羽丘の元囚人   作:火の車

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欲しい言葉

 白金燐子ちゃんは、変わった子だ

 

 あの子は俺のしたことを聞いても優しい

 

 普通の人なら、間違いなく俺を人間扱いしない

 

 大体、浪平琴葉と似たようなことを言う

 

 けど、あの子は違った

 

 あろうことか、俺を肯定する態度すら見せた

 

 そして、あの言葉......

 

環那(あの子は、何者なんだろう。)

 

 そんな事を考えるけど、答えが出ない

 

 未知だ、燐子ちゃんは未知だ

 

 もしかしたら、俺は彼女を過小評価してたかもしれない

 

燐子「あの、南宮君......?」

環那「ん?どうしたの?」

燐子「これから、どうするつもりですか......?」

 

 燐子ちゃんはそう尋ねて来た

 

 多分、俺の衣食住について言ってる

 

 答えはもちろん、全く考えてない

 

 今、考えよう

 

環那「雨が止めば、どこか適当な所に行くよ。割とどこでも生きる自信あるし。」

燐子「だ、ダメです......!」

環那「?」

燐子「そんな、ホームレスみたいな事させられません......!」

 

 燐子ちゃんは珍しく怒ったようにそう言う

 

 さっきまでホームレス生活しようとしてたんだけど

 

 そんなにダメなことなのかな?

 

燐子「南宮君。」

環那「はい?」

燐子「私の両親は共働きで、今は共に出張中です。結構長い出張で1か月家を空けるんですが......今日で残り2週間くらいです。」

環那「そうなんだ。頑張ってるんだね(?)」

 

 急に両親の不在を報告された

 

 それにしても、出張1か月かー

 

 大変なんだね、仕事って

 

燐子「だ、だからですね......その......私の家に少しの間でもいませんか......?///」

環那「え?」

燐子「ここなら、ご飯にも困りまらないし......雨風はしのげます。」

環那「いいの?同級生の異性を止めるなんて。」

燐子「だ、大丈夫です......南宮君のことを信じてるので......///」

環那「......??」

 

 信じる?俺を?何を言ってるんだ?

 

 出会ってまだ間もないのに

 

 この子、大丈夫かな?悪い人に騙されてない?

 

 って、脳は判断するんだけど

 

環那(なんだ、この気持ち。)

 

 喉が渇いた時に水を飲んだような

 

 お腹がすいた時に美味しいものを食べたみたいな

 

 そんな、満たされたような気持ち

 

 さっき、あの言葉を聞いた時と似てる

 

燐子「あの、どうしますか......?///」

環那「......少し、お世話になるよ。」

燐子「......!///」

 

 俺はこの気持ちを知ってる

 

 けど、正体は知らない

 

 ここにいれば、分かるかもしれない

 

 もしかしたら、それが......

 

燐子「じゃあ、もう時間なのでお夕飯にしましょう......!少し待っててください......!」

環那「手伝うよ?」

燐子「南宮君はお客様なので......ゆっくりしててください。」

環那「は、はい。」

 

 俺は燐子ちゃんの何も言わせないぞオーラに圧倒され頷くしかなかった

 

 でも、ずっと部屋にいるのもなので

 

 燐子ちゃんと一緒にリビングに向かう事にした

__________________

 

 リビングに来ると、燐子ちゃんは料理を始め

 

 俺は取り合えず、ソファに座ることにした

 

 今は燐子ちゃんを観察してる

 

環那「......」

燐子(南宮君に喜んでもらいたい......!)

 

 エプロンをつけてキッチンに立つ燐子ちゃん

 

 なんて言うか、似合う

 

 もうすぐ完成って言うところまで見てたけど

 

 本当に料理が出来るみたいだ

 

環那(なんで、そんなに嬉しそうになんだろう。)

 

 ここまで観察して思ったのは、嬉しそう、だ

 

 さっきから鼻歌を歌いながら料理をしてる

 

 いつもこんな調子なんだろうか?

 

 いや、そんな事はないと思う

 

 いつもはもっと物静な子のはずだし

 

 1人でいつもこのテンションを保てるような子じゃない

 

燐子「出来ました、南宮君......!」

環那「うん、ありがとう。」

 

 燐子ちゃんは出来た料理を皿に盛って並べた

 

 栄養バランスが整ったメニュー

 

 しっかり考えて作ってる辺り、燐子ちゃんらしい

 

環那(......美味しい。)

 

 人が作った料理、リサと友希那以外の初めて食べた

 

 母の味をリサの味とするなら

 

 これもまた、新しいものだ

 

環那(優しくて、そこにある量を食べることに適してる。安心する場所って感じ、なのかな。)

燐子「南宮君?」

環那「え?どうしたの?」

燐子「味は、どう......?」

環那「美味しいよ、すごく。燐子ちゃんらしい味付けだと思う。」

 

 家で、初めて人とご飯を食べた

 

 子供の時は両親や祖父母の面目のために人の世話にはなれなかったし

 

 ご飯は屋根裏部屋でずっと1人だった

 

 不思議な感じだ

 

環那「燐子ちゃんは、いつもこんな風にご飯を食べるの?」

燐子「はい、そうですね......いつも、学校であった事を話しながら。」

環那「そうなんだ。楽しそうだね。」

 

 別世界、それが俺の感想

 

 これが、血でなく心で繋がった家族のいる人間

 

 全てを事を数字で求めようとする俺とは違う

 

 人間として、決定的な差があるんだ

 

燐子「南宮君は、どうだった......?」

環那「それは話さなくていいことだよ。」

燐子「え?」

環那「折角美味しいご飯なんだ、そんな話をするものじゃない。」

 

 俺はニコニコしながらそう言い、食事を再開した

 

 別に俺の事なんてどうでもいい

 

 今の美味しいご飯の時間を崩すのは嫌だし

 

環那「このサラダも美味しいね。所謂、シーザーサラダという物かな?」

燐子「え?うん、そうだよ。」

環那「なるほど。」

燐子(南宮君、どうしたんだろう......?)

 

 それから、俺は食事を進め

 

 燐子ちゃんとも程々に間を持たせた

 

 主な内容はRoseliaの事で

 

 俺の知らない話も数多く聞けて、有意義な時間だった

__________________

 

 時間は過ぎて、夜の11時

 

 お互いにもうそろそろ、寝る時間だ

 

 けど、俺は気絶してたからか、全く眠たくない

 

 いや、脳を強制的に停止させられるんだけど

 

燐子「__南宮君。」

環那「あれ、燐子ちゃん。」

燐子「なにしてるの?」

環那「さっき借りた、昔の論文が載ってる本を読んでるんだ。面白いよ。」

燐子「南宮君は、知ってる物じゃないんですか?」

環那「うん、知ってるよ。5年も暇な時間があったからね。」

 

 知ってるものをもう1度見るのは良い

 

 また違う視点から理解を深められるし

 

 新しい何かを思いつくかもしれない

 

環那「燐子ちゃんはもう寝るでしょ?」

燐子「私は......その、夜に慣れてるから。あんまり眠たくはない、かな......」

環那「そうなの?意外だね。燐子ちゃんは早寝早起きのイメージだったんだけど。」

燐子「そんなことないよ......私はそんなにいい子じゃないし。」

環那「?」

 

 意外だね

 

 俺の中では超絶いい子だったのに

 

 まぁ、俺の価値観との相違もあるだろうし

 

燐子「あの、寝る場所とかどうする......?」

環那「俺はここで寝るよ。」

燐子「だ、ダメだよ......!体を痛めちゃう......!」

環那「大丈夫だよ。」

 

 この子、本当に優しいねー

 

 男なんて床にでも放置してたらいいのに

 

 家の中なら死にはしないし

 

環那「俺は雨風さえ凌げれば、それで大丈夫。」

燐子「......じゃあ、私の部屋で。」

環那「え!?いや、ダメでしょ!」

燐子「なんで?」

環那「なんでって、そう言うものだと思うし。ていうか、俺は布団がないまま寝た期間の方が長いから慣れてるし。」

燐子「それは、おかしいよ。」

環那「え?」

 

 燐子ちゃんは俺を真っすぐ見てそう言った

 

 おかしい事なんて、あったか?

 

燐子「少年院でも、最低限布団はあるはず......」

環那「!」

燐子「なんで、布団がない期間の方が長いの......?」

環那「......(しまったな。)」

 

 つい、本当のこと言っちゃったか

 

 俺の会話下手が出ちゃったね

 

 完全にしくじった

 

燐子「教えて、南宮君......!」

環那「......」

 

 これは、降参だ

 

 今の俺にこれを誤魔化す語彙力はない

 

 国語は、苦手なんでね

 

環那「......さっきの、ご飯の時の話にも通じるんだけど。」

燐子「うん。」

環那「俺には、燐子ちゃんみたいな家族はいない。」

燐子「え......?」

環那「生まれたことさえ罪と言われ、両親と祖父母に与えられたのは最低以下の条件で生きる権利だけ。住む場所は空調の無い屋根裏部屋。夏は暑く冬は極寒。食べ物は1か月で米一合と、夕飯の残り。飢えた時は木の枝さえ進んで食べた。」

 

 懐かしい生活だ

 

 他にも歯磨きは公園の水道でして

 

 お風呂はガス代節約のため水だけ

 

 檻の中の方がいい生活できて楽だったなぁ

 

燐子「そんな......っ」

環那「まっ、友希那がいたし、4か5歳には何とも思ってなかったけどね。」

燐子「友希那さんが、いたから......?」

環那「うん。」

 

 俺は軽く頷いた

 

 まぁ、同情を誘うのが狙いならこれ以上ない話だろうね

 

 別にそう言うつもりは一切ないけど

 

 てゆうか、同情されたって困るしね

 

環那「これくらいにしよう。燐子ちゃんは部屋に戻って寝て。」

燐子「待ってください......!」

環那「っ!」

 

 俺が立たせようとすると

 

 燐子ちゃんは俺の背中に腕を回した

 

 突然の出来事で反応できなかった

 

 何が起きてるんだ

 

燐子「南宮君は、寂しがってます......」

環那「いやいや、そんな事ないよ。今は友希那だって__」

燐子「本当......ですか......?」

環那「え?」

 

 な、なんのことだ?

 

 俺は今、楽しく過ごしてるし

 

 親なんてどうでもいい、だから......

 

燐子「南宮君は、決して家族が欲しいわけではないです......むしろ、邪魔だと思ってると思います......」

環那「それは、まぁ、そうかもだけど。」

燐子「でも、欲しいと思ってるんです......友希那さんや今井さんでも満たせないものを......」

環那「友希那や、リサでも満たせない......?」

燐子「誰も、それを南宮君にあげられなかった......」

 

 燐子ちゃんは真っ直ぐ俺を見てる

 

 この子には、分かってるのか?

 

 俺の本能の中にある欲するものが

 

 いやでも、そんなわけ

 

燐子「__無条件の愛を。」

環那「っ!!」

燐子「だって、愛されないと、誰でも、寂しいから......っ!」

 

 その叫びは、俺の体の中に響いた

 

 無条件の、愛......?

 

 そんな言葉、俺は知らない

 

燐子「だから、一緒に眠れば......それを体験できるかもしれないです......///」

環那「......」

燐子「一緒に、行きませんか......?///」

環那「......分かった。燐子ちゃんがいいなら。」

 

 そうして、俺は燐子ちゃんに言いくるめられて

 

 結局、一緒に眠ることになって

 

 燐子ちゃんの部屋に移動した

__________________

 

 部屋に移動して、2人で同じベッドに入った

 

 少し話したりしてるうちに燐子ちゃんは眠って

 

 穏やかな寝息を立てている

 

 そんな横で、俺はあることを考えていた

 

環那(無条件の、愛......)

 

 その言葉を聞くと、何かがはまった気がした

 

 機械的に処理できない、新しい感情

 

 こんなの、初めてだ

 

燐子「すぅ......すぅ......」

環那(なんだろう、この気持ち......)

 

 燐子ちゃんの姿を凝視してしまう

 

 綺麗な肌、髪、表情

 

 それを見ると、何故か胸が高鳴る

 

環那「......」

 

 友希那に抱く感情とは違う

 

 友希那は俺にとっての神で......

 

 人生における指針

 

 でも、燐子ちゃんは対等と言うか......

 

環那「......分かんないや。寝よ。」

 

 何回思考しても答えが出ないので

 

 取り合えず、燐子ちゃんの信頼を裏切らないため

 

 今日はさっさと寝てしまう事にした

 

 

 

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