愉悦部VS文芸部   作:睦月スバル

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完全オリジナルエピソード。
これも愉悦に入るのか……?


ばっどえんど⭐︎えぴそーど0

 いやらしい声が蘇る。

 

「貴方は特に大学の文芸のサークル活動に力を入れてたらしいけれど、何か役職はありましたか? あ、ありませんか。成る程……」

 

 いやらしい声が蘇る。

 

「君は社会舐めてるのか? 確かに君は順当に大学を卒業出来るだろうけどそれがどうしたの。良いか? 卒業するのは当たり前。問題はその過程で幾つ社会に役立つスキルを会得できたかだ。その点君は全くと言って良い程不適だ。試しに名刺の渡し方の作法を諳んじてご覧よ。さぁ、早く。どうしたのかねそんなに震えて。さぁ、言え!! だから君は駄目なのだ」

 

 いやらしい声が蘇る。

 

「いやー、内定取っては蹴ってを繰り返すの超楽しい。君もやってみなって。凄く良い気分になるから。へ? 内定がそもそも取れない? 何だそれ。ふーん」

 

 いやらしい声が蘇る。

 

「就職活動をもっと頑張りなさいよ!! ××さんところの◯◯君ももう内定決まってるのよ!?」

 

 いやらしい声が蘇る。

 

「君は面白みの無い人間だ」

 

 いやらしい声が蘇る。

 

「君ってさ、平凡だよね。もっとさ、ホラ凄い特技とか無いの? 何だ、無いのか。面白く無いな」

 

 いやらしい声が蘇る。

 

「確かに個性は認めるよ。認めるけど。ぶっちゃけ個性で生きていけると思っているの?」

 

 いやらしい声が蘇る。

 

「想像力豊か? 業務中に他ごと考えられるなんてデメリットでしかないのが分からない?」

 

♪ ♪ ♪

 

 とあるアパートの一室でスーツ姿のその男は今日も泣いていた。

 

「もう、嫌だ。生きたくない……」

 

 男の片手には、ストロング飲料。もう片手には市販の風邪薬。男はストロングの缶を煽ると、その口にガバガバと市販の風邪薬を放り込んだ。勿論、用法用量など守っていない薬物の乱用……オーバードーズだ。

 男はオーバードーズの常習犯だった。

 ハゲ散らかした頭は副作用故か、それともストレス故か定かではないが、それでも一目見れば分かる。

 この男は、どうしようもなく破綻していた。

 

 元々はこんな風では無かった。

 小中と普通に暮らし、無難な進学校に進学。そして文芸部で文学作品に親しみ、時には自分でも小説を書いたりしながら普通の大学に進学した。何もかも順調、とは言えないが概ね平凡で幸福な人生だった。

 それから男は作家を志す。大学生の内に大賞を取るのだとアルバイトは最低限にして文筆に集中した。しかし結果は芳しく無くいずれも残念な結果となった。

 暗雲が立ち込めたのはきっとその頃からだろう。

 

 就職を見据える頃、自分は何を頑張って来たのかと問われ、それに答える。

 

「小説を書いたのだ」と。

 

 問うた人は笑った。「馬鹿か、アルバイトか資格か、スポーツの大会と答えろよ」と。

 男は「小説の大賞だって大会と似たようなものだろう」と反論する。

 

「じゃあ、会社で小説書いて。どうすんの?」

 

 そこで、自分が唯一研ぎ澄ませた刃が、何の役にも立たないゴミカスなのだと理解した。

 男は筆を折ると、それをゴミ箱に放り投げた。

 それからは取り憑かれたようにバイトに精を出した。だが、遅かった。

 周りの人間は二歩も三歩も前に進んでいたのだ。

 

 結果、男は就職活動で惨敗を喫した。

 

 その頃の男の口癖はこうだ「ご都合主義なんてクソ喰らえだ。そんな物は存在しない」。

 男は八つ当たりのようにご都合主義の権化を……ライトノベルを古本屋に売り、その金でストロング飲料を買った。

 そして、一月も経つ頃には沢山あった筈のライトノベルは一つのタイトルを残すのみとなった。

 文学少女。それは男がこの世で一番好きなライトノベルのシリーズだった。

 文学作品を知るきっかけであり、物書きを志望した原因。

 鬱屈した感情もこれを読めば治るかも知れないと男はそれをまた読んだ。

 

「……は?」

 

 第一声は、困惑だった。

 読んだのは第一巻、『死にたがりの道化』。前に読んだ時は皆生きていてよかった、だった。だが今の感想はまるで違った。

 

 どうして、死にたがりを死なせてあげないのか。

 

 生きることは辛く苦しい。なのに、何故死なせてあげないのか。死なせてあげるのが仏心なのではないのか。

 

「違うだろ……。それじゃ駄目だろ……」

 

 続く二巻は、良かった。

 だが、三巻は駄目だ。芥川も更級も罰を、死をそれぞれ望んでいる筈なのに何故死なせてあげない。どうして無理矢理生かす。ご都合主義的な妄言で改心までさせて。

 

 ここで大人たちが喧伝する、無責任な言を思い出した。

 

「辛くても笑え。前を向け」

 

 人々はそれを賛美するが、男にとってそれは詭弁にしか聞こえていない。

 辛くしている元凶が、なんと白々しい。

 結局、そうなのだ。

 聞き心地の良い言葉のみを賛美する。誰もが。そして、物語の中でさえも。

 もうこりごりだった。精神論なんかはもうとっくの昔に聞き飽きていた。

 現実のそれから逃げたくて物語を開いたというのに何処までもその妄信を見せつけられるのは、地獄だ。

 

「ああ、駄目だ。結局これもご都合主義だ。現実じゃ、ない。現実はこうならない! 現実はもっと辛い!! 現実はもっと厳しい!! 誰も助けてくれないっ!! このキャラクター達は現実を何も分かっちゃいないっ!!」

 

 男は古本屋に行くと、激情のままに全巻を売り払い、風邪薬とストロング飲料を買った。

 

 ……以来男は廃人同然となった。

 文学という最後の友を自ら手放しだ男は惰性でその日をやり過ごすようになった。そう、やり過ごすだ。生きてなどいない。

 ただでさえ細かった身体は更に痩せ細り、生気は消え果て、生きる屍となった。それでも毎日罵詈雑言を子守唄にしながら混濁する意識のまま生存した。

 

 だが、オーバードーズを繰り返す男の元に碌な明日はやって来よう筈もない。男を誰も救わない。男を誰も愛さない。

 

 酔いとオーバードーズの齎すふわふわとした心地のまま夜道に繰り出せば、男はトラックに轢かれ、そのまま短い一生を、終えた。




アル中ヤク中自殺志願者だけど心中してない上、出版してないから太宰治以下、つまりギリギリ人間失格にはなってない!
ヨシ!

原作突入後はどっちが読みたい?

  • 主人公を井上君に変更。
  • 主人公そのまま。
  • 執筆速度落として良いから両方やって♡
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