羽丘の元囚人   作:火の車

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決別

 俺は性分的に計算できないものが苦手だ

 

 この世は数字でほとんどのものを表せる

 

 けど、出来ないものだってもちろんある

 

 それの代表例が、人の気持ちだ

 

環那(......分からないな。)

 

 俺は人の考えてる事は計算できる

 

 けど、気持ちと言う物は計算できない

 

 考えと気持ちは全く違う

 

 気持ちは俺の計算できる次元のものじゃない

 

環那(だから、好きじゃないんだよ。)

 

 喜怒哀楽という集合、その間にある重なり

 

 その組み合わせには限りがあるように見える

 

 けど、その組み合わせには実はそれがない

 

 人の気持ちに実体なんてものはない

 

 喜怒哀楽なんて、それを覆い隠す表皮みたいなものだ

 

イヴ「......カンナさん?」

環那「あぁ、起きたんだね。おはよう。」

イヴ「はい、おはようございます。」

 

 しばらく椅子に座ってると、イヴちゃんが目を覚ました

 

 その姿は布団を巻き付けてるだけで

 

 その下は文字通り、一糸まとわぬ姿だ

 

環那「イヴちゃん。昨夜の事は、分かってるね?」

イヴ「......はい。」

環那「アイドルの若宮イヴは南宮環那にホテルに連れ込まれ、行為を強要された。もしバレたら、そういうことにするんだ。」

イヴ「......でも、それでは......」

環那「いいんだ、これで。」

 

 万が一バレても、これならヘイトは俺に集まる

 

 九十九がいるからそうそうバレることはないだろうけど

 

 予防線を張っておいて損はない

 

環那「それと、近々、イヴちゃん達のグループに仕事を依頼する。」

イヴ「っ!......それでは、まるで......」

 

 イヴちゃんの言わんとすることは分かる

 

 枕営業みたいといいたいんだろう

 

 けど、それはあながち間違えてない

 

環那「......そうしないと、まるで愛のある行為みたいになる。」

イヴ「っ......!」

環那「君は仕事を買うために、体を売った。それだけだよ。」

イヴ「......はぃ。」

 

 彼女からは考えられない程、か細い声だ

 

 それくらい、傷ついてるんだろう

 

 昨晩の彼女は、本当にうれしそうだったから

 

環那「......もう、帰っていいよ。」

イヴ「......はい」

環那「これからは、ビジネスパートナーとしてよろしくね。」

イヴ「っ......はい、よろしくお願いします。」

 

 後ろから、布が擦れる音が聞こえる

 

 恐らく、服を着てるんだろう

 

 申し訳が立たないな、1人の女の子を傷つけるなんて

 

 自分で自分を殺してしまいたい

 

イヴ「さようなら......カンナさん。」

環那「......」

イヴ「本当に、大好きでした......(いえ、今も、まだ......)」

環那「......」

イヴ「何も言ってはくれないんですね......さようなら......」

 

 その言葉の跡、扉が開閉する音が聞こえた

 

 これで、終わりだ

 

 全て、元通りになる、けど......

 

環那「......寒いなぁ、今日は。」

 

 温かい人が去って行くと、途端に寒くなる

 

 ......いや、こうも言ってられない

 

 一番の被害者はイヴちゃんだ

 

 俺は加害者で、罪人なんだ

 

 だから、寒い檻に入るなんて当たり前だ

 

環那「......悪いね。勝手な人間で。」

 

 俺はそう言って、もう一度椅子に座った

 

 どうしようかな

 

 しばらく、羽沢珈琲店には行けそうにない

__________________

 

 “友希那”

 

 朝、浪平先生から連絡が入った

 

 どうやら、環那が一晩帰ってこなかったみたい

 

 一瞬何があったのかと思ったけれど

 

 そもそも、環那をどうこう出来る人類なんて少ない

 

 心配は......

 

友希那(あったわね。)

 

 昨日は確か、若宮さんとのデートのはず

 

 もしかしたら......って、それも杞憂ね

 

 環那にはリサ達がいるもの

 

リサ「友希那ー、浪平先生から連絡来た?」

友希那「えぇ、朝早くに。」

リサ「なんかあったのかな?昨日は出かけてたし......」

友希那「大丈夫よ。環那に限って、何かあったとは考えずらいわ。」

リサ「いや、そうなんだけどさ。」

 

 それにしても、今日は来るのが遅いわね

 

 もう8時20分だけれど

 

 まだ、環那は学校に来てない

 

リサ「それでも、心配っていうか__」

環那「__(ガラガラ)」

友希那、リサ「!」

 

 私達話してると環那が教室に入って来た

 

 やはり、心配はいらなかったみたいね

 

 環那はいつも通り......

 

友希那(いつも、通り......?)

リサ「おはよ!環那!」

環那「ん、あ、おはよー。」

友希那「......?」

リサ「あれ?」

 

 リサと環那が挨拶を交わしたとき、違和感があった

 

 一見すれば、いつも通りに見える

 

 けど、私達にはこの違和感が分かる

 

友希那(どうしたというの?)

リサ(注意散漫と言うか、心ここにあらずって感じがする。)

環那「......」

 

 席に着くと、環那は暗い表情を浮かべた

 

 いつもの笑顔はそこにはなく

 

 まるで、お通夜の時のように

 

 下を向いて、濃い影が顔にかかっている

 

リサ「ど、どうしたんだろ。」

友希那「落ち込んでる......のかしら?」

 

 あんな環那は初めて見たわ

 

 今までは良くも悪くも無感情と言うか

 

 笑みを崩すことは一切なかったのに

 

 今日の環那は、笑みもなく、暗い

 

友希那(若宮さんと何かあったのかしら。)

 

 いや、でも

 

 環那が若宮さんと何かあって、ああなるの?

 

 ......あまり考えられないわね

 

リサ「あれ、ただ事じゃないよね。」

友希那「えぇ。」

 

 聞こうにも、聞ける雰囲気じゃない

 

 1人にして欲しいと思ってるのが分かる

 

 これは、もうしばらくそっとしておかないといけないわ

 

「おっはよー!南宮君!」

「今日くらいねー?テンション上げてこうよー!」

「元気出すために、イイコトしてあげるよ?♡」

環那「......」

 

リサ「うっわ。(また......?)」

友希那(しかも、このタイミングで......)

 

 女子3人が環那を取り囲んだ

 

 やっぱり、こういう女子はまだまだ後を絶たないわね

 

 あんなに拒絶してるし、リサの事もあるのに

 

「ねぇ~、無視しないでよ~。」

環那「......黙れ。」

 

リサ、友希那「っ!!」

クラスメイト「!?」

 

 環那の一言に、クラス中の空気が凍り付いた

 

 その声は、まるで地獄から聞こえたように低くて

 

 私も、恐らくリサも、恐怖を感じた

 

環那「君達みたいな量産されてるような安っぽい女なんて興味ないんだよ。消えてもらえない?」

「い、いや......」

「それ言いすぎ......」

環那「知らないよ。うっざいなぁ。」

 

 環那はそう言って立ち上がった

 

 見るからに怒ってる

 

 今の環那が身に纏ってる空気は、まるで絶対零度のよう

 

環那「......リサ、友希那。」

リサ「か、環那......」

環那「心配しないでね......ちょっと、琴ちゃんのとこ行ってくる。」

友希那「え、えぇ。」

リサ「ごゆっくり~......?」

 

 環那は私達にそう言い、教室を出て行った

 

 その後も、教室の空気は凍り付いたままで

 

 数分ほど、誰一人として口を開けなかった

 

 

 

 

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