羽丘の元囚人   作:火の車

67 / 200
張り詰めたもの

 俺は南宮環那

 

 超が付くほど勝手な人間だ

 

 出来れば無駄な責任なんて負わず

 

 出来るだけ適当に楽しく生きてたいって思ってる

 

 けど昨日から、そうもいかなくなってしまった

 

エマ「__お兄ちゃん、起きて。」

環那「......ん?あぁ......エマ?」

エマ「おはよう、お兄ちゃん。」

 

 俺のTシャツを着たエマに体を揺すられ

 

 すっごい怠いなぁと思いながら目を覚ました

 

 朝なんて一生来なくていいのに

 

 あー、地球滅びるけど太陽潰れればいいのに

 

環那「なんで俺のTシャツ着てるの?」

エマ「着たかったから。」

環那「なるほど。じゃあ仕方ない。」

 

 俺はそう言ってベッドから降りた

 

 昨日は作戦終ってからすぐに寝たけど

 

 なんか、妙に疲れてる気がする

 

環那(計算し過ぎで眠り浅くなったかな。)

エマ「お兄ちゃん、朝ごはん食べよ。琴葉が作ってる。」

環那「へぇ、琴ちゃんが作ってるんだ。そっかぁ、琴ちゃんが......って、えぇ!?」

エマ「驚き過ぎ。」

 

 エマは冷静にそう言うけど

 

 俺はからすれば、これは青天の霹靂だ

 

 だって、あの家事能力皆無の琴ちゃんだし

 

エマ「確かに、琴葉の家事能力は控えめに言ってゴミクズ。」

環那(ひ、酷い言われようだ。)

エマ「けど、人間は成長する。今は......まだ人間に食べさせられるレベル。」

環那「それ、褒めてはないね。」

 

 ま、まぁ、前に食べたお弁当は美味しかったし

 

 朝ごはんだからって失敗することはないでしょ

 

 だって、やること自体は変わらないし

 

環那「行こっか。」

エマ「うん、そうだね。」

 

 そんな会話の後、俺達は部屋を出て

 

 朝ごはんが準備されてるリビングに向かった

__________________

 

 リビングに来ると味噌汁の香りがした

 

 どうやら、今日の朝ごはんは和食__

 

琴葉「あ、おはようございます、2人とも!」

環那、エマ「......」

 

 じゃなかった

 

 味噌汁があるのに食パンがある

 

 あはは、これがほんとの和洋折衷かー

 

琴葉「どうかしましたか?」

環那「えーっと、味噌汁にパンなんだね。」

琴葉「え、ダメなんですか?朝ごはんと言えばと言う物を用意したんですが。」

環那「」

エマ(言葉を失うってこんな感覚なんだ。)

 

 そ、そう来たか......

 

 い、いやでも、メニュー的に失敗しずらい

 

 組み合わせはあれだけど......

 

環那「い、いただきます。」

エマ「いただきます。」

琴葉「はい、どうぞ!」

 

 手を合わせた後、俺は食事を始めた

 

 こんがり焼けた食パンに味噌汁......

 

 甘味と塩味が絶妙にマッチしてて

 

 もしかしたら、これはこれでありかもしれないって思えて来た

 

環那「あ、ありだ。」

エマ「驚いた。これは不思議。」

琴葉「なぜ驚いてるんですか!?」

エマ「食パンと味噌汁を合わせるのは初めてだったから。」

琴葉「えぇ!?そうなんですか!?」

 

 琴ちゃんは驚いたような声を出した

 

 今までどんな食生活......

 

 って、インスタントばっかりか

 

エマ「まぁ、琴葉は目覚ましい成長を遂げた。食パンも焼けて、味噌汁も作れるようになった。」

琴葉「それだけで!?まぁ、もういいです。テレビつけますね。」

 

 そんな会話の後、琴ちゃんはテレビをつけた

 

 画面に映し出されたのはニュースで

 

 どうでもいい内容が流れてる

 

『速報です。palace株式会社の社長が交代しました。』

琴葉「はえー、超大手じゃないですか。」

環那、エマ「あっ。」

 

 2,3個のニュースが流れ

 

 そんな話題になった

 

 なんか昨日見た建物が見えるなぁ、気のせいかなぁ?

 

『新社長兼会長は前社長の1人息子である、南宮環那君、17歳です。』

琴葉「へっ?」

環那「うわぁ......」

 

 テレビで名前出ちゃったよ

 

 これが有名税って奴か

 

 嫌だなぁ......

 

琴葉「えぇぇぇぇぇぇ!?」

エマ「琴葉、うるさい。」

琴葉「い、いや、でも、社長って!!」

環那「見たまま。南宮を一族ごと潰そうとしたけど、社員の事考えて代替案を実行した結果。」

琴葉「そ、それでも、大企業の社長だなんて!」

 

 琴ちゃんは驚いて俺を凝視してる

 

 まぁ、そうだよね

 

 同居人の高校生がいきなり社長なんて

 

 言うなればクワガタの幼虫がヘラクレスになる感じ(?)

 

環那「はぁ......」

琴葉「珍しく大きなため息ですね。」

環那「だって、なんか面倒じゃん。有名になったら犯罪スレスレのことしずらくなるじゃん。」

琴葉「それは良い事じゃないですか。」

 

 はぁ......面倒くさい

 

 さっきのニュースでも顔出ちゃってるし

 

 無駄に大きい企業だから全国に顔知れ渡るし

 

 もう軽はずみな行動取れないな......

 

琴葉「それにしても、社長ですか。」

環那「?」

琴葉「あなた、進路はどうするんですか?」

環那「進路?」

 

 俺は首を傾げた

 

 そう言えば、高校3年生だった

 

 もう夏休みだし、そう言う時期かー

 

環那「なーんにも考えてないや。」

琴葉「なら、大学を目指してみませんか?」

環那「え?大学?」

琴葉「あなたなら、東大も合格できるはずです。」

環那「東大?」

 

 大学......それも東大?

 

 この俺が?

 

 本気で考えたことも無かった、けど

 

環那「興味ないや。」

琴葉「!?」

環那「やりたいこと、無いし。」

 

 昨日から脱力感が凄い

 

 あまりにつまらな過ぎたからかな

 

 脱力してるけど、すごくイラついてる

 

琴葉「そうですかぁ......」

環那「......」

琴葉「あなたなら、理科三類合格って言う夢も見れると思ったんですが......」

エマ「理科三類......(日本最難関。)」

 

 夢、か

 

 俺の夢......友希那が誰よりも輝くこと

 

 そして、友希那が幸せになること

 

 正直、今までそれくらいしかなかった

 

環那「......やっぱり、考えててあげるよ。」

琴葉「え?」

環那「共通テストって1月でしょ?気が向いたら受けてあげるよ。」

 

 俺はそう言いながら味噌汁のお椀を空にした

 

 あーあ、何だかんだで俺も甘いなぁ

 

 面倒くさいこと増やしちゃったよ

 

環那「ごちそうさま。今日は特に予定ないし、部屋行くよ。」

琴葉「あ、はい!」

 

 琴ちゃんのあからさまに嬉しそうな声を出した

 

 ほんと、なにがそんなに嬉しいんだか

 

 馬鹿な子だ

 

環那(国語の勉強、真面目にするかぁ。暇だし。)

 

 俺はそんな事を考えつつ

 

 ゆっくりするために自室に戻った

__________________

 

環那「......?」

 

 自室に戻って、自分の体に違和感を覚えた

 

 なんだか、目の前の景色が歪んで

 

 思考に細かいラグが入ってくる

 

環那(まさか......)

 

 俺は引き出しから体温計を出して電源を入れた

 

 これ、もしかしたらだよ?

 

 人生で初めてのアレ、ありえる?

 

環那「......あー。」

 

 体温を測り終えて、眉間を抑えた

 

 これはあれだ、熱ある

 

 人生で初めて39℃とか見たかも

 

 うわぁ、熱があるってこんな感覚なんだ

 

環那(実際の数値を見ると余計にしんどくなってきた......)

 

 そんな事を考えながらベッドに寝ころんだ

 

 いつもは聞こえない外からの人の声

 

 電化製品が動いてる音

 

 いつもは拾わないような情報が頭に入ってくる

 

環那(医者......いや、エマに診て貰おう......)

エマ「__呼んだ?お兄ちゃん。」

環那「エスパーにでもなった?」

 

 なんで分かったんだろ

 

 義手にそう言う機会仕込んでるの?

 

 いや、丁度いいんだけど

 

エマ「どうしたの?」

環那「熱出た。診てくれない?」

エマ「熱?お兄ちゃんが?」

環那「!」

 

 エマは俺の額に触れた

 

 ひんやりとした手が気持ちい

 

エマ「すごい熱。すぐに解熱ざ......」

環那「?」

エマ「......いや、ゆっくり寝た方がいい。」

環那「あ、うん......」

 

 今、解熱剤って言いかけたよね?

 

 あるならそっちの方がいいんだけど

 

 エマが寝た方が良いって言ってるし、そうなんだろうね

 

環那「じゃあ、寝るよ。お休み......」

エマ「うん、ゆっくり眠って......今まで、張り詰めてた分。」

環那(なに......言ってるんだろ......)

 

 エマの言葉が途切れ途切れに聞こえ

 

 いつの間にか俺は意識を手放していた

 

 “エマ”

 

環那「スー......すぅ」

 

 お兄ちゃんが眠った

 

 その姿を見ると激しい性の衝動に襲われるけど

 

 今はお兄ちゃんのためにも抑えないといけない

 

エマ「張り詰めてたものが、途切れちゃったね。」

環那「ん......」

 

 私はお兄ちゃんの髪をそっと撫でた

 

 お兄ちゃんがこうなった理由は大体わかる

 

 今まで張り詰めてた緊張の糸が切れたから

 

エマ「可哀想、お兄ちゃん......」

 

 今まで無意識のうちに人を警戒してた

 

 何年も1人で毒家族と戦って

 

 湊友希那、今井リサだけを信じて

 

 最近になって燐子、琴葉を信じられるようになった

 

 それでも、この世にたった4人だけ......

 

エマ「......あの、クズ達さえいなければ。お兄ちゃんは、もっと。」

 

 あのクズ親のせいでサヴァンの障害が治らなかった

 

 そして、クズ身内は誰も手を差し伸べなかった

 

 そうだ、もっとお兄ちゃんが人の優しさに触れていれば

 

 もっとまともな大人がいれば

 

 もっと私が早く生まれていれば......!

 

エマ「......壊していい。お兄ちゃんは何を壊しても許される、だから__」

 

 私は喋りながらお兄ちゃんの頬に触れた

 

 こうしてると、私と言う人格が溶かされて

 

 頭が、おかしくなる

 

エマ「私も壊して、お兄ちゃん♡」

 

 気づけば、そんな言葉を口走っていた

 

 もっと、私と言う存在を壊してほしい

 

 だって、お兄ちゃんを知らなかったという罪を犯したから

 

 けど、それと同じくらい愛されたい

 

 壊されたい、愛されたい

 

 こんなダメな私をお兄ちゃんの人形にして欲しい

 

エマ「愛してるよ♡もっと、もっと私を壊して♡愛して♡」

 

 私は眠っているお兄ちゃんにそんな言葉を言い続け

 

 数十分くらい経ってから琴葉に報告し

 

 取り合えず、燐子にだけ連絡しておくことにした

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。