愉悦部VS文芸部   作:睦月スバル

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愉悦しようぜ。お達ターゲットな

 絶望の時来れり。

 ああ、遂にこの時がきた。愉悦を感じることが出来る時が。

 『青空に似ている』著、井上ミウ。

 それは苦悩も困難もなく、ただ淡い水彩画で描かれた様な澄んだ恋の物語だった。それは井上君の心情をそのまま投影したかのように。

 ただ、僕は知っている。井上君が見ているのはあくまでも上部、上澄みなのだと。

 人間誰しも清濁を併せ持っている。それは常識。けれど馬鹿な彼は朝倉美羽の上部しか見ていない。裏を知ろうとしない。いや、彼女の裏に絶望と苦悩があるとすら思いもしていない。

 井上君は、朝倉美羽を神聖視しているのだ。まぁ僕がそう仕向けたのだけれど。でも原作でもそうだった。彼は朝倉美羽を知ろうとしない。

 だから、揺り返しが来る。当然の帰結では無いか。

 ああ、愚かな井上君。君の愚かさは人を殺す。

 

 君の無遠慮は朝倉美羽を底知れぬ絶望に突き落とす。君はそれを理解すべきだ。

 

♪ ♪ ♪

 

 井上心葉は何処かソワソワとした心持ちでその風景を眺めていた。

 と言うのも井上ミウの名前の書かれた広告がそこかしこに貼ってあるのだから。

 井上ミウのペンネームで発表した作品、『青空に似ている』は空前の大ヒットとなった。文庫本は売れに売れ、メディアミックスも既になされておりドラマも好評を博している。

 しかしその原因は。

 

「……謎の中学生美少女作家」

 

 これである。

 話題性重視の後付け設定がバズりにバズり井上ミウが広く認知され、話題性から本が売れた、と言うのが事の真相である。勿論きっちりと規定の字数を書く気力と「てにをは」を間違えない国語力等、中学生にしては破格の才を有していたのもまた事実ではあるのだが。それにしろ謎の中学生美少女作家の名前の話題性の力が強かった。

 お陰で朝倉美羽は一時期勘違いされて少しピリピリしているようだった。

 しかし、それも今日までだ。

 今日こそ、井上心葉は朝倉美羽に告白するつもりでいた。

 自分が、井上ミウなのだと。

 今まで色々な段取りがあったりと何かに理由をつけて延期していたのだがそれはもう終わりだ。

 この告白は朝倉美羽にとって何よりも残酷な事だと井上心葉は理解していた。何故なら作家になりたかったのは心葉ではなく美羽だったのだから。

 

「……怒るかな、美羽」

 

 この告白をしたら、彼女は怒るだろうか。そう思うと腹を括った筈なのに身体が芯から震える。

 あとほんの少しの勇気が心葉には必要だった。そう、その小さな背中を押す何者かの存在が。

 

「縣君に一度相談してみようかな」

 

♪ ♪ ♪

 

 二時間目が終わり長い休み時間。井上心葉はクラスメイトにして数少ない友人である縣幸太郎の席に来ていた。

 

「井上君、どうしたんだ?」

 

「少し例の件でね」

 

 縣幸太郎は家族を除けば自身が井上ミウである事を知っている唯一の人物だ。と言うのも、応募前の赤入れは彼が行っていたのだ。

 文法的なミスは殆ど見つからなかったものの文章の順番を入れ替えたりとガッツリ制作に関わっていたりする。

 そんな訳で縣幸太郎は心葉の裏事情を丸っと網羅している訳だ。

 

「例の件って言うと、遂にバラすんだ」

 

 その声にコクリと頷く。

 

「あれかな。いざ言おうと思ったけど怒られるんじゃ無いかって気が気でならない感じかな?」

 

「凄いね、縣君は。何でもお見通しみたいだ」

 

 そう言うと縣は「まぁね」と自慢げに糸目を更に細めた。

 

「ま、一つ言える事があるとするなら。……ヤン、ゲフン。朝倉さんは怒らないと思うよ。彼女が君の前で怒りを露わにした事が一度でもあったかな?」

 

「そう、だね。うん、そうかも。ありがとうね縣君。少し気分も落ち着いたよ」

 

 そう言うと心葉は歩き出した。

 朝倉美羽の元に。

 

♪ ♪ ♪

 

 嘘は言っていない。そう、嘘は決して。

 彼女は怒らない。けれどそれがイコール健全なまま変わらないって訳では無い。寧ろその真逆だ。

 彼女は起こらないが、その内心は怒りよりももっと悍ましい感情に支配されるようになる。

 そして、それこそが自殺未遂の引き金となる。

 

 ああ、ヤンデレちゃんがちゃあんと自殺しようと思ってくれるように駄目押しをしておこうか。

 

 放課後、僕は目がガンギマリつつあるヤンデレちゃんを呼び止めた。

 

「……何?」

 

 何と言うか、棘を最早隠そうともしない辺り相当追い詰められているようだ。この分なら勝手に自殺してくれそうだが愉悦部としては口撃しないではいられない。

 

「井上君に例の話を聞いたみたいだね。ねぇ、どんな気分なのかな。今、どんな気持ち?」

 

「……本当に最悪。コノハの件もそうだけどあなたに遭遇するなんて。……もう私に話しかけてこないで」

 

「釣れないなぁ……折角色々と助言しようと思ってたのに。このままだと君、捨てられるよ? 他ならぬ井上君に」

 

「何ですって?」

 

 あ、釣れた。

 煽り耐性が低くて助かる。

 

「だから、君が毎日挨拶してるのは新進気鋭の売れっ子作家。対して君は何だ。盗作して、窃盗して、挙句大賞に落選した敗北者だ。釣り合うと思っているの? だとしたら君の頭は彼以上にお目出度いね。いや、そもそも盗作しないと書けない君が応募用原稿を書き上げれるか疑問だねぇ。君、もしかして白紙の原稿用紙でも出したのかな?」

 

 そこまで言うと学生カバンが振るわれた。

 しかし相手は所詮非力な文科系女子の逆切れ。曲がりなりにもずっと運動部に所属してきた僕が当たる筈も無い。

 

「待ってって。だぁかぁらぁ、僕は助言をあげたいだけなんだってば。可哀そうな君の為にさ」

 

「……」

 

 そう言いつつ懐から写真をチラリと覗かせると彼女は静止した。どうやら状況を理解するだけの冷静は持ち合わせていたらしい。

 

「まず言いたいことは、これまでのやり方では井上君を縛り付けられないって事。……あれでも井上君は君の妨害無しだったらモテてるし。それに売れっ子作家という追加特典まで出来た。優良物件だ。君と違ってね。そ、こ、でだよ。もっとガッチリ。これまで以上に深く心を繋ぎとめる必要があると思わないかい?」

 

「……どうするのよ」

 

「例えば……井上君の心をズタズタに引き裂いて忘れられなくする、とか。ああ、これは冗談。ほんの冗談。……とにかく何らかの方法で君の存在をこれ以上なく鮮烈に彼の心に刻み込んでやるんだ。君の持ちうる全て――命まで使ってさ」

 

「……」

 

「僕の助言はこれだけ。君がどうするかは君の自由だ」

 

原作突入後はどっちが読みたい?

  • 主人公を井上君に変更。
  • 主人公そのまま。
  • 執筆速度落として良いから両方やって♡
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