シンフォギアにゲッター系女子をinさせてみたかった 作:ぱんそうこう
始動
ツヴァイウィング初の単独ライブは、ノイズの大量発生によって中断を余儀なくされた。
『ライブ会場の惨劇』
そう名付けられたその事件は二万人を超える死傷者・行方不明者を記録し、ノイズによる被害では過去最大級の惨劇として人々に記憶された。そして生存者の中に壁に叩きつけられる、突き飛ばされるなどで負傷していた者がいたことや、形が残っていた死体に付着していた物のDNA鑑定の結果から、ノイズからの逃走を図る人間同士での争いが多発していたことが判明。そこから「死者の多くは人間同士の争いによる犠牲者である」と報道されると、それは生存者に対するバッシングを引き起こすこととなったのであった。
同時に天羽奏を失い、風鳴翼も重傷を負ったツヴァイウィングは解散を発表。風鳴翼も活動休止を宣言した。その知らせはファンには悲しみを以て受け止められた。
そしてそれは残された者たちも例外ではない。天羽奏の死は、戦士たちにもその関係の変化を迫ったのだった。
――――――そして時は流れ二年後――――――
私立リディアン音楽院新入生、立花響は休み時間の真っ最中に木に登っていた。
にゃーん
「うんしょ、うんしょ……待っててね……今助けるから!」
子猫が高い木から下りられなくなっている。普通の人間ならそのまま見て見ぬふりをするだろうが、根っからのお人好しである彼女は見捨てられない。ついつい助けようとしてしまうのだ。
(大丈夫!全力で走れば教室までそんなにかからない……はず!)
そう、例えそれが遅刻寸前であっても。
時刻は既に、あと少しで席に着かなければ遅刻するほどに差し迫っている。
何とか木を登りきろうとした時である。
「おい、何やってんだ?お前」
「へ?」
下から声がかかる。見れば、自分より年上の人が黒いスーツを着てこちらを見ていた。男の人か女の人かは分からないが、その表情は険しく、顔に刻まれた傷痕がちょっと怖い。
「あっあの!その……決して怪しいことはしてないです……よ?」
急なことだったので思わず怪しい言葉使いをしてしまった。終わった……と思った響であったが、まだ神に見放されてはいなかった。
「んな事は百も承知だ。お前、ここの新入生だろ?もう時間だが何で木なんか登ってんだ?」
その人が腕時計を指す。どうやら怪しいと思っているのではなく、純粋に疑問に思っている様子だった。
「その……あの子が木から下りられなくなっててですね……」
「あん?」
子猫がいる方向を指差すと、相手の視線もそちらを向いた。直後、怪訝な顔をされる。もしかして何か間違えてしまったのか。
「お前、まさか遅刻直前になってまでこいつを助けようと?」
「はいっ!そうなんです!」
「呆れた。そいつはこんなときにすることでもねえだろ」
「う。いやでもそのほっとけなくてですね……」
「しょうがねぇ。俺がそいつを下ろしてやるから、お前は早く下りろ」
「え!手伝ってくれるんですか!?」
「いいから早く下りろ!遅れちまうぞ!」
「は、はいぃ!」
ここで響はふと疑問に思った。自分を下に下ろしてどうやって助けるんだろう?登るのが早い人なのだろうか?と。
その答えは直ぐに、至ってシンプルな形で示された。
膝を深く曲げると、「ふんッ!」と助走もなくその場でジャンプ。そのまま子猫の元へ到達すると、空中で一回転しながら子猫を抱えて下りてきた。
「そら。これでいいか?」
曲芸めいた見事な動きを見せられて、響は若干興奮ぎみに反応する。
「はい!ありがとうございます!」
「おう。じゃあひとまずこいつはうちで預かっとくぜ。後は……」とここまで言ったところで、授業の時間が差し迫っている響は、続けて何か言おうとするのも聞かずに「本当に、ありがとうございました!」とだけ言い残して早々に走り去っていった。
なお、彼女は遅刻からは逃れられず、教諭からきつい雷を落とされたのだった。
「なんつうか、嵐みてぇな奴だったな。最近の女子高生ってのはみんなこうなのか?」
――――――――――――――――――
「疲れた~~~~。入学初日からクライマックスが百連発気分だよう」
初日の授業を終えて寮の自室に戻った響はその勢いのまま部屋の中に倒れこむ。まさか入学早々教諭に叱責を受けるとは思っていなかった響は、「私呪われてるぅ」といつもの口癖を呟く。
「半分は響のドジだけど、残りはいつものお節介でしょ」
帰ってくる若干冷ややかな声。声の主は響の親友で同室の小日向未来である。
「人助けと言ってよぉ。人助けは私の趣味なんだから」
「響のは度が過ぎてるの。普通、同じ教室の人に教科書貸さないでしょ?」
「私は未来に見せてもらうからいいんだよ~」
未来の苦言を気にもせず、無邪気に笑ってみせる響。
そんな様子に、未来は「……ばか」と心配半分、照れ半分といった具合に返すのだった。
そんな立花響にはこのリディアンに進学する上で目的があった。それはツヴァイウィングの片割れ、風鳴翼に会うことである。とはいえそれはよくある「有名人に会いたい」のような不純なものではない。
立花響は数少ない、「ライブ会場の惨劇」の生還者である。
あの日、確かに彼女は戦うツヴァイウィングを見た。ノイズを相手に縦横無尽に刃を振るい、それを消滅せしめるところも、余さず全てを目撃した。そして、天羽奏が自分を守り、命を燃やし尽くして死ぬところも。記憶はそこで途切れているが、その光景は今でも思い出せるくらいにしっかりと目に焼き付けられている。
しかしいざ退院してみれば「ツヴァイウィングが戦っていた」などという記事は影も形も見えず、ただ犠牲者がどうのこうのといったものしかなかった。
だからこそ知りたい。あの日見たものは夢だったのかを。だからこそ会いたい。風鳴翼に。あの日の真実を訊くために。
―――――――――――――――
世に蔓延る認定特異災害、ノイズ。
またも発生したそれに特異災害対策機動部一課が通常兵器で立ち向かうも、全てノイズが持つ位相差障壁に阻まれてしまい無力化される。
だからこそ、ノイズを討つことが出来る唯一の戦士たちは今宵もその刃を振るう。
ヘリから飛び降りたのは二人の女。
―――Imyuteus amenohabakiri tron―――
―――Raging getter spark tron―――
直後、二人の体は光に包まれ、特異災害対策機動部二課が誇るアンチノイズプロテクター、シンフォギアにその身を包む。
『翼。まずは一課と連携しつつ、ノイズの出方を見るんだ』
「必要ありません」
通信相手が止めるのも聞かず手短に通信を切り、単独で敵陣へ切り込んでいく。
その隣には真紅の戦士。
『仕方ない……翼のフォローを頼む。竜くん』
「応」
短くそれだけを言って通信を切ると、続いてノイズの群れへとその好戦的な笑みを向ける。
「さて、ノイズ狩りの始まりだ!てめえら生きて帰れると思うなよッ!」
「来るがいいッ!まとめて地獄へ送ってやろうッ!」
一番手は蒼の戦士。剣を手に携える者は誰よりも早く切り込み、縦横無尽に戦場を駆ける。
「行くぜノイズ野郎!皆殺しにしてやるぜ!」
二番手は真紅の戦士。手斧を手に携える者は誰よりも深く切り込み、敵に致命の一撃を与える。
炎が舞う戦場に歌が響き渡る。
蒼と紅。二色の戦士は互いに言葉も交わさず自在に暴れていた。
「ゲッタァァァァァトマホォォォォク!」
「破ァッ!」
斬撃を、あるいは刃そのものを撃ち放ち、戦場を制圧する。
ある時は刃を増やし、絨毯爆撃のごとくノイズを貫く。またある時は刃を束ね、一つの刃と化して巨大なノイズを切り裂く。
みるみるうちにノイズは数を減らし、ついには全滅したのだった。
「あれが……二課の、アンチノイズプロテクター」
戦慄する一課の職員。こうして見るのは初めてだが、実際に拝めば分かる。あれこそ人類の希望。あれこそ人類の切り札。しかし――
「何だ?この違和感は……」
その戦いぶりに、どことなくぎこちなさを覚えた。
――――――――――――
翌日。
新入生たちもいよいよ通常の授業が始まり、リディアンの洗礼を受け始めた。在校生たちも進級し、新しい課程に一喜一憂している。
そして放課後になって既にある程度の時間が経ち、部活動に励む生徒もまばらになってきた頃。新任用務員の流竜は敷地の手入れの仕上げに取りかかっていた。
かつてライブ会場で負った傷はほぼ完治したものの、顔に受けたものは傷痕となって残っている。竜自身も戒めとしてこれを残すことを望んでおり、持ち前の目付きの悪さもあってそれが堅気とは思えない雰囲気を醸し出している。
なお、それが原因で生徒からは「元ヤン?」「いやいや、現役のヤクザかもしれませんわ」「あんなアニメみたいな傷痕初めて見た」と若干避けられていたのはまた別の話である。
そんな彼女のもとに着信音が鳴る。それを聞いた瞬間、顔つきが険しくなり、戦士のものへと変わる。そのまま勢いよく立ち上がると、100mを10秒切る程の凄まじいスピードで中央棟へ走り去っていった。
そしてそれは生徒としてリディアンに残っていた風鳴翼も同じであった。黒いノイズによって負わされた傷は無事に完治し、最近は歌手活動も再開、ニューシングルを発売するなど、表向きはかつての惨劇から立ち直っていた。
そんな彼女の元にも着信。その主の声を聞いた瞬間、頭の中のスイッチを切り替えて二課本部へと走るのだった。
「状況を教えてくださいッ!」
竜の到着からわずかに遅れて翼が到着。竜より少し離れた所に立ち、状況説明を求めている。
「現在反応を絞りこみ、位置の特定を急いでいますッ!」
その言葉に焦りを隠せない翼。それは竜も同じなようで、いかにも待ちきれないといった様子で次の報告を待っている。
位置特定が先か、戦士がしびれを切らすのが先か。
翼はともかく、竜に関してそれは当然後者だった。
「チッ……もう待ちきれるかよ!」
「待て竜くん!どこへ行く気だ!」
二課司令、風鳴弦十郎によって出撃を止められる。
「反応自体はあるんだ!だったら片っ端から全員ぶちのめせば解決すんだろ!ゲッターなら出来る!」
竜の解決案は案というにはあまりにもお粗末だった。ノイズの反応は現在移動しており、一定の位置に留まっていない。それが位置の特定を手こずらせている原因だというのに、それを無視して力ずくで解決しようとしていた。
「……それで済むならいいがな」
あまりの暴論に、思わずといった拍子に翼が呟く。
「何か言ったかよ」
「……何も」
とても友好的とは思えない雰囲気の二人。二年前のライブ事件以来、二人はずっとこんな調子だった。
かつての互いに突っかかったり、軽口を叩き合うような関係は天羽奏の命と共に失われた。今はただ距離を取り、殆ど口も利いていない。珍しく話したと思っても、今のように険悪な雰囲気を漂わせるだけであった。
「反応絞り込みました!位置、特定!」
「これは……!ノイズと異なる高質量エネルギー検知!波形、照合します!」
「よし。じゃあ、俺はさっさと行かせてもらうぜ」
待ちに待った位置特定の報告。後に気になる報告もあったが、知らぬとばかりに現着を優先しようとする竜。
「待って竜ちゃん!これ、まさかアウフヴァッヘン波形!?」
それを止めたのは櫻井了子の驚愕の声だった。アウフヴァッヘン波形とは聖遺物が発する特殊な波形であり、ノイズ発生位置周辺で発せられたということは可能性は二つ。
一つは、偶然周囲で聖遺物が起動した可能性。
そしてもう一つは、
竜が思わず振り向けば、画面には『GUNGNIR』の文字が大きく表示されていた。
「「ガングニールだとォッ!!??」」
弦十郎と竜が同時に叫んだ。
ガングニール。二年前に命を落とした天羽奏のみが持ち、その命と共に消え去った第三号聖遺物。失われたはずの、何者をも貫き徹す無双の一振りの名が、確かに目の前には表示されていた。
「おい了子さん!そいつは計測違いじゃ無えだろうな!」
「間違いないわ。二課に記録されているガングニールの波形と99.8%一致よ。あれは間違いなく、ガングニールだわ」
シンフォギア開発者、櫻井了子が太鼓判を押した。その言葉に二課の司令室全体に動揺が走る。特に、風鳴翼の動揺は誰よりも大きかったのだった。