邪な神を崇拝する者の末路は往々にして碌なものではない。これは物語の類型的にはごくごくありふれた話だ。
やろうとした事を主人公に阻止される。或いは正義の味方に倒される。或いは信仰していた邪神に利用し尽くされて破滅するかもしれない。
ならば人の身でありながら神になろうとした者はどうか。
これも大概碌な事にはならない。
だから僕はきっとそう遠くない未来、破滅するだろう。
でもそれで良い。それだから良い。
天野遠子は僕を救えない。井上君じゃあ僕を助けられない。そして僕が破滅した後に残るその絶望を、喪失こそを僕は求めている。
これから始まる苦境苦難。君達はその真相を暴けない。例え救えたのだとしても“何か”を必ず取りこぼすだろう。
けれど、覚悟しろ。最後の秘された爆弾こそ最も注意をしなければならないものなのだから。
♪ ♪ ♪
休日、課題をこなした僕は机から一冊のノートを取り出した。
それはかの有名なジ●ポニカ学習帳。年齢相応でない見た目のノートだけれどもそれはさておき。
ただ幼稚に見えるのは外面だけ、中身は未来の出来事がびっしり細い字で書き込んである。その様は一種の魔導書のようにも見えるので僕はこれをネクロノミコンと呼んでいる。
「取り敢えず、現在の関係性と予想される変化を書き込もうか」
現在、僕の介入により既に話は既定路線を外れている。
先ず、僕が文芸部に居ることで天野遠子は部室で文章を食べなくなった。ここから想定出来る変化は色々あるだろうが、大筋に関わるかは微妙なところだ。
ただ、味のレポートもとい感想の発表は翌日にはしっかりとしているから家で食べているのだろう。
因みに僕は基本的にライトな所謂な●う系小説を毎回のように書いていたりする。三題噺をする度に『〜〜で無双する』等々書いているからかしきりに「縣君は他の作風を試してみた方が良いと思うの」とか言われた。
何でも展開が一辺倒な上に地の文が長過ぎるらしい。味は『豚骨ラーメンにカカオを大量に入れたような感じ』なのだとか。
……全く、腹立たしい事この上無い。
「……元の文体とストーリーで評価されていたらこうはならないよ」
評価されなかったから戦場を移して、少しでも読まれるようにと迎合して、その果てに作風を否定される。
好きなんだろう? 量産型みたいな展開と、何処かで見たような数打ちの文章が。これがお前達が望んだものだろう? だったら何故否定する。
ああ、本当に気持ち悪い。
創作活動なんてやはりクソだ。
「っと、論旨がブレた。軌道修正軌道修正……」
あと、大きな変化と言えばやはり井上君だろう。
文化祭の内容がクロスワードからライブに変わった事によって井上君がサボった。つまり三巻の文化祭もサボる可能性が出てきた。
これは良い兆候だ。井上君がサボれば芥川は救えない。芥川を救えないから文化祭は失敗に終わる。そして苦い失敗は周囲の人間の心を陰らせる。まぁ、取らぬ狸の皮算用。ここはしっかりと詰めて行こう。
ただ、後の変化は少し不安だ。
先ず井上君とちんちん君の邂逅が早まった。井上君がサボってくれたからちんちん君の心象は悪くなっていそうではあるがそれだけにちんちん君が何を仕出かすか分からない。
妙な行動力があるし、しかも馬鹿なようで滅茶苦茶聡い。
気取られれば最後、計画が破綻しかねない。
「一先ずはこんなところかな」
まだ書き込みのないページまで捲るとペンを手に取る。
そして綴るのは僕のこれからの方針だ。
・一巻、竹田千愛を自殺させる。
・二巻、基本不干渉のスタンスを取る。場合によっては雨宮蛍の復讐を手助けしても良い。
・三巻、芥川一詩とメンヘラ女を両方とも廃人にする。
・四巻、疑惑を疑惑のまま迷宮入りさせる。
・五巻、全部終わらせる。場合によっては最後の切り札を切っても良い。
・六巻以降、先は無い。よって思考する必要性を感じない。
尚これはあくまで目標であり、五巻の目標さえ達すれば一切を僕の勝利と見做す。
「さて……楽しいゲームをしようか」
原作突入後はどっちが読みたい?
-
主人公を井上君に変更。
-
主人公そのまま。
-
執筆速度落として良いから両方やって♡