彼氏に振られて傷心中の女の子を慰めた結果   作:naonakki

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第2話

 ……うわぁ、中野さんお金持ちだったのか。

 

 ショッピングモールから出発して約15分後、ほぼ強制的に中野さんに連れてこられた先には豪邸があった。

 2階建ての大きく立派な家の横にはこれまた大きな庭がある。

 その庭にはテラスがあり、周りの草木は手入れが行き、悠々とした空間が広がっていた。車2台が停められそうな駐車場もあったが、今は両親が使っているためなのか、そこに車はなかった。どうせ高級車なのだろう。

 ……これが貧富の差というやつか。

 ちなみに僕の一家はアパート暮らしだ。

 まあ、僕は気にしていないけどね。いや本当に。

 

 ショッピングモールからここまでの道中、終始中野さんは無言だった。

 僕が逃げないように腕をがっしりホールドした状態でずんずん歩を進める中野さんと、引きずられるように付いていく僕の姿は周りから奇妙に映っていたようで、かなり注目を浴びてしまった。そもそも中野さんは、日本人離れした見た目とその可愛いさから注目を浴びやすいんだろうけど。

 結構恥ずかしかったが、中野さんはなんともなかったらしい。そんなことを気にする余裕がなかっただけかもしれないが。

 ……同級生に見られてなかったらいいけど。変なうわさがたっても嫌だし。

 

 「ちょっと待っててね。」

 

 久しぶりに口を開いた中野さんはそう言うと、手慣れた手つきで家のドアにカギを差し込みドアをガチャリと開いた。

 そして僕の方へ振り返り、「どうぞ」と家の中へ招いてきた。

 心なしか、その顔は少しだけわくわくというか、何かを楽しみしているように見えた。

 

 「……あの、もう一回考え直したら? 今日知り合った男を家に上がらせるのなんてやめた方がいいよ? ほら、僕おとなしそうに見えるかもしれないけど、何をするか分からないよ?」

 

 僕は最後の抵抗を見せるが、中野さんの先ほどよりも声をワントーン下げた「どうぞ」という言葉に折れた。

 有無を言わさないとはこのことを言うのだろう。さっきまでずっと泣いていたとは思えない。

 ……しかし、本当に女の子の家に上がるとなると少し緊張してきた。

 いくら興味のない女の子とはいえ、初めての他人の家というだけで多少の緊張は生まれてしまうものだろう。

 

 「……お邪魔します。」

 

 一応礼儀として、そう言いながら広々とした玄関へ足を踏み入れる。

 外観と同様に清掃と整理整頓が行き届いた室内だった。

 凄いな……。ここから見えるだけで、ドアが5つくらい見えるんだけど……、何の部屋なんだ?

 まっすぐ伸びるフローリング床の廊下の左右にはドアが複数設置されており、奥の方には2階へ続く階段が見える。

 僕が、自分の家とのあんまりな差にショックを受け、立ち尽くしていると

 

 「私の部屋、2階だから。」

 

 僕の心中など露知らず、中野さんはそう言うと、ついて来いとばかりに足早に廊下を突き進んでいく。

 仕方がないので、僕もその後から大人しくついていく。

 中野さんの部屋は階段を上がったすぐ右手のほうにあり、中野さんはその部屋のドアをガチャリと開き、中へ入っていく。僕もそれに続く。

 中野さんの部屋に入った瞬間、一気にフローラルの香りに包まれた。中野さん自身から漂ってきたあの香りと同じものだ。

 ……前から思っていたけど、なんで女の子ってこんなにいい匂いがするんだろうか?

 若干早まってしまった鼓動を誤魔化すように部屋の中を中野さんにばれない程度に見渡してみる。

 女の子らしいピンクを基調とした部屋は、やはり整理が行き届いており清潔さを感じさせた。

 ぬいぐるみなんかがいくつかあるところを見ると、乙女な部分もあるのだろう。

 部屋が広いことには最早驚きはしなかった。

 

 「どこか適当なところに座って?」

 

 中野さんは、学校指定のカバンを壁に設置されていたフックに掛けるとこちらを振り返り、そう促してくる。

 中野さんは肌触りの良さそうなカーペットが敷かれた部屋の中央付近に女の子座りの形で腰を下ろした。

 僕もそれにならい、中野さんから気持ち距離を開け、腰を下ろす。なぜか正座で。

 

 ……。

 

 そして室内を支配する沈黙。

 

 ……え? どうしろと?

 

 中野さんは、じっとこちらを見つめるばかりで自分から声を発するつもりはなさそうだ。こちらから切り出せということだろうか。

 ……面倒くさいな。

 とはいえ、このままでは僕が解放されるのも遅くなってしまうだろう。

 明日は土曜日とはいえ、今日は早く帰りたい。

 ここは、いち早く中野さんをいい感じに慰めるとしよう。

 

 「えと、じゃあ話を聞こうかな? 何があったの?」

 

 なるべく、笑顔を浮かべながらそう切り出してみる。苦笑いになっていないことを祈る。

 しかし、そんな心配は杞憂だったようだ。

 中野さんは待っていましたとばかりに、急に口を開くとマシンガンを彷彿させる勢いで、彼氏と別れるまでの経緯を話し始めた。

 

 

 

 「……だからね! 結局私の体が目的だったのよ! 酷くない、ねえ? ねえ?」

 「……ソウダネ。」

 

 この家に来てから、既に30分以上が経過していた。

 僕の表情は今どんなだろうか?

 多分だけど枯れ果てているんじゃないだろうか?

 時間的に眠くなってきた上に、元々、面倒だと思っていたこともあり、こちらのメンタルが死にそうになってきた。

 とはいえ、ここで僕が死んだら中野さんが何をしでかすか分からない。

 我慢だ僕。

 

 ちなみに中野さんは、今回は泣かない代わりに大層怒っていられる様子で、自分がいかにひどい目に遭ったかを力説してきた。

 確かに話を聞いていると中野さんの彼氏さんはあんまりだと言わざるを得なかった。

 他の女の子と平気で浮気をし、デートの際にはお金を中野さんに払わせることもしばしば。

 そして、今日放課後にショッピングモール内でデートをしているときに、彼氏がホテルに行こうと中野さんを誘ったらしい。

 付き合って1か月しか経っていなかったこと、色々彼氏に対して不満があったこと、そして貞操観念がしっかりしていたらしい中野さんがそれを断ると、彼氏が逆切れをしてきたらしい。

 そんな女なんかこちらから願い下げだ、と訳の分からない理由で振られてしまったらしい。

 ……まあ、そんな振られ方したら泣きたくもなるか。

 実際、中野さんはいろいろ抱えていた感情が爆発し、ショッピングモール内のベンチに座り込み、泣きに泣いていたらしい。

 しかし閉店時間になったので、泣きながらも、帰るためになんとかエレベータに乗り込んだら、僕がいて、エレベータが停止した、ということらしい。

 個人的な感想としては、そんな彼氏と一か月で縁を切れたのだから良かったじゃんと思っている。

 中野さんなら引く手あまただろうし、少なくともその彼氏よりは、いい人とは出会えることだろう。

 

 中野さんは、ひとしきり不満を口にしたことで気が晴れたのか

 

 「……ふぅ、スッキリしたぁ。」

 

 と、満足げだ。

 ……よかったよ、本当に。……これで帰れる。

 部屋の壁に設置されている、可愛いらしいデザインが施された時計を見ると、時刻は23時に差し掛かろうとしていた。

 

 「じゃあ、話も聞いたことだし僕は帰るよ。もう遅いし。」

 

 そう言い、カバンを持ちそそくさと帰ろうとした時だった。

 

 「……ねえ、ちょっと待ってよ。」

 「……なに?」

 

 部屋のドアノブに手をかけたタイミングで中野さんから待ったがかかった。

 中野さんの話を聞くという当初の目的は達成したはずだ、一体何なんだ?

 何となく嫌な予感がしつつ、中野さんの方へ振り返る。

 そこには、真剣な眼差しでこちらをじっと見つめている中野さんがいた。

 泣いていた時とも、愚痴を吐きまくっていた時とも、また雰囲気が違った。

 何となく、ちゃんと聞いた方がいいのかなと思い僕も聞く体勢をしっかりととる。

 中野さんはしばらく僕を見つめた後、その小さな口を開き、こんなことを聞いてきた

 

 「……私のこと、可愛いと思う?」

 

 ……?

 

 一体、この子は何を言っているのだろうか?

 予想だにしていない質問だったため、ポカンとした表情を浮かべ立ち尽くしてしまう。

 しかし、中野さんの表情はいたって真面目であり、ふざけているわけでも冗談を言っているわけでもないことは伝わってくる。

 なので、僕も疑問に思うことは置いておき、質問に答える。

 

 「可愛い……とは思うよ。」

 

 本当にそう思っていたからそう答えたのだが……。

 ……結構恥ずかしいな。

 彼女にだって面と向かって可愛いだなんて言ったことない僕にとっては、女の子に可愛いという言うことは、かなりハードルが高かったらしい。

 顔が熱くなるのを感じながらも、努めて冷静を装い、中野さんの反応を窺う。

 一方の中野さんは、可愛いなんて言葉は言われ慣れているのか、特に恥ずかしがっている様子はない代わりに、不思議そうな表情を浮かべていた。 

 

 「……ふ~ん? でもその割には私に対して興味が薄いよね、ショッピングモールの時から思ってたけど。部屋に二人きりのこの状況でも、そのまま帰ろうとするし。他の男なら必死に私を慰めてきて、ワンチャン狙ってくるのになぁ、絶対。」

 

 ……何が言いたいんだ中野さんは。

 唐突にそんなことを言ってきた中野さんの真意をつかみきれない。

 後、見たくもなかった女性の腹黒い一面を見てしまった気がする。

 校内での中野さんの性格は、明るく気が利き謙虚で、誰とでも仲良く、と絵に描いたような子と聞いていた。少なくとも、いまのようなセリフを言うような性格ではなかったはずだ。

 猫をかぶっていたのだろうか?

 僕が色々思考を巡らせる中、中野さんは何を思ったのか、こちらを試すような挑戦的な目を向けてきて

 

 「……もしかして、ただ単に意気地なしなだけ? まあ、見た感じ積極的なタイプには見えないもんね。草食系男子ってやつ? ぷっ、今時流行らないよ、そんなの。」

 

 と、馬鹿にしたようにこんなことを言ってきた。

 普段感情を表に出さない僕だったが、さんざん話を聞いてくれた相手にそれはないだろうと、流石にイラッときてしまった。

 

 「……言っておくけど僕には彼女がいるんだよ。中野さんは確かに可愛いとは思うけど、僕の彼女の方がもっと可愛い。だから中野さんなんて最初から眼中にないんだよ。それだけだ。」

 

 と、感情に任せてそんなことを言ってしまった。

 すぐに我に返り、しまったと後悔する。

 ……何を年下の女の子に熱くなっているんだ?

 ムキになるだけこちらの浪費になるだけだ。

 ……早く帰ろう。こんなことになるなら無理やりにでも帰ればよかった。

 そう思いながらも、僕の言葉を受け中野さんがどんな反応をしているのか少し気になり、ちらっと中野さんの方を見た。

 そして僕は止まってしまった。

 

 

 

 中野さんが嬉しそうな笑みを浮かべていたからだ。

 

 

 

 思わず、その姿に魅入ってしまう。

 ……どうして今の流れでそんな顔をしているんだ、という疑問すら出てこなかった。

 中野さんの心の底から浮かべているような笑みは、これまで学校も含めて見かけたどの中野さんよりも可愛いかった。

 澄んだ蒼色の目をキラキラと輝かせながら、中野さんは立ち上がり僕の目の前にまで近づいてきた。僕は一歩も動けない。

 

 そして、僕の目の前に立った中野さんは、バッと頭を下げた。

 中野さんの動きに合わせて金色の艶がかった髪が舞う中、

 

 「さっきは試すようなことをしてごめんなさい! そして、話を聞いてくれてありがとう!」

 

 ときた。

 僕は何が起きているか分からず、ただただ中野さんを見つめることしかできなかった。

 しばらくその体勢でいた中野さんはバッと勢いよく顔を上げると、満面の笑みを浮かべて

 

 「ねえ、私たちお友達になりましょうよ!」

 

 だそうだ。

 

 ……もう訳が分からない。眠いし。

 

 「……ごめん、正直状況が分からなさ過ぎて困ってる。」

 

 僕がそう正直に言うと、中野さんは何が楽しいのか、僕の顔を下から覗き込んできながら、悪戯っぽい笑みを浮かべ

 

 「ふふ、まあ簡単に言うとあなたは、この超美少女の私とお友達になれるという、すごくラッキーなことが起きています!」

 「自分で言うか……。」

 

 げんなりしながら、僕はそう答える一方で、尚嬉しそうに中野さんが、

 

 「はい、じゃあ今更だけど、早速自己紹介ね! あなたは私のこと知ってるみたいだけど。」

 「……まだ友達になるとは言ってない。」

 「私は、中野ゆりかです! はい、あなたの番。」

 

 相変わらずこちらの意見は無視で、友達になるのは強制らしい。

 まあいい、なんでもいいから早く帰って寝たい。

 適当に合わせよう。

 

 「……高坂ひろです。」

 

 かなりのローテンションで自己紹介をしたつもりだったが、それを満足げに見届けた中野さんは、とんでもないことを言ってきた。

 

 「じゃあ、お友達になった記念として今日はお泊り会ということで!」

 

 ここでまたも、中野さんは爆弾を投下してきた。

 流石にそれはまずい。

 まったく状況を理解していないが、確かなのはこのまま流されたら本当にお泊りする流れになる、ということだ。

 彼女がいる手前、他の女の子の部屋に来てる時点でギリギリなのに、その上泊まってしまったら完全にアウトだろう。

 

 「いやいやいや、さっきも言ったけど僕には彼女がいるんだよ。女の子と二人きりでお泊り会なんてできない。今日はもう帰るよ。また、話くらいならいつでも聞くからさ。」

 

 そう言って、半ば無理やり部屋を出ていく。

 

 「ちょ、ちょっと待ってよ。」

 「待たない、帰る。」

 

 慌てたようにこちらを追ってくる中野さんだが、構わずそのまま部屋を出て、玄関まで足早に向かう。

 玄関まで到着し、靴を履いていると、ドタドタと中野さんが追い付いてきて、

 

 「ちょ、ちょっと! 待ってって言ってるじゃない!」

 「流石に今日はもう帰るよ。もうすぐ日が変わるし、早く帰らないと。」

 

 僕がそう言うと、中野さんは、むーと不満気に頬を膨らませ、こちらを恨めしそうに見つめてくるが

 

 「……わかった、今日はもう解散ね。じゃあ、連絡先だけ教えてよ。」

 

 何とかあきらめてくれた。よかった。

 

 「はいこれが僕の連絡先ね。」

 

 僕は、ポケットから格安スマホを取り出すと、L〇NEのIDを中野さんに見せる。

 それを中野さんは素早く自身のスマホに打ち込むと

 

 「ん、それにしても味気ないアイコンね……。」

 「……いいじゃないか別に。」

 

 だめなのだろうか、アイコンが犬の画像では。

 

 「……ねえ、明日は暇なの?」

 「……予定はないけど。」

 

 嫌な予感がしつつも、事実予定はないのでそう答えると、中野さんは嬉しそうに笑いながら

 

 「そっか! じゃあ今日はありがとう! おやすみなさい!」

 「……おやすみ。」

 

 というわけで、僕の奇妙な一日は幕を閉じた。

 色々起きて、いまだに状況が理解できていないが、とにかく終わった。 

 

 ……はぁ、疲れた。

 

 長い溜息をつきながら、トボトボと帰路についた。

 するとすぐにピコンッと軽快な通知音がスマホから鳴った。

 恐る恐る、スマホの通知画面を見ると

 

 明日、朝8時に私の家に集合で♡

 

 と、メッセージが来ていた。

 差出人は、言うまでもないだろう。

 

 ……8時は早すぎるよ。

 

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