愉悦部VS文芸部   作:睦月スバル

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三人称インストール。
そして、次回愉悦第一弾になるかも。


分からせ。或いは理解にも似たナニか

  僕は黒部ちゃんと話す様になった。そうしてみると彼女自身の性質自体が猫に近い事がわかって来た。

 先ず、彼女はとんでもない奔放者なのだ。

 興味を持つとそちらに行き、興味を失うとすぐさま次に。興味の対象がそもそも無いとその場で寝始める。その様はまるで野良猫だ。

 その生態を知って僕は少し悩んだ。

 彼女が僕に向けている感情は果たして本当に恋慕なのか。

 彼女の性質がこうである以上僕の勘違いと言う線が否めない。世界観が世界観なだけに空回りしている可能性も十分にある。

 だが、恋愛にうつつを抜かしてばかりではいられない。

 そろそろ来るのだ。

 薫風社の新人小説大賞の時期が。

 

 さて大賞がどうしたと思われるだろうがこれがかなり重要なイベントになる。と言うのもヤンデレちゃんが自殺未遂をやらかす直接的な原因がこれだからだ。

 ヤンデレちゃんは作家志望で、これに作品を応募しようとするのだが、作品が思い浮かばず挫折。結果、白紙の原稿用紙を提出するのだ。

 ……募集をテキストファイルにしろや薫風社。

 で、井上君も同じ大賞に井上ミウの名前で応募して賞を受賞。一代ムーブメントが巻き起こる。が、ペンネームのせいでヤンデレちゃんがその作品の作者と勘違いされてヘラる。まぁ、いつもヘラヘラ物語を聞いてただけの犬っころが大賞を受賞して挙句クラスメイトから勘違いされれば病むのは仕方あるまい。

 そんなこんなありつつ、自殺未遂。

 

 さてお分かり頂けただろうか。

 人畜無害な顔をしておいて井上君はとんでもない戦犯なのだ。

 

 井上君が居なければストーリーテリングでストレスを溜める事はなく、窃盗は起きない可能性が高い。

 井上君が居なければ、朝倉美羽は自殺しようとしない可能性が高い。

 

 彼女の家庭事情がゴミカスだから確定とは言えないが、大体の遠因は井上君だ。信じられるだろうか。それでも井上君は主人公なのだ。

 だから僕は井上君が……心の底から大嫌いだ。

 

 とは言え地盤は既に整っている。今更派手に動く必要は無い。あとは、崩落の時を待つのみだ。

 

♪ ♪ ♪

 

 季節は冬、原稿用紙と向かい合う朝倉美羽は酷く憔悴していた。

 アーモンドの瞳の下には黒々としたクマが刻まれ、髪にはいつもの艶が失われており、彼女の私生活の破綻を如実に物語っている。

 しかし憔悴具合に反して原稿用紙は白紙のままで文字らしい文字は一文字たりとも書かれてはいなかった。

 否、書けないのだ。一文字たりとも、思い浮かばない。

 以前はアイデアを思い付く為に窃盗を犯していた。それをすると不思議と頭がすぅと冷えて、なのに身体はドキドキと動悸がして、そして何者かに勝利した感覚と共に自然と物語が湧いて来た。

 けれど、あの日……井上心葉に付き纏う邪魔虫……縣幸太郎にその場面の写真を撮られてから、何も思い浮かばなくなった。寧ろ頭と心が真っ黒に染まって、果ての無い泥沼に引き摺り込まれるような心地がした。

 この大賞で、もう一度書くことが出来れば変われると思った。物語の方からやって来てくれるようになると思っていた。けれど、一文字も書けない。

 彼女の座る椅子と、彼女の向かう机は最早彼女にとっての拷問道具と成り果てた。

 

 書かなければ。書かなければ、書かなければ。

 しかし、どうすれば良いと言うのか。

 締め切りの日は近い。仮に書けたとしても応募要項の十数万字には全然届かないだろう。

 そう、届かない。この時点で既に分かり切ってしまう。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

 書けない。そう思うと息が荒くなり、嘔吐感が込み上げて来る。

 急いでトイレに駆け込むと、便器に酸っぱい液体を吐き散らかす。酸にやられた喉が冬の空気に触れて殊更に痛む。

 

「書かないと、いけないのに」

 

 妄念にも似た思いを抱きながら彼女は井上心葉の事を考える。

 今頃彼は何をしているだろうか。文章を、書いているのだろうか。それとも家族と笑い合っているのだろうか。

 日中、だらしの無い笑顔を向ける彼の事だ。きっと書けている筈だ。

 そう思うと腹の底から怒りと嫉妬が湧いて来た。

 

「大丈夫よ。どうせ、落ちる。そうに決まってるわ。……中学生が、大賞を取るなんて夢のまた夢よ」

 

 彼女は失意と絶望の中、筆を折る選択をした。どうせ、二人とも落ちるのだからと。

 彼女は予め用意していた茶封筒に白紙の原稿用紙を詰める。能面のような無表情で。その顔はきっと、絶望にも似ていた。

 

「コノハは騙せる。大丈夫」

 

 井上の前でははしゃいでいればよい。きっと鈍感な彼は気付かない。きっと、騙されてくれるはず。

 そう思うと少しだけ肩の荷が下りたような気分になる。

 

「……二人とも落選して話は終わり。それで、良いのよ」

 

 しかし彼女の想定は甘かった。甘すぎた。それはもう、致命的なまでに。

 

 故にこの結果は必然だったのかもしれない。

 

 二年のある日、彼女は真の絶望を知る事となる。

 

 

 

 

 

 

 

「コノハには、きっと、わからないだろうね」

 

原作突入後はどっちが読みたい?

  • 主人公を井上君に変更。
  • 主人公そのまま。
  • 執筆速度落として良いから両方やって♡
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