Double Guardian   作:nonota

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第五話 「自覚」

 

 

「ゴフッ、カヒュ……」

 

なんでここに子供がいるんだと、声を出そうとしたが、コウの口からは、血とかすれた息しか出てこなかった。

 

「こっち」

 

女の子は、バッタの異形に恐怖する様子もなく、手招きする。

敵の罠? 死にかけた自分のみている幻覚? そんな言葉が、脳裏をよぎる。

 

「どこに行ったぁ!? 隠れていないで、出てこい!」

 

(隠れてねぇよ。ああっ、もう、罠だろうが幻覚だろうが、どっちでもいい! ついて行ってやるよ!)

 

そんな思いで、コウは何とか動く腕を使って匍匐前進で女の子の後に続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女の子に導かれてたどり着いたのは、隠し部屋だった。

改造人間故の回復力をもってしても、下半身が治りきらず、匍匐前進で進んでいたからこそ、入り口に気付けたし、入れた。それくらい小さく、そして隠されていた。

 

「くゥッ…」

 

歯を食いしばって、何とか起ち上がり、部屋の中を確認する。

デスクの上に乱雑に置かれた書類。

ガラスケースのようなモノに収められたライダースーツのようなプロテクターのついた服とバッタのようであり、骸骨のようにも見える意匠の口の部分が開いたフルフェイスマスクが、二組あった。

 

「……なんなんだ、ここは?」

 

振り返り、女の子の方を向くも、女の子の姿はどこにもなかった。

コウは狐につままれた気持ちだった。

近くにあった書類を手に取り、主題に目を向ける。

 

「超能力による身体強化?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここかぁ!!」

 

派手に壁をぶち抜いてライノスが、コウのいる隠し部屋に現れた。

 

「…遅かったな」

 

ケースに収められていたライダースーツを着たコウが、静かにライノスを見返す。

その姿にライノスは、違和感を覚えた。少し前に自分に手も足も出ないまま…いや、手も足も効果を出せずに一方的に潰されたはずなのに、恐怖している様子も、怯える様子が見られない。

自分が反逆者を見失ってから、今まで、一時間と経っていない。

それなのに、起ち上がれるまで回復しているその回復力に驚くも、そんな短期間に自分よりも強くなれるとは思えない。

そんなライノスを横目で見つつ、コウはフルフェイスマスクを取り出して、被った。

 

「ずっと違和感は、あったんだ」

 

「あ?」

 

「俺は、肉体改造に批准を置いた変身可能な改造人間なのに、脳改造に批准を置いた改造人間のように超能力が使えた」

 

「舐めてんのか?」

 

ゆっくりと語りだしたコウをライノスは、にらみつけ、突進の予備動作に入った。

 

「悪いな、どうしようもなく昂っててよぉ……」

 

コウは拳を握り、腰を落としてライノスと対峙する。

ライノスは、その姿に驚きの感情を、次いで笑いの感情を覚えた。

目の前のムシケラは、ただ、玉砕する事を覚悟して、対峙しているだけなのだと。

ついさっき、自分に完封されたのに、あの余裕のある様子も、ここの装備に手を出したのも、全て見掛け倒しだ。

たぶん、あのスーツの中身、反逆者の身体はボロボロで、それを隠すために体よくあったあのスーツを着たんだ。自分にこの俺の意識を向けさせておくことで、他の仲間が生き残れる可能性を少しでも上げようとしているんだ。

ライノスは、そう結論付けて、突進しようと一歩目を踏み出した。

 

「先に言っておく。今の俺は、加減が分からないぞ」

 

その声が届くか届かないか、音を置き去りにするそんな疾さでコウは、ライノスの横面に、拳を叩き込んだ。

 

「ッ!?」

 

ほんの一時間くらい前なら、殴ったコウの拳が砕けていたはずなのに、今の一撃は、ライノスの突進の進行方向を変えさせたのだった。

強制的に方向を変えさせられたライノスは、そのまま、隣の部屋へと壁を突き破って止まった。

 

「てめぇ、何しやがった」

 

「ただ殴った」

 

とてもシンプルで簡潔な答えだった。だが、そんな返答で納得できるわけがなかった。

ライノスにとって自分の装甲と突進力は、自慢であり、誇りだった。それを虫けらごときに止められたことに、プライドが深く傷ついた。

 

「笑えるよな。あいつがパワータイプで、俺がテクニックタイプだと思っていたら…」

 

コウは、ボクサーのようなファイティングポーズをとると、まるでマシンガンのように高速のジャブがライノスに襲い掛かる。

 

「ぐ、ぐううううっ!?」

 

強固な装甲を持つが故にガードすることのなかったライノスが、とっさに顔を守る。

一発一発は、確かに強くなっているが、耐えきれないほどではない。

だが、その連打が10、20と終わりなく叩き込まれる。

 

「う、うおおおおおっ!!」

 

ライノスはダメージ覚悟で、コウに突進する。その攻撃を待っていたかのように合わせて放たれたコウの右ストレートが、顔面に突き刺さった。

 

「ぎゃがあああああああっ!?」

 

長らく、痛みとは無縁な日々を送っていたライノスは、鼻と口を砕かれて絶叫した。

両手で顔を抑えて、見上げた先には、天井に張り付き、こちらを見上げるコウの姿があった。

 

「ッ!?」

 

コウと目が合った瞬間、ライノスは足元から這い上がってくる今まで感じたことのない感情に支配される。

コウが、天井がひび割れるほどの力で下に向かって跳躍した。

身体を反転させて、右足をライノスに向けて突き出す。

足がライノスの喉に突き刺さり、そのまま、突き破った。

首を失ったライノスは、そのまま、仰向けに大の字になって倒れた。

ライノスは、先ほど感じた感情が、死への恐怖だったのだと、自分の身体を見ながら、思い、逝った。

 

「あいつを探さないとな……」

 

コウは、倒れたライノスを振り返ることなく、部屋を出た。

 

「テレパシーは、ジャミングされているな……どこにいるんだ?」

 

そんなことを呟きながら、歩くコウのすぐそばの壁がぶち破られた。

 

「ッ!?」

 

敵かと身構えたコウの前に現れたのは、変身したヒムだった。

 

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!」

 

「暴走している!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒムは通路を歩き始めてしばらく経つも未だにゴールが見えないことに苛立ちを感じ始めたころ、ようやく一つの扉にたどり着いた。

ドアノブを回すと、あっさりと開いた。警戒しながら中に入る。

 

「遅かったわね」

 

思わず聞きほれてしまいそうな声に、ヒムがそちらを向くと、ヒムたちと同じ年頃の少女がいた。

 

(ッ!?)

 

その少女の美しさにヒムは、声を失った。

ゆっくりと歩み寄ってくる美少女が、裸であることに気が付いた。

透き通るような白い肌。長く艶やかな烏の濡羽色の髪。スレンダーな体系が少女を幻想的に魅せる。一切隠そうとしない姿にヒムは、魅入られていた。

 

(甘い…匂い……)

 

ヒムの思考に霧がかかっていく。だが、何かをしようと思えなかった。

いつの間にか美少女の背中から、白い美しい羽が生えていた。

 

「フフフ、あなたは、もう私の、と・り・こ♡ さぁ、私のおねキャアッ!?」

 

妖艶に微笑んで、ヒムの顔に触れた美少女にヒムは鋭い爪を振り下ろした。

 

「な、何!?」

 

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa」

 

獣の咆哮とでも言えばいいのだろうか、雄叫びを上げたヒムは、所かまわず、腕を振り回して暴れ出した。

脳改造を受けていないヒムは、コウにサポートしてもらったり、自身の超能力で自我を保っている。それを奪われれば、暴走は当然の結果だった。

 

「ちょ、ちょっと、何よこれ!? 聞いてないわよ!!」

 

ヒムはそのまま、壁に爪を突き刺し、引き裂き、美少女のいた部屋を飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また、暴走したのか? 運がいいな。

訓練していた時と違って、今日はすぐに鎮圧してやるよ」

 

両腕を振り回して迫ってくるヒムに笑みさえ浮かべてコウは、対峙した。

 

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

振るわれる四本の腕をいなし、コウはヒムの懐に入り込む。

 

「フン!」

 

「GUAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」

 

ヒムの腹部に、コウの拳が容赦なく叩き込まれた。

余りのダメージに暴走していたヒムですら、腹を抑えて蹲ってしまった。その隙に、以前と同じ要領でヒムを人間の姿に戻した。

 

「ったく、こんなところまできて暴走するなよ」

 

文句を言いつつも、気絶したヒムを背負い、隠し部屋へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…んあ……あれ? 俺、どうしたんだっけ? いってぇ、なんでかわかんねぇけど、腹が痛い」

 

意識が戻ったヒムは、腹を抑えながら、起き上がる。

デスクに座って片っ端からファイルを開いて中を見て、凄い速さでページをめくっているコウがいた。

 

「知るか」

 

ヒムの腹痛の原因であるはずのコウは、それをおくびも見せずに切り捨てた。

 

「コウ?」

 

「暴走して暴れていたから、止めさせてもらったぞ」

 

「え? あ、ありがとう…

あれ? コウ、なんか服、代わってないか?」

 

「安心しろ、おまえの分もある」

 

そう言って、部屋の反対側を指差す。そこには、ヒムの着ている物よりも色の薄い似たモノが入っていた。

 

「なんで、俺の分があるんだよ?」

 

「…よく聞け。組織は、俺とおまえを結構重要なポジションにするつもりだったらしい」

 

「は?」

 

戸惑うヒムに見せつけるように手に持っていたファイルを振る。

 

「この紅月ウミって科学者の書いているモノが本当なら、俺はG1(ガーディアン1)というコードネームで、改造テーマは攻勢型ガーディアンだったそうで、おまえはG2(ガーディアン2)というコードネームで、改造テーマは防衛型ガーディアンだったらしい」

 

「こうせいがた? ぼうえいがた?」

 

「俺が攻撃特化型で、お前が防御特化型だったってことだ」

 

「え? でも、俺の方がパワーあるじゃん」

 

さっき、もっと強く殴ってやればよかったと内心思いつつも、出来るだけ平常心でコウは話を続ける。

 

「元々、バッタには、戦闘能力の他にも、潜在的に強力な回復力や超能力があったらしい。

俺はホエールに超能力のレクチャーを受けていたせいか、テレパシーやサイコバリアに念動力といった感じのことしかできないと思い込んでいたが、どうやら俺にとってそう言った能力は副次的なモノで、本来の能力はその超能力を自身の物理的戦闘能力の強化にあったらしい」

 

「ゴメン、意味が全然分かんない。つまり、どゆこと?」

 

コウは、痛くなった頭を押さえた。

 

「俺は超能力を正しく使うと力が強くなったり、速くなれるってことだ」

 

「へぇ……ってスゲェじゃん!!

なら、なら俺は!?」

 

身を乗り出してくるヒムが、理解できるように説明する方法を考えつつ、コウは話す。

 

「おまえは、本来、防御能力に批准が置かれている。つまり、ガードが得意ってことだ。

俺が使うのよりももっと強力なサイコバリアができるはずだし、超能力も俺よりうまく使えるはずだ。この資料によれば、物理的防御…殴るや蹴るみたいな攻撃だけじゃなくて、精神的防御…精神攻撃にも強力な耐性があるはずらしいんだが……ムリか」

 

コウは、これを読んだことで、自身の中にあった嚙み合わない何か(超能力の使い方)を解消することができた。だが、ヒムの頭でこれが理解はできないだろう。

さて、どうするかと思考を巡らせようと思ったところで、ふと疑問が浮かんだ。

 

「そう言えば、なんで暴走したんだ?」

 

「え? え~っと……そうだ、コウたちと離れ離れになって、通路を進んでいったら、部屋があって、そこですんごい可愛い女の子に会ったんだよ。

ミヤコさんが女神なら、あの女の子は天使か妖精だなぁ…

あれ? そこから先が思い出せないな」

 

「ホエールが女神? ハッ! あり得ねぇ……

たぶん、その女に精神攻撃を受けて、自身の制御ができなくなったんだろうな」

 

コウは、ヒムの話を聞き、推測を立てる。それから思い出したかのように残されていたスーツとマスクを指差した。

 

「ああ、そうだ。そこにあるスーツとマスクをつけろ。俺たち専用の強化服らしい。

安心しろ、変な装置だとか細工はなかった」

 

「あ、うん、わかった」

 

コウに何があったのかを説明していた時に思い出した美少女のことで、何か引っかかりを覚えた。美少女の全裸は、とりあえず置いといて、顔だけ思い出す。

 

(凄く可愛かった…

あ、そう言えば、この村に、同い年くらいでかわ……)

「あああああああああ!!」

 

「ッ!? うるせぇぞ!」

 

「思い出した! あの子! 糸文ハクちゃんだ!」

 

「あ?」

 

「さっき、俺が見たって言った女の子、ここに住んでた女の子で、名前が糸文ハクっていうんだ」

 

迷惑そうな顔をしていたコウの表情が、ヒムの話を聞いて真顔へと変化していく。

 

「……おまえ、ここで待ってろ」

 

そう言って出て行こうとするコウの尋常じゃない気配に、思わず、ヒムはコウの手を掴んで止めた。

 

「どこ行くんだよ?」

 

「敵を倒してくる。俺のサーチに引っかかった」

 

「なら、俺も行く」

 

「お前は、洗脳されたダメージが抜けきってない。ここで休んでいろ」

 

コウはヒムの手を振りほどいて部屋に押し込もうとするも、ヒムは踏ん張ってそれに耐える。

サーチに引っかかったというのもウソだと確信していた。

 

「……敵って、ハクちゃんの事だろ? 倒すって、まさかおまえ!?」

 

「……」

 

コウの力が弱くなり、ヒムはたたらを踏むも、コウの襟首を掴んで怒鳴った。

 

「ダメだ。絶対させねえ!」

 

「なら、どうする気だ? 説得でもするか? ボクはキミとは戦いたくないんだってか?

俺やお前みたいに最終段階に行ってないなんて、甘い想像してんじゃねぇぞ。間違いなく、その女は最終段階まで改造されている。

組織の指示なら、お前を殺しに来るぞ」

 

「俺が、俺が何とかしてやるよ!」

 

「なんとかって、どうやって!?」

 

「それは……」

 

勢いで怒鳴ったが、考えなんてない。視線を巡らせたヒムの目に、先ほどまでコウが読んでいた書類が目に入った。

 

「口先だ「あれだ! お前がさっきまで読んでたヤツ! アレに何か書いてあんだろ!!」 だったら、お前が自分で探せよ」

 

「俺に書いてあることの意味が分かるわけないだろう!!」

 

「……結局他人任せとか、自信満々に言って良いセリフじゃねえぞ」

 

書類を指差すヒムに、舌打ちしつつも、書類に目を通し始めた。

あの日、諦めを口にしたコウだって、救う術があるのなら、探したいそんな思いが心のどこかにあったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

ファイルを次々と読み進める。そして、ピタリと手が止まり、少し前に読んだファイルを再び目を通す。

 

「あった…」

 

「ヨシ!! で、どうするんだ!?」

 

「いや、正確に言うと、上手くやればできるんじゃないかと思われる、だ。

防衛型のおまえには、精神攻撃に対してカウンター・ハックができると予想されている」

 

「?」

 

「…精神攻撃してきたやつに対して、お前はそれをやり返せるってことだ。

これが正しければ、精神攻撃を仕掛けている間、攻撃している側は、反撃に弱いらしい。

ボクシングのカウンターパンチは、わかるか? あれの精神バージョンだ」

 

「へぇ、それで俺はどうすればいいんだ?」

 

本当にわかっているかどうか怪しいが、先を促されたコウは、説明を続ける。

 

「前にも話したが、改造人間は、三段階の改造を受けるんだが、三段階目で組織に忠誠を誓う人格を植え付けているそうだ。

向こうの精神攻撃に対して、お前はカウンター・ハックして作られた人格を何とかすることができれば、元の人格に戻すことができるかもしれない」

 

 

 

 

 

 

 

 




昔、神台村に遊びに来た時に遊んだ友人・ハクを救うべく、ヒムはコウの手を借り、一人行く。
そこで知る過去が何であろうと、腹を決めた男は止まらない。

次回 Double Guardian 第六話 「心界」
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