Double Guardian   作:nonota

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第九話 「発光」

 

 

「これからだが……王白、こいつら連れて、脱出しろ」

 

コウは、施設内で回収した栄養ブロックを口にしながら、ハクたちを指差して同じように栄養ブロックを食べていたヒムに命じた。

 

「え?」

 

「月海、テレパシーでここの見取図と、ここのトップがいる場所を送れ。俺はそいつを殺りにいく」

 

立ち上がったコウが、早くしろとイノコを急かす。

 

「勝手に決めんなよ。みんなで行動した方が、安全だろ?」

 

「ダメだ」

 

「どうして?」

 

「それは、ッ!? そこ!!」

 

詰め寄るヒムを突き飛ばし、コウは、変身すると、サイキックバリアを展開し、手刀を振るった。

その場のほぼ全員が、コウの突然の奇行に目を見開く。

その中で、コウは床から何かを拾うと、見せるように突き出した。

 

「なんだ? 髪の毛か?」

 

コウの持つそれを見てヒムは首を傾げた。

 

「今、これが、通気口から出てきて、俺たちの方に近づいてきていた。糸文の操っていたやつらの中にもこれが付いている奴らがいて、急に動きが良くなった。さっき俺が戦っていたヤツにも付いていて、殺したはずなのに、動き出した」

 

「どういうことだ?」

 

「わからない。だが、これが良い物じゃないことはわかるだろう?」

 

ヒムが、村の仲間たちに問うも、誰一人として、それが何なのか、それを操ったのがだれなのか、わからなかった。

 

「感知能力の低いやつを守りながらみんなで一緒にこの先に行くなんて無理だ。さっさと、ここから脱出しろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コウと別れたヒムは、イノコの案内で施設から脱出しようとしていた。

改造人間を生産するための開発場兼、実験場兼、訓練場であったこの施設には、もう、改造人間が残っていないのか、銃火器で武装した兵士が向かってくるが、改造人間である少年少女たちの敵ではなかった。

 

「ヒム、もう少しで出口だ」

 

「そうなのか! よし、みんなもう少しだ。頑張れ!」

 

イノコの報告を受けてヒムが、仲間たちに声をかける。

 

「ヒム」

 

「なんだよ?」

 

再び声をかけてきたイノコに、振り返ったヒムの額にイノコの人差し指があたった。

 

「うわっ、なんだよ!?」

 

「飛虫の方に行きなよ。気になってるのが丸わかりだよ。

飛虫に情報を伝える時にこっそり、マーキングしておいたんだ。

で、今、ヒムの頭に、その位置情報を送った」

 

「……でも」

 

「こっちはもう大丈夫だよ。もうゲートは目の前だし、こっちよりも、向こうの方がきっと、ヒムの力を必要としているはずだから」

 

「……わかった。みんな、ゴメン! 俺、飛虫のところに行ってくる!」

 

そう言って走り出したヒムにハクたちは、いってらっしゃいと送り出した。

ヒムを見送ってしばらく間をおいてから、イノコは息を吐いた。

 

「ふぅ……行ったね」

 

それから、ハクたちの方を振り返った。

 

「何人かは、わかっているみたいだけど、止めなかったね」

 

「ヒムくんが、彼のことを心配していたんだもん」

 

イノコの言葉に、ハクが笑って答え、後にいる少年たちも笑ってうなずく。

 

「そっか」

 

イノコも笑い。それから真面目な顔になった。

 

「もう少しでゲートであることはウソじゃない。でも、施設の中だから、敵も気にしての武装だったけど、ゲートを出れば、それを気にする必要がなくなる」

 

少し進むと、ゲートが見えてきた。

 

「うわぁ、バズーカ砲や爆弾なんかも用意しているよ」

 

ゲートに近づき、外の様子を超能力で探ったイノコは困ったように笑う。

 

「御行儀良く待っていてくれているみたいだけど、だからってこっちも、御行儀良く、ゲートを開ける必要はないよね」

 

そう言って、イノコはゲートに手をかざす。バキッという音と共にゲートが枠ごと外れ、外で待機していた兵士に向かって飛んでいった。

 

「あとは、各自、命を大切にね」

 

その言葉を聞くか聞かないか、異形の姿へと変身した少年少女たちは、飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

通路を進むコウは、通路に立つ存在に気が付いた。

自分は前を見て進んでいたというのに、いつの間にか立つソレに今まで気が付かなかった。そんなことが起こるわけがない。超能力によるジャミングの気配もない。カメレオンのように保護色で隠れたいたわけでもない。

何をしたのかわからない。

警戒心を強め、それを注視するコウの目の前にソレは現れた。まだ、10m以上離れていたはずのそれが、一瞬でコウの懐に入ってきたのだ。

 

「ッ!?」

 

「おっそ」

 

小ばかにするように笑うチーターに、コウは反射的に攻撃を繰り出すも、いつの間にかチーターは消え、先ほどの位置にいた。

 

「なるほど、速いのか」

 

コウは、腰を落とし、構えた。

合図はなかった。

ほぼ同時に高速で動き、瞬きをする一瞬で二人の立ち位置が入れ替わっていた。

 

「クッ!」

 

コウが脇腹を抑える。

 

「あの方に見初められただけあって結構速いけど、その程度? 期待外れなんだけど」

 

あからさまに肩を落とすチーターに、コウは再び加速して襲い掛かった。

 

「おおぉ、さっきよりはえ~」

 

揶揄うように笑いながら、チーターはコウの攻撃をいなし、反撃の一撃を叩き込む。

 

「がはっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒムは、イノコたちと別れ、コウと合流すべく通路を走っていた。

コウの強さは知っている故に、焦る必要なんてないと思っているのに、何故か足は速くなるばかりだった。

 

「オラあああああああああっ!!」

 

「うわっ!?」

 

突然の怒鳴り声と共に、壁が破壊され、そこから現れた存在の体当たりをヒムはギリギリで回避した。

 

「外したか! んじゃ、もっかい! どすこおぉい!!」

 

力士のように腰を落とし、勢いよくワイルドボアは、ヒムにぶちかましを仕掛ける。

それをヒムはサイコバリアで受け止める。

 

「クっ、重いっ!?」

 

「おおっ、これ、耐えるか!」

 

ワイルドボアは、喜々としてもう一度、ぶちかましをかまそうとし、ヒムも動いた。

 

「防戦一方っていうのは趣味じゃないんだよ!」

 

サイコバリアを展開せず、四本の腕でワイルドボアを受け止め、二本の足で踏ん張る。

勢いを殺すことはできたが、じりじりとヒムが押されていく。

 

「フハハハッ、電車道ぃ!!」

 

「なめんじゃ、ねぇ!」

 

ヒムは強引にワイルドボアを持ち上げ、バックドロップを叩き込んだ。

 

「グハハハッ!! プロレスか! いいぞ、お前のプロレスと、俺の相撲、どっちが強いか勝負だあっ!!」

 

「なんなんだよ、こいつ!?」

 

突っ込んで来るワイルドボアを迎え撃つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おうおう、がんばるねぇっ」

 

「くっ!」

 

チーターの速さにコウが追い縋るも、チーターはさらに速く動き、コウを追い詰める。

 

「…戦い方を変えるか」

 

「あ?」

 

コウは、背中を壁に当てて構えた。

 

「感覚器官を強化してのカウンター狙いってとこか? 壁を背にすれば、背後からの攻撃って選択肢も削れると? 舐めてくれるじゃないの」

 

「……」

 

コウの取った行動から、チーターはその意図を読み取り、その程度の策で自分の速さを敗れると思うなんて、もっと痛めつけてやらないとと、残虐に嗤い、加速した。

それとほぼ同時に、コウも加速し、跳んだ。

そして、壁を足場にしてチーターへ向かって跳んだ。

 

「ッ!?」

 

壁を足場にして地面と水平に飛んだコウの速さは、チーターの加速を越えた。

たった一撃、今まで届かなかった攻撃が届いた。回避行動をされたため、クリティカルヒットとはならなかったが、当たったことには変わりはない。

 

「アハッ、まさか、こんな方法で当てに来るなんてさぁ。すごいすごぉい!

……もう、手加減しなくていいよな?」

 

コウの拳が当たった肩を抑え、チーターは、ゆらりと立ち上がった。そして、予備動作もなく加速した。

コウも即座に加速して、対応しようとするも、今までのが手加減という言葉は嘘偽りなく、コウがガード体制を取ろうとするよりも速くチーターの拳が、十数発、コウに叩き込まれた。

 

「ガフッ!? 今まで……舐めやがってっ!」

 

壁を利用して加速するも、その速さでもチーターの本来の速さに届かず、カウンターをくらう。それでも、コウは止まらずに駆ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおおおおおおおおっ!!」

 

「ふははははははははははっ!!」

 

ヒムの四本の腕によるラッシュと、ワイルドボアの連続で繰り出される張り手。手数こそ、倍の数あるだけあってヒムの方が上だが、力は完全にワイルドボアの方が上だった。そして、ダメージに対する耐久性もワイルドボアの方が上だった。それ故、ヒムのラッシュをワイルドボアは体で受け止め、攻撃に集中する。

ダメージ覚悟で攻めに徹するヒムだったが、蓄積されていくダメージに段々と防戦を強いられるようになった。

 

「どうした、どうした? どうしたああっ!?」

 

「グガッ!?」

 

ワイルドボアの張り手がヒムの顔面をとらえ、体勢を崩した。その隙を見逃さず、ワイルドボアは、ヒムの腰を掴んで、相撲の投げ技をかけようとする。ヒムがそれに耐えようとすると、ワイルドボアは、その大きな体からは想像できないような素早い切り返しで、ヒムの耐えようとする力も利用して、ヒムを投げた。

 

「ぐはっ!?」

 

床に叩きつけるようにヒムを投げ飛ばし、痛みに悶えるヒムに向かって大きく足を振り上げ、ヒムに向かって四股を踏もうとする。

ヒムは慌てて、横に転がり、難を逃れる。

即座に起き上って攻撃に転じようとしたヒムだったが、ぶちかましが直撃した。そのまま、壁をぶち抜き、ホールのようなところに出た。

ヒムは、ワイルドボアに投げ飛ばされ、ホールの中央に転がされた。

 

(このままじゃ、ダメだ。でも、どうすればいい?

バリアで受け止めても、反撃するのに、バリアが邪魔になるし……あ、もしかして!!)

 

起き上がったヒムに、もう一度、ぶちかましをしようとしたワイルドボアだったが、まるで段差を踏み外したかのようにバランスを崩した。

 

「ッ!? な、何をした!?」

 

「さぁ? なんでしょう?」

(上手くいった! ミヤコさんに教えてもらってた時は、上手くできなかったけど、今の俺なら、出来る気がする。次はこれだ!)

 

サイコバリアをワイルドボアの足元に小さく展開し、踏み出してバリアに乗った瞬間にバリアを消す。そんな技を使い、自信をつけたヒムは、ワイルドボアに向かって走る。

ワイルドボアも、ぶちかましで迎え撃とうとするが、踏み出した瞬間、後ろ足が後方に引っ張られ、再びバランスを崩した。そこに大振りで、走った速さが乗ったヒムの拳が、顔面に突き刺さった。

 

「だりゃああああっ!!」

 

「ふがああっ!?」

 

悶えるワイルドボアにヒムは、追撃に出る。だが、ワイルドボアもやられて黙ってはいない。張り手でカウンターを狙うも、繰り出した張り手が、ヒムから反れた。

そして、がら空きになった顔面に、さらにヒムの拳が叩き込まれた。

 

「グフッ、や、やるじゃないか。だが、お前は逃げた! 俺との真っ向勝負から逃げて姑息な手に走った。見損なったぞ!!」

 

はっきり言って、言いがかり甚だしい。言われたのが、コウならば、殺し合いをしているのに何を言っているんだと鼻で笑って終わりだろう。

だが、ヒムは違った。

 

「いいぜ、そう言うんなら、やろうぜ。全力と全力をぶつけ合う真っ向勝負!」

 

「ふははははっ!! そうこなくてはな!」

 

笑い声をあげ、ワイルドボアは、蹲踞の姿勢を取り、身体の前で手を叩くと、前傾姿勢になり、ぶちかましを仕掛けた。それをヒムは正面から受け止めた。

 

「ふんぬうううぅっ!!」

 

力で勝るワイルドボアがヒムを押しこもうとした時、不意に下から上に向かって持ち上げられるような力が加わり、ワイルドボアは、ヒムに上下逆さまに持ち上げられた。

 

「いくぞっ!」

 

ヒムは、ワイルドボアの首を自分の肩口で支え、四本の腕でワイルドボアの手足を掴み、跳んだ。

 

「貴様ぁ! 騙したのか!?」

 

「騙してねえよ。俺はちゃんと言ったぞ、“全力と全力”だって。これも俺の全力の一部だよ!」

 

サイコバリアを足場にしてホールの天井近くまで駆け上がり、そこから床に向かって落ちていく。

 

「こんな卑怯者に負けるわけにはぁ!! ぬおおおおっ!!」

 

「逃がすかぁっ!!」

 

ヒムのマスクの複眼がオレンジに発光し、サイコプレッシャーを発動させ、降下速度が加速した。

そして、ヒムは、床に尻もちをつくように着地。同時にワイルドボアには、首の骨は折れ、背骨は粉砕され、さらに股裂きのダメージが襲い掛かった。

 

「がはっ!?」

 

ヒムが手を離すと、ワイルドボアは、床に倒れ、二度と動くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

加速したコウは、一方的に攻撃してくるチーターに追い縋っていた。

駆ける足が遅い。

 

(もっと…)

 

足が速くなる。だが、思考が追い付かない。体の挙動と思考が乖離する。コウが拳を振り抜くまでにチーターの攻撃が四度、コウを襲う。

 

(もっと…)

 

思考が、身体に追いつく。コウの攻撃一つの間にチーターの攻撃が三度あたる。

 

(もっと、もっとだ)

 

超能力の振り分けが、より細かく、綿密になっていく。コウの蹴りの間にチーターは、コウを二度殴打した。

 

(足りない)

 

思考と行動の間にある神経による伝達のタイムラグが、限りなく0へと近づく。コウの手刀にチーターは、カウンターで蹴り飛ばす。

 

(まだ、足りない)

 

五感が、感覚が鋭利になる。コウの拳が、チーターの拳とぶつかる。

コウは、一撃ごとにより速く、より早く、より疾くなっていく。

チーター自身も限界まで加速している。自分の本気の速さには、誰も追いつけないはずなのに、そう言われてきたのに、目の前の敵にチーターは恐怖した。

 

「いいかげんにしろおっ!! ゲハァッ!?」

 

コウの顔面を撃ち抜いたはずの拳は外れ、自分の脇腹にコウの拳が当たっていた。その拳を、チーターは認識できていなかった。

そんなはずはない。

絶対にありえない。

それが意味することをチーターは必死に否定する。

 

「追いついたぞ」

 

「ッ!? ふ、フン! 一度のまぐれ当りで、悦に入るなんて、おめでたいヤツだね!」

 

同時に加速、最初の時と同じように立ち位置が入れ替わった。だが、今回膝を着いたのは、チーターの方だった。

 

「まぐれじゃなかったな」

 

「あ、ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないいいいい!!!!」

 

チーターは、地団太を踏み、頭をかきむしり、荒々しく息を吐く。

そしてそれがピタリと止まった。

 

「もういい、この後どうなろうと、おまえだけは絶対に殺す」

 

狂気を宿した静けさに、コウも覚悟を決める。

 

「これが最後の追いかけっこだ」

 

全ての音を置き去りにして、コウとチーターは駆け抜ける。

壁を、床を、天井を、足場にして、縦横無尽に走る。

限界を超えたチーターとそれに負けぬ速さのコウ。

幾度となくぶつかり合い、距離が開いた。すぐさま、両者は走り、距離を詰める。

 

「もらった!」

 

コウの首に向かってチーターの爪が振り下ろされる。だが、それは宙を斬った。その攻撃は、完璧なタイミングだったはずだ。それは、まるで、自分だけが世界に取り残された、そんな感覚だった。

瞬時にコウが何をしたのか、チーターは理解した。

単純な話だ。

一瞬だけ、ブレーキをかけ、高速移動を止めたのだ。

再び加速したコウは、チーターを掴んで、更に加速する。マスクの赤い複眼が発光した。

 

「ッ!?」

(アツっ!? まさか、空気との摩擦で発火するほどの速さ!? そんな速さで動いてなんで平気なんだ!?)

 

チーターは、自分の身体が発火したことに驚愕した。抵抗しようにも、全身が発火し、それも叶わない。

そして、その勢いのまま、チーターは床に頭から叩きつけられ、絶命した。

 

「余計な寄り道……じゃなかったな。おかげで、チカラの使い方がより分かった」

 

そうつぶやくと、コウは、歩みを再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ついに、紅月ウミと対峙した。
自分たちを改造した元凶との最後の戦い。
ヒムとコウ、二人の力が限界を超える。

次回 Double Guardian 第十話 「決戦」
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