シンフォギアにゲッター系女子をinさせてみたかった 作:ぱんそうこう
翌日。今度は翼によって二課に連行された響は、大きなモニターのある部屋に通された。そこで待っていたのは弦十郎を始めとする二課の主要メンバーたちだった。
用件はメディカルチェックの結果発表。了子からその説明を受けていたのである。曰く、初体験の負担は少し残っているものの、幸いにも体に異常は無し。その事に響は安堵するとともに、ずっと気になっていたことを了子に尋ねたのだった。
「教えてください。あの力のことを」
それを聞いて響の対面に座る弦十郎は左右両後ろ側に陣取る翼と竜に視線を遣る。それに二人は首から下げたギアペンダントを取り出すことで応えた。
「天羽々斬、そしてゲッター。翼と竜くんが持つ聖遺物だ。」
「聖、遺物……ですか?」
「聖遺物……各地の伝説に登場する、現代の科学では製造不可能な異端技術の結晶のことね。特に遺跡で発掘されることが多いわ。例えば、『ゲッター』は二十年以上前に浅間山で発掘されたってところかしら?」
「だけど、こういうのはどれも経年劣化が激しいせいで破損がひどいのよ。だから、昔の力をそのまま残したものはとっても希少ってワケ」
「実際、この天羽々斬も本来は剣なのだが、発掘されたのは刃の欠片のみでな。ごく一部のものに過ぎないんだ」
「そういった欠片にほんの少し残った力を増幅して解き放つ鍵が、特定振幅の波動……すなわち、歌」
「歌、ですか?」
了子の言葉に響がおうむ返しする。視線は真剣だが、同時に何にも理解できてませんということを雄弁に語っていた。
「その通り。端的に言うと、歌の力によって聖遺物は起動するということだ」
「歌の力……?……そうだ、確かあの時も胸の奥から歌が……」
響は初めて戦った時のことを思い返す。あの少女を守らなければと思った時、胸の奥から突然歌が湧いてきた。思えば、その歌が聖遺物を起動させる鍵になったのだろう。その考えに至ったことで、腑に落ちたと言わんばかりの表情をする。
その様子に対する反応は三者三様ならぬ四者四様だった。
弦十郎は間違いなく適合者だろうと確信を深め、静かに頷く。
翼は響がまごうことなきガングニールの正規装者であることを再確認し、顔を険しくする。
竜は新たなガングニール装者の登場にやや肯定的だ。後はこいつがまともに戦えるかどうか……と考える。
了子は響の様子に満足げだ。
「どうやら、思い当たる節があるみたいね。おそらく貴女が考えた内容で間違いないと思うわ」
「そして歌の力で活性化した聖遺物を一度エネルギーに還元し、鎧の形に再構成したのが、三人が纏うアンチノイズプロテクター……シンフォギアなの」
了子がずっとこれが言いたかったと言わんばかりの表情で締めようとする。しかし了子が言い終わるや否や、翼が口を挟んだ。いよいよ我慢の限界といった具合に、まるで響は違うと自分に言い聞かせるように。
「だからとて、誰の歌にも聖遺物を起動させる力があるわけではない!」
その言葉に、どれだけの感情が込められていただろうか。
天羽奏が、若干十数歳ほどの歳の少女が、家族を奪われた怒りに身を委ね、憎しみに身を焦がし、血反吐を吐きながら掴み取った歌。それが彼女に与えた影響はとても深い。
だからこそ、その剣幕に誰も言葉を発することが出来なかった。響でさえも。
そして場を沈黙が支配する。
――それを破ったのは弦十郎だった。沈んだ空気を変えるべく、努めて明るい声色で話し始める。
「聖遺物を起動させ、シンフォギアを纏う歌を歌える僅かな人間を、我々は適合者と呼んでいる。それが翼であり、竜くんであり……そして、君であるのだ」
聖遺物と、適合者。二つに関係があり、響は自身がその適合者だからギアを纏うことが出来たことをようやく理解した。しかしここまでの説明には一つ穴がある。それはすなわち———
「でも私、聖遺物なんて……そんなの持ってませんよ?」
———響に聖遺物を手に入れた覚えが無いということだ。そもそも聖遺物は発見され次第その国の研究対象となるものであり、個人で所有する場合というのは余程の例外でも無い限りまず起こらない。
「そう。そこだったのよね、私たちが分からなかったのは。でも、今回のメディカルチェックではっきりしたわ」
これを見て頂戴、と言ってモニターに画像を映す。そこにはレントゲン写真――胸の辺りに何かの破片がいくつも入り込んでいる――が映っていた。
「ここに映っている破片……君にはこれが何か分かる筈だ」
「これ……二年前の……」
弦十郎の言葉に、彼女は驚きを隠せなかった。二年前の事件の際、搬送先の病院で緊急手術を担当した医師に、破片の殆どは摘出できたものの一部は複雑に食い込んでいて取り除けなかったとは聞いていた。しかし、まさかそれが聖遺物だというのか?
「その通りよ。二年前貴女の心臓に食い込んだ謎の破片……これが、奏ちゃんが持っていた第三号聖遺物"ガングニール"の砕けた破片であることが判明しました」
奏ちゃんの置き土産ね、と言って了子はモニターを閉じる。その声だけは、翼と竜の二人には異様にはっきりと聞こえた。
(奏の、ガングニール)
翼はその事実を聞いてまともに立っていられなかった。瞳孔は開き、無意識に呼吸が浅く、荒くなりはじめる。
――二年前の罪が、自分に追い付いてきた。翼にはそうとしか思えなかった。
元々響のことは新たなガングニールというだけで受け入れ難かった。そこへ判明した、響のギアが文字通り奏のガングニールだったという事実……それが翼の精神を大きく揺るがしていた。
奏のガングニールが体内に侵入する。そんなことが起こるのは、あのライブの日以外に有り得ない。つまり目の前の少女は
加えてそれが奏の遺産を纏い新たな装者となる。あまりにも残酷な運命ではないか。
(信じられない。信じたくない。でも、櫻井女史の分析に間違いはない。なら、あれは間違いなく、
(私はどうすればいい?教えて奏……。私は彼女にどんな顔をすればいいの……?)
その内心は荒れ狂い、思考さえままならない。
そのまま翼は乱れた心を落ち着かせるべくゆっくりと、かつおぼつかない足取りで壁に手をつきながら部屋の外へ出ていった。まるで響から逃げるように。まるで罪から逃げるように。
一方の竜も、反応は違えど感じたものは奇しくも翼と同じだった。即ち。
(二年前の犠牲者。……俺達の犠牲者、なのか)
響が、木の上から降りられなくなった子猫を助けようとしていたところに居合わせた時、随分忙しない奴としか思わなかったが、まさかそれが奏の忘れ形見だったとは。
彼女は二年前、ノイズによって生み出された地獄、そして奏が死んだ原因は自分にもあると思っている。ネフシュタンの暴走を防ぐことができず、ノイズと戦うことさえままならなかった。故に目の前の少女は地獄を味わったのだと考える。
それだけではない。二年前のあの時、間に合わなかった竜は響の存在を知らない。意識を取り戻してから読んだ報告書で知ったのは奏が一般人を庇って重傷を負ったこと、正体不明の黒いノイズを取り巻きごと倒すべく絶唱を歌い、その命を燃やし尽くしたことくらいのものだ。奏が庇った相手が響だったことも知らないし、響の胸に奏のガングニールが刺さったことも知らなかった――今日までは。故に、
(知らなきゃならねえ。こいつのことも、奏の最期も。)
竜は奏の最期のことを、翼に聞けなかった。精神的に全く余裕の無い翼に最愛の相棒が死んだときのことをわざわざ言わせるのも酷だと思ったからであり―――翼からの視線を自覚してからは尚更聞くことなぞ考えられなかったからである。だから知りたいと思っていても知る手段を持ち合わせていなかった。しかし今は違う。目の前に奏の忘れ形見がいる。
(だったら、俺はあいつのダチとして……)
聞かなければならない。向き合わなければならないのだ。――己の罪と。
そうして拳を握りしめるのだった。その手から、血が滲むほど。
弦十郎は、そんな二人の内心を理解できるが故に、同じ事を思いながら異なる反応を見せる二人を見て沈痛な表情を浮かべていた。
「……あの、この力のこと、本当に誰かに話しちゃいけないんでしょうか……」
翼が出ていってしばらくして。響は昨夜話された守秘義務のことを思い出しながら弦十郎に尋ねていた。
その胸中にあるのはただ一人――親友の小日向未来のこと。昨日帰ってきた時、近くでノイズが出た上に帰りも遅いのでもしかしたら、と心の底から心配した様子だった。だからせめてそんな心配はさせたくないし、何より二年前からずっと自分を支えてくれた親友に隠し事はしたくなかったのだ。
「すまないが、それは無理だ。もし君が装者であることが誰かに露見した場合、君と親しい人間に危害が及ぶおそれが、最悪の場合命に関わる可能性さえある。」
「命に……関わる……」
その言葉に響の顔が青くなる。自分が傷つくならいい。だが自分のために親友が傷つけられることは耐えられない。何よりも、親友との日々が失われることなど、考えたくなかった。
「すまない。君が話したい相手というのだ、余程君が信頼している者なのだろう。だが俺達が守りたいのは機密などではなく、人の命だ。知る者が多いほど露見するリスクが増える以上、それによって誰かの命が危機にさらされることは避けなければならない……だからこそ、この事は隠し通してもらえないだろうか」
申し訳なさそうに告げる弦十郎。響はうつむいたまま動かない。その目は僅かに震えている。
「通常、人の身ではノイズに対抗できない。ノイズに触れることはすなわち、その身を炭へと変えられることを意味する。加えてノイズはその特性上、ダメージを与えることさえままならない」
「たったひとつ例外があるとすれば、それはシンフォギアを纏う戦士だけ……。その上で、日本政府特異災害対策機動部二課として君に改めて要請したい」
その声にはっとなり、顔を上げる響。
弦十郎も改めて姿勢を正し、まっすぐに響の目を見つめて言う。
「立花響くん、君が宿したシンフォギアの力を、対ノイズ戦のために役立ててはくれないだろうか。誰かの命を守るために」
響は、自分がそこまで頭がいいとは思っていない。さっきのシンフォギアの仕組みについての話だって高く見積もってもせいぜい三割分かれば上出来だとすら思っている。だがそれでも弦十郎が言っている事の重大性が分からないわけではない。
二年前の地獄を、その後の無限に続くかとすら思われたさらなる地獄を生きていたからこそ、誰かを助けたい。あの日自分に「生きていてくれてありがとう」と言って消えた、
確かに不安は大きい。ノイズと戦うなんて一度も考えたことがなかった。だけど、これが誰かを救えるなら――
「本当に、私の力が誰かの役に立てるんですか……?」
確かめるように、蚊の鳴きそうな声で尋ねる。不安を隠せていないその様子を見て、弦十郎はあえて大振りな仕草で首を縦に振る。
「わかりました!私、戦います!」
そう、決意した。自分が思うままに。その意味を知らぬままに。
(何ともまあ威勢のいいこった)
竜は一部始終を弦十郎の後ろから見ていた。
正直言って今の響に期待はしていない。自分や翼のように戦えるように育った人間ならともかく、響はどう見ても戦える人間だとは思えなかったからだ。
そこへ駆け寄っていく響。
「竜さん、私も戦います!今は慣れない身ですが、一生懸命頑張ります!一緒に戦ってくれればと思います!」
そう言って右手を差し出す。
竜は目を閉じ、腕を組んで考える。本物の戦いを知らない響がどれだけやれるようになるかを。
はっきり言って戦いに向いていないんじゃないかとも思う。しかし本人が戦うと言っているのだから、好きにやらせてやるのもいいだろう。
それに、後から否が応でも知ることになるのだから。戦いの残酷さを、戦うことの過酷な現実を。となれば、とようやく腹を決めると目を開け、真っ直ぐに響を見る。
「馬鹿野郎。まだまだお前はひよっ子もひよっ子……半人前どころか三分の一人前にもなりゃしねえんだ。」
「え……」
「だがな、それでもやるってんなら何も言わねぇ。やる気はあるんだ、それが威勢だけじゃねえってことを自分で証明するんだな」
そう言って響の手を取った。それによって響の顔に満面の笑みが浮かぶ。
「はいっ!!!」
(その時、折れようが折れまいがどうでもいい。だが、奏の忘れ形見なんだ、面倒ぐらいは見てやるさ)
じゃあ翼さんにも挨拶してきますッ!と言って響は部屋を出ていった。竜は響の後ろ姿を見送りながら独りごちた。だから、せいぜいその威勢が口だけじゃねえことを祈ってるぜ、と。
(さっきはちょっと嘘ついちゃったわね)
部屋から出る響を見ながら内心でそう呟く了子。
歌の力で聖遺物を起動させる――それこそが櫻井理論の根幹を担う部分である。そこは何も間違っていない。しかしゲッターだけは違う。あれは己が作り上げたシンフォギアでありながら櫻井理論だけでは到底測れない存在だった。
聖遺物自らが有するエネルギー……ゲッター線。本来大気中にも存在し"ゲッター"が増幅させている謎のエネルギー。あれがゲッターの鎧を構成していることは既に鎌倉から提供された早乙女レポートの内容を元に確認済みだ。
ゲッター線の増幅を聖遺物の力と仮定すれば他のシンフォギアと同じ様に扱えるのも頷けるが、おそらくゲッター線はそんな生易しいものではないだろう。
ギアの鎧さえも構成可能な汎用性に加え、地球上のあらゆるエネルギーを上回る圧倒的なエネルギー変換効率。加えて人の意志に応えるという特殊性――これほどの代物故に、実証こそされていないものの「ゲッター」は十分なゲッター線があれば理論上自然に起動しうると考えられる。
だというのにシンフォギア「ゲッター」は竜の歌でなければ起動しなかった。了子にはそれがまるで「ゲッター」が敢えて聖遺物の、櫻井理論のルールに従ったようにも見えた。その事が逆に不気味であり、その謎を深めるばかりであった。
(まさかゲッターには意思がある……?いや自立型完全聖遺物でもあるまいに、ただの欠片に過ぎないゲッターにそんな荒唐無稽な力があるはずがない。…………待て、むしろ意味があるのはゲッター線そのものと考えるべき……?)
思考がそこまで辿り着いたところで首を横に振り、先程までの考えを振り払う。
(どうやら疲れているようね。意思を持つエネルギーなんてある筈がない。あるとすればそれはきっと
最終的に荒唐無稽な与太話だろうと結論付けたのだった。