羽丘の元囚人   作:火の車

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イヴルート
不純


 俺は自由になった

 

 幼い頃に立てた誓いは果たした

 

 だが、自由って言うのは意外と不自由だ

 

 ある程度やることがある方が、生きやすいことを初めて知った

 

 そう言う意味では、俺は恵まれてたのかな

 

環那(......退屈だ。)

 

 この感情に名前を付けるなら、これだろう

 

 退屈って、絶望的だ

 

 俺にとっては、自身の存在意義を失ってる状態で

 

 また、それを構築する必要があるんだから

 

環那(さて、と......)

 

 俺は橋の真ん中くらいで足を止め、高欄に腕をついて、缶コーヒーを置いた

 

 夜だから、色んな光が反射してる

 

 きっとこの中のいくつかは、残業してる社会人のものだろう

 

環那(いいな、やることあるって。)

 

 きっと、本人に言ったらブチギレる

 

 けど、今の俺は本気で羨ましいんだ

 

 忙しいのって、退屈よりは楽なんだから

 

環那「......まっず。」

 

 コーヒーを飲んで、そう呟いた

 

 これ、ブラックじゃん

 

 俺、甘党なのにさ

 

環那「はぁ......」

 

 歩くべき道がない

 

 まるで真っ暗な道を歩いてるみたいだ

 

 一歩間違えれば落ちてしまいそうな恐怖心がある

 

 久しぶりだな、恐怖__

 

イヴ「__カンナさん!」

環那「!」

 

 夜空の月から降り注ぐ、冷たいようで暖かい光

 

 ホッと安心してしまうような

 

 そんな光が、俺の心に差し込んだ気がした

 

環那「なんで、ここに?」

イヴ「リサさんから連絡があって、皆で探し回っていたんです!」

環那「そっか。それは、悪いね。」

イヴ「いえ、無事でよかったです......」

 

 イヴちゃんは安心したようにそう言った

 

 この子は優しい子だ

 

 いや、優しくない子、俺の周りにいないか

 

イヴ「よかったです......!」

環那「!」

 

 イヴちゃんはそう言って、俺に抱き着いた

 

 冷えた体に、この暖かさは沁みる

 

環那「悪いね。少し、頭を整理しようと思って。」

イヴ「そうだと思います。きっと、今までの人生を捧げていた人が巣立っていったんです。そう言う時間だって、必要だと思います。」

 

 イヴちゃんはいい子だ

 

 相手を理解しようとする姿勢がある

 

 相手の立場になって物事を考えられる、優しい子だと思う

 

イヴ「でも、私、思う所もあります。」

環那「?」

イヴ「私は、ユキナさんを少し良く思えません......」

環那「!」

 

 イヴちゃんは少し苦しそうな表情でそう言った

 

 かなり驚いた

 

 あの優しいイヴちゃんが、こんなことを言うなんて

 

イヴ「ユキナさんがいなければ、カンナさんは生きていなかったかもしれません......でも、それでも、カンナさんにあんなに尽くされて、他の人と幸せになるなんて......私は許せません。」

環那「......(正直な子だ。)」

イヴ「義手があるとはいえ、腕を失って、片目も見えなくなって、それでも、頑張って、きたのに......っ、その結果が、これなんて......あまりにもカンナさんが不憫です.......!」

 

 ほんとに、優しい子だ

 

 多分、俺より俺の感情を正しく受け止めてる

 

 俺が俺じゃなければ、こう思ってたのかもしれない

 

 けど......

 

環那「俺はね、この結果には概ね満足してるよ。」

イヴ「え......?」

環那「友希那と出会った時から幾度もシミュレーションをして、その中には俺と友希那が結ばれるというものもあった。」

イヴ「その、結果は......?」

環那「俺が友希那を幸せに出来ることはなかった。」

イヴ「っ!」

 

 俺のシミュレーションの精度はほぼ完璧だ

 

 それで、何度も何度も人生を生きた

 

 けど、友希那と結ばれて幸せに出来たことはなかった

 

 その理由は単純で、残酷な真実......

 

環那「幼馴染ではそうでなくても、恋人としては、気が合わなかったんだ。だから、俺じゃ、幸せに出来なかった。少し、悔しかったよ。」

イヴ「そんな.....ことが......」

環那「だから、あの子が現れてくれて、嬉しかった。友希那のパートナーとして、高い適正を持ってたから。」

イヴ「......!」

 

 だからこそ、友好的に接した

 

 正直、この結果はまぐれだし、シミュレーション外の出来事だ

 

 けど、望んだ結果には辿り着けた

 

 あの子なら、きっと、友希那を幸せにしてくれる

 

環那「予定通りなんだよ。」

イヴ「でも、それじゃ、カンナさんは......」

環那「それに、俺にはイヴちゃん達がいた。これが、今までのシミュレーションでも無かった、想定外だ。」

イヴ「え?」

環那「君たちがいなければ、イヴちゃんが言うようになったかもしれない。けど、実際はそうじゃない。」

 

 何が起きるか分からない

 

 それを体現したのが、あの子たちだった

 

 だから、特別なんだ

 

環那「今は少し寂しいけど、イヴちゃん達がいるから。失ったものより、得たものの方が大きいよ。」

イヴ「カンナさん......」

環那「だから、あんまり友希那を悪く思わないであげて。あの子は、普通の人間だから。」

イヴ「......っ。」

 

 イヴちゃんに力がまた強くなる

 

 けど、ただ怒ってるわけじゃない

 

 いろんな感情が渦巻いてるんだろう

 

 この子は、優しい子だから

 

イヴ「なら、私にその寂しさを埋めさせてください。」

環那「え?」

イヴ「私はアイドルです。ファンの皆さんを笑顔にするのがお仕事です。でも......私は、カンナさんを一番笑顔にしたいです。」

 

 イヴちゃんはそう言って、抱きしめた腕を解いた

 

 そして、少しだけ距離が開いて、目がばっちりと合う

 

 宝石のように綺麗な瞳だ

 

 輝きながら、澄んでいる

 

イヴ「私を、カンナさんだけのアイドルにしてください。例え、ほんの一時でも。」

環那「!」

 

 そこらにある証明が、まるでスポットライトのように彼女を照らしている

 

 なんて綺麗なんだろう

 

イヴ「手、こんなに冷たいです......」

環那「......っ!」

イヴ「私に、温めさせてください......///」

環那「イヴちゃん......」

 

 俺とこの子は異なる種類の人間だ

 

 例えるなら、天国と地獄の住人のようだ

 

 本来は交わってはいけないものだったんだろう

 

 でも、彼女が俺を選んでしまった

 

 自ら、堕ちて来てしまった

 

環那「ありがとう。でも、後悔するかもしれないよ。」

イヴ「私が後悔するのは、きっと、今のカンナさんを見捨ててしまう事です。」

環那「そっか......」

イヴ「!///」

 

 俺は彼女の頬に手を添えた

 

 柔らかくて、スベスベで、触り心地がいい

 

 ほんとに、この子は綺麗で、優しい子だ

 

 そんな子にこんなことを思うのは、俺がろくでなしだからだろう

 

 極めて不純で、醜くて、浅ましい感情

 

 俺はこの子を、宝石のような女の子を汚してしまいたい

 

 

 

 

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