愉悦部VS文芸部   作:睦月スバル

4 / 18
メスガキは強迫するもの。異論は認めない

 天野遠子へのカウンターの方法は主に二つある。先ずは構図すら存在しない、読み解くことの出来ない仄暗闇。そして、もう一つは一片の救いの物語の構図の完成してしまった場合だ。想像の余地もない位のバッドエンド。これならば文学少女でも太刀打ちは出来まい。

 だから僕は探した。そんな物語を。

 そして見つけた。外なる神が一切を嘲弄する滅びの物語を。

 

♪ ♪ ♪

 

 あれから順当にチュチュがご逝去なされて。で、学校で飼ってた金魚も死んで、舞花の口に石鹸事件が起きた。

 そして。

 

「ごめん縣君。今日はちょっと予定があるから……」

 

「そっか。まぁ予定があるなら仕方ないか。時間空いたらいつか遊ぼう」

 

「本当にゴメン」と謝る井上君を見ながら思う。遂に来たかと。

 

 ヤンデレちゃんこと朝倉美羽は渾名に違わずヤンデレである。家庭事情がかなり複雑な彼女は承認欲求がとても高く、その承認欲求故に人を縛り付け他者を排斥する傾向がある。

 原作でもヤンデレちゃんは井上君の隣を確保すべく積極的に活動していた。因みに井上の日程予約は彼女の常套手段だったりする。

 結果的に井上君とコミュが取りにくくはなったが、申し訳なさそうな井上君の顔を見ていると気分が晴れやかになって来るので、いいぞ、もっとやれ。

 

 となると今度はヤンデレちゃんのコミュを進めるべきか。幸い強は……お話しの切り札は沢山あるのだから。原作知識の齎す恩恵を舐めて貰っては困る。

 

 授業後、僕はヤンデレちゃんを人気の無い教室に呼び出した。そもそも呼び出せない可能性も勿論あったのだが、元より僕に直接井上君の悪評を吹き込む心算だったのかあっさりと応じてくれた。

 さて、それではショーダウンと行こう。

 

「それで、何で私を呼び出したの」

 

「僕さ、最近写真撮影に凝ってるんだ」

 

 何の脈絡もなしに僕がそう言うとヤンデレちゃんは「はぁ?」と露骨に顔を顰めた。

 

「特にファンシーショップとかドラッグストア辺りの写真を撮るのが好きでね」

 

 そこでヤンデレちゃんがピクリと反応した。非常に反応が分かりやすくてありがたい。お陰でクリティカルヒットしてるのが丸分かりだ。

 

「それでね。いやぁ、本当に偶々なんだけども撮れちゃったんだよね。……君が窃盗をしでかした決定的な瞬間を、さ」

 

 僕は胸ポケットから十数枚の写真の束を取り出して見せる。それはどれもヤンデレちゃんが窃盗をしている時の写真だった。

 原作でもヤンデレちゃんは物語が思い浮かばなくなると窃盗をするのだけれど、物語が浮かばないからって、窃盗しちゃあ、ダメだよねぇ?

 因みにこの写真をどうやって撮ったかと言うと、気合いと根性と若干の仕込みだ。単純に一人でフラつく彼女をストーキングして撮った。

 ただ、窃盗の可能性を高める為に井上君に『朝倉さんって面白い物語を考えれて凄い』と言った内容を大量に吹き込んで井上君の期待値を上げるように仕向けた。

 期待を向けられたヤンデレちゃんにとっては多大な負担になる訳だ。

 で、まんまと窃盗して。その場を僕に発見されたと。

 

「ど、どこでこの写真を」

 

「だから言ったよね。ドラッグストアとかファンシーショップだよ」

 

 ヤンデレちゃんの顔が目に見えて青ざめる。

 やはり美少女の絶望フェイスは中々に趣深い。ただ流石に原作開始前。何というかメスガキチックな仕上がりになっている。

 と、そんな事を考えているとヤンデレちゃんが僕の写真を強引にひったくった。

 

「馬鹿だねぇ。写真のデータは手元にあるからまた何枚でも刷れるのに」

 

「じゃあ早くそのデータをよこしなさいよ!」

 

 美少女の凄みという奴は存外に恐ろしい。しかし。しかし、だ。今のヤンデレちゃんは実質メスガキ。

 ならば、分からせねばなるまい?

 

「状況を分かってるのかな。君が指図出来る立場じゃないんだよ? それに態々ここに呼び出した意図を全く理解してないみたいだ。あーあ。バラすつもりは無かったけど警察を始めとして井上君辺りに流しちゃおっかなぁ。僕のお話し聞いてくれないならそれも仕方ないかぁ」

 

「……話を聞けば良いの」

 

 若干涙目なヤンデレちゃん。良いな。

 とは言え弄りすぎて心象をこれ以上悪くするのは悪手だ。ヤンデレちゃんの強かさとクレバーな態度に免じて頷いてやる事にする。

 

「と言っても僕としても大切な友達が一人消えるのも心苦しいし、そこで本当にちょっとしたお願いを聞いて欲しいんだよね」

 

「……何よ」

 

「井上君とまた遊んだり喋ったり出来るようにして欲しい。ただそれだけさ。ああ、勿論君と井上君の仲は承知してるし応援もしてるけどさ。それでも友達が離れていくのは少し寂しいからね」

 

 ヤンデレちゃんはきょとんとして、次いで林檎の様にボッと頬を赤らめた。

 因みに、このムーブは割と最初の頃から決めていた。

 先ず大前提としてこれから起きる事件に介入するには井上君と関わる必要がある。となると高校進学までどうにかコミュを継続しなければならない。そこでヤンデレちゃんの分断工作が邪魔になるから取り下げて貰う必要がある。

 故にコミュ持ちをお願いした訳だ。

 そして、後に付け加えたセリフだがこれも意図してのものだ。

 例えば、だ。弱みを握られ、自分の心理を理解されている相手が何か口を挟んできたら、どうするだろうか。

 答えは従属だ。悟り手は最強。

 ついでに言うと、僕は『慟哭の巡礼者』に於いて彼女の復讐計画のアドバイザーポジに加わろうと思っている。となると此処で全部分かっている風を装うのは実に都合が良い訳だ。

 

「そう。分かったわ」

 

 さて、ヤンデレちゃん。安心しているところ悪いけど、数年後の君は僕の傀儡になって貰うからね?

 

原作突入後はどっちが読みたい?

  • 主人公を井上君に変更。
  • 主人公そのまま。
  • 執筆速度落として良いから両方やって♡
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。