ミス
絡んできた男たちを全員倒して、俺は立ち尽くしている
さっきまで盛り上がって、温度が上がっていた心が、また冷めていく
その寒さが、俺を現実へ引き戻す
環那「......もっと騒げよ。」
今日は俺の大切な幼馴染の門出だ
友希那を知っていようが知らなかろうが騒げ、祝福しろ
そうじゃないと......
環那「......俺が、可哀想な奴みたいになるだろ。」
まるで、主役が去った舞台に取り残された役者
己を主役と勘違いした道化
そんな者に向けられる目は羨望でも、侮蔑でもなく、哀れみだ
俺は、そんなものになるつもりはない
大人しく舞台から降りるさ
「__うっ、ごほっ、げほっ!!!」
環那「......」
「いてて......一体、何が......」
環那「まだ舞台に上がるか。」
「お、おま、お前は!」
ゆっくりと歩みを進める
まだ、俺を舞台から下ろしてくれないのか
引き留めようとするのか
そんな怒りにも似た感情が湧き上がり......安心した
環那「そこのゴミ共を連れて去れ。次は......この程度では済まないぞ。」
「ひ、ひぃぃぃぃ!!!お、起きろお前らぁ!!!」
「な、なんだ!?」
「俺達、あのガキにボコボコにされて__」
環那「君たちごときが俺をガキ扱いか。」
「う、うわぁぁぁぁあ!!!」
目を覚ました男たちは俺の顔を見た瞬間、一目散に逃げて行った
俺のこと、悪魔にでも見えてるのかな?
自分を普通の人間とは思わないけど、少し傷つくな
環那「......さて。」
静かだ
もう幕は下りた
俺と言う悪役も、やっと舞台を降りられる
もう、満足だ
環那「.......」
悪で終わる物語に誰も拍手は送らない
胸糞悪さと遺恨のみが残る
そして、静かに会場から去る
環那「......ざまぁみろ。」
そして、悪はこう笑う
静かに去る観客の背に、バカにするように舌を出す
してやったりと言わんばかりに
こうすれば......
環那(誰も、主役のことなんて考えなくなる。)
十数年に渡る舞台は幕を閉じた
後はひっそりフェードアウトしよう
もう、俺が何かをする必要はないんだから
環那「.......やっと、これで......」
冷たい空気が体の芯を冷やす
つららで刺されているように、胸の奥が痛む
不思議だ
全ての理想を叶えた先が、こんな__
リサ「__環那ー!!」
燐子「環那君!」
イヴ「カンナさん!」
琴葉「南宮君!」
環那「.......!」
冷たい空気を切り裂くような、暖かい光
その光はあまりに眩しい
暗闇にいる、悪にとっては
環那「......やぁやぁ、皆お揃いで。」
リサ「友希那から連絡あって、急いできたんだよ......」
燐子「環那君が危ないって......!」
環那「ははっ。それは、面白い冗談だね。」
別に、危ないことなんてなかった
むしろ、俺以外の関係者を心配するべきだ
だって、俺は無傷なんだから
琴葉「いえ、来て良かったです。」
環那「え?」
イヴ「私もそう思います。」
そう言われ、俺は首を傾げた
なんで、心配されてるんだ?
別になんともないんだけど
イヴ「今のカンナさんは、ひどく傷ついています......」
環那「!」
俺はイヴちゃんに抱きしめられた
それと同時に、不思議な感覚に襲われた
安心、充足と言ったものを感じたんだ
琴葉「終わらせたのでしょう。過去のあなたが自分に課した使命を。」
環那「......」
琴葉「そして、あなたは寂しがっています。その使命があなたを南宮環那たらしめるもので、存在意義だったんですから。」
否定の言葉が出ない
全部、図星だ
まるで、俺の言葉を代弁しているようだ
燐子「今までの人生の半分以上を費やしたんだもん。寂しくて当たり前だよ......きっと、すごく苦しいし、悲しいと思う。」
環那「......そう、なのかもね。」
運命の人は俺のことを自分のことのように悲しんでる
むしろ、俺の方がこうあるべきなのかな
リサ「ほんっと、バカなんだから。」
環那「っ......!」
リサ「かっこつけで、悪役ぶって、悪い部分は全部自分で引き受ける。バカだよ。」
そして、一番の理解者は俺の頭を撫でてくる
優しい口調で、バカって言いながら
でも、それが、一番俺を楽にしてくれた
リサ「泣きたいときは泣いていいんだよ。」
環那「......」
燐子「もう、十分頑張ったんだから。」
琴葉「あなたにも泣く権利はあります。」
イヴ「私がずっと抱きしめてますから!」
......どうやら、この4人は俺を泣かせたいらしい
でも、悲しいかな
俺にはその機能が備わってない
環那「泣きはしないさ。」
イヴ「あれ!?」
環那「だって、今泣くのは、大切な人の門出を冒涜してしまいそうだから。」
リサ、燐子、琴葉、イヴ「!」
俺はイヴちゃんから離れた
流石にずっとあのままではいられないし
もう夜も遅いからね
環那「さっ、そろそろ帰ろう。」
リサ「もー、ほんとに意地っ張りなんだから!」
燐子「でも、これが環那君ですから。」
琴葉「かっこつけですね。」
イヴ「でも、少し元気になったみたいですよ!」
環那「ははっ、それは__っ.......!!!」
リサ、燐子、琴葉、イヴ「!?」
歩き出そうと一歩踏み出した瞬間、つま先からドロッと溶けていくような感覚に襲われた
しまったなぁ......
環那「マズっ__」
リサ「環那!!」
イヴ「大丈夫ですか!?」
燐子「す、すごい熱......!」
琴葉「び、病院......いや、エマちゃんに見てもらわないと!」
環那(やらかしたな......)
薄れゆく意識の中、4人の声が聞こえる
つい、安心してしまったよ
ほんと、好きな人と一緒にいると、気が緩んでしまうよ
そんなことを思いながら、俺は意識を手放した
__________________
環那「__んっ。」
電源が入った機械のように俺は目を覚ました
外はもう、明るくなってる
睡眠をとって体力は戻ってる......はずなんだけど
環那(体が重い......?)
起きてすぐ感じたのはそれだった
上手く体を動かせない
これは、一体......
リサ「すぅ......」
燐子「んん......」
イヴ「かんな、しゃん......」
琴葉「んぅ......」
環那「......?(?)」
冷静になって周りを見ると、4人が同じベッドに入っていた
な、なんでこんなことに?
俺が倒れたから看病してくれた......と言うのが可能性が高いか
エマ「お兄ちゃん。起きた?」
環那「エマ?」
俺が落ち着きを取り戻すと、エマが部屋に入ってきた
ちょうどよかった
多分、昨日処置をしてくれたのはエマだろうし
環那「エマ、状況を説明してもらってもいいかい?」
エマ「大方、お兄ちゃんの予想通りだと思う。昨夜、お兄ちゃんをそこの4人が運んできて、私が処置をした後、離れるのが怖いからって、ずっと看病してた。」
ふむ、想像通りの展開だね
そりゃ、あんな倒れ方したら怖いよね
まぁ、ただの電池切れみたいなものだけど
エマ「本当に大変だった......大丈夫って言ってるのに全員泣いてるし。離れたがらないし。」
環那「ははっ、苦労かけたね。」
エマ「問題ないよ。」
エマは呆れた様子で4人を見てる
ほんとに大変だったんだな
今度、何かお礼でもしないとな
エマ「それにしても、大変だね。これほどお兄ちゃんを思う人が4人もいるなんて。」
環那「大変でもないさ。」
エマ「でも、誰か1人を選ばないといけない。」
エマにそう言われ、少し考えた
誰か1人を選ぶ......か
確かに、非常に難題だ
俺の気の持ちようの問題で......
環那「......正直、わがまま言うと、全員欲しいな。」
エマ「!」
環那「所詮、わがままだよ。こんなこと、この4人に言ったら、刺されるじゃすまないよ。」
エマ「......うん。(あぁ......)」
環那「エマ?」
エマ「ううん、なんでもない。お兄ちゃん、もう少しゆっくりしてて。私は朝食を用意してくる。」
エマはそう言って、部屋を出て行った
なんか急いでた気がするけど、気のせいかな?
ていうか、この状態のまま置いて行かれた......
環那(どうしよ。)
どうやっても体を動かせない
自力で出ることは不可能
うーん、これ、4人が動くまで待たないとだめ......だよね?
リサ(い、今、全員欲しいって言った......!?///)
燐子(そ、そんな、環那君......!///)
イヴ(こんな、わがままを、カンナさんが......!?///)
琴葉(それはそれで......でも、倫理的には.......///)