愉悦部VS文芸部   作:睦月スバル

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おや? 縣君の様子が……?


黒猫は救済の方法を知らない。

 さてさて、あっという間に二年生が終わり中学三年生。部活はとうに引退して時期は受験シーズンとなっていた。

 この頃になると目が死んでる井上君が登校するようになってきた。ただ、その死に具合が予想以上で見ていてなんだか不安になる。

 何せ、元々線が太い方では無かったけれど今は輪を掛けて細くなっているのだ。それこそ一瞬女の子と見まごうレベルで線が細い。きっと食べ物が喉を通らない期間があったのだろう。

 これで、よく高校受験をしようと思いいたれたものだと思う。まぁ、僕がめちゃくちゃサポートしたのだけれど。

 

 ただ、井上君が聖条を目指す理由がこうなるとは思いもしなんだ。

 

「僕は、縣君に置いていかれたく無いんだ……。ミウは遠くに行っちゃったけど、君の近くにいたいから」

 

「なら、遅れた分の勉強を頑張らないとね」

 

 ……原作に於いて、井上君の志望動機は一切語られていなかったと記憶している。

 そこのところを少し不思議に思っていたのだが、その動機部分に僕がは入り込む形となったようだ。どうあっても井上心葉は聖条学園に入学すると言った部分に世界の強制力的な物を感じてしまう。

 とは言え既に幾つものバタフライエフェクトを確認出来ているので僕の目指す終着点へと辿り着く事は恐らく不可能では無いと思われる。

 

 因みに井上君の勉強は僕が教えている。受験用の勉強はもう足りているし、高校二年の内容もボチボチ網羅しつつあるから適役って訳だ。

 それに井上君がもし受験に失敗したら何もかもがめちゃくちゃになるので、熱も入ろうというものだ。

 

「……ところで、黒部さん。ずっとこっちを見てるね」

 

「まぁ、いつもの事だよ」

 

 諦めを込めながらそう答える。

 いつからかは正確には分からないが、黒部ちゃんが僕をずっと監視するようになったのだ。

 悪事を仕出かさないか見張っているみたいでどうにも居心地悪い。

 出来得る事ならば早いところおさらばしたい。

 とは言え、彼女の進学先は聖条学園ではなく女子バスケの強い別の女子校に進学校するらしいのでそれまでの辛抱と考えれば短いものだ。

 

 ……僕の高校生編に、彼女の存在ははっきり言って邪魔だ。

 

 下校のチャイムが鳴った。

 そして僕は普通に下駄箱に向かうと、そこには今朝には無かった筈の一通の手紙が入っていた。

 

「何だろ、これ」

 

 不幸の手紙にしてはあまりにも綺麗だし、恋文にしては素っ気なさすぎる……気がする。貰った事がないから分からないが。

 僕はその場で足を止めると手紙を即座に開封する。

 

「何だって……『お話しがあるので放課後に一階の空き教室に来て欲しい』。差し出し人は……黒部子猫」

 

 件の、黒部ちゃんからのお手紙だった。

 一瞬恋文かと思った自分が恥ずかしくなる。

 だってそうだろう?

 黒部子猫は、今や人間監視カメラなのだから。

 しかし、一体何が露見した?

 二年生後半から今にかけて大きな動きはしていないし気取られる筈が無いのに。それに気取られたとするならタイミングがおかしい。

 僕はそんな事を考えながら指定された場所に向かうと。

 

「……来てくれて、嬉しい」

 

 彼女が居た。

 これで彼女の名前を騙るドッキリっていう線は消えたが、はてさてどんな話が来るのやら。

 

「それで、話って何かな?」

 

「……縣君、ずっと苦しそうな顔してた」

 

「ほぇ?」

 

 言うに事欠いて、僕が苦しそうだって?

 僕は筋金入りの愉悦民にして生粋のド畜生なのだからその指摘は余りにも的外れだ。馬鹿馬鹿しい。

 

「縣君はずっと苦しそうで見ていられなかった」

 

 とは言え、義心を抱いていないと言うのは僥倖。僕の演技も相当上手くハマってくれているらしい。

 

「まぁ、そうだね。……朝倉さんの一件もあるし、苦しく無いと言えば嘘になるかな」

 

 そうして俯くと意識的に悲しみの表情を作り上げる。

 

「違う」

 

 しかし、それを彼女は一刀のもとに斬り伏せる。

 

「……違う?」

 

「縣君は楽しい時も、はしゃいでる時も、ずっと心が苦しんでる」

 

「……はっ」

 

 僕は鼻で笑う。心? 苦しむような心が愉悦民にあると思ったのか。だとしたらその目は節穴だ。

 僕は原作キャラを絶望に叩き込むまで止まらないと決めている。その過程を愉しみこそすれ、苦しいなどと思う事は、無い。

 

「私は、縣君が心配。だから、その……力になりたい。私は縣君が何で苦しんでるのか、分からない。けど、助けになりたい」

 

 そこで、何故か頭がカッと熱くなった。

 自負でも何故ここで熱くなったのかは分からない。けれど僕は苛立ちのまま口走らずにはいられなかった。

 

「……勝手に他人の心情を捏造してんじゃねぇよクソ餓鬼」

 

 黒部ちゃんの顔が驚愕に見開かれた。その顔は……何処か悲しそうでそれが僕の原因不明な怒りに油をドクドクと注ぐ。

 

「助けるって、何だ。意味分からねぇよ。僕は他人の助けなんて求めてない」

 

「でも……っ!! だったら縣君は何を怖がっているのっ!?」

 

 怖がっている?

 は? 言っている意味が分からない。

 遥か先の展開を知り、既に一部の物語の改竄に成功した、この神にも等しい僕が、一体何を怖がると言うのだろうか。

 

「捏造するなよ。お前の意見を、偽善を僕に押し付けるんじゃねぇ。……本当に、気持ち悪い」

 

 嫌悪感を隠しもせずにそう吐き捨てる。

 糸目を更に細め、威圧する。

 けれども、黒部ちゃんが竦む事は無かった。

 

「強い言葉を使っても、痛いのは縣君の方でしょ!! 幸太郎の馬鹿ぁ!!」

 

 それどころか、そう言い返してみせた。

 僕はすかさず逃げるように踵を返して茜に染まる教室を出た。

 いや、ように、では無い。僕は逃げたのだ。

 あの場に止まれば最後、致命的に敗北してしまいそうな、そんな気がして。

 

「……心底苛つくなぁ」

 

 ただ、黒部ちゃんは最後泣いていた。心底悲しそうに。

 ウケる。そうウケる……。

 ……。

 

 愉悦民にとっては女の子の泣き顔はサイドディッシュ。その筈なのに、どうしてか、胸が塞いだ。

 

 

 そして、僕は卒業するまで彼女と話す事は無くなった。

原作突入後はどっちが読みたい?

  • 主人公を井上君に変更。
  • 主人公そのまま。
  • 執筆速度落として良いから両方やって♡
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