愉悦部VS文芸部   作:睦月スバル

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愉悦()回


来る。きっと来る

 ああ、失敗した!!

 黒猫が見ていた!!

 何故肝心な時にこそ都合良く見ているっ!!

 答えろ、ランドルフ・カーターっ!!

 

♪ ♪ ♪

 

 日に日にヤンデレちゃんは衰弱していった。けれどその目だけは一瞬異様な威圧感を孕むようになっていく一途なのは興味深い。

 僕は夏の日差しを避けつつ優雅にスポドリで優勝しながらそんな事を思う。

 

「……そろそろ決めに来るかな」

 

 決め、とは勿論ヤンデレちゃんの自殺未遂の事だ。

 原作では植え込みがどうこうとかで生きていたのだが、果たして僕の介入によってどんなバタフライエフェクトが起こるのだろうか。とても気になる。あれだ。私気になります! って奴だ。

 もしかしたら、本当に死んでしまうかもだが、まぁそれはそれとして愉しもうと思っている。

 死のうが死ぬまいが過程の苦悩を愉しむ度量こそが愉悦部には必要なのだ。

 

 さて井上君頻りに携帯の画面を見てはソワソワしている。

 背後から近付いて画面に映る内容を覗き見ると、そこには予想通り屋上で待つ旨が記されていた。……にしても『青空に似ている』を意識しているせいか文面が厨二臭い。『青空に一番近いところで待ってる』って何なんだと言う話だ。原作を知らなければ首を傾げたに違いない。

 ただそれを前知識無しで瞬時に解すあたり井上君はやはりヤンデレちゃんガチ勢だと思う。

 

 ま、飛び降りるんですけどね?

 

 放課後、僕はトイレに向かうフリをしながら井上君の後をつけた。ヤンデレちゃんの窃盗写真を撮る為に磨いた気配消去能力のお陰もあってか井上君を含めて周囲の人間には全くバレてはいないようだ。

 僕は井上君が屋上に上がるのを確認すると手前の階段を陣取る。

 

 井上君はヤンデレちゃんが飛び降りたらとても良い感じの声で絶叫してくれるからそれを目印にひょっこりと顔を出そうと思っている。で、井上君の泣き顔で優勝と。

 

 ああ、因みに井上君ボイスは終わセラの優ちゃんやFate/Zeroの子供切嗣、遊戯王ゼアルのアストラルとかあの花のじんたんエトセトラ……。兎に角良い声している。だから、と言うわけでも無いのだが絶叫ボイスが非常に楽しみだったりする。

 

 ……脱線した。

 さて、渾身の「美羽っっ!!」まで暫し待つか。

 

 〜三分経過〜

 

「あれ、結構早めに落ちた印象あったけどこんなに時間掛かったっけ?」

 

 〜五分経過〜

 

「おかしい。井上君が粘ってるのか? それともヤンデレちゃんが投身自殺以外の事をしようとしてるのか?」

 

 僕は少しだけドアの隙間から顔を出す。

 するとそこには必死にヤンデレちゃんを引き止めようとしている井上君の姿があった。

 

「ありゃ、もしかして全力で引き止める井上君に絆されちゃったかな?」

 

 とは言えヤンデレちゃんは既に柵を超えている。原作では柵を超えていないしここで一波乱あるやも知れない。

 そんな事を考えていると井上君がヤンデレちゃんに手を伸ばした。そしてそれに呼応する様にヤンデレちゃんも手を伸ばし……寸前で停止した。まるで良く無いモノを見てしまったかのように。

 

「これ、愉悦無しルートなのでは……あ?」

 

 いや、方向的にヤンデレちゃんが見てるのは間違いなく僕だ。

 何見とんねん。僕なんて見てないで井上君を見るべきだろう。

 そんな感じで少しの怒りを込めた視線を向けると片手を井上君に向けていたヤンデレちゃんは動揺故かバランスを崩して、そのまま落下した。何というか、あっさりとした落ち方だった。

 ……これ、僕が悪いのだろうか?

 

「美羽っっ!!」

 

 原作とは違い後一歩の所を助けられなかった井上君の絶叫が青空の元に響き渡る。

 何だか特大の失敗をやらかした気がしたのだがそれはさておき。絶叫と絶望は満足いくものだった。

 

 なので、大きく息を吸い込むと内心で高らかに喝采する。

 

 この戦い、我々の勝利だ!!

 

 ヤンデレちゃんは無事に投身し、原作以上にヤンデレちゃんを崇拝していた井上君はヤンデレちゃんを助ける事が出来ず原作以上の絶望。素晴らしい結果だ。

 まぁ投身のドラマ性が無くなってしまったのは悲しいがそれは致し方無しだ。それよりも井上君の顔だ。愉悦みが深い。それでマイナス分は相殺。結果的には充分プラスだ。

 

 素晴らしい結果に詩の一つでも吟じて……。

 

「縣君?」

 

 吟じて、みたい気分だ?

 

 声の方を向くと、そこには学生鞄を持った黒部ちゃんが立っていた。

 不味い。歓喜で打ち震えていたはずの脳に冷や水がぶっ掛けられる。

 この状況はあれにも似ている。例えるなら、そう。人狼が人を殺している場面を村人にバッチリと見られてしまった。そんな感じ。

 では、現状に於いて僕の取るべき行動とは、何だ?

 

「黒部ちゃん! 大変なんだ! さっき朝倉さんがそこから落ちたんだ! 早く先生を呼ばないとっ!!」

 

 パッションだ。

 僕の熱演と混乱で正常な思考を奪ってやる。

 

「……分かった。早く職員室行かなきゃ、ね」

 

 乏しい表情のせいで騙せたか騙せてないかの判別が難しい。

 黒部ちゃんはやはり厄介だ。井上&ヤンデレちゃんサイドに集中していたのが仇になったか。

 ともあれ言い逃れの手段なんて幾らでもある。幸いあの場の井上君は僕に気付いてはいなかった。騙せる、筈だ。

 

 僕は黒部ちゃんと共に職員室に駆け込みヤンデレちゃんが投身した事を説明した。先生たちもこれには気が動転したのか追求はナシ。僕達はそのまま帰路に着いた。

 

「……縣君、縣君はどうしてあそこにいたの?」

 

 途中、黒部ちゃんにそんな事を聞かれた。

 

「……井上君の様子がおかしかったんだ。頻りに携帯を気にしていたし。それで画面を少し覗き見したら、『屋上』って書いてあって。それで、トイレ行ったりしてたら井上君の姿が無くて。帰ったと思ったんだけど、屋上が少し気掛かりでね」

 

「……そ。……朝倉さん、生きてると良いね」

 

 全く、愉悦を仕掛ける側も楽じゃない。

 人狼ゲームが得意じゃなかったら既に詰みだ。

 

「ところで縣君」

 

「何かな?」

 

「縣君は朝倉さんの事、好き?」

 

「へ?」

 

 意図のわからない質問に思わず素っ頓狂な声が漏れる。

 

「いや、いやいや。それは無いよ。たしかに仲の良い女友達だけど朝倉さんは井上君と付き合ってるしね。親友の彼女を好きになる趣味は無いよ」

 

 そう返すと黒部ちゃんは一言「安心した」と呟いた。

 

「それは、どうして?」

 

 

 

 

 

 

 

「だって朝倉さん、縣君にだけ対応がまるっきり違ったから。素の自分を曝け出してるみたいや感じで。だって、平時なら大人しいのにあの時は縣君を鞄で殴ろうとしてたし」




愉悦回と見せかけたガバ回でございました。
如何だったでしょうか?
さてさてアンケート更新しております。

主人公を井上君に変更すると原作の謎解き+縣君の愉悦工作の考察が始まります。ミステリ始まるってマ?
多分章の最後に縣君サイドのネタバラシが入るかと。

変更ナシ。初手から原作の謎解き要素ネタバレ。謎解きなど知った事か。黒部ちゃんに苛々しつつ愉悦しようと頑張る。

両方やって♡→実質の死刑宣告。作者は死ぬ。

原作突入後はどっちが読みたい?

  • 主人公を井上君に変更。
  • 主人公そのまま。
  • 執筆速度落として良いから両方やって♡
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