今日は7月6日
つまり、七夕祭りの前日だ
今、俺はとんでもなく悩んでいる
環那「......ふむ。」
どの程度の準備をするのが適切なのか
水分補給用の水、小型扇風機、ハンカチ、ティッシュ
熱中症対策の塩飴
後は座ったりするとき用に敷物とかかな
琴葉「__南宮君?どうかしましたか?」
環那「ん?あぁ、明日お祭りに行くから、それの準備。」
琴葉「お祭りですか。あなた、そんなのに興味あったんですね。」
環那「お祭りは嫌いじゃないよ。賑やかなのは悪くないし。」
そう、祭りは良い
あの浮かれた空気感は嫌いじゃない
老若男女楽しめる行事と言うのも貴重だし
琴葉「まぁ、私たち教師はそれの見回りに行かないといけないんですけどね......」
環那「へぇ、そうなんだ。」
琴葉「しかも、去年通りに行けば七夕祭りの後すぐに夏祭りですよ......祭りが好きすぎます!」
環那「教師は大変だね~。」
見回り、必要なのかな?
別になくてもどうにかなると思うけど
これも、統率への信念から来るものなのかな
環那「うーん。」
琴葉「?」
環那「よしっ、夏祭りは琴ちゃんと行こう。」
琴葉「えぇ!?///」
俺は思いついたことを口に出した
琴ちゃん、どう考えても働きすぎだし
その日は俺が休暇って事にして連れて行こう
琴葉「そ、そんな急に......///」
環那「働き詰めだし、それも良いでしょ。これは決定事項だから、時期に校長か理事長から命令されるよ。」
琴葉「あなたはパワハラ上司ですか!?」
環那「裁判上等。問題ナシ。」
琴葉(この人、なんで変な行動力はあるんですか......!?///)
よし、これで夏祭りの予定は埋まったね
働き詰め教師を連れ出してやろ
琴葉「......それで、なんですが。」
環那「?」
琴葉「この準備、持っていくんですか?」
環那「うん、勿論。何があるか分からないし。」
琴葉(経験がないからわかりませんが、完璧じゃないですか?)
まぁ、準備はこれくらいでいいと思う
不測の事態は俺が対処するし
パターンもいくつかはじき出してる
うん、大丈夫だ
環那「じゃあ、俺は寝るよ。琴ちゃんも、明日は夕方までは何もないでしょ?」
琴葉「はい、なので、私も寝ます。」
エマ「__じゃあ、私はお兄ちゃんと寝る。」
琴葉「エマちゃん!?いつのまに!?」
環那「別にいいよ。」
琴葉「あなたはすぐに承諾しない!」
エマ「やった......♪」
琴葉「全く......」
琴ちゃんはそう言いながら部屋を出て行って
俺とエマは一緒のベッドに入った
それから数学の話とか、法則の話を1時間くらいして
ある程度疲労を感じて眠った
__________________
俺は基本、デートに気負ったりしない
その辺りのことはリサに仕込まれて来てる
だが、今日はおかしい、いつも違う
なぜなら......
環那(__待ち合わせ、1時間前に来てしまった。)
俺はいつも、待ち合わせ5分前に来るようにしてる
でも、なぜか落ち着かなくて1時間前に来た
滅多なことじゃこんな事ない
どういうことだ?
環那「......」
最終確認をしよう
燐子ちゃんは浴衣で来ると言ってた
つまり、下駄で来るって事だ
だから歩くペースとか場所をしっかり考える
こまめに体調をチェックし、悪そうなら即休憩
要望は可能な限り全て叶える
よし、これでオッケーだ
環那(とは言っても、後1時間。何をしようか。)
燐子「__あっ......///」
環那「え?」
声のした方を見ると、紫で花柄の浴衣を着て、綺麗な黒色の布を羽織った燐子ちゃんが立っていた
俺がいる事に驚いてるのか口元を抑え
顔を真っ赤にしてこっちを見ている
燐子「な、なななんでここに......!?///」
環那「あはは、落ち着かなくて早く来ちゃったよ。」
燐子(じ、じゃあ、楽しみにしてくれてたんだ///)
ここは俺が恥ずかしい奴って事にしておこう
『燐子ちゃんも1時間前だ』とかは言わないよ
デリカシーって、大事
環那「あー、えっとー......行こっか。もう屋台も出てるし。」
燐子「はいぃ......///」
そうして、俺と燐子ちゃんは予定を繰り上げ
お祭りの会場に行くことにした
__________________
祭りの会場はもう屋台が出ていて人混みも出来てる
昔に数回来たけど、あんまり変わってない
いい感じに活気があって、笑顔で溢れてる
燐子(ひ、人多いなぁ......)
環那「燐子ちゃん、こっちにおいで。」
燐子「?」
俺は燐子ちゃんを懐に寄せ
出来るだけ人混みを避けるようにした
防護服?......みたいな感じ?
環那「これなら大丈夫でしょ?」
燐子「ありがとう......南宮君......///」
環那「大丈夫。何か買って、静かな場所でそれを食べるのも良い。」
辺りを見回し、良い感じの屋台を探す
夏だし、冷たい物の方がいいかもしれない
けど、ある程度お腹に溜まるものも必要だ
あるけど、一応、飲み物もいるな
環那「よし、いくつかいい屋台を見つけた。買いに行こうか。」
燐子「う、うん、そうだね......///」
それから、たこ焼き、焼きそば、かき氷
そして、数本の飲み物を買った
後はどこに行くかの問題だけど
やっぱり、心当たりのあるあの場所しかないかな
__________________
”燐子”
南宮君は私の手を引いて
屋台の間を抜けて暗い通路を歩いて行った
通路を抜ければ、段々と景色が木々に変わって行き
南宮君が足を止めると、ポツンと1つのベンチがあった
環那「__よしっ、やっぱりここは誰もないね。」
燐子「えっと、ここは?」
環那「昔よく使ってた秘密基地......もとい、憩いの場。」
燐子「こんな所が。」
こんな場所、全然知らなかった
子供の時に本当に偶然見つけた感じ
私も、子供の時なら胸を躍らせてたかもしれない
勿論、今も胸を躍らせてる
けど、それはワクワクしてるとかではない......
燐子(こんな場所で、南宮君と2人きり......///)
周りにあるのは木だけ
本当に2人だけの空間
この状況に私の心臓は破裂寸前になってる
環那「はい、かき氷。」
燐子「ありがとう///」
私は南宮君からいちごのかき氷を受け取った
それを口に運ぶと、体がヒンヤリする
暑い夏にかき氷を食べるのは、醍醐味だと思う
環那「美味しいね。」
燐子「うん、美味しいね。冷たいし__っ!!」
環那「あっ。」
かき氷を食べてると頭がキーンとした
そうだ、これのこと忘れてた
急に来ると、痛いんだよね......
環那「はいっ、これで治るよ。」
燐子「ひゃ......!///」
環那「ははっ、変な声だね。」
南宮君は私の眉間にかき氷を当てて来た
一瞬だけビックリしたけど
頭の痛みが段々と引いて行った
あれ、なんで?
環那「こうしたら治るらしいんだ。豆知識だけど、役に立ったね。」
燐子「物知り......なんだね。」
環那「そうでもないよ。豆知識なんて誰でも持てるものだからね。」
謙虚にそう言う南宮君
でも、知識がある人はかっこいいし
知ってることを役立ててる
こんなに素晴らしい事ってないと思う
燐子「他にも、そう言うの聞きたいな。」
環那「うーん、じゃあ、サハラ砂漠のサハラの意味は砂漠とかは?」
燐子「え、そうなの?」
環那「うん、つまり、あれは砂漠砂漠って事だね。」
燐子「ふふっ、変なの......!」
あれってそういう意味があったんだ
今まで何となく知識ではあった
けど、そういう細かいところは知らなかった
環那(って、なんでサハラ砂漠なんだろ。もっといいのあったなぁ。)
燐子「次は、星についての雑学とか聞いてみたいな。」
環那「星、かぁ......」
南宮君は空を見上げた
流石にちょっとだけ難しいのかな?
私も星の雑学なんて全然知らないし
環那「......織姫と彦星は別に1年に1回必ず会ってるわけじゃない。」
燐子「会ってない?」
私は少し驚いた
小さい時から織姫と彦星は天の川であってる
そう教えられて育ってきた
けど、実際、それは違うらしい
環那「織姫星のベガ、彦星星のアルタイルの間には15光年の距離があるんだ。宇宙の中では光より速く動けないから、この2つの星が最速で動いたとしても会うのに15年もかかるんだ。」
燐子「そ、そうなんだ......た、大変だね。」
環那「ちなみに、彦星星のアルタイルは3つの伴星を持つ連星。だから、彦星は4つ子だって言われてるんだ。」
燐子「えぇ......!?」
なんで、こんな事まで知ってるんだろう
雑学の内容にもだけど、この博学さ
星なんて無茶ぶりと思ってたのに
環那「......俺が彦星なら、15年もかけたくないし光の速さを超えるより距離の縮め方から考えるかな。」
燐子「どういうこと?」
環那「15光年......そんなにあるなら近道、あるかもしれない新しい移動手段......それらを全て検証し、織姫に1秒でも早く近づく。何を投げ捨てたとしても。」
燐子「......!(か、かっこいい......!///)」
南宮君は研究家だった
こんな風に探究心もあって
大切なものに真っ直ぐ向かって行く姿勢がある
少し、危ういかもしれないけど
燐子「南宮君の織姫さんは、幸せですね......///」
環那「そう?こんな趣のかけらもない奴、嫌だと思うけど。」
燐子「いえ......一途に自分のために頑張ってくれる人がいるのは幸せですよ......?///」
環那「......そう、かもね。」
燐子「?」
南宮君は少し複雑そうな表情をしてる
どうしたんだろう?
何か、気に触っちゃったかな......?
環那「最近、俺もそう思うようになってきた。」
燐子「......?」
環那「今まで知らなかった、愛って言うのかな?それがちょっとずつ分かってきた。」
燐子「......!」
そうだ、私が前に言ったんだ
無条件の愛って
環那「燐子ちゃんのお陰だよ。」
燐子「そ、そんな、私なんて。」
環那「燐子ちゃんだから、俺は理解出来たんだよ。」
優しい声で南宮君はそう言った
それを聞いて、私はすごく嬉しかった
私が人の役に立てた
南宮君が少しだけ変わってくれた
環那「感謝してる。本当に、ありがとう。」
燐子「いえ、まだまだこれからですよ。」
環那「?」
燐子「まだ一緒にいて、もっと......学べます。だって、時間はあるんですから。」
環那「ははっ、そうかも。」
そう、もっと、南宮君に知ってほしい
ずっと寂しい思いをしてたから
まだまだ、南宮君は愛されないといけない
環那(......愛、か。)
燐子「......?」
南宮君は私をジッと見てる
そして、少し息をついて
ゆっくり口を開いた
環那「......俺、野望があるんだ。」
燐子「野望、ですか?」
環那「今までの人生のすべてを取り返し、清算させる。」
燐子「っ!!」
目が、濁りながら輝いてる
今、人生を取りかえすって言ってた
一体、何を......?
環那「それは決して、綺麗なことじゃない。むしろ、醜い復讐なんだ。」
燐子「復讐って......危ない事ですか......?」
環那「五分五分、かな。」
燐子(五分五分......)
南宮君が五分五分
私の中で彼はすごい人で
表情を変えずなんでも出来てしまう人
そんな人が、危ないかもしれないなんて......
燐子「復讐って、何をする気ですか......?」
環那「......くふふ。」
燐子「!」
少し笑って、南宮君はベンチから立ち上がった
その表情はいつもの笑顔じゃなくて、もっと闇が深い
そのまま、南宮君はこう言い放った
環那「__俺は、南宮家をぶっ壊す。」
燐子「!」
環那「.....これ以上、あの家の犠牲者を増やさないためにも。」
燐子「......!」
環那「この話はもういいね。行こう、燐子ちゃん。短冊、書きに行こ?」
いつもより引き締まった表情は凛々しかった
そんな姿に私は見惚れてしまい
次の瞬間差し出された彼の手に驚いてしまった
そんな私を見て笑う南宮君はとてもかっこよくて
私の胸はずっとドキドキしたままだった