シンフォギアにゲッター系女子をinさせてみたかった   作:ぱんそうこう

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内面描写の言葉選びに苦戦していたら遅れてしまいました。申し訳ありません。

UA25000突破、お気に入り600突破ありがとうございます。これからも本作をよろしくお願いします。


撃槍再臨

「CD!!とっくてん!!CD!!とっくてん!!」

 

 

二課がノイズの発生を検知する十数分ほど前。立花響は本日発売、初回特典付き風鳴翼ニューシングルCDを求めて街を駆けていた。

今日において音楽の販売はダウンロードが主流となり、CDを購入する機会はめっきり少なくなった。それはCDを買いに行くと言った際、親友の小日向未来が「今どきCD?」と反応したことからも明らかだろう。

 

かといって音楽業界が指を咥えてそれを見過ごす筈もない。近年のCDは初回特典を豪華にするなどオプション面の充実を図っており、今ではそれが標準となっている。その結果、現在のCDは音楽の媒体というよりある種の公式グッズとしての側面が多大に表れていた。

 

だからこそファンは初回特典CDを決して見逃さない。それが今をときめくトップアーティスト、風鳴翼のものとなれば言わずもがなである。そして当然考えていることは皆同じ。立花響もまた、どこかでCDを求める誰かと同様、いち早くショップに着きたい一心で街を駆けていたのだった。

 

 

ショップへ向けて走り出してからしばらくして、彼女はふと違和感を覚えた。街中にしては人気が少なすぎるのではないだろうか。近くに横断歩道もコンビニもある。何より今は夕方だ、帰宅する人の姿があってもおかしくないはずなのだが……

 

気になってコンビニの中を覗くと、そこには大量の炭の山。間違いなくそれはノイズによる被害のそれだった。

 

見ればそれはコンビニの中だけではない。路地裏にも、通りを少し曲がった影の中にも炭。炭。炭。炭が風で舞うのを見て、響の思考が逃げる一色になろうとしたその瞬間。

 

「きゃあああああああ!!」

 

悲鳴が聞こえた。

 

その瞬間、無意識のうちに彼女は声の主のもとへ走り出していた。

 

 

 

 

 

声の主―――まだ年端もいかない少女だった―――を連れてノイズと逃避行を繰り広げる。ある時は川を渡り、ある時は少女を背負って走り続ける。

辿り着いたのは工業地帯、その一際高い所。やっとの思いで辿り着いたゴールは、しかしノイズの巣窟であった。

 

「お姉ちゃん……わたしたち、死んじゃうの?」

 

少女が泣きそうな声で訊いてくる。

 

この絶望的な状況の中でも立花響は諦めない。

その胸にある想いはただ一つ。

 

「生きるのを諦めるな」―――二年前、立花響が天羽奏から受け取った願い。これまで何があっても、この言葉が自分を励ましてくれた。自分は生きていてもいいのだと肯定してくれた。だから。

 

「大丈夫!お姉ちゃんが絶対守るから!」

「だから……生きるのを諦めないでッ!」

 

 

 

―――Balwisyall nescell gungnir tron―――

 

 

「うううううう……あああああああああ!!」

 

 

胸から歌が溢れ出す。溢れ出した歌は身体を侵食し、戦うためのものへと造り変えていく。起点は心臓、そこから蔦を伸ばすように細胞を変質させていき、背を突き破って体表に定着させる。定着が完了した時、立花響の体は見慣れないナニカに包まれていた。

 

 

 

 

「え……うえええええ!?何これ!?私どうなっちゃってるの!?」

 

混乱。見覚えの無いナニカを纏っているのだから至極当然である。しかし、

 

「お姉ちゃんかっこいいー!」

 

背後の声である程度平静を取り戻す。

 

(そうだ、わたしがこの子を守らないと。わたしの身に何が起こっているのかは分からないけど、今は——)

 

 

 

絶対に 離さないこの繋いだ手は

 

こんなにほら温かいんだ 人の作る温もりは

 

 

 

胸から溢れる歌を歌いながら少女を抱えて空へ飛び出す。しかし想像できないパワーによって思っていたよりも飛距離が出てしまい、着地時にバランスを崩してしまう。その隙をすかさず狙うはノイズの群れ。かろうじてそれを横っ飛びに避けるも、自分の身体能力に振り回されて上手く躱しきれない。

 

(まずい。まずい。このままではこの子が。何とかノイズに触れないようにしないと……)

 

だが考えことをしている暇など無い。既にノイズの尖兵は響に襲い掛かっている。

 

 

 

届け!全身全霊 この想いよ

 

響け!胸の鼓動 未来の先へ

 

 

 

もはやこれまでか。せめて自分を盾にするつもりで、我武者羅に拳をノイズにぶつける。

 

(あれ……?私今、ノイズをやっつけたの……?)

 

目の前の光景に呆然とする。自分でも何をやったのか分からない。一つだけ分かっているのはノイズを倒したのは自分であるという見たままの事実だけ。

 

しかし忘れてはならない。倒したのは所詮ノイズ一匹。倒したところで戦場に大きな影響を与えたわけではない。故に戦況を変えるのは―――

 

 

 

命を燃やせ 怒りを燃やせ

 

今がその時だ

 

 

 

――増援しかないだろう。真紅のギアを纏い、流竜、ここに見参。

 

「ボーっとしてんしゃねえぞひよっ子。死にたくなけりゃ下がってな」

 

響の肩に手を置いてそう言うとノイズに向かって駆け出していった。彼女が暴れている最中、「土手っ腹かっさばいてやるぜ!」などという台詞がちらほらと聞こえてくる。

 

(あの人……もしかして昨日の……?)

 

そう思っていると今度はバイクの駆動音。バイクの乗り手が聖詠を唱え、ギアを纏う。蒼のギアを纏う戦士、風鳴翼もこの戦場に参戦した。

 

「呆けない!そこでその娘を守っていろッ!」

 

死にたくなければな、と続けて響には目もくれず竜とは別の群れへと走り出す。

これで困ったのは響である。彼女は戦いに関してはド素人もいいところ。目の前で起きた状況の変化に彼女の頭がついていけていない。だから、自分が下がるように言われたとしてもただただ狼狽え、呆然としていることしかできないのだった。

 

「俺から逃げられると思うなよッ!粗挽き肉団子にしてやるぜ!」

「言葉は通じずとも(これ)は通じるだろう?根絶やしにしてくれるッ!」

 

しかしいざ二人の戦いぶりを見ると、どうしても見惚れてしまう。竜は荒々しく手斧を、腕甲を振るい続け、手当たり次第にノイズを消滅させていく。一方の翼はそれとは真逆。流麗に剣を振るい、計算された動きで次々とノイズを消滅させていく様はもはや芸術的だった。

 

しかし彼女らの言った通り、呆けている暇はない。

響が自分の視界が暗くなったことを感じた時、巨大なノイズの一体が自分めがけてその腕を振り下ろさんとしていたのだから。

 

 

勇気はあるか 希望はあるか

信じる心に

 

 

明日のために 戦うのなら

今がその時だ

 

 

それを救ったのは上空からの急襲。大量に手斧を投げつけて手傷を与え、最後は光線でまとめて焼き払う武装のコンビネーション。

手慣れたようにノイズを殲滅する姿に対し、響に出来たのはただただまっすぐ突っ立っていることだけだった。

 

 

 

「ボーっとすんなって言った筈だぜ」

 

 

 

竜は瓦礫に足をかけ、爆炎を背にしながら響を見定めるように見つめていた。

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

戦闘はあまりにもあっさりと終わった。ほぼほぼ十割が二人のおかげではあったが、こうして立花響の初陣は無事に終わったのである。

 

端的に言って、響は夢でも見ているような気分だった。

さっきまでノイズから逃げていたはずだったのに、気が付けばよくわからないものをつけており、しかもノイズを倒してしまっていた。

 

さらに次の瞬間には学院で助けてくれた人と風鳴翼が現れてノイズを倒している始末。二年前のライブで見たツヴァイウィングが戦っていた光景が真実だと証明されたことは嬉しいが、それを込みにしても事が起こりすぎて彼女の頭では処理しきれないでいた。

 

「はい。あったかいものどうぞ」

「あ……あったかいもの、どうも」

 

まだ緊張感が抜けずにいたところ、事後処理に従事していた友里が暖かいココアを差し出した。いかに四月とはいえ、まだまだ夜は冷える。それに、これだけのことがあった後でゆっくりと啜るココアは心を落ち着かせるには十分だった。

 

刹那。響の体が光り、装着されていたものが解除される。思わずバランスを崩し後ろへ倒れかかった時、背後から支えたのは翼だった。

 

「あ……ありがとうございます!」

 

響の礼にも表情一つ変えず、ただ響を険しい目で見つめるだけの翼。響にはその意図が分からず、顔がやや曇る。

 

(これがガングニールの装者だと?まるで素人。どこぞの手の者ではあるまい。だが一般人がギアを手に入れられる筈が無いだろう)

 

それもそのはず、翼にしてみれば響は出所不明のガングニールを纏う謎の装者なのだ。どこぞの組織の者かとも考えるが、その立ち振舞いはどう見ても素人。観察してもそれしか分からない。

加えて、

 

(彼女が何故奏のギアを……?一体それをどこで……)

 

それが失われたはずのガングニールならば尚のこと。因縁のギアを纏うこの不審人物をどう扱うべきかと考えている時、突如響が口を開いた。

 

「あの!実は翼さんに助けられたの、これで二回目なんです!」

 

「……二回目……?」

 

嬉しそうにえへへーと笑う響。一方の翼は困惑を深める。確かこの娘とまともに話すのは初めてのはずである。どこかで会ったとしても、せいぜい戦場でのことくらいだろう。まさか以前のノイズ討伐の際に救助したことが?いや、それにしては見覚えが無い顔だ。何よりそれはガングニールを纏っている理由の説明になっていないではないか。

 

ともあれこのままでは埒が開かない。同行を求めるべく声を掛けようとした時。

 

 

「おうひよっ子。昨日ぶりか?」

 

「あ!やっぱり昨日助けてくれた人なんですよね!?」

 

「そうだ。お前にはちょいと話があるんだが、構わねえな?」

 

 

戦いの最中とは打って変わって妙に近い距離感で話し掛ける竜。そこに僅かに違和感を感じた響だったが、彼女にとっては一度ならず自分を助けてくれた人の言葉である。二つ返事で、「はい!何でも言ってください!」と答えた。

 

「いい返事だ。じゃあ俺たちに同行してもらうぜ。強制でな」

 

そしてそのまま手錠を掛けられる。予想外のことに固まる響。翼も自然な動きで手錠を掛けたその様子を見て「手間が省けたか」と踵を返し、二課本部へと撤退していった。

 

 

 

「なんでええええええええ!?」

 

 

そして黒塗りの車に乗せられた響は、訳もわからず拉致されていったのだった。

 

 

 

 

 

 

「ようこそ!人類守護の砦、特異災害対策機動部二課へ!!!」

 

リディアン音楽院、その地下深く。そこへ連れていかれた響は、神妙な表情を続ける翼を見て少し身構えていた。しかし待っていたのは『熱烈歓迎!立花響様』の幕に満面の笑みを浮かべた面々。イメージとあまりに違いすぎて意識が空白になってしまう。

その空白を縫うように、了子が響に近づいていく。

 

「ささ、お近づきの印にツーショット写真~☆」

 

響が自分を取り戻したのは、その声と構えられたスマートフォンに映る自分を見てからだった。

 

「ええっ!?ちょっと待ってくださいよぉ!手錠したまんまのツーショット写真なんて、きっと悲しい思い出に残っちゃいますよ!」

「第一、なんで初めて会う私の名前を知ってるんですか!?」

 

「我々の前身は大戦時に設立された特務機関でね。こういった調査はお手の物というわけなのさ」

 

弦十郎がそう言うや否や、隣に居座った了子が響の私物であるリディアンの鞄を見せつけてくる。

 

「あーーー!それ私の鞄!なにが調査はお手の物ですか!鞄の中身、勝手に調べたりなんかしてぇ!」

 

 

その騒がしい様子に、「それどころでは無かろうに」と頭を抱える翼。竜は「俺も暴走なんかしなきゃこんなふうになってたのか?勿体無いことしたな」と内心少し残念な気持ちになるのだった。

 

 

 

 

「では、改めて自己紹介だ。俺は風鳴弦十郎。ここの責任者をしている」

 

「そして、私が出来る女と評判の櫻井了子。よろしくね~」

 

掛けられた手錠が外されると、響はようやく一息つくことができた。

正直なところ、こんなことなら手錠されなくても良かったのでは?と思わない訳ではないが、その疑問はひとまず胸にしまった。それよりももっと大事なことがあったからだ。

 

「君をここに呼んだのは他でもない。君に協力を要請したいことがあるのだ」

 

協力と聞いて頭に疑問符が浮かぶ。しかし、すぐに先程の光景に思い至った。

胸から歌が浮かんだこと、ナニカを身に纏っていたこと、そして自分がノイズを倒したこと……聞きたいことは山ほどあった。

 

「そうだ、あれは……」

 

「どうやら、思い当たる節があるみたいね。じゃあ説明する前に二つだけ約束してちょうだい」

「まず今日の事は誰にも内緒。そしてもうひとつは……」

 

顔を近づけ妖しい笑みを浮かべる了子。

 

「ちょぉぉぉーーーっと、脱いでもらおうかしら」

 

「ふぇ」

 

やっと説明してもらえるかと思えば、突然の脱衣要求。感情が限界に達し、とうとう彼女の感情は限界を迎えた。

 

「だから、なんでぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 

 

 

 

 

結局、響が思っていたようなアレやコレやは何もなく、ただのメディカルチェックを了子がふざけて意味深に告げただけのことだった。彼女は心の底から紛らわしいと思ったが、同時に彼女がとっつき易い人間だと感じていた。政府の機関という割には堅苦しいわけではなく、むしろ接しやすいという事実を肌で感じた事は、その不安感を薄めることに成功していた。

 

そしてその後の二課職員による歓迎会に行く頃には、もう彼女に警戒心や不審に思う心はすっかり失せてしまっていた。

 

複数のテーブルには揚げ物を始めつまみやすいものが鎮座し、様々なスペースで様々なグループが形成されている。

その中の一つに手招きされ、ホイホイと付いていった彼女はちびちびと飲み物を啜りながら、これから仲間になる者たちの自己紹介を聞いていた。

 

「さて、次は竜さんの番かな」

 

「おう、もう順番が来ちまったか」

 

次は竜の出番、というところに来た時、それより先に響が動いた。

 

「あの、昨日は本当にありがとうございました!」

 

「それが仕事だからな、大したもんじゃねえさ」

 

仕事?と首をかしげると、竜は一度頷いてその続きを始めた。

 

「おう。リディアンの用務員兼二課職員の流竜だ。ついでにノイズと直接戦う装者でもある。これから学院で会うことも多いだろうから、これからよろしくな」

 

「はい!」と元気のいい返事を返す。と、ここで思い出したかのように言葉を発した。

 

「……そうだ!確か、竜さんも翼さんと一緒にノイズと戦ってるんですよね!やっぱり、翼さんと仲いいんですか?」

 

その言葉に場の空気が凍る。

二人の変化を良く知っている藤堯はおそるおそるといった様子で竜の顔を伺い始めた。一方何も知らない言い出しっぺの響は「あれ?私、何か変なこと言いました?」と呑気な顔をしている。周囲もその様に戦々恐々としていたが、竜は一瞬目を見開いてから閉じ、薄く笑うと、

 

「さあな」

 

とだけ返した。

―――響にはそれが何故か悲しそうに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二課トレーニングルームに併設されているシャワールーム。そこに、風鳴翼は一人でいた。

 

(何故だ。何故あんな……)

 

考えているのは突然現れたガングニールの適合者、立花響のこと。

 

(あれは奏のギアだ!奏が、血反吐を吐いて命懸けで勝ち取った力だ!だというのに……)

 

なぜ、あんなどこの馬の骨とも知れぬ輩が。

 

言葉にはしなかったが、その思いが翼の中を這いずり回っていた。そして心を乱しているのは響のことだけではない。

 

(竜……お前は何故、ああも受け入れられるんだッ!)

 

流竜。二年前に参入した正体不明の聖遺物"ゲッター"の装者。ほんのわずかな時間だが、奏と同じ時間を過ごした間柄であり―――同じ、奏を失った傷を背負う者。

だというのにこの違いは何だ?私は立花を受け入れられない。認められない。

 

『二人一緒なら、何も怖くない』

 

ツヴァイウィングとして、装者として、常にこの言葉が胸の中にあった。竜が参入してからは三人にこそなったが、奏と私は変わらぬ絆で結ばれていた。その原点こそ、ガングニールなのだというのに。

 

まるで、神聖なものを土足で踏みにじられたような―――そんな気持ちだった。

 

 

そして鬱屈した負の感情が竜に向いたその瞬間、蓋をした筈の感情が再び呼び起こされる。

 

(竜……何故お前はあの時、間に合わなかった?)

 

「そう、だ……お前さえ……お前さえ……!」

 

手を震わせ、震えた声でそう呟く。

いつもは蓋をできている筈だ。だというのに、今日は止められない。他に誰もいないからか?―――違う。それは、あの立花響(新たなガングニール)が現れたからだ。

 

駄目だとわかっている。こんなことは思ってはいけないというのに。心に溜まった汚泥を吐き出す行為が止まらない。

 

 

―――あの日、竜が駆けつけたのは奏が死んでからだった。

顔や胸、腹部にガラスの破片が刺さり、体には黒く変色した打撲痕と裂傷。頭からも血を流し、もはや死の半歩手前といった風で竜は現れ、そのまま昏睡状態に陥った。症状は主に全身打撲と全身裂傷、そして出血多量。櫻井女史が、常人なら既に3回は死んでいる、生きているのが不思議でしょうがないなどと話していたことを覚えている。無論即座に集中治療室に入れられ、それでも尚一ヶ月は目を覚まさなかった。

 

叔父様との立ち合いで鍛えているその頑強な肉体でさえ治療に時間が掛かったのだ、その傷の深さは推して知るべしといった所だろう。しかも報告書を見る限り、そんな状況にあっても尚二課のスタッフや会場に残った観客を救助していたという話だ。何も守れず、相棒の命さえ散らせた私の無様な姿とは天と地ほどの差がある。

 

 

だというのに、私はあろうことかもっと早く来てくれれば、などという感情を抱いた、抱いてしまった。

 

馬鹿な。ありえない。それだけの傷であの黒いノイズに勝てるわけがない。死体がさらに一つか二つ増えるだけのことだ。

奴との戦いで重傷?阿呆か己は。そんなものが言い訳になるものか。奏は命を燃やし尽くした。竜は黄泉路に片足を突っ込んでまで駆けつけた。己はただ少し深いだけの傷を負ったに過ぎず、二人のように命を賭したわけでも、誰かを救ったわけでもない。

故にこれは全て私の弱さが招いたこと。その責任を他人に押し付けるなどあってはならない!

 

理性はそう告げる。しかし―――

 

「お前は何故、奏を……助けてくれなかったんだ……」

 

ぎり、と歯軋りをしながら目の前を睨む。そこに竜は居ないというのに。

まるで自傷行為だ、と思う。自責に駆られながらもそれを竜に転嫁し、そしてそれを己自身を嫌悪し、憎む燃料とする。二年前から止められない悪癖、因習。そして今日もそこまで辿り着いてしまう。

 

「……この裏切り者」

 

……嗚呼、今日も言ってしまった。なんて穢らわしい。なんて醜い。この汚泥の塊のような感情は流れる水で洗い清めることなどできない。なのに、まるで取り憑かれたかのように温かい湯を浴びている。

膝が崩れ、一人ぼっちのシャワールームで壁に手をつき座り込む。そしてまた、汚泥と己に向けた刃を吐き出し続ける。

 

自覚せよ。風鳴翼の本性とは、かくも汚く、醜いものなのだ。きっと竜もそれに気付いている。だからこそ、竜は私から離れていったのだ。

 

「助けてよ……奏」

 

―――せめて私が、感情の一切を捨てた剣でさえあれば、こんな苦しみは味わわなくてもよかったものを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やっぱり、翼さんと仲いいんですか?』

 

二課職員による響の歓迎会は夜遅くなる前にお開きとなり、夜勤の者を除いて皆が帰っていった。それは竜も例外ではない。自室に戻った竜は、ちゃぶ台で茶を啜りながら響に言われたことを思い出していた。

 

 

 

 

「……翼」

 

二年前。治療を終えて目を覚まして以来、翼が自分を見る目が変わったことを感じた。あいつは隠せていると思っているようだが、甘すぎる。気づかないとでも思っていたのか。大方、何故間に合わなかったのか、何故奏を救えなかったのか、などと考えているのだろう。

 

―――ふざけるな。そんなもの、()()()()()()()()()()()()

俺がしっかりしていれば、奏が死なずに済んだはずなんだ。もっと早く、辿り着いていれば……

 

だがあいつは何も言わない。あれから普通に話していても目を合わせない事が増えた。そして遠くから俺を見る目には、恨みが混ざっていた。

 

―――何故だ。何故そうまで頑なに言わない。お前にはそれを言う資格がある。理由がある。死に体だった?だからどうした。死んでもノイズをぶち殺し、人類を守るのが俺の使命なんだ、それを果たせなかった己にそんな言い訳は甘え以外の何者でもない。

 

そして何より、俺は奏に別離の言葉だって言えなかった。初めて会った時、あいつは俺を仲間だとあっさり受け入れてくれた。翼と喧嘩したときもいつだって笑って仲裁してくれた。三人の時間はとても心地よかった。だからあいつとはずっと一緒だと思っていた。それこそ最後の一瞬まで。別れの言葉を掛け合えるぐらいには。

 

だが俺にはそれさえ許されなかった。弱かったからだ。その後悔が、翼への負い目になっている。

 

あれから俺は翼から距離を置き始めた。今のあいつに必要なのは心の整理だろうと思ったから、そこに俺はいるべきでないと思ったからだ。自分の心にケリを着けた時こそ、きっと再び前へ進めるのだと信じていた。

 

 

 

 

あれから二年。俺たちは一つも前に進めちゃいない。その焦りが、己の不甲斐なさへの苛立ちが態度に出てしまう。その結果がこのザマだ。

 

 

 

「許せ……奏」

 

 

―――きっと、翼はもう俺のことを仲間だと思っちゃいないだろう。俺は、全てを間違えたのだ。

 

 

 




奏のことを武蔵枠のつもりで書いてたらいつの間にかチェンゲのミチルさん枠になっていた
一体何が……
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