彼氏に振られて傷心中の女の子を慰めた結果   作:naonakki

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すみません。最近忙しくて更新が遅れました。次の更新も遅くなると思います、、


第10話 

 中野さんと付き合うことになって数時間経った今でも僕の心はざわついていた。

 僕が唯さんから呼びだされた後、まずは僕視点での今回の告白騒動の経緯を簡単に説明した。あの頭の中がお花畑の女子生徒の説明では色々と勘違いをされてしまう恐れがあったからね。

 その後、僕は唯さんに中野さんに関わるこれまでのやり取りを全て打ち明けた。以前、唯さんに中野さんとのことを話そうとした時「信じているから」と言ってくれたので結局話していなかったが、ここまで事が大きくなってしまったこともあり、話さなくてはいけないと思ったからだ。

 しかしそれを聞いた唯さんはまるですべてを知っていましたとばかりに冷静にそれを受け止めると、こう提案してきたのだ。

 

 『中野さんの告白を受け入れ、しばらくの間、本当の恋人のように振舞ってほしい。』

 

 とのことだ。当然なぜそんなことをする必要があるのか聞いたみたが、「これで中野さんの抱えている問題も解決できるし、すべて上手くいくから信じてほしい。中野さんにも私から説明しておくから。」と言われたのだ。そう言われてしまえば僕はもう何も反論できなかった。しかし釈然としなかったのは言うまでもない。……確かに結果から言うと、不思議と僕と中野さんが付き合うことを大部分の生徒が祝福してくれたので、今後中野さんが学校で居心地の悪い思いをするということはないだろう。……でも僕ならどんな事情があろうと、唯さんが振りとはいえ他の男子と付き合うことになったら嫌だろう。唯さんはこれでよかったのだろうか。それともこれは僕の心が狭いだけなのだろうか……。

 ……そして何より、なぜ中野さんは僕に告白してきたのだろうか?

 分からないことだらけだ。

 

 「先生、どうしたのですか?」

 

 僕が思考に耽っていたところに、透き通った声が僕の耳をくすぐってきた。はっとし、意識を現実に引き戻す。見ると制服に身を包んだ立花さんが僕の顔を下から覗き込んでいた。少し距離が近く立花さんのやや吊り上がった可愛いらしい目やら長いまつ毛やらが目にはいる。さらにはシャンプーの匂いなのか立花さん自身の匂いなのか、ふわりとたミルクっぽい甘い香りが漂ってくる。 

 

 「あ、あぁ、ごめんね。少し考え事をしていたよ。」

 

 思わずドキリとし、やんわり距離を取りつつそう答え、動揺を押し殺す。

 ちなみに立花さんが制服を着ているのはその方が気が引き締まるかららしい。

 

 「そうですか? 今は一応お仕事中なのですから私のことだけに集中してくださいね?」

 「……うん、ごめんね。」

 

 何となく立花さんの言い回しが気になったもののそう答えておく。

 今は立花さんの家庭教師の時間だ。綺麗に整理整頓された立花さんの部屋は、あまり娯楽品の類の物はなく、シンプルな部屋模様となっているが、本棚には参考書がびっしりとそろえられている。部屋をみるだけでも立花さんの真面目な性格が窺える。その部屋の壁際に備えられた学習机の正面に立花さんが座り、僕がその隣に座り勉強を教える構図となっている。

 立花さんの指摘通り、仕事中に他の考え事をしていることはよくないと、頭を切り替え、立花さんが提示してきた現在難航しているという問題の解析に思考を移す。仕事の流れとしては、立花さんが自己学習中に分からなかった問題を提示してきて、僕がその解き方を教えていくというスタイルだ。立花さんが提示してくる問題はどれも高レベルなので、こちらとしても気が抜けない。だからこそこちらの復習に繋がり、自身の為になるのだけどね。

 

 その後、なんとかすべての問題を解説した頃には時刻は19時に差し掛かっていた。ほぼ頭をフル回転させていたのでどっと疲れが押し寄せてくる。

 

 「ありがとうございました先生。今日の解説も凄く分かりやすかったです。」

 

 立花さんは、静かに立ち上がると礼儀正しく頭を下げ感謝の言葉を投げかけてくれる。毎度ちゃんと解説できているかと不安になるので、こう言ってもらえると素直に嬉しい。「どういたしまして。」と返し、帰り支度をしていると

 

 「先生、中野さんと付き合うって本当なのですか?」

 「……やっぱり知ってた?」

 「あれだけ騒ぎになっていたら嫌でも耳に入ってきますよ。藤宮さんとは別れたのですか? 今日の朝にも中野さんのことを聞いてきましたが。」

 「……いや、別れていないよ。中野さんとは振りだけだよ。」

 

 立花さんは、よくわからないといった風な表情を浮かべている。しかし、持ち前の頭の回転の良さですぐに合点がいったのか

 

 「……生徒からも信頼が厚く、高橋先輩と近いスペックを持つ先生が付き合うことにより、中野さんを守った……といったところでしょうか?」

 「……スペック云々は分からないけど、結果的にはそうなったのかな。みんな認めてくれているみたいだしね。不思議だけれど。」

 

 本当に不思議だと思う。そりゃあ、自分で言うのもなんだが、僕の顔やスタイルは平均以上だとは思っている。顔とスタイルがそれなりに整っている姉ちゃんと同じ血が流れているわけだし、唯さんの隣に立っても恥ずかしくないように美容や見た目にも気を遣っている。姉ちゃんの助けも借りながらファッションにだって気を回している。しかし勉強はともかく運動はからっきしだし、生徒からそれなりに信頼があるのも姉ちゃんの存在が大きい。とても高橋と張り合えるようなスペックを持っているとは思わない。まあその高橋は今や姉ちゃんの制裁により、生徒からの信頼度は地べたを這いずり回っていることだろうが。

 

 「不思議って……、先生はもう少し自信を持つべきだと思います。人によっては嫌味だと思われてしまいますよ? 先生とそのお姉さんは校内でも美男美女兄弟と噂されていますし、先生自身誰にでも優しく接する王子様みたいな人だと女子の間では有名ですよ?」

 

 呆れたようにそう言ってくる立花さんの言葉に驚愕してしまう。

 え、なにそれ恥ずかしいんだけど。そんな風に噂されているの? 王子様って……。

 しかし、その噂が本当なら唯さんの提案にも納得がいく。僕が恋人になることで中野さんが守られると確信があったのだろう。それでも個人的には、そんな提案はしないで欲しかったが、何も解決策を見出せなかった僕がとやかく言えることでもないだろう。

 まあ、そもそもその噂が本当かどうかは疑わしいけれど。

 

 「……しかし、それをよく藤宮さんが許容してくれましたね。」

 「というより向こうから提案してきたんだよ。恋人の振りをしてほしいって。」

 「えっ、向こうからですか?」

 

 なぜかここで立花さんは驚いた様子を見せる。驚いた拍子にツインテールもぴょこんと跳ね上がる。普段冷静な立花さんが珍しい。立花さん自身、そのことに気付いたのか、コホンと恥ずかしそうに可愛いらしい咳払いをすると

 

 「……藤宮さんが中野さんと付き合うように指示してきたのですか?」

 「そうだよ。」

 「一体どういう……、独占欲の強いあの女がそんなことをする?

 

 立花さんは何やらブツブツとこちらに聞こえない程度の声で呟きながら思考に耽ってしまった。これは立花さんが難問を解くときの癖だが、今のやりとりのどこに不思議な点があったのだろうか? しかしこうなってしまうと周りの声が聞こえなくなってしまうので仕方なく、ぼうっと待つことにする。

 すると数分後、「なるほど、恐らくは……。」となにやら答えを導くことができたのか、顔を上げこちらを見つめてくる。

 その表情は何やら期待と嬉しさを滲ませたものだった。普段、表情を表に出さない立花さんがこのような表情をするとは……。よほど嬉しいことでもあったのだろうか?

 

 「どうしたの立花さん?」

 

 流石に気になったのでそう聞いてみるものの

 

 「……いいえ、何でもありませんよ。ただ、近々良いことが起こりそうな気がしましたので。」

 「……そう?」

 「ええ。」

 

 ニッコリとほほ笑んでくる立花さん。その脳内で一体何を考えているのか見当もつかないが、本人が嬉しそうなので良しとしよう、話してくれる気もなさそうだし。

 そこで帰ろうとした時、立花さんから声がかかる。

 

 「……ところで、先生。藤宮さんの中学生の時の話で何か知っていることはありますか?」

 

 そんな質問を投げかけてきた。心なしかその声色にはどこか冷たいものが含まれているようだった。

 

 「いや、唯さんはあまり中学生の時の話をしたがらないから聞かないようにしているよ。」

 

 そう、唯さんは中学生の時のことを断固として話したがらない。何か事情があることは明白だったので、僕も聞かないようにしている。人間誰にだって話したくないことの一つや二つはあるものだしね。

 

 「そういえば立花さんは、唯さんと同じ中学の出身だっけ?」

 

 中野さんもそうだが、立花さんも唯さんと同じ中学の出身だったはずだ。唯さんの通っていた中学はこの高校からかなり離れていること、そして僕たちが今通っている高校はそれなりの進学校で学力が高く入学が難しいことから唯さんと同じ中学に通っていた人はそう数がいなかったはずだ。僕のクラスにも一人だけとかだったはずだ。

 

 「……ええ、そうですよ。ふふ、それにしても話したがらないですか、そうですか。……まあ、そうでしょうね。」

 

 何か含みを感じさせる物言いをしてくる立花さん。その表情はどこか嗜虐的なものを感じさせた。中学生の時に唯さんに何かあったのだろうか? ……そういえば中野さんも何か言っていたな、事件がどうのこうのと。まあ、何があったって過去の話だ。唯さんが話したがらないことを詮索するつもりはない。立花さんの発言は少し気になったものの特に深堀することもなく、その日は帰宅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先生が帰宅した後、私は自室で机の前に立っていた。

 その視線が捉える先にあるのは、何の変哲もない椅子だった。その椅子は、さきほどまで先生が座っていたものだ。

 私はそっと手を伸ばし、その椅子の座る箇所を、つまり先生がお尻を接させていた箇所をゆっくりと舐めるようになぞっていく。まだ先生が去ってから時間が経っていないこともあり、僅かな温かみが指を通じて伝わってくる。ただそれだけのことで動悸が早まり、イケナイ感情が沸々と湧き上がってくる。僅かに呼吸が荒くなる中、私は幸せな感情に満たされていた。

 

 「ふふふ……藤宮唯、あなたが何をしたいのかは、何となく想像できます。恐らく、自身がかつて受けた屈辱と同じものを中野さんにも与えるつもりなのでしょう。」

 

 誰に話すわけでもなく、虚空に向かって放たれる透き通った声はあたりの空気に溶け込んでいく。

 

 「実に浅はかで分かりやすいですね。中学生の時から何も変わっていない。……ですが、ふふ。私にとっては好都合に他ならないですね。」

 

 どうやって先生を奪ってやろうかとずっと考えていましたが、向こうから動いてくるなら話は早い。私はそれを利用するだけだ。

 

 

 

 ……ふふ、先生。私だけの先生になってくれる日までもう少しですよ。

 先生のように優しく聡明な方には、私こそが相応しいのですから。

 

 

 

 そのまま私は、先生が座っていた椅子に座り込み己の幸せな未来を想像しながら湧き上がる劣情に身を任せていった……。

 


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