野営しようとしていた場所に戻ると、イノコが待っていた。
「良かった無事だったんだな!」
「おう!」
先ほどまで暗い表情をしていたヒムだったが、イノコの元に戻ったころには、いつもの明るい表情に戻っていた。
それがカラ元気だと、コウはわかっていたが、あえて何も言わなかった。
「あ~、腹減った! コウ、飯まだ?」
「あいつらが来て、飯の準備どころじゃなくなったんだよ。すぐ作ってやるから、お前も、もう一度、水汲みに行ってこい」
ヒムが自分のことをファーストネームで呼んだことについては触れず、命令を出した。
「ええ~」
「……」
不満げな声を上げるヒムだったが、コウの無言の圧力に屈して再び水汲みに向かった。
「いつの間に仲良くなったのさ」
「知るか」
ヒムが見えなくなると、イノコが喜々としてコウに話しかけてきたが、コウはそれをバッサリと切り捨てて調理を開始した。
「僕もコウって呼んでいい?」
「やめろ」
料理の手を止めずにイノコを睨みつける。
「ヒムだけずるくない?」
「……」
それ以上、コウは返事をすることなく料理を作り、ヒムが返ってきたころには、食欲をそそる薫りが漂っていた。
「ったく、バケツ探すのに、時間かかった! なんかいいにおいがする! マジで腹減った!!」
「どんだけ欲望に正直なんだよ…」
喚きながら戻ってきたヒムに、コウとイノコはため息をついた。
それから、コウは作った料理をよそって二人に振る舞う。
「「うまっ!?」」
翌日からも、バイクで走り続けた三人は、スパイダーとカメレオンの襲撃以降、襲われることもなく、ついに神台村にたどり着いた。
そこは、ヒムの記憶にある村と変わらず、時代に取り残されたような畑と森のある誰もが想像するような田舎の村だった。
「ふぅ、ようやくついたな!」
「疲れたぁ…」
バイクから降りて凝り固まった体をほぐすヒムやイノコ。
バイクにまたがったままだが、コウも大きく息を吐いた。それから村全体を見回し、違和感を覚えた。
それが何なのか、思考を巡らせる。
もう一度、村を見回してから、コウはバイクのアクセルを吹かして村に爆音を響かせた。
「うわっ! コウ、どうしたんだよ?」
「誰も出てこない……」
「え?」
コウの言葉にヒムもイノコも村を見回す。
コウがもう一度、アクセルを吹かすも、やはり誰も出てこない。
「急にバイクが入ってきて、警戒されちゃったのか?」
「それなら、それで、窓や隙間からこっそり様子を窺ったりするだろう? それすらない」
コウの様子に二人も周囲を警戒する。
「とりあえず、じいちゃんチに行ってみないか?」
ヒムの提案に頷き、三人はヒムの祖父の家へ向かった。何年も来ていなかったため、うろ覚えだったが、王白の表札を発見した。
インターホンがないため、ヒムが戸を叩く。
「じいちゃん! 俺だ。ヒムだよ! 遊びに来たんだ!」
だが、戸の向こうからは、何の反応もない。
「じいちゃん!!」
もう一度、ヒムはノックするも、やはり反応はなかった。
「どけ」
コウが、ヒムを押しのけて戸の前に立つと、戸を掴んで力任せに引いた。
鍵が壊れるバキッという音共に戸が開いた。
「ちょ、ちょっと、コウさん!?」
「まずいよ、飛虫! ヒムのおじいさんが帰ってきたらどうするのさ!?」
「何度も声をかけるも返事がなかった。高齢だったから、もしかしたら中で倒れているのかもしれないと思ってやった。
緊急事態だと思ったんだ」
慌てる二人に、とても緊急事態だと思っているとは思えない態度で応えて中に乗り込む。
「そ、そうだよな! 緊急事態かもしれないもんな!」
一緒にいた故に連帯責任になりそうだと思ったヒムもそれに同調して自分を納得させるように何度もうなずいてそう言うと、中に乗り込んでいく。
最後に残されたイノコは、チラリと周囲を見てから、二人の後を追いかけた。
さほど広くない祖父の家を探し回ったが、倒れた老人はいなかった。それどころか、屋内は、埃がたまっており、年単位で人がいた様子が見られなかった。
「どうなってんだ?」
「わからん」
「ケホケホ、と、とりあえず、ここを出ようよ。埃っぽくてかなわない!」
三人は、外に出るが、入った時と同じく、誰もいなかった。
それから、他の家を回って見るも、ヒムの祖父の家のように埃まみれではなかったが、どの家も、もぬけの殻だった。
「王白、お前の言っていた女の家はどこだ?」
「えっと……あ、あそこだ!」
コウの問いに、ヒムは周囲を見回す。
自分の遠い記憶の中にある山中の家を探し、村の周囲を囲む山の一角を指差した。
その方向には、小さく青い屋根が見えた。
バイクで向かおうとしたが、山道は、とてもサイドカーで走れそうなほどの広さのある道幅ではなく、そこまで険しくなかったがヒムの運転技術では、転倒すること間違いなしと判断し、結局徒歩での移動となった。
三人が登り切ったそこには、朽ち果てた門と一切の手入れがされず、ツタが伸び放題になった家があった。
「行くぞ」
コウが先導して家に入って行く。
先ほどのヒムの祖父の家は、まだ、掃除をすれば人が住めそうだったが、この家は廃墟とか廃屋と呼ぶのがふさわしそうな状態だった。
「何にもないじゃないか」
期待外れだと言いたげにイノコが声を漏らした。だが、ヒムは何かを感じていた。
「下?」
「お前も感じたか?」
感じ取った何かの方向を追いかけていくと、下からそれが漏れていた。ヒムのつぶやきに、同じものを感じ取ったコウも同意する。
「下って言っても、階段なんてどこにもなかったぞ」
「どこかに隠し通路があるかもしれない」
コウが床に手を付いて、頭だけ変身した。そのまま、ゆっくりと四つん這いで進み、廊下の途中で止まった。
「ここか」
その周辺を調べると、物や植物に隠されるようにして取っ手を発見した。
「おお、隠し扉!」
無邪気なことを言うヒムを、頭を人間に戻したコウは小さくため息をつき、手招きする。
「任せた」
そう言って場所を譲ったコウをヒムは軽く睨んだ。
「力仕事ばっかり俺に押し付けるなよ」
「お前の方が、力があるのは事実だ」
コウは、ヒムの睨みに対して「早くやれ」と逆に睨み返す。
眉をひそめたヒムだが、おとなしく促されるままに取っ手に手をかけ、力任せに引っ張った。
「重っ、ふぅぬうううううううっ!!」
予想以上に重たかった隠し扉を変身してこじ開けると、梯子がついていた。中は暗く、そこが見えない。
「奇襲はなしか」
「き、奇襲!?」
「開けて無防備なところを、攻撃されるかと思ったんだがな」
「そんな危ないこと、俺にさせてったのかよ!?」
「逆だ。危ないからこそ、お前に開けさせて、万が一攻撃されたら、俺のバリアで防ごうと思っていたんだ」
「先に相談しろ!」
「したら、文句言うだろ、おまえ」
「うぐっ」
「そんなことよりも、早く降りよう」
イノコに急かされて、コウ⇒イノコ⇒ヒムの順で、降りることとなった。
変身したコウが、飛び降りるように梯子を滑り降り、イノコが続いて梯子を下りる。最後に恐る恐る変身したヒムが梯子を下りる。
「変身してても暗くてよく見えないなぁ」
「どこかに電気とかないかな?」
「おい、動きまわッ!?」
「「うわっ!?」」
突然、さっきヒムがこじ開けた隠し扉が閉められた。
驚く三人の足場がガタガタと音を立て、壁がせり上がる。
「「ッ!?」」
咄嗟にヒムとコウは、真ん中にいたイノコの方へと跳ぼうとするも何かに阻まれてはじき返された。体勢を立て直した頃には、壁が完全に、三人を分断していた。
「ちょ、マジか!? イノコ! コウ!」
壁に向かって叫ぶも返事は聞こえない。
「こぉのっ! ってええええっ!?」
壁を殴って破壊しようとしたヒムだったが、ヒムの拳でも壁を破ることはできず、拳に激痛が走った。
「ッ!?」
どうするか考えていると、急に明るくなった。
自分たちのいた場所は、そこそこの広さがあり、ホールのようであった。周囲を見回すと、扉が開いており、通路が見えた。
「進めってことか?」
罠の可能性を考えたが、ヒムは覚悟を決めて、ゆっくりと警戒しながら、歩みを進めていく。
「分断されたか」
コウは、軽く壁をノックして硬さを確かめる。自分の力じゃ破れないと判断し、周囲を見回す。
進む以外に道はないと判断し、ホールを出ようとしたところで、明りがついた。
「招待されているようだし、遠慮なく進ませてもらおうか」
通路を進んでいく。
何度か曲がり角を通過して、コウは、一つの扉の前にたどり着いた。
「ここがゴールってわけか」
扉を前にして、大きく拳を振りかぶり、振り抜いた。変身したコウの腕力で扉は、接続していた金具が弾け飛び、中にたたずんでいた存在に激突した。
だが、その存在は、扉が激突しても、何も感じていないかのように微動だにしなかった。
「刺激的なノックありがとよ」
「軽くたたいただけで、吹っ飛んでいったぜ。もう少しちゃんとした扉を付けた方がいいんじゃねぇか?」
「じゃあ、てめぇらを血祭りにあげたら、そうさせてもらうぜ!!」
室内にいたのは、巨漢。サイの異形は、右足で床を数回擦ると、凄まじい速さで突撃してきた。
コウは、その突撃を躱しつつ、横っ面に蹴りを入れた。
「ッ!」
「あ? 痒いぞ、もっとまじめにやれ」
ぼりぼりと、コウに蹴られた場所を掻きながら、ライノスは平然と言い放った。その仕草は、本当にダメージを受けていない様子だった。
逆に攻撃したコウは、足のしびれを感じていた。
「やっぱり、力があるっていう、もう片方の方がよかったぜ」
「……」
ぼやくライノスの一挙一動を注視する。たった一度の攻防で、コウは自身の攻撃力でライノスを倒すのは難しいと認識した。
だからと言って諦める気は、全くない。
今度は、コウの方から仕掛ける。バッタの跳躍力を持って接近しての連続攻撃。
「うぜぇ!」
「くっ!」
硬い装甲で守られたライノスには、コウの攻撃は一切効果を見せず、振り下ろされた拳の一撃を回避するために、距離を取ってしまった。
その直後、ライノスの突進が迫る。先ほどと違い予備動作など一切なしに繰り出された大型車両が全速力で突っ込んで来るかのような突進。
(回避、出来ない)
サイコバリアを展開して受け止めるのではなく、受け流そうとするも、ライノスの突進にコウの全力のサイコバリアは、簡単に破壊された。突っ込んで来るライノスに咄嗟に後方へ飛んでダメージを少しでも軽減しようとするも、ライノスがぶつかった胸部から骨が砕ける嫌な音がコウの体の中で響く。
ライノスは、コウの身体をそのままに走り、壁に激突した。
「ガフッ!!」
ぶつかった壁もライノスを止めるに至らず、ライノスは壁をぶち破って隣の部屋へと入り、そのままさらに壁をぶち破った。
何枚もの壁をぶち抜き、ライノスはようやく止まった。
慣性の法則により、コウの身体だけが、ライノスの突進の勢いのまま、吹っ飛び、薄暗い部屋に転がった。
(腕は? 動く。
足は? 感覚がない、時間が必要だ。
なんとか心臓は守れたが、他の部分のダメージは無視できないレベルだな。
……どうやって勝つ?)
ほとんど動かない体で、コウは、勝つ方法について思考を巡らせていた。
霞む視界に何かが映った。
(なんだ? ライノスか?)
一瞬、ライノスかと思ったが、明らかにサイズが違う。
(おん、な…のこ?)
それは、4.5歳くらいの女の子だった。
圧倒的な力の差を見せつけられたコウの前に現れた女の子。
コウが己を自覚した時、真の力が目覚める。
そして、二人と離れ離れになってしまったヒムは、思いがけない出会いをする。
次回 Double Guardian 第五話 「自覚」