羽丘の元囚人   作:火の車

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叫び

環那「......んっ......」

 

 朝、俺はいつも通りベッドの上で目を覚ました

 

 いつもの方向にある太陽

 

 そして、起きた時の謎の喪失感

 

 うん、いつも通り__

 

リサ「ん、んん......っ」

燐子「すぅ、すぅ......」

環那「......(あー。)」

 

 と言うのは、少し語弊があったかな

 

 これがいつも通りだとヤバいね

 

 歴史に名を遺す程でもないけど最低男だ

 

環那(さて、朝の家事をしないと。見た感じ、学校の荷物が持って来てるっぽいし、ここから学校に行くのかな。)

 

 俺はそんな事を考えながらベッドから降りて

 

 朝の家事をするために部屋を出た

 

 2人の制服も洗ってあげた方がいいよね

 

 あと、お弁当も作っておこう

__________________

 

 朝の家事は結構忙しい

 

 夜のうちに出た洗濯物を洗濯して

 

 朝ごはんを作って、3人分のお弁当を同時に作って

 

 琴ちゃんが着ていく服を用意したり

 

 まぁ、色々ある

 

環那(あ、これ。醤油を小さじ2分の1位分減らした方が味も健康も両立できる。)

 

 けど、俺は別に家事は嫌いじゃない

 

 むしろ、かなり好きだ

 

 料理も洗濯も慣れたら楽しいしね

 

琴葉「ふぁ~ぁ......おひゃようごひゃいます......」

環那「琴ちゃん?今日は早いね。」

琴葉「何故か早く目が覚めちゃって......眠たいです......」

環那「ははっ、コーヒーでも淹れようか?」

琴葉「お願いしまーす......」

 

 ほんとに眠そうだな

 

 全く、学校で人気のある教師とは思えないな

 

 俺はこっちの方が好きなんだけどね

 

環那「はい、どうぞ。」

琴葉「あれ?珍しいですね、あなたも一緒になんて。」

環那「家事も終わったしね。ゆっくりしようかなって。」

 

 そう言って、琴ちゃんの向かいに座る

 

 今は、朝の6時30分だ

 

 登校時間までは後1時間30分もある

 

琴葉「__これ、美味しいですね。」

環那「そりゃあ、天下の羽沢珈琲店の看板娘さんに習ったからね。」

 

 そんな会話をしながら、コーヒーを口に含んだ

 

 ......やっぱり、つぐちゃんの淹れた物とは違う

 

 材料も分量も秒数も一切の違いはないのに

 

 所謂、心と言う物で差が出てるのかな

 

琴葉「......そう言えば、お父さんから昨晩連絡が来たんです。」

環那「珍しいね。」

琴葉「どうやら、私経由であなたに伝えたいことがあったようで。」

環那「!」

 

 琴ちゃんの言葉に、俺は少しだけ驚いた

 

 篤臣さんが少しだけ慎重に動いてる

 

 いつもなら誰かしらを使ってコンタクトを取るのに

 

琴葉「最近、あなたを嗅ぎまわってる人がいるらしいです。」

環那「あぁ、その事か。」

琴葉「やっぱり、知ってましたか......」

環那「まぁね。てか、若干待ってたくらいだし。」

 

 誰かは分かってるし

 

 ただ、少しだけ想定外なのは......

 

 少しばかり、人数が多いことか

 

環那「誰が来ようと問題ないさ。エマもいるし。」

琴葉「1人でも十分でしょうに......」

環那「あはは。」

リサ「__か、環那ー?」

環那「ん?リサ?燐子ちゃんも。おはよう。」

燐子「お、おはよう......///」

環那「?」

 

 琴ちゃんと話してると2人はドアから顔だけを出して話しかけえ来た

 

 なにしてるんだろう、って、あ

 

リサ「か、環那、あたし達に服とか洗ってくれてる......?///」

環那「うん、洗ってるよ。制服、今日着ていくでしょ?」

燐子「そ、その......下着は......///」

環那「洗ってるよ?昨晩、替えの下着忘れたって話してるの聞いたし。」

リサ「あれ聞いてたの!?///」

環那「偶々ね。」

琴葉「うわぁ......」

 

 一応、ちゃんと洗い方とかは調べた

 

 乾燥もそろそろ終わる頃だろう

 

琴葉「あなた、女性の下着洗うのとか躊躇いませんよね。」

環那「洗濯は仕事だよ?医者が人の内臓見るの躊躇うの?」

琴葉「なんでこういう時の考え方は極端なんですか......」

環那「時に大胆になるのも大事でしょ。」

 

リサ(う、うぅ///環那に下着を洗われるなんて///)

燐子(好きな人に下着を......っ///)

 

環那「さて!そろそろ乾燥も終わるし、洗濯物取って来るよ!」

リサ「あ、あたし達が行くからー!///」

燐子「も、もう勘弁して......///」

環那「?」

 

 2人は慌てた様子で脱衣所に行き

 

 それぞれの服を取りに行った

 

 それを見て、俺は朝ごはんの配膳をすることにした

__________________

 

 “友希那”

 

 朝、私は珍しく1人で学校に来た

 

 リサは今日、環那と登校すると思うけれど

 

 危うく、寝坊する所だったわ

 

環那「__友希那ー!おはよう!」

リサ「ちゃんと遅刻せず来れたねー!偉い!」

環那「天才だね!この成果は世界の歴史に残るべきだ!」

友希那「リサ、環那、あなた達は私を何だと思っているの?」

 

 この2人、まるで私の親ね

 

 だとしたら親バカ過ぎるけれど

 

友希那「まぁ、いいわ。それで、昨晩はどうだったの?」

リサ「!///」

環那「一緒に寝たくらいだよ。昔みたいに。」

友希那「燐子も一緒だったのよね?」

環那「うん、そうだよ?」

友希那「......そう。(昔みたいに......ね。)」

 

 環那は変わった

 

 いや、周りが変わったと言うべきかしら

 

 私達3人だけだった繋がりが、段々と広がって

 

 環那の事を認めてくれる人たちが現れた

 

 幼馴染として、こんなに嬉しい事はない

 

友希那(......)

 

 3人だけでいた時間も、私は好きだった

 

 元は、私達3人だけで

 

 環那の居場所は私達だけだった

 

友希那(昔は、リサのもう傍らには私がいたのに......)

リサ「友希那?」

友希那「っ!ど、どうしたの?」

リサ「いや、ちょっと表情が暗かったから。」

友希那「何でもないわよ。」

 

 駄目ね、こんなこと考えてたら

 

 人は変わるものなんだから

 

 いい意味で変わってくれるなら、喜ばないと

 

「なぁなぁ~、南宮社長~。」

環那「......なに?」

友希那「!」

 

 リサと話してると、横から軽薄そうな声が聞こえた

 

 声のした方に目を向けると

 

 環那の周りに数十人の生徒が集まってるのが見えた

 

「将来、俺のこと雇ってくれよ~。」

環那「面接受ければ?」

「いやいや、そこはやっぱり、クラスメイトのコネって言うか?そう言うのもあるじゃん?」

「持つべきものはクラスメイト、みたいな~?」

環那「ないよ。ないない。」

 

友希那(あぁ、いつものね。)

 

 環那が社長になってから、こういう事は多い

 

 今や、誰もが知る大企業の社長

 

 あの会社に入れば、裕福な生活ができる事は間違いない

 

 だからみんな、コネが欲しいのね

 

「んだよ、犯罪者の癖に。」

「社長になった途端にこれかよ。」

「親が偶々社長だっただけで、そうじゃなければただの犯罪者だろ。」

 

友希那「っ......!」

 

 環那の周りにいる集団の数人がそう呟いた

 

 それを聞いて、私は目を見開いた

 

 なに?なんなの?

 

 さっきまでゴマをすってたような人間が

 

「親の七光りがあんまり調子に__」

リサ「......ふざけないでよ。」

友希那「っ!?」

環那「え?リサ?」

 

 私が奥歯を噛み締めてると

 

 リサが背筋が凍るような声でそう言った

 

 あの環那ですら、少しだけ動揺してる

 

リサ「親の七光り?犯罪者?......環那のこと何も知らないくせに、よくそんなこと言えるよね。」

「い、今井?」

「な、なんで、そんなに怒ってるの~?」

 

 リサは拳を固く握りしめ、プルプル震えている

 

 その瞳には涙が溜まっていて

 

 悲しみと怒りが混在したような表情を浮かべてる

 

リサ「何不自由なく楽して生きてるくせに......っ」

友希那「リ......サ......?」

リサ「そりゃ、親に愛されて、当たり前のように温かい家があって、大した覚悟もなく生きてこれたら、楽だろうね......」

友希那「!」

「な......っ」

「それは、言いすぎじゃ......」

リサ「......言いすぎ?」

友希那(ゾクッ)

 

 地を這うような声に、震えた

 

 周りの生徒も、異常な雰囲気に固唾を飲む

 

リサ「何の苦労もなく生きて、大切な誰かのために死ぬほど頑張ったことも無いくせに、環那の人生を侮辱しないでよ!!!」

 

友希那「......!」

 

 重い

 

 リサの言葉は、あまりに重すぎる

 

 誰よりも、環那に寄り添ってきたからこそ

 

 この言葉は、私にすら重すぎる

 

環那「全くもう。必死過ぎだよ、リサ。」

リサ「......っ」

環那「ほら、涙拭きなよ。」

 

 環那はリサにハンカチを渡し

 

 泣き顔を隠すように抱き寄せてる

 

環那「友希那。ちょっとリサ連れて行くよ。出来るだけ、すぐに戻るから。」

友希那「え、えぇ。」

環那「行くよ、リサ。」

リサ「うん......」

 

 そう言ってリサと環那は教室を出て行った

 

 その後の教室の空気は死んだように静かで

 

 誰1人、動こうとしなかった

 

友希那「......」

 

 そんな中、私はゆっくり腰を下ろした

 

 立っていられなかった

 

 あの言葉の重みが、私の立つ力を奪った

 

友希那(......)

 

 クラスメイトの環那への侮辱は、確かに許せなかった

 

 私だって、文句の1つでも言ってやりたい

 

 けれど、リサの言葉を聞いて

 

 自分にその権利がない事を、理解した

 

友希那(私は......環那から奪っただけ......)

 

 時間も、視力も、腕も

 

 全部、私が環那から奪った

 

 環那のお陰で、私の苦労は少なかった

 

 今まで、普通に幸せに生きて来た

 

友希那「......そう、よね。」

 

 私は、クラスメイトに文句なんて言えない

 

 だって、私は、自分の事を気にかけてくれる、都合のいい環那を好きになったから

 

 そう、環那の人生を誰よりも侮辱してるのはクラスメイトじゃない

 

 環那に無条件に尽くされて、それを当然の様に受け入れた

 

 他でもない、私だったから......

 

 

 

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