羽丘の元囚人   作:火の車

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天才はいらない

 ”回想”

 

 私は自由だった

 

 天才っていう安い言葉

 

 それだけですべてを親が容認した

 

 1人で使える遊び部屋、可愛い服、おもちゃ

 

 なんでも手に入った

 

 金の羽振りがいいので、何をしても金で解決した

 

 親、親戚、誰もが私をはれ物のように扱った

 

エマ(......退屈。)

 

 そんな日々が私は心底退屈だった

 

 100点を取って当たり前のテストで褒められ

 

 同年代の身内でさえ、私には敬語

 

 対等な相手なんてどこにもいない孤独

 

 それを感じながら、私は生きて来た

 

「__開かずの間?」

エマ「......?」

 

 小学2年生の時の元日

 

 他の子供がそう言ってるのを聞いた

 

 祖母の家の屋根裏部屋

 

 そこには幽霊が住んでいて、近づいてはいけない

 

 バカらしいと思った

 

 けど、藁にもすがりたい思いの私はそれに興味を持った

 

「え、エマさん!そこには近づいたら駄目です!」

エマ「......うるさい。」

「っ!......ご、ごめんなさい。」

 

 私は屋根裏部屋の前に来た

 

 厳重にかけられた鍵と鎖

 

 前に来た時にはこんなのはついてなかった

 

 幽霊がいなくても、隠したいものがあるに違いない

 

 そう思い、訳もないピッキングで鍵を開け

 

 その部屋の扉を開けた

 

エマ「......?(誰かいる?)」

?「......」

 

 空調もない寒くて、埃っぽい最悪の部屋

 

 そんな部屋の奥で1つ、何かの影があった

 

 それは突然の光に気付き

 

 こっちをジッと見た

 

?「......消えろ。」

エマ「!!(消えろ......?)」

 

 その言葉は当時の私には衝撃的だった

 

 誰にも言われた事のない暴言

 

 最初、何だこの男はと思った

 

 なんて失礼な人間だろうかと

 

 少しだけ、ムカついたのを覚えてる

 

エマ「ねぇ__」

「__エマちゃん!」

エマ「......」

「こんな所で何してるの!ここにはゴミしかないから!」

「そうだぞ。こっちに来て、皆と遊んでなさい。」

 

 私はそう言われ、抱きかかえられ

 

 屋根裏部屋はまた鍵と鎖がかけられた

 

 それから、私はあの男の事が気になって仕方がなかった

__________________

 

 それから時が過ぎ、小学3年生のある日

 

 学校から帰って来ると、家の前に警察がいた

 

 勿論、私は親にすぐ家に入れられた

 

 けど、私は気になって聞き耳を立てていた

 

エマ(......何があったんだろ。)

 

 親が何か犯罪を犯したのだろうか

 

 異様に金持ちだし、そうであっても不思議ではない

 

 むしろ、そっちの方が面白いとさえ思ってた

 

『__その男と私達は無関係です。』

警官『ですが、お宅の長男だと......』

『知りません。お引き取りください。』

 

エマ「......!」

 

 長男

 

 その言葉が確かに聞かれた

 

 この家に子供は私しかいない

 

 ずっとそう言われて育ってきた

 

 けど、あの警官は長男と言った

 

『......はぁ、いっそ、死刑にでもなればいいのに。』

エマ「!」

 

 警官が去った後、母はそう呟いた

 

 それで確信した

 

 私には親が隠して来た兄がいると

 

エマ(誰、一体、誰......?)

 

 心当たりがなかった

 

 親戚内で、私より年上の子供は少ない

 

 捨てたとしたら家に来るのはおかしい

 

 つまり、兄はこの近くに住んでいて

 

 南宮だと認識されているという事

 

エマ「......!」

 

 いた

 

 心当たりのある人物がいた

 

 あの屋根裏部屋の人物

 

エマ「だったら、確かめるまで。」

 

 私はそう呟き

 

 そう遠くない祖父母の家に走った

__________________

 

 祖父母の家に忍び込み

 

 例の屋根裏部屋に来た

 

 だが、そこには何もなかった

 

 ただ、壁と床にシートが敷かれてるだけだった

 

エマ「......」

 

 それで分かった

 

 兄は警察に捕まって、屋根裏部屋を与える必要がない

 

 だから有効活用のために改装するつもりだと

 

エマ「ここにいた......いたんだ......!///」

 

 シートが敷かれた部屋の真ん中で私は膝をついた

 

 足腰に力が入らなくて立っていられなかった

 

エマ(お兄ちゃん、お兄ちゃん......///)

 

 顔も知らないお兄ちゃん

 

 私はそんな人物に只ならぬ憧れを抱き

 

 人生で初めて、性的に興奮した

 

エマ(会いたい......!///)

 

 極めて不純な感情

 

 私は兄を異性として見てしまった

 

 会ったこともない、顔も性格も知らない

 

 けれど、この日、私は実の兄に恋をしてしまった

__________________

 

 あれからさらに時が過ぎ、私は11歳になった

 

 親を見限った私は家を出て、暗殺者のノアを拾って

 

 徹底的にお兄ちゃんについて調べた

 

 その過程で収容されてる少年院が分かり

 

 私はノアと一緒に尋ねた

 

『__お待たせしました。』

エマ「!!」

環那「誰?綺麗な髪だねー。顔も日本人っぽくないし。」

 

 一枚の透明な板で隔てられた向こうにいる人物

 

 私が愛してやまないお兄ちゃんの姿

 

 それを見て、私はどうしようもなく興奮した

 

 生殖本能が大音量で私に訴えかけてくる

 

 この人の子供を産みたいと

 

エマ「私は、エマ。こっちはノア。あなたの味方。」

環那「偽名?それとも中二病?」

 

 笑いながらそう言ってくるお兄ちゃん

 

 バカにされてるとは思った

 

 けど、それを許せるほど愛おしかった

 

環那「まっ、どっちでもいいよ~。それで、何の用?」

エマ「スカウトに来た。詳細はこれに全て書いてある。」

 

 と言っても、これは少しだけ盛ってる

 

 残念ながら、私は人を殺してない

 

 けど、今まで何人も殺してきたことにした

 

 そうした方がお兄ちゃんに近づきやすいから

 

エマ「ここを出たら、そこに書いてる場所に来て。待ってる、永遠に。」

環那「気が向いたらね。」

エマ「そう。それでは、ごきげんよう。」

 

 私はそう言って少年院を出て行った

 

 その後はお兄ちゃんを目の前にした刺激で発情して

 

 立ってられなくなってノアにアジトまで運んでもらい

 

 その1日は悶々として過ごした

 

 

 私は決めてる

 

 あのゴミたちの罪は私が償う

 

 お兄ちゃんの全てを私が容認する

 

 そうするのがきっと、愛だから

 

 そうすればきっと、お兄ちゃんは私を__

__________________

 

 ”環那”

 

エマ「お、兄、ちゃ......!」

環那「!」

 

 首を絞めてると、エマは涙を流した

 

 その表情はまるで捨てられる寸前の小動物

 

 一瞬、迷った、この表情の意味は何なのかと

 

 けど、近づいてるのだけは分かる

 

 もう少しだ

 

環那「......」

エマ「まだ、死にたく、ない、よ......!」

 

 エマは途切れ途切れにそう言う

 

 琴ちゃんを殺そうとしといて

 

 そう思う気持ちももちろんある

 

環那(......まだだ、まだ足りない。)

エマ「やっと、会えたの......!少し、でいい、から......ムカついたら、殺しても、いいから......!」

環那「......嘘でしょ?」

エマ「......っ!!」

環那「そんな嘘で俺が容赦するとでも......!!」

エマ「カハ......っ!!!」

 

 首を絞める力を強めた

 

 エマは絶望の表情を浮かべてる

 

 駄目だ、まだ殺せてない

 

 けど、もう少しで殺せる

 

 もう少しだ

 

エマ(分からない、分からないよ、お兄ちゃん......)

環那「......」

 

 エマの姿を見下ろす

 

 極限状態で頭が回り切ってないみたいだ

 

 けど、目的のために苦しんでもらう

 

環那「正直に言えよ。」

エマ「......っと......」

環那「......?」

エマ「ずっ、と、お兄ちゃ、んと、いた、いよぉ......!」

環那「!」

エマ「!__けほ、けほ......っ!!」

 

 俺はエマの首から手を放した

 

 間に合ってくれたみたいだ

 

 よかった、ノア君に殺されなくて済む

 

エマ「な、なん、で......?」

環那「今、俺は天才のエマを殺した。」

エマ「!!」

 

 今回、エマの行動はおかしかった

 

 兄妹喧嘩が始めてから、やる気が感じられなかった

 

 ノア君の動かし方もあまりにお粗末

 

 そこでたどり着いた仮説は、『エマは俺に殺される、もしくは何か気付かれるのが目的』だった

 

 それで、今回の作戦に出たわけだ

 

エマ「私は、お兄ちゃんの大切な人を殺そうとしたのに......なんでそんなこと......」

環那「許したからだよ。俺はね。」

エマ「......それは、義手があるから。」

環那「別に?」

エマ「!?」

 

 そう答えると、エマは目を丸くした

 

 俺はそんな様子を見て溜息を付き

 

 呆れた声で話を続けた

 

環那「そんな打算的な理由なら別に生かしてないよ。てゆうか、あの程度で俺の前で人を殺せるなんて思わないことだよ。けど、さっきの首絞めは琴ちゃんに陰湿なことした分の説教ね。」

エマ「ゆ、許してくれるの......?」

 

 エマは恐る恐るそう聞いてくる

 

 た、態度が変わったら変わったで怖いな

 

 まぁ......

 

環那「許すって言うか、兄ってそういうものでしょ。」

エマ「!」

環那「ほら、琴ちゃんに謝りに行くよ。」

 

 疲れた

 

 ここ最近、頭回しまくってたし不眠症気味なんだよねぇ......

 

 鼻血も出まくるし......

 

エマ「お兄ちゃんは、私を受け入れてくれる......?」

環那「正直、家族の事なんて心底嫌いだけど......まっ、後から生まれた妹は関係ないしね。」

エマ「......!///」

 

 そう言った後のエマの表情は笑顔で

 

 今までの無表情より、こっちの方がいいや

 

 子供は年相応で良い

 

エマ(やっぱり......私はお兄ちゃんの子を産みたい......///)

環那(エマの表情、やっぱりおかしくない?)

 

 そうして、俺はエマを連れて外に出た

 

 なんか、終わったら終わったで色々おかしいけど

 

 まぁ、嬉しそうに笑ってるし、いいかな

 

 ほんと、こういう姿を見たら思うよね

 

 天才はいらないって

 

 

 

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