羽丘の元囚人   作:火の車

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EX1
ミス


 絡んできた男たちを全員倒して、俺は立ち尽くしている

 

 さっきまで盛り上がって、温度が上がっていた心が、また冷めていく

 

 その寒さが、俺を現実へ引き戻す

 

環那「......もっと騒げよ。」

 

 今日は俺の大切な幼馴染の門出だ

 

 友希那を知っていようが知らなかろうが騒げ、祝福しろ

 

 そうじゃないと......

 

環那「......俺が、可哀想な奴みたいになるだろ。」

 

 まるで、主役が去った舞台に取り残された役者

 

 己を主役と勘違いした道化

 

 そんな者に向けられる目は羨望でも、侮蔑でもなく、哀れみだ

 

 俺は、そんなものになるつもりはない

 

 大人しく舞台から降りるさ

 

「__うっ、ごほっ、げほっ!!!」

環那「......」

「いてて......一体、何が......」

環那「まだ舞台に上がるか。」

「お、おま、お前は!」

 

 ゆっくりと歩みを進める

 

 まだ、俺を舞台から下ろしてくれないのか

 

 引き留めようとするのか

 

 そんな怒りにも似た感情が湧き上がり......安心した

 

環那「そこのゴミ共を連れて去れ。次は......この程度では済まないぞ。」

「ひ、ひぃぃぃぃ!!!お、起きろお前らぁ!!!」

「な、なんだ!?」

「俺達、あのガキにボコボコにされて__」

環那「君たちごときが俺をガキ扱いか。」

「う、うわぁぁぁぁあ!!!」

 

 目を覚ました男たちは俺の顔を見た瞬間、一目散に逃げて行った

 

 俺のこと、悪魔にでも見えてるのかな?

 

 自分を普通の人間とは思わないけど、少し傷つくな

 

環那「......さて。」

 

 静かだ

 

 もう幕は下りた

 

 俺と言う悪役も、やっと舞台を降りられる

 

 もう、満足だ

 

環那「.......」

 

 悪で終わる物語に誰も拍手は送らない

 

 胸糞悪さと遺恨のみが残る

 

 そして、静かに会場から去る

 

環那「......ざまぁみろ。」

 

 そして、悪はこう笑う

 

 静かに去る観客の背に、バカにするように舌を出す

 

 してやったりと言わんばかりに

 

 こうすれば......

 

環那(誰も、主役のことなんて考えなくなる。)

 

 十数年に渡る舞台は幕を閉じた

 

 後はひっそりフェードアウトしよう

 

 もう、俺が何かをする必要はないんだから

 

環那「.......やっと、これで......」

 

 冷たい空気が体の芯を冷やす

 

 つららで刺されているように、胸の奥が痛む

 

 不思議だ

 

 全ての理想を叶えた先が、こんな__

 

リサ「__環那ー!!」

燐子「環那君!」

イヴ「カンナさん!」

琴葉「南宮君!」

環那「.......!」

 

 冷たい空気を切り裂くような、暖かい光

 

 その光はあまりに眩しい

 

 暗闇にいる、悪にとっては

 

環那「......やぁやぁ、皆お揃いで。」

リサ「友希那から連絡あって、急いできたんだよ......」

燐子「環那君が危ないって......!」

環那「ははっ。それは、面白い冗談だね。」

 

 別に、危ないことなんてなかった

 

 むしろ、俺以外の関係者を心配するべきだ

 

 だって、俺は無傷なんだから

 

琴葉「いえ、来て良かったです。」

環那「え?」

イヴ「私もそう思います。」

 

 そう言われ、俺は首を傾げた

 

 なんで、心配されてるんだ?

 

 別になんともないんだけど

 

イヴ「今のカンナさんは、ひどく傷ついています......」

環那「!」

 

 俺はイヴちゃんに抱きしめられた

 

 それと同時に、不思議な感覚に襲われた

 

 安心、充足と言ったものを感じたんだ

 

琴葉「終わらせたのでしょう。過去のあなたが自分に課した使命を。」

環那「......」

琴葉「そして、あなたは寂しがっています。その使命があなたを南宮環那たらしめるもので、存在意義だったんですから。」

 

 否定の言葉が出ない

 

 全部、図星だ

 

 まるで、俺の言葉を代弁しているようだ

 

燐子「今までの人生の半分以上を費やしたんだもん。寂しくて当たり前だよ......きっと、すごく苦しいし、悲しいと思う。」

環那「......そう、なのかもね。」

 

 運命の人は俺のことを自分のことのように悲しんでる

 

 むしろ、俺の方がこうあるべきなのかな

 

リサ「ほんっと、バカなんだから。」

環那「っ......!」

リサ「かっこつけで、悪役ぶって、悪い部分は全部自分で引き受ける。バカだよ。」

 

 そして、一番の理解者は俺の頭を撫でてくる

 

 優しい口調で、バカって言いながら

 

 でも、それが、一番俺を楽にしてくれた

 

リサ「泣きたいときは泣いていいんだよ。」

環那「......」

燐子「もう、十分頑張ったんだから。」

琴葉「あなたにも泣く権利はあります。」

イヴ「私がずっと抱きしめてますから!」

 

......どうやら、この4人は俺を泣かせたいらしい

 

 でも、悲しいかな

 

 俺にはその機能が備わってない

 

環那「泣きはしないさ。」

イヴ「あれ!?」

環那「だって、今泣くのは、大切な人の門出を冒涜してしまいそうだから。」

リサ、燐子、琴葉、イヴ「!」

 

 俺はイヴちゃんから離れた

 

 流石にずっとあのままではいられないし

 

 もう夜も遅いからね

 

環那「さっ、そろそろ帰ろう。」

リサ「もー、ほんとに意地っ張りなんだから!」

燐子「でも、これが環那君ですから。」

琴葉「かっこつけですね。」

イヴ「でも、少し元気になったみたいですよ!」

環那「ははっ、それは__っ.......!!!」

リサ、燐子、琴葉、イヴ「!?」

 

 歩き出そうと一歩踏み出した瞬間、つま先からドロッと溶けていくような感覚に襲われた

 

 しまったなぁ......

 

環那「マズっ__」

リサ「環那!!」

イヴ「大丈夫ですか!?」

燐子「す、すごい熱......!」

琴葉「び、病院......いや、エマちゃんに見てもらわないと!」

環那(やらかしたな......)

 

 薄れゆく意識の中、4人の声が聞こえる

 

 つい、安心してしまったよ

 

 ほんと、好きな人と一緒にいると、気が緩んでしまうよ

 

 そんなことを思いながら、俺は意識を手放した

__________________

 

環那「__んっ。」

 

 電源が入った機械のように俺は目を覚ました

 

 外はもう、明るくなってる

 

 睡眠をとって体力は戻ってる......はずなんだけど

 

環那(体が重い......?)

 

 起きてすぐ感じたのはそれだった

 

 上手く体を動かせない

 

 これは、一体......

 

リサ「すぅ......」

燐子「んん......」

イヴ「かんな、しゃん......」

琴葉「んぅ......」

環那「......?(?)」

 

 冷静になって周りを見ると、4人が同じベッドに入っていた

 

 な、なんでこんなことに?

 

 俺が倒れたから看病してくれた......と言うのが可能性が高いか

 

エマ「お兄ちゃん。起きた?」

環那「エマ?」

 

 俺が落ち着きを取り戻すと、エマが部屋に入ってきた

 

 ちょうどよかった

 

 多分、昨日処置をしてくれたのはエマだろうし

 

環那「エマ、状況を説明してもらってもいいかい?」

エマ「大方、お兄ちゃんの予想通りだと思う。昨夜、お兄ちゃんをそこの4人が運んできて、私が処置をした後、離れるのが怖いからって、ずっと看病してた。」

 

 ふむ、想像通りの展開だね

 

 そりゃ、あんな倒れ方したら怖いよね

 

 まぁ、ただの電池切れみたいなものだけど

 

エマ「本当に大変だった......大丈夫って言ってるのに全員泣いてるし。離れたがらないし。」

環那「ははっ、苦労かけたね。」

エマ「問題ないよ。」

 

 エマは呆れた様子で4人を見てる

 

 ほんとに大変だったんだな

 

 今度、何かお礼でもしないとな

 

エマ「それにしても、大変だね。これほどお兄ちゃんを思う人が4人もいるなんて。」

環那「大変でもないさ。」

エマ「でも、誰か1人を選ばないといけない。」

 

 エマにそう言われ、少し考えた

 

 誰か1人を選ぶ......か

 

 確かに、非常に難題だ

 

 俺の気の持ちようの問題で......

 

環那「......正直、わがまま言うと、全員欲しいな。」

エマ「!」

環那「所詮、わがままだよ。こんなこと、この4人に言ったら、刺されるじゃすまないよ。」

エマ「......うん。(あぁ......)」

環那「エマ?」

エマ「ううん、なんでもない。お兄ちゃん、もう少しゆっくりしてて。私は朝食を用意してくる。」

 

 エマはそう言って、部屋を出て行った

 

 なんか急いでた気がするけど、気のせいかな?

 

 ていうか、この状態のまま置いて行かれた......

 

環那(どうしよ。)

 

 どうやっても体を動かせない

 

 自力で出ることは不可能

 

 うーん、これ、4人が動くまで待たないとだめ......だよね?

 

リサ(い、今、全員欲しいって言った......!?///)

燐子(そ、そんな、環那君......!///)

イヴ(こんな、わがままを、カンナさんが......!?///)

琴葉(それはそれで......でも、倫理的には.......///)

 

 

 

 

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