リサの家に荷物を置いた後
俺とリサは友希那の家に来た
6年ぶりくらいかな?
友希那「あら、早かったわね。」
環那「おじゃましまーす。」
リサ「お邪魔します!」
友希那「えぇ、どうぞあがって。」
玄関先からもう友希那の匂いがする
なんて言う幸せ空間だろうか
どうせ死ぬならこんな場所で死にたい
友希那「環那?どうしたの?」
環那「この世に生まれた喜びを噛み締めてる。」
リサ「どうせ、『ここは友希那を感じるな~』とか考えてるんでしょ?」
環那「すごい、ほとんど正解だ。」
流石はリサ
俺の事をよく分かってるね
友希那の父「__おや、お客さんかな?」
友希那「お父さん、環那とリサよ。」
友希那の父「おぉ、これはこれは。」
環那「久しぶりだね、おじさん。」
俺はにこやかに挨拶をした
おじさんは黒のTシャツを着た、ワイルドだけど優しい雰囲気を身に纏った男性だ
5年経ってもまだまだ若々しい
環那「尊敬するミュージシャンが元気そうで嬉しいよ。」
友希那の父「ははは、そう言ってもらえて嬉しいよ。環那君は、昔よりも元気そうだね。」
環那「そうかな~?」
友希那の父「あぁ、今、すごくいい顔をしてる。」
リサ(相変わらず、仲いいな~。)
捕まる前も、おじさんとの関係は良好だった
頻繁に友希那の近況報告をしあってたし
よく俺の悩みも聞いてくれた
友希那とリサを除けば、一番近しい人物かも知れない
友希那の父「友希那、環那君と少し話すからリサちゃんと部屋に行っててくれ。」
友希那「えぇ、分かったわ?どうしたの?」
リサ「どうしたんですか?」
友希那の父「久しぶりに会ったんだ、積もる話もあるからね。」
環那「......」
友希那、リサ「?」
友希那とリサはおじさんにそう言われ
不思議そうにしながらも2階に上がって行った
その後、俺とおじさんはその場に残され
軽く目を見合わせてから、リビングに通された
__________________
友希那の父「__コーヒーでいいかい?」
環那「ありがとう、おじさん。」
おじさんはコーヒーをテーブルに置き
俺の体面にゆっくり腰を下ろした
環那、友希那の父「......」
それから、少しの沈黙
さっきまでの和やかな雰囲気は成りを潜め
少しだけ息苦しさを感じる
やっぱり......
友希那の父「......すまなかったね。」
環那「!」
沈黙の後、おじさんは小さな声でそう言った
主語のない文章
けど、俺はそれが何を指しているのか分かった
だから、静かに頷いた
環那「俺が捕まったこと?あれは勝手に__」
友希那の父「......いや、君の腕と目の事だ。」
環那「え?」
友希那の父「右腕は無くなって、左目が、見えなくなったと......」
おじさんは重々しい声でそう言い放った
俺は驚いて目を見開いた
なんで知ってるんだ?誰に......
って、友希那かリサしかいないか
友希那の父「君に深手を負わせてしまって、本当にすまない。」
環那「気にする事でもないよ。現に、腕は義手で治ってるんだし。」
友希那の父「......だが、左目は。」
環那「......」
俺は首を横に振った
すると、おじさんは申し訳なさそうな顔をし
ガクッと肩を落とした
友希那の父「今の時点でその状態と言う事は、治療は......」
環那「治らないね。この義手を作った子も視力を再生することは出来ないって。治すとしたら義眼になるね。」
友希那の父「......そうか。」
別に気にしてないんだけどね
片目が見えないくらいなら問題ないし
友希那だって、あの時は精神的に不安定だった
原因は俺だし、俺が悪い
友希那の父「君は優秀なのに、申し訳ない......」
環那「いやいや、俺は優秀じゃないって。ただの友希那大好き人間だから。」
友希那の父「......そうか。」
環那「そんなに気にすることないって。別に困ってないから。」
友希那の父「そういう訳にもいかない。子の責任は親の責任だ。キッチリ責任は取る。」
おじさんは深く頭を下げた
なんだか、こっちの方が申し訳なくなる
今まで別に困ったこともないのに......
けど、このままじゃ、引きそうにないなぁ
どうしようか......
環那「気にしなくてもいいよ。ただ、こう言っても引き下がらないだろうし、1つお願いを聞いて欲しいんだ。」
友希那の父「何でも聞くよ。」
環那「じゃあ、友希那をしっかり守ってあげてよ。」
友希那の父「......!」
そう言うと、おじさんは目を見開いた
言っておくけど、これは綺麗事なんかじゃない
流石に俺も家の中にいる友希那には何もできない
だから、しっかり守ってくれる人が欲しいんだ
環那「俺の幸せは友希那が幸せでいる事だから、それさえ守れるなら、大丈夫。」
友希那の父「相変わらずだね......」
これで何とか話もまとまりそうだ
正直、不安だったんだよね
この先、友希那に危険があったらどうしようって
でも、おじさんに任せられれば安心だ
環那「昔から俺は変わらないよ。あくまで友希那至上主義だからね。」
友希那の父「君は、本当に変わらないね。」
おじさんは呆れたような声を出した
まぁ確かに変わってない自覚はある
リサに良く、相変わらずって言われるし
友希那の父「けど、安心したよ。友希那との仲が険悪になってなくて。」
環那「ならないよ。友希那が俺の事を恨んでも、その反対はあり得ないからね。」
友希那の父「我が娘ながら恐れ入るよ。こんなに人に愛されているなんて。」
環那「あはは、思う存分、恐れて良いと思うよ。」
冗談交じりにそう言うと、おじさんは笑った
結構本気なんだけどなぁ
まっ、雰囲気を変えられたしいっか
環那「ほんと、友希那は可愛くて、心が綺麗で、優しくて......最高の女の子だよ__」
ドン!!
俺は話してる途中、リビングのドアから大きな音がした
環那、友希那の父「ん?」
友希那「な、な......っ///」
環那「あ、友希那!今、おじさんと友希那の話をしてたんだー!」
音がした方を見ると
顔を真っ赤にした友希那の姿があった
なにあれ可愛い
って、何しに来たんだろう?
友希那の父「友希那?どうしたのかな?」
友希那「の、喉が渇いたから、取りに来て......///」
環那「そうなの?じゃあ、待ってて!今すぐ用意するから!」
友希那の父(反応が早いな。)
俺は急いで冷蔵庫の前に行き
友希那が好きそうなジュースとコップを用意し
それを、友希那の前に持っていった
環那「友希那、準備が出来たよ。」
友希那「え、えぇ、ありがとう......///」
環那「それと、後で、俺も部屋に行っていいかな?久しぶりに行ってみたいんだ。」
友希那「構わないわ......待ってるわよ///」
環那「うん、もう少しリサと2人で待っててね?」
友希那「分かった、わ......///」
友希那はそう言ってリビングから出て行った
なんだか、ずっと顔が赤かったなぁ
夏だし、暑かったのかな?
友希那の父「ははは、流石は環那君だ。」
環那「え?何かありました?」
友希那の父「それはすぐに分かるよ。」
おじさんは少し笑った後
ゆっくり椅子から立ち上がり、こっちを見た
友希那の父「僕はこれから出掛けるよ。このまま家にいたら、馬に蹴られそうだ。」
環那「なんで?別にそんなことはないと思うけど。」
友希那の父「娘のためだからね。それじゃ。」
おじさんはそう言ってリビングから出て行った
急に出掛けて行ったね
もしかして、俺が友希那の部屋に行きたそうだから気を使ったのかな?
だったら申し訳ないな
まぁ、お言葉に甘えるんだけど
環那(折角だし、友希那の部屋行こーっと!)
そう言って俺もリビングを出て
友希那とリサがいる部屋に向かって行った
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”友希那”
リビング出た後、お盆を床に置き、自分の顔を抑えた
環那に褒められるのは慣れてる
けど、今日の褒め方はいつもと違った
いつもはもう少し冗談めいてるのに、今日は声音が少し真剣だった
友希那「......っ///」
さっきから動悸が激しい
いや、別にこんなの珍しい事でもない
昔から、環那といるとこうなって来たもの
友希那(本当に、環那は昔から......///)
環那と一緒にいた10年と少し
全く恋愛感情がなかったと言えば噓になる
いや、今も......
友希那(......でも、ダメよ。ダメなの......)
私は環那の腕と左目の視力を奪った
なのに、こんな邪な感情を抱くなんて許されない
私にできるのは、罪滅ぼしだけなんだから
こんなの、忘れないといけない
環那「__友希那ー?何してるの?」
友希那「!」
環那「まだ部屋に戻ってなかったんだ?どうしたの?」
友希那「少し考え事をしてたのよ。なんでもないわ。」
環那「そう?」
不思議そうに首を傾げる環那
いつも通り優しく、私を心配してくれてる
こんなに優しい理由は知ってる
けど、なんでここまでなのかは、理解できない
環那「じゃあ、部屋に戻ろうよ。飲み物、俺が持つよ。」
友希那「あ、ちょっと__」
環那「早く行こう。リサも待ってるだろうし。」
友希那「え、えぇ。」
私は、考えてはいけない
環那にしてあげられることはもうない
恋なんて、以ての外......
友希那「......」
環那「?」
ずっと、この距離でいい
幼馴染として、環那の幸せを願う
私のこの気持ちを告白することは、絶対ない
静かにそう心に誓った