僕は『〝文学少女〟』が大好きだった。お店で着けて貰った紙のブックカバーが擦り切れる程読み返したし、『神に臨む作家』での心葉の各巻のサブタイトル回収は泣けた。
そして僕もそういう風に生きれたらと、そう思った。
けれどそうはならなかった。なれなかった。
僕は成長して、沢山失敗した。心ない言葉を浴びせられた。そしてその度、『〝文学少女〟』を心の支えにして来た。
そしてある事に気付き、絶望した。
天野遠子は救えないのだ。物語の構図と言う枠に囚われない些細な仄暗闇しか持たない人間は。
人並み外れた不幸と、文学作品の構図。それが無ければ天野遠子の想像は意味を無くす。
そして僕には『〝文学少女〟』のキャラのように特筆して悪いエピソードは無い。
絶望だ。
一日を辛うじてやり過ごすのが精一杯な程辛い。正直、誰でも良いから助けて欲しくはあった。けど、誰も居ない。だから物語に逃げた。けれど物語も僕を助けない。
誰も僕を救わない。
ああ、生きづらい。
だから、君たちも生きづらくなってはくれないだろうか?
♪ ♪ ♪
井上君と仲良くなるRTAは無事タイマーストップ。そのタイムは一ヶ月と五日。思ったよりも時間はかかったが出会って五秒でバトル、いや出会って五秒で即挨拶からのハイタッチする仲になった。僕のせいで井上君のキャラ崩壊が酷い。まぁ今の井上君は純粋だから仕方がないか。
そしてもう一つ大きな変化が生まれた。
「えっと、朝倉さん。さっきからこっち見てるけど。何か用かな?」
「……別に」
ヤンデレちゃんに目を付けられた。井上君との仲が良いのが気に食わないらしい。お陰で雑談してると寄越される視線がエグい。
だがこの一ヶ月、僕がただ井上君コミュのレベルを上げていた、なんて事はない。
僕は既にヤンデレちゃん用の切り札を既に作ってある。ちょっかいは出されるだろうがムーブは現状維持で構わないだろう。
とは言え、少し欲求不満だ。ここら辺で少し愉悦を感じたい。なので、
「ああ、そうそう。最近宮沢賢治の本を読み始めたんだ。面白いんだよねこれが」
そこで、普段はツンとしました表情ばかりしている彼女の顔が目に見えて青褪めた。
薄々察してはいたが既に盗作を始めていたらしい。うーん。
ン気も゛ぢィィィッ!!
内心の猜疑と不安感がありありと見て取れる。実にグレイトな表情だ。
原作に於いてもアーモンド型の目やら何やらと美しい容姿の描写がされていただけあって曇った表情が最高に映える。
荒くなりそうな鼻息を抑えつつ、「君も読んでみなよ」と言うとそのまま逃走。
悪戯にヘイトを稼いでしまったが、僕の切り札の前にはどうしようもあるまい。
この物語は、僕がコントロールしてやる。
♪ ♪ ♪
時は少しばかり進み授業後。僕は井上君の家に上がり込んでいた。……ヤンデレちゃんを伴って。勿論言い出しっぺは井上君。でなきゃこんな状況にはなってない。
「あら、心葉のお友達? いらっしゃい。ゆっくりしていってね」
そして井上母から聞こえるセーラーマーキュリーのボイス。
思うのだが原作キャラって軒並みボイスあるのだし声優目指して良い気がする。
まぁ、とんでもなくメタい話なのだけども。
そんな訳で井上君の部屋。綺麗に整頓されたそこには普通の小学生らしい品々に加えて鳥籠が一つ置いてあった。そして当然ながらインザバード。白い鳥が入っている。
「井上君、この子の名前は?」
「チュチュって言うんだ。お利口な良い子だよ。触ってみる?」
僕は頷くとチュチュを自分の手の上に置いてもらう。うん、鳥だ。あと見かけによらず足が結構鋭い。
「結構、足ガッチリ掴んでくるね」
とは言え、このチュチュなのだが……時期は不明だがヤンデレちゃんに殺される。その際井上君の表情がとんでもなく曇る上、若干死のショックからヤンデレちゃんに少し依存するので是非是非死んで貰いたい。
僕の不穏な空気を察知してかチュチュは羽ばたくと井上君の頭に着地する。するとヤンデレちゃんがあからさまにチッと舌打ちした。
幸い井上君はチュチュが頭に乗ってこそばゆいのかそれに気付いた様子は無い。
この分ならチュチュは確殺と見て良い筈だ。あばよクソバード。君の主人の悲しみは僕の養分にさせて貰う。
さてと、チュチュの死亡フラグが立ったところで小学校でのイベントは他に何があったか。銀河鉄道の夜のお絵描きイベは……チュチュを鳥籠に入れたら何か始まってた。ナウかよ。
後は学校の金魚死亡イベと井上君の妹の井上舞花に石鹸を口に突っ込もうとする事件があるくらいか。後者は介入の必要性が無いのでヤンデレちゃん任せで良いだろう。
問題は現在進行形の銀河鉄道の夜イベだ。ぶっちゃけると介入するかしないか非常に迷う。
介入しなければの話だが、完成した絵は後の『慟哭の巡礼者』編で重要なアイテムの一つになる。普通に考えれば介入しないのが安パイだ。
しかしどうしても気になってしまう。此処で僕が介入したら、どんなバタフライエフェクトが起きるのか。
「僕にも一箇所だけ描かせてくれないかな」
「うん、良いよ! 何を描くの?」
「ちょっと列車にロゴでも付けようと思ってね」
井上君からサインペンを受け取ると列車の顔部分に歪めた五芒星を描き、中心に燃える眼を描く。
これは未来への挑戦状であり、犯行予告だ。
ああ、未だ見ぬ正ヒロイン天野遠子。
貴女は僕に勝てますか?
原作突入後はどっちが読みたい?
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主人公を井上君に変更。
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主人公そのまま。
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執筆速度落として良いから両方やって♡