かつて彼女は英雄だった   作:初月

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伊豆大島防衛戦
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食堂で平和に寝ている時、突然妨害が入った。

 

「おーい」

 

春風が揺さぶって来るのだ。

 

「おーい」

 

正直スクランブルでも無いんだし起こさないでほしい。

 

「至急第二会議室に来いって連絡きてるぞー」

「なんで最初からそれを言わないんですか」

 

少し怒りつつ体を再起動させた。

春風はこういうときもテンションが変わらないのが厄介だ。

 

「もう皆集まってる。急ごう!」

 

さらに常に全力だからいつも私は置いてけぼりだ。

少しはこちらのことも考えてくれ。

 

そんなことを思いながら狭い艦内通路を駆け抜ける。

 

 

 ◇

 

私が入る頃にはもういつでも出来るような状態になっていた。

 

「朝風。集合が遅いです。今回は罰則無しにしますが次回からは整備室清掃を行ってもらいます」

いつも無感情なオペレーターもなんだか怒っていた。

松風もなんか冷たい目でこちらを見ている。

まあしょうがない。

 

ほとんど私の責任だ。

 

「総員集合したのでブリーフィングを開始したいと思います」

 

その一声で少しざわついていた第二会議室が静まった。

同時にスクリーンに表示されていたただの日本地図から三浦半島あたりを中心とした地図へと拡大される。

 

「衛星写真及び航空偵察により敵の中規模侵攻が確認されました。目標は伊豆大島簡易基地及び九

 十九里浜と思われます。対する当方の戦力ですが、横須賀にいる部隊・艦隊だけでは双方に対応

 するのは難しい状況といわざるを得ません」

 

相変わらずあまり感情の篭っていないオペレーターの声。

その後ろでスクリーン上に北東方向から伸びてくる矢印が増えた。

あれが侵攻ルートなのだろう。

 

「そこで私たちなど哨戒、通商防衛などを行っていた艦隊にも攻撃命令が降りました。もちろん貴

 方たちにもです。具体的に説明致しますとこの艦隊は現在位置から一旦東へと向かいその後北上

 し、支援ポイントへと向かいます。その間に遭遇した敵の撃破は勿論ですが、今回は敵の掃討も

 行ってもらいます。こちらに関しては特に作戦はありません。臨機応変な対応をお願いします」

 

そんな彼女の発言に対して徐々に恐怖を感じてきた。

まだ通商破壊部隊で苦労するような新人が、先ほど戦った艦隊の数倍もの戦力をほこる侵攻部隊の相手だ。

私を含めて本当に死ぬかもしれない。

そう思うと体が震えてきた。

いつそうなってもおかしくはないのに。

 

皆も同じことを思ったのか場の空気が変わった。

 

「あと、技術廠のほうから連絡がありまして今回の戦いに新型の弾道誘導弾を導入するという話も

 上がっています。そのときにはこちらから通信を入れるので聞き逃さないでください」

 

ここまで聞いた後、しばらく私は動かなかった。

どう状況が転じたって私が現場の指揮官となるのは確実だ。

 

皆を生きて帰さなければいけない。

 

その覚悟を決めなければいけなかったから。

 

 

 ◇

 

隣の整備室では相変わらず作業が続いている。

とはいえもうほとんど終わっているようだけど。

 

「朝風大丈夫?そんなに怯えたって貴方が突撃する未来は変わらないわ」

 

そんな声をかけてくる松風。

 

「怖いのは私の突撃より貴方たちの突撃です。こんなことをいうと甘いとか思うかもしれませんが

 私は貴方たちが死ぬのが怖い」

 

そんなんじゃない、と反射的に言おうかと思ったのだがやめた。

松風はどこか達観してる気もするが基本的に私たちとあまり変わらないはずだ。

 

「確かに甘いかもしれないけど、ほとんど形式上だけのリーダーだとしてもそう思ってくれるだけで有難いと

 思うわ。まあそんなことを思うのは私だけかもしれないけど」

 

「その言葉だけでも十分です」

 

まだ頼られてるだけでもいい。

そう思うことにした。

 

明日からは忙しくなる。

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