「何とか片付いたね」
「ええ…」
銃撃で破損した眼鏡を適当に放り捨てて「疲れた」と瓦礫の上に腰を下ろすイノコに同意するリカ。
周辺には、多くの兵士の死体。
改造人間の少年少女たちは、怪我をしている者はいるが、死んだ者はいなかった。
リカの聴力が、生き残った兵士がいないことを確認する。
「じゃあ、村に帰ろうか?」
イノコは、仲間たちにそう言うと、腰を上げた。
コウとヒムは、バイクに乗って施設に戻ってきた。
「一瞬見えただけなんだけどさ、紅月ウミの記憶が見えたんだ。
俺じゃ意味がよくわからなかったけど、お前なら、わかるんじゃないかと思ってさ」
「お前よりは、頭がよくても、俺はホエールみたいな天才じゃないんだがな」
ヒムの案内のままに歩き、二人は、ジェリーフィッシュが崩壊させた部屋にたどり着いた。
「えっと、たしか、あの辺か」
変身したヒムは壁の一角に飛ぶと、拳を叩き込んだ。隠されていた扉が、吹き飛び、隠し部屋が姿を現した。
コウもヒムの後を追って跳んで隠し部屋の中に入る。そこには無数のガラスの円柱が設置されており、その中はやせ細った人間と液体で満たされていた。
「なんだよこれ…」
「わからん」
二人は、ガラスの円柱から視線を放した。
「「ッ!?」」
気配を感じた二人は、身構えてそちらを向く。そこには幼い女の子がいた。
コウをあの隠し部屋へと導いた女の子だった。
「おまえは…「なんで、お前がこんなところにいるんだ!? それに前にあった時と全然姿が変わってない!?」 王白?」
コウ以上に驚いているヒムがいた。
「こっち」
ヒムの問い掛けに応えず、そう言って歩き出した女の子の後を二人は慌てて追いかける。
二人が導かれた先には、小さな部屋があった。資料庫のようだった。
そして、女の子は一つのファイルを指差した。
コウがそれを手に取り、中に目を通す。
ファイルを見るコウから段々と怒気がはなたれ始め、最後まで見終わると、コウは、ファイルを粉々に砕いた。
「え、えっと、飛虫さん?」
「……紅月ウミは、不死の研究をしていて、様々な人体実験を繰り返したらしい。その数は優に万を超えてやがる。
そして、たどり着いた方法は、クラゲの持つ若返りの力に着目して自身を改造人間にしたらしい。ただ、クラゲの力を持っても元々が人間だったこともあって完全な若返りができなかった。次の取った手段が、クローニングだ。自身のクローンを用意して、そこに自身の知識や記憶を埋め込む。
クラゲの特性のおかげで細胞の劣化もなかったらしい。問題は、成長速度の速さだったらしいが、さほど問題視していないみたいだな。
お前が会ったっていう女の子は、さっき俺たちが倒した紅月ウミで、そこの紅月ウミは、次の紅月ウミだ。
この資料通りなら、肉体が成熟してからじゃないと知識や記憶を埋め込めないらしいから、まだ、ただ成長の早いガキだけどな。
で、さっきのあれだけどな。あれは紅月ウミがクローンを作り出すためのエネルギーを得るための餌らしい」
「難しい話は分からなかったけど、その子はまだ、紅月ウミじゃない。んでもって、本物の紅月ウミがまだ生きているってことで、さっきのは人を食っているってことだな?」
「ああ」
「だったら、することは一つだな」
「ああ」
変身している二人には、薄暗いこの隠し部屋など、昼間のようによく見えた。
そして、資料庫の反対側、隠し部屋の奥の方に息を殺している巨大で醜悪な存在に視線を向けた。
「これで終いにするぞ。いい加減、限界だ」
「同感!」
女の子を資料室へ押しやり、二人は、クローンを生成するためのケースも、餌にされた人間が入っているケースも次々と破壊し始めた。
「Giiiiiiiiiiiiiiieeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee」
醜悪な怪物が奇声を発し、触手を伸ばして二人を止めようとするが、そんなもので二人は止められない。すべてのケースを破壊し、残った紅月ウミと対峙する。
言語できない奇声を上げ、触手が二人を襲う。
「そんな姿になって、言葉まで失って…不死って、哀れだな」
「アレに知性はない。知性のある紅月ウミは、俺たちが殺した。アレは、クローンをつくる為に生かされているだけの、モノだ」
「Ogyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa」
床に転がったミイラたちが突然、動き出して二人に襲い掛かる。
「うわっ、なんだよこれ!?」
「よく見ろ、首にヤツの触手が刺さってる。そこから、神経を操って動かしているんだろうな。何度か見たが、その時は、統制が取れた動きをしていた。
たぶん、あの時はクローンが操っていたんだろう。
こいつの場合は、ただ、自分の命を狙ってくる敵を排除するために本能で、動かしているだけだ。恐れるに足りないな」
襲い来るミイラたちを難なく倒した二人の複眼が発光し、マスクが展開する。
二人が同時に飛び出し、コウが怪物の下に潜り込むように入って担ぎ上げた。
「おおおおおっ!!」
そして、投げ飛ばした錐揉み回転する怪物の上の跳んだヒムが、コウと同じモーションで、ただし、逆向きに空投げをする。
「でりゃああああああっ!!」
右回転と左回転、反発する二つの力に晒され、醜悪な怪物・紅月ウミは粉々になって消滅した。
ヒムとコウは、向かい合うと、二人そろってそのまま、仰向けに倒れた。女の子が心配そうにのぞき込む。
「もぉ、だめだ…」
「くそ、一歩も動けねぇ」
コウとヒムは、女の子が連れてきたハクたちに助けられた。
それから、コウのバイクに仕込んでいた通信機を使ってミヤコと連絡を取り、ミヤコが組織の人員を連れてきた。
ハクたちを保護し、神台村はそのまま組織が管理することとなった。
神台村で住んでいた大人たちは、ヒムとコウの二人が倒したミイラたちだったらしい。
「やっぱ、俺も一緒に行く」
「ここを、あいつらを、守るんだろう。防衛型ガーディアン?
攻めるのは、俺に任せておけ」
「でもよぉ」
施設で手に入れたバイクに跨ったコウにヒムが心配そうに声を出す。
戦いが終わり、一週間が過ぎている。
ヒムは仲間を守り、これからも救われるであろう改造人間が安心して暮らせる場所を作る為、神台村に残ることを決めたのだが、いざ、コウが出発しようとすると、言いようのない不安を覚えてしまった。
「俺とおまえは、同時運用を前提としている。お互いのピンチは、わかる。
お前がピンチなら、俺が駆けつける。俺がピンチの時は、お前が駆けつけてくれ」
「おう、任せてくれ!」
コウが右拳を出すと、ヒムも右拳を出してコウの拳に当てた。
「じゃあな。ヒム」
「ッ!? おまえ! ああ! またな、コウ!!」
発進したバイクをヒムは手を振って見送った。
これにて、完結となります。
ただ、書きたいと思ったことを書きたいように書いた駄作ですが、ここまで読んでくださった皆様に深く感謝いたします。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。