羽丘の元囚人   作:火の車

29 / 200
決別

 昨日、中学で得た情報

 

 妹は確かに羽丘の中等部に籍を置いた

 

 でも、そのデータはなぜかすべて消えてる

 

 つまり、俺は情報収集で行くのを読んでた

 

 かなり頭が切れるな

 

 これでもう、心当たりのある場所をあたる意味はなくなった

 

環那(......でも、それがミスだよ。)

 

 頭が切れる、この情報が1番大きい

 

 なぜかって?

 

 年齢が俺より5歳は下でこんなことが出来る

 

 そんな人類、相当限られるよね

 

 ていう結論にまで至ったんだけど

 

環那「......俺は何でお説教されてるの?」

リサ「当り前だよ!」

環那「何も悪い事してないよ?ただ、情報収集ついでに遊んだだけだし。」

琴葉「遊び、ですか。」

環那「そうそう。ちょっとした遊び。仕返しの意味もあるけどね。」

 

 俺はいつも通りの調子でそう言った

 

 正直、今回はかなり優しくした

 

 別に、これをずっと続けるつもりもないし

 

琴葉「あなた、まさか、殺す気じゃなかったですよね?」

環那「生かそうとも殺そうともしてないよ?」

リサ「生き地獄、ってこと?」

環那「そうそう!だいせいかーい!流石だね、リサ!」

 

 俺は両手で丸を作った

 

 リサは本当にいい奥さんになるだろうね

 

 以心伝心とか出来るようになりそう

 

 まぁ、相手次第だけど

 

環那「生きてる間、1人の時も家族といる時も友達といる時も、あいつらは恐怖を持ったまま生きないといけない......いい気味さ。それで友希那の苦しみを少しでも知ればいい。」

リサ「環那?許せないのは分かるけど、ちょっとだけやり過ぎなんじゃない......?」

環那「そう?」

リサ「あたしはもう関わらな方がいいと思うな。」

環那「うーん、でもなー。」

 

 かなり温情だと思うんだけどなぁ

 

 別に言いふらしてるわけじゃないし

 

 なんなら、最後は優しくしてあげたし

 

琴葉「それはもう渡しなさい。処分します。」

環那「えー、どうしようかなー。」

琴葉「どうしようじゃないです!あなた、人の人生を潰す気ですか!?」

環那「それでもいいとは思ってる。」

琴葉「ダメに決まってるでしょう!」

 

 琴ちゃんは大声でそう言った

 

 なんでだろう?

 

 あいつらは友希那の人生を潰したかもしれない

 

 だから、潰されたって文句は言えない

 

 そう言う道理のはずなのに

 

琴葉「なんで、そんな最低な事しか出来ないんですか!!」

環那「え、最低......?」

琴葉「そうです!そんなんだから、いつも人を引き付けられなくて1人になるんですよ!!」

 

 琴ちゃんにそう言われた瞬間

 

 なにか、不思議な気持ちになって行った

 

 今までに感じたことがない、感情

 

環那「......っ......そっか。」

 

 少し息苦しい

 

 頭の中がぐちゃぐちゃになってる

 

 悲しいのかな?怒ってるのかな?

 

 いや違う、そんな気持ちじゃない

 

 熱した鉄が冷めていくみたいに、冷たくなる

 

 そう思うと、言葉がすっと出て来た

 

環那「......こんなことしなくても、1人になったよ。生まれた時から、1人になったよ。」

琴葉「あっ......」

環那「......もう、いいや。」

 

 今の気持ち、わかった

 

 俺が両親や祖父母に抱いてる気持ちだ

 

 冷めてるんだ、完全に

 

 どうでもよくなったんだ

 

環那「琴ちゃんなら家族みたいになれると思ってた......けど、それは見当違いだった。もういらないや。」

 

 俺は静かに携帯をテーブルに置いた

 

 もう冷めてる

 

 優しそうに見えた琴ちゃんが、もう見えない

 

 終わりだね

 

環那「データは携帯にしか入ってないよ、ロックはかけてない。」

琴葉「ど、どこに行くんですか!南宮君!」

環那「......」

リサ「ちょ、環那!」

 

 俺は歩いてマンションの部屋から出た

 

 琴ちゃんとは終わりだ

 

 最初からなかった、それでいい

 

 もう、有象無象の1つに成り下がった

 

 それだけの話

 

 ”琴葉”

 

 私は、失敗した

 

 つい頭に血が上って、彼の過去を失念してた

 

 『1人』なんて、一番言っちゃいけなかった

 

リサ「......浪平先生。」

琴葉「......」

リサ「今の、環那の事情を分かって、言ったんですよね......!」

 

 今井さんは語気を強めてそう言う

 

 そう、私はとんでもない事をしてしまった

 

 だって、彼のあの行動は......

 

琴葉「......はい。」

リサ「あたしは、環那が正しい事をしてるとは思いません......けど、間違った事をしてるとも思いません。だって、ああするしか、環那には選択肢がないから......」

 

 今井さんはそれだけ言って出て行った

 

 その瞬間、私は床に膝をついた

 

琴葉(私は、知ってたのに......)

 

 彼は生まれた時から、ずっと1人だった

 

 誰からも愛されず、興味も持たれなかった

 

 その結果、彼の心を子供のまますり減らしていた

 

 いつもの態度じゃ分からない、いや、本人すら分かってない

 

 けど、彼は間違いなく傷ついてた

 

 分かってた、分かってたのに......

 

琴葉(今井さんの言う通り、です......)

 

 彼にはあれしか選択肢がない

 

 彼にとっての湊さんは、恋愛的に好きとか、そんな安い人じゃない

 

 もっと、重くて、深い愛

 

 唯一の、すり減った心の拠り所

 

 彼は湊さんを守ることでしか自己表現をできない

 

 私は今までそれを直そうとしてきた

 

 彼が真っ当に生きられるようにしように導こうとしてきた、けど......

 

琴葉(私、本気で生徒を傷つけたんだ......教員、失格だ......)

 

 私は部屋の真ん中で茫然と座って

 

 時間の流れを感じないまま

 

 後悔の念に心を締め付けられ続けた

__________________

 

 ”環那”

 

 俺は、愚かだ

 

 友希那やリサですら出来ない事を他が出来るわけない

 

 そもそも、俺が家族を望むことが無駄だった

 

 琴ちゃんならもしかしたらと思ってたけど

 

 酷ってものだったんだ、俺の期待は

 

環那(__これから、どうしようか。)

 

 家なし、金なし、携帯なし

 

 完璧なホームレス状態だ

 

 まぁ、それも悪くないか__

 

環那「......ん?」

 

 河川敷でボーっとしてると

 

 鼻先に水滴がぽつんと落ちて来た

 

 空を見ると、黒い雲に覆われて

 

 そこから、無数の水滴が降り注いできた

 

環那「雨、か。」

 

 どうしよ、雨を凌げる場所がない

 

 いや、あった

 

 橋の下に行けばいいんだ

 

 そうと決まれば、あそこに行こう

 

環那「__あっ。」

 

 移動しようと立ち上がると

 

 雨でぬれた草で足を滑らせ、一瞬で体が宙に浮いた

 

 これ、ヤバい__

 

 そう思った頃には俺の体は放り投げられたように川辺に落ちていき

 

 気づけば頭への痛みと共に意識を手放していた

__________________

 

 ”燐子”

 

 本屋に行った帰りに雨が降られた

 

 調べた感じ、しばらく止みそうにないからコンビニで傘を買ったけど......

 

燐子(うぅ......ついてない......)

 

 お小遣いだって多くないのに......

 

 最近は色々出費もあったし、本も買ったし

 

 そろそろ、節約を考えないと

 

 来月には合宿だってあるし......

 

燐子(河川敷......川が氾濫したりしないかな?)

 

 雨のせいか、川の流れが荒々しい

 

 浸水したり......とか、そんな不安に襲われる

 

 そうそうそんな事はないだろうけど

 

 近くで見ると、やっぱり少しだけ怖い

 

燐子「......あれ?」

 

 河川敷沿いをしばらく歩いてると

 

 何か、異質な物体を見つけた

 

 いや、物体......じゃなくて人!?

 

 もしかして、気を失ってる?

 

燐子「だ、大丈夫、ですか......!」

 

 私は滑らないようにゆっくり下に降りて

 

 倒れてる人の近くでしゃがんだ

 

 見た感じ、血が出たりはしてない

 

 どんな、人だろう

 

 なんで、こんな所で__

 

燐子「え......?」

環那「......」

燐子「み、南宮君......!?」

 

 私は目を見開いた

 

 倒れていたのは南宮君だった

 

 なんで、こんな所にとか思うけど

 

 ま、まず......

 

燐子(は、運ばないと。ここなら、家が近いし!)

 

 私は気絶してる南宮君を持ち上げる......のは現実的に無理なので

 

 出来るだけ引きづらないように引っ張った

 

 けど、流石に靴は少し引きずってしまった

 

 ごめんなさい、南宮君......

__________________

 

 ”環那”

 

 ......頭が、痛い

 

 まるでぶつけたような痛みが続いてる

 

 俺、どうなったんだっけ?

 

 確か、思いっきり足を滑らせて......

 

 それ以降の記憶がないや

 

環那「......んっ、ここは......?」

 

 意識が戻って目を開けると

 

 そこは全く知らないベッドだった

 

 今まで寝た中で一番大きいベッドかも

 

 てゆうか、ここどこ?

 

環那「ここは、部屋?(もしかして......!)」

 

 この部屋の装飾の感じ、女の子のものだ

 

 もしかして、妹に保護されたかもしれない

 

 そんな可能性が頭によぎった

 

 だとしたら......

 

環那「......脱出、しないと。何をされるか、分からない......」

 

 俺は重い体を起こした

 

 仮にここが妹の部屋だったら

 

 出くわしたら流石に対応できる自信がない

 

 バレる前に逃げて、回復を__

 

燐子「__あ、お、起きたの......?よかった......!」

環那「燐子ちゃん?」

燐子「頭は大丈夫......?って、い、いや、そう言う意味じゃなくて......!」

環那「わ、分かってるよ。」

 

 部屋を出ようとすると

 

 俺が触る前に扉が開き、燐子ちゃんが顔をのぞかせた

 

 いきなりアタフタしてるけど

 

 どうやら、俺が考えてるようなことじゃないみたいだ

 

 よかった......

 

環那「燐子ちゃんが、助けてくれたんだ。」

燐子「は、はい......本屋に行った帰りに河川敷を通ったら、南宮君が倒れてて......」

環那「そっか。ありがとう、燐子ちゃん。助かったよ。」

燐子「......?」

 

 俺はそう言って頭を下げた

 

 男を自分のベッドに寝かせるなんて嫌だったろうに

 

 しかも、河川敷から運んでくれてるし

 

燐子「あの、何かありましたか......?」

環那「え?どうしたの、急に。」

燐子「なんだか、南宮君がいつも通りじゃないと言うか......いつもより影が多い気がして。」

環那「そうかな?普通だと思うけど。」

 

 この子、俺の変化を分かってる?

 

 幼馴染くらいしか分からないはずなんだけど

 

 普通にすごいな

 

燐子「何かあったなら、お話、聞きますよ......?」

環那「......んー、じゃあ、聞いてもらおうかな。隠すことでもないし。」

燐子「はい。」

 

 ”燐子”

 

 私は南宮君に何があったかを聞いた

 

 南宮君が母校の中学校に行って、友希那さんへのイジメを無視した教員を追い詰めたこと

 

 それが原因で同居人に言われたこと

 

 それを言われて南宮君が感じたこと

 

 きっと、南宮君は正確に出来事を話してる

 

 だから、きっと、聞いたままの事があったんだ

 

燐子(......これは。)

 

 南宮君の行いは正直、度が過ぎてる

 

 人を追い詰めるなんて、どんな理由があってもいけない

 

 そう思うけど、南宮君の気持ちだって分ってしまう

 

環那「......俺、自分が恐ろしいんだ。」

燐子「え?」

環那「さっきまで、いい人だと思ってた元同居人を心底どうでもいいと思ってる。ここまで簡単に冷めるなんて、自分に心なんてなくて、機械でも入ってるんじゃないか、ってね。」

燐子「......っ」

 

 そう言う南宮君の目を見て、胸が締め付けられた

 

 心が機械......これは本当かも知れない

 

 だって、さっきから南宮君の表情は変わってないから

 

 まるで感情がないみたいに淡々と処理してる

 

 そう思うと、怖いし、可哀想だと思ってしまう

 

 だって、そうなる理由、そうならないといけなかった理由があるって事だから......

 

燐子「......心は、あります。」

環那「!」

燐子「だって、南宮君の心はずっと、動いてるから......」

 

 私は南宮君の胸に手を添えた

 

 見た目以上に痩せた体の奥に心臓の鼓動を感じる

 

環那「燐子ちゃん、そこは心臓だよ。」

燐子「っ!わ、分かってます......///」

環那「あと、手が冷たい。」

燐子「わわっ///ご、ごめんさい......っ///」

 

 私は慌てて手を放した

 

 完全に勢いのまま触っちゃった......

 

 同学年の男の人に触れるなんて、初めてかも......

 

環那「あはは、燐子ちゃんは面白いね。」

燐子「......っ!///(わ、笑ってくれた!)」

環那「?」

 

 ここに来て、初めて南宮君が笑ってくれた

 

 よかった、ちょっとだけ立ち直れたみたい

 

 安心した、けど......

 

燐子「ふふっ。」

環那「どうしたの?」

燐子「南宮君、笑うのが下手です......!笑ってると言うより、にやけてます......!」

環那「......え?」

燐子「あ、ご、ごめんなさい......!」

 

 私は咄嗟に謝った

 

 つい、無意識のうちに笑っちゃった

 

 南宮君、怒ってるかな......?

 

環那「友希那から、聞いた......」

燐子「?」

環那「わけ、ないか。」

 

 南宮君は驚いたような顔をして私を見てる

 

 何かをうわごとのように呟いて

 

 気づけば、涙を流していた

 

燐子「み、南宮君......!?なんで、泣いて......!?」

環那(あの日の出来事は友希那本人すら知らないはずだ......偶然?でも、こんな日にピンポイントなんて......運命だとでもいうのかい?友希那......)

燐子「そ、そんなに嫌だったんですか......!?」

環那「......いや。」

 

 南宮君は小さな声でそう答えてくれた

 

 その表情はさっきよりも嬉しそうで

 

 私が慌ててるのか分からなくなる

 

 いや、いいんだけど......

 

環那「少し、昔の事を思い出してね。」

燐子「そ、そうなんですか__クシュン......!」

環那「燐子ちゃん?」

燐子「す、すみません、運んだときに結構濡れちゃって......」

環那「それは大変だ。女の子が体を冷やすものじゃない、お風呂入っておいで?」

燐子「でも、南宮君も......」

環那「俺は大丈夫だから!ほらほら!」

 

 私は南宮君に押されて

 

 結局、先にお風呂に入ることになりました

 

 けど、南宮君、どうしたのかな?

 

 今までも悪い人じゃなかったけど

 

 すごく、優しかったような......?

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。