない、から......」
この馬鹿は最後まで馬鹿だった
ただせさえ喋るだけでも、その体には毒になる
だってのに、こいつは......
薫子「わた、し、じゃ......ダメだった......。だれも、すくえな、かった......」
篤臣「......馬鹿がッ。」
薫子「ふふっ......ないて、る......?」
香子は微笑んでた
信じられねェくらい、穏やかに
痛みなんて、感じてねェみたいに
薫子「篤臣、君、おね、がい......」
篤臣「......なんだァ。」
薫子「ことはを、守って......」
篤臣「っ......!」
この時、俺はこいつを心底母親だと思った
俺は元々そのつもりだったが
さらに腹を決めるには、その言葉は十分だった
薫子「......それ、と......」
篤臣「なんだァ?」
薫子「ある、おとこのこを、みつけ、て......その子の、名前は__」
そいつの名前を最後に、薫子は息を引き取った
それからしばらくのことはよく覚えてねェ
いつの間にか、葬式も、何もかもが終わってた
そして、俺は気づけばあいつの仏壇の前にいた
篤臣「......馬鹿野郎が。」
俺の人生で、あれ以上のバカはいねェ
自分のことなんて微塵も考えねェ、人外みたいなやつだった
あいつに比べりゃ、俺なんてちっぽけなもんだった
篤臣「......南宮、環那。」
そんなあいつが、最後に呼んだ名
こいつにどんな意味があるのか、俺にはわからねェ
だが、あいつの遺言だ
やらねェわけにはいかねェ
篤臣(何年かかるかわかんねェなァ。)
ヤクザっつっても、人間1人を見つけるのは難しい
人員を割かなきゃいけねェし、警備も手薄になる
そうなりゃ琴葉を守るには......
篤臣「琴葉ァ。お前は家を出ろォ。金輪際、組の名前を名乗んじゃねェ。」
琴葉「!」
これしかなかった
こいつの存在はまだ、別の組の奴らは知らねぇ
琴葉を守るには、組から遠ざけるしかなかった
あいつは俺のことを憎いといわねぇばかりの目で見てた
だが、俺のことなんてどうでもいいんだ
今の俺は琴葉を守ることと、南宮環那を見つけるために存在してる
あいつの願いをかなえるためなら、腹でもなんでも切る覚悟だった
篤臣(どこだ、南宮環那ァ。)
5年間
それが、南宮環那を見つけるのにかかった時間だ
驚いたぜ
あいつの言ってた男が、まさか少年院にいるなんてな
篤臣「__迎えに来たぞォ。南宮環那ァ。」
環那「あんた、誰?」
篤臣「里親だァ(......マジかァ)」
度肝を抜かれるってのは、こういうことを言うんだと感じた
目の前にいるのは、マジで人間か?
かといって、熊や猪とも比較にならねェ
これは、まるで......
篤臣(化け物、ってことかァ。)
環那「そういうのいいから。もう行っていい?行かなきゃいけないところがあるんだ。」
篤臣「そりゃあ出来ねェ相談だァ。」
環那「!」
俺は組の奴らを100は引き連れてた
一旦は手荒なことをしねェといけねェと思ってたからだ
だが......
『ぐあぁぁぁああ!!!』
環那「......」
篤臣(なん、だとォ......!?)
100で何とかなるっていう俺の認識は間違ってた
あいつの認めた男は本物の化け物だった
誰の手にも負えねェ
本当に、世界のすべてを変えかねない存在
直感的に俺はそれを感じた
篤臣(薫子ォ......お前ェ、とんでもねェのを見つけたなァ。)
この時、すべてを察した
俺の人生は、こいつと琴葉を守るためにある
このちんけな命は、こいつらの捨て駒にならなきゃいけねェ
そのためには、自分に使う時間なんてものはねェ
そう考えた瞬間に、俺は自分の残りの命すべてをかける覚悟を決めた