羽丘の元囚人   作:火の車

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覚悟

 誰かの上に立つなんて柄じゃない

 

 俺はあくまで駒の一つ

 

 自分で考える駒になるのが本来のスタイル

 

 そんな人間が組織の頭なんて、ジャンル違いも良い所だ

 

環那「拓真君、春日とはどうなったの?」

拓真「......何も変わってねぇよ。」

環那「へぇ、頑張ってるね。てっきりとっくに捨てたと思ってた。」

拓真「っ!!」

 

 そんな考え事をしながらそう言うと

 

 拓真君は凄い目で俺を睨みつけて来た

 

 おぉ、怖い怖い

 

 中学3年生とは思えない

 

哲司「か、環那君、なぜ今その話を。」

環那「必要だからだよ、っと。」

 

 俺はゆっくり立ち上がり

 

 大広間の真ん中まで歩いた

 

柳「な、何をする気なの......!?」

環那「黙って見てないよ、ババア。」

柳「なぁ!?」

 

 全く、あのクソババアの妹はうるさい

 

 もうちょっと落ち着いたらいいのに

 

 無駄に年食った大人はこれだから嫌になる

 

 なんてことを考えながら、俺は拓真君の方を見た

 

環那「君さ、高校卒業したらうちの会社入る気ある?」

拓真、柳「は?」

哲司「!!」

 

 俺がそんな質問をすると冴木家3人が固まった

 

 全員、面白い顔してるなぁ

 

 馬鹿みたいで

 

柳「な、何を言ってるの!?この子は一流大学を出て、それで__」

環那「あんたに聞いてない。俺は拓真君に聞いてるんだよ。」

拓真「......」

 

 ジッと拓真君を見つめる

 

 てか、中3で一流大学の話ねぇ......

 

柳「子供の将来は親が決めるの!産んだのは私なんだから!」

環那「その言葉、俺のクソ親にそっくりだよ。」

柳「なっ!?」

環那「産むだけなら人間じゃなくても出来る。大切なのはどう育てるのかだって、俺を見たらわかるでしょ?」

 

 そう言うと、その場が静まり返った

 

 思い出してるんだろうね

 

 俺がクソババアを馬鹿にして見殺しにしたあの日を

 

 ......あー、気持ちい

 

環那「で、どうなの?拓真君。」

拓真「い、いや、大学に行った方が将来安定するし......」

柳「そ、そうよね!」

 

 拓真君はボソボソとそう言った

 

 なるほど、将来安定するか

 

 まぁ、確かにそうかもだけど......

 

環那「はぁぁぁぁ......」

拓真、柳、哲司「!」

 

 俺は大きなため息をついた

 

 下らないな、こいつ

 

 拓真君は何にも理解してない

 

環那「君さあ、春日とどこまで考えてんの?」

拓真「出来れば、ずっと支えたいって......だから......」

環那「大学に行って安定させた方がいい、とでも言うつもり?」

拓真「な、何が言いたいんだよ。」

 

 拓真君は焦った様子でこっちを見てる

 

 ほんと、能天気でバカだ

 

 こいつ、大丈夫なの?

 

環那「君が大学でぬるま湯に浸ってる間、春日はどうするつもり?」

拓真「......!!」

環那「春日は教師を辞めて今は就職活動中。だけど、上手く行かないまま今はバイトで食いつないでるんでしょ?」

拓真「な、なんで知って......!」

環那「調べたんだよ。(九十九が)」

 

 こいつ泣かせようと思って調べてたけど

 

 春日は春日で中学生相手に本気になってるし

 

 こいつも中々折れないしで

 

 ちょっとは本物かなって思ってたのに......

 

環那「考えてもみなよ。あいつは今年で28歳、結婚するにはいい年齢だよね?にも関わらず、まだ中3の拓真君を待ってるんだ。つまり、君は悪戯に春日が苦しむ時間を引き延ばしてるんだよ。」

拓真「......っ、そ、それは......」

 

 拓真君は言い返してこない

 

 まぁ、出来ないだろうね

 

 だって、これは紛れもない事実なんだから

 

環那「こっちに来なよ、拓真君。」

拓真「な、何だよ......」

環那「教えてあげるよ、君に足りない物を。」

拓真「足りない物だと......?」

 

 ここで出てこないならこいつは切り捨てる

 

 その程度の人間だった......

 

 それだけの話

 

拓真「......ふん、やってやる。」

環那「へぇ、腰抜けの癖に根性出すね。」

拓真「バカにすんなよ!」

 

 拓真君はそう言って俺がいる大広間の真ん中に来た

 

 さて、この甘ったれた子供に教えてあげないと

 

 ......死んだらそれまでだけど

 

環那「かかって来なよ、得意の空手で。」

拓真「お前なんてすぐに倒してやるよ!」

 

 そう息巻いて大きく踏み込んできた

 

 引いてる腕からして右で殴ってくるのが分かる

 

 けど、意外と早いな

 

ノア(ほう、中々やるな......だが。)

拓真「__うぐっ!!」

環那「......」

柳「拓真ぁ!!」

ノア(だろうな。)

 

 まぁ、だから何って話

 

 こんな倒す気満々の特攻

 

 これほど狙いやすい物はない

 

 だから平気で腹パン入れちゃったよ

 

拓真「うぐぐ......!!」

環那「立てよ。この程度で何蹲ってんの?」

拓真「だ、黙れ......!今のは事故だ!」

ノア(こいつ、バカか?)

環那「そっか。なら、さっさと来なよ。」

 

 まだ大口叩ける位には元気みたいだ

 

 もう少しだけボコるか

 

 俺、こいつ嫌いだし

 

拓真「はぁ......!!」

環那「......はぁ。」

拓真「!?(き、消え__)」

ノア「バカが。」

拓真「がはぁ!!」

 

 少し学習して、今度はフェイントを入れて来た

 

 けど、計算すれば動きは読める

 

 後は避けて、あばらに蹴り一発で終わり

 

拓真「あ、ぐぅぅぅ......!!」

環那「弱いね。」

拓真「っ!__あぎぃ!!」

 

 蹲ってる拓真君の顔面を蹴り飛ばした

 

 大広間の真ん中に力なく横たわってる

 

 3発でこれって流石に脆過ぎない?

 

柳「もうやめて!!なんでこんな事をするの!?」

環那「教えてあげてるんだよ。」

柳「何を!?」

環那「大切な人を守る覚悟が、どう言うものか。」

拓真「......!!」

 

 拓真君を見下ろす

 

 そう、こいつは分かってない

 

 大切な人を守るのが、どんなに難しいのか

 

拓真「お、お前みたいな天才なら......守れるだろうな......!」

環那「俺が天才?そんな訳ないじゃん。」

ノア「!」

拓真「は......?」

 

 皆、何故か俺を天才と呼ぶ

 

 けど、実際は全然見当違いだ

 

 俺は天才なんて呼ばれるような人間じゃない

 

環那「俺は友希那を守るために死ぬ気で努力した。」

拓真「......!?」

環那「友希那が算数が分からないって言ってたから、算数を死ぬほど頑張って勉強した。どんなことが起きても守れるように独学で体を鍛えた。肉が裂けても骨が折れても大量に血を流しても、ね。」

ノア(......ふむ。)

 

 心が折れそうな時もあった

 

 だけど、友希那のためだけに耐えた

 

 何年も何年も獄中でも鍛えて十数年

 

 いつしか、木くらいなら素手で折れるようになった

 

環那「見たことあるか?血涙で真っ赤に染まった景色を。自分の血でできた水たまりを。肉が裂けてむき出しになった骨を。」

拓真「あるわけ、ないだろ......」

環那「そりゃそうだ。ぬくぬくと温室で育ってきた甘たれ小僧なんだから。」

拓真「くっ......!(言い返せない......!)」

 

 こいつは学ばないといけないんだ

 

 『守る』ということの責任を

 

 その重みを知らないと、耐えられないと、拓真君は壊れるんだから

 

環那「......男なら覚悟見せろよ。」

拓真「なんだって......?」

環那「男ならな、自分の人生投げ売ってでも大切な人を守るって覚悟示せよ!この腰抜けが!何が大学だ、安定だ!それはお前の大切な人以上に大切なのかよ!!」

拓真「__!!!」

 

 つい、熱くなってしまった

 

 けど、ムカつくんだよね

 

 軽い気持ちで一生守るとか言う奴

 

環那「そんなだから君は凡庸な俺に負けるんだ。」

拓真「......っ。」

環那「君の答えは高校卒業まで待ってあげるよ。精々、後悔しない選択をすることだね。」

 

 俺はそう言って拓真君に背中を向け

 

 ノア君に合図を出し、出口の方に歩いた

 

環那「本日はこれにて解散。昇格する5人はこれからよろしくね。」

 

 俺はそれだけ言い残し、大広間を出た

 

 なんだか、すごい体力使った気がする

 

 これだからバカの相手は疲れるんだよ......

__________________

 

ノア「__ふん、面白い話が聞けた。」

 

 古臭い家を出た後、ノア君はそう言った

 

 面白い話って、俺が鍛えてた話?

 

 俺は首を傾げながら彼の方を向いた

 

環那「面白かった?」

ノア「あぁ、貴様のその能力の秘密が多少だが分かった。」

環那「あはは、そのこと?」

 

 俺は笑いながらノア君を見た

 

 ノア君、実は俺に興味津々?

 

環那「あの話、嘘なんだよね。」

ノア「!?」

環那「あんな話、ほんとなわけないじゃん!」

ノア(こ、こいつ......!)

 

 俺はそう言ってから歩きだし

 

 3mほど歩いて、足を止め

 

 後ろにいるノア君の方を向いた

 

環那「だって、あの程度の傷で済んでるわけないじゃん。」

ノア「......!?」

環那「あいつは腰抜けだからね。怖気づかないように優しい嘘をついてあげたんだよ。」

 

 そう言った後、俺はまた歩き始めた

 

 背中越しにノア君が驚いてるのが伝わってくる

 

 あはは、驚いてくれてよかった

 

ノア「......化物め。」

環那「~♪」

 

 鼻歌を歌いながら歩いてると

 

 後ろからノア君の驚きの言葉が聞こえ

 

 それがおかしくて、俺は小さく笑った

 

 

 

 

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