シンフォギアにゲッター系女子をinさせてみたかった   作:ぱんそうこう

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遅ればせながら、あけましておめでとうございます。
そしてUA30000突破ありがとうございます。
今年も本作をよろしくお願いします。



それと前回以前の文に違和感があるのでこれからちょっとずつ改稿をしていく予定です。


夜襲

「疾ッ!」

 

「足りねえなぁ!」

 

「おおおおおッ!」

 

「動きが見え見えなんだよッ!こんなもんであたしを倒せると思うんじゃねえ!」

 

拳と剣がネフシュタンの少女を襲うも、少女は両手に構えた鞭で全ての攻撃を受け止め、受け流していく。その荒々しい言動に反し、その迎撃は精密だった。

 

中距離では不利と見た翼はさらに踏み込むことを選んだ。ギアに格納された小刀を取り出し、左手に構える。通常の形態に戻した剣と会わせ、二刀で以て鞭を振るえない程の超接近戦を仕掛けんと試みる。

そしてそれは竜もまた同じ。右手は空手を、左手にはアームドギアを構え直し、鞭の間合いのさらに内側を狙う。

 

「へえ。間合いに飛び込んで打たせねえようにするつもりか?考えたじゃねえか。ま、てんで無理な話だけどな」

 

「減らず口を叩く暇があるなら掛かってきたらどうだ?」

 

「だったら踏み込む位の度胸は見せてくれよ?じゃなきゃただのチキン野郎だぜ」

 

「先手は譲ってやるとでも言いてえのかてめえ……舐めた真似しやがって」

 

「お前らじゃこのあたしの相手にならねえんだよ。倒したけりゃ同じ完全聖遺物でも持ってきな」

 

ネフシュタンの少女が二人を煽る。しかしそれは油断ではなく自信の現れ。その自信に見合う力を彼女は有していた。

 

手数が違う、と翼は分析する。ネフシュタンの鞭はいくつもの結晶が鎖状に連なっており、鞭として使うだけでなく相手の肉を削ぐ刃としても扱うことができる。これはこの武器が点の攻撃と線の斬撃を自在に使い分けることができることを意味しており、数的不利を覆すだけの手数を生み出すことにも繋がっていた。

 

加えてあの少女の技量もまた驚異的だった。完全聖遺物のスペックに振り回されることなく、その全てを十全に発揮している。それによって通常の聖遺物を凌駕する完全聖遺物のポテンシャルを余すことなく味方につけ、二人と対等以上に渡り合うことができていた。

人類守護のため、膨大なフォニックゲインを用いて再起動された最強の兵器が、逆に人類守護の防人に牙を剥く皮肉が、そこにはあった。

 

(これが……完全聖遺物のポテンシャルかッ!)

 

戦慄。

完全聖遺物の扱いは人を選ばないというが、それでいてこの出力。ギアに用いられる聖遺物の破片では到底出し得ないその出力に、翼の眉間はさらに険しくなる。

しかしどれだけの差があろうともやらねばならぬのだ。

 

左に持った小刀を突きだし、首を斬りつける。しかしそれは手首を掴まれて止められる。押そうと引こうとびくともせず、ならばと右の足で肝臓を蹴りつけるが、それも無為。

 

「おおっと危ねえな。つくづく足癖の悪い奴だ……ぜッ!」

 

左の腕で右足を払い、その勢いで鳩尾を蹴り飛ばす。

 

「ごふ……!ぐ……っ!」

 

腕を掴んでいることを利用し、超至近距離を維持しながら打撃を与える。連続して攻撃を受けた翼は思わず怯み、体を硬直させてしまう。怯んだ隙は一秒。しかしそれは致命に至る一秒でもあった。

 

「ぐは……ッ!」

 

少女の蹴りが翼の横顔を捉える。そのまま一撃のもとに吹き飛ばされていったのだった。

 

「翼ァ!」

 

その様を見て竜が思わず叫んだ。翼に駆け寄るか一瞬迷うが、僅かに動いているのを見て少女に意識を戻し。

 

「俺を忘れんじゃねえぞ!!!」

 

前へ踏み込み、正中線に沿って飛び蹴りを放つ。一発は入ったが、二発目を放ったところで脇に挟まれ受け止められる。

 

「ぺっ……中々やるじゃねえか」

 

口内の血を吐き出ている。どうやら一発目の蹴りで口の中を切ったらしい。

 

「だがな、この程度でのぼせ上がってんじゃねえ!!」

 

頭突きが竜の鼻に突き刺さり、血が噴き出る。顔に血が付くのも構わず二度目をぶつけていく。

 

「あの人気者もそうだ。誰も彼もがまともに相手してくれると思ってんじゃねえ!」

「この際だから教えてやる、ハナっからあたしの目的はあいつをかっ拐うことなんだよッ!」

 

そう言って竜の背後に指を指す。その先にはノイズによって拘束された響の姿。

 

「何い!?」

 

「お前らはお呼びじゃねえんだ!!!」

 

その言葉と共に二本の鞭を伸ばしてくる。しかし竜とてやられっぱなしではない。咄嗟に鞭を両の腕で掴み取り、自らの側に引き寄せ渾身の右ストレートで顔をぶん殴る。

 

「なにっ!?がっ……」

 

頬からゴシャリ、と重い音がする。

 

「まだだァ!」

 

再び鞭を引き寄せ、今度は顔を両手で掴み、右膝を鼻っ柱に叩きつける。

 

再び重低音。人体を壊すいい感触がしたので、おそらく鼻の骨を折ったのだろう。

 

「やらせねえ……」

「俺はもう、二度と失うわけにはいかねえんだッ!!」

 

「やりやがったなお前……!」

「こうなったらどうなっても知らねえぞ!あたしを本気にさせたことを後悔させてやるッ!」

 

 

 

 

(完全聖遺物……敵に回すとここまで面倒なんてな)

 

竜は内心で悪態をついていた。敵の懐に潜り込む、まではいい。しかしそこから先は互いの出力での勝負だ。聖遺物の破片と完全聖遺物とでは出力に差があることは理解していたが、まさかここまでとは。

 

殴る。蹴る。殴り合う。蹴り合う。今度は手斧を短く持ち、相手の鼻先めがけてぶつけようとするが、鞭に腕を絡め取られて紙一重で防がれる。

 

「ボロ雑巾になれッ!!」

 

もう片方の鞭で竜の体を吹き飛ばす。飛ばされた先は響の目の前。

 

「竜さん!」

 

「心配してる場合かひよっ子!それよりお前は自分の心配をしやがれ!敵はお前を狙ってんだぞッ!」

 

「でも私……アームドギアも無いのにどうすれば……」

 

「だからどうした!そんなもの無くたって手も足もまだ残ってんだろうがッ!」

「戦いってのはこういうもんだ!誰かを守るのもいい。誰かを助けるのもいい!だが絶対に迷ったり躊躇ったりするんじゃねえ!その時死ぬのはお前だ!人類すべてなんだッ!!」

 

そう言ってゲッタービームで響を拘束していたノイズを消滅させる。

 

「今は下がってろッ!」

「ッ……はい!」

 

響が後ろに下がり、他のノイズと拙いながらも戦い始める。拘束用のノイズはもういないようで、危なっかしいところはあるがどうにか一体ずつ倒していく。

 

そして響と入れ替わりに翼が戦線復帰する。状況は依然として不利。しかしここで負ければ明日はない。相手はノイズを操り、完全聖遺物を十全に扱う者――故に、野放しにすることが人類にとってどれだけ危険か。

 

 

 

 

そんな二人に黒い影が迫る。完全聖遺物と三人の装者、それらが生み出すフォニックゲインに惹かれ、『奴』が来る。

 

 

「ノイズに似た高出力のエネルギー反応を確認しました!」

 

『今度は何よ!照合急いで!』

 

『奴』の反応は二課の本部でも確認されていた。その情報は即座に車両で現地へ移動中の弦十郎、了子の両名にも伝達される。

 

『奴』を表す名はいくつもある。「二年前の悪夢」「天羽奏の仇」「ノイズ特異黒化個体」―――その名は、

 

 

『Black noise』

「反応は、ブラックノイズですッ!!」

 

『ブラックノイズですってぇ!?』

 

 

 

 

 

「ブラックノイズ……だと……?」

 

二人の目の前に、二年前の悪夢が立っていた。

 

「野郎……こんなところでノコノコ出てきやがって」

「翼。まだくたばっちゃいねえだろうな?」

 

「問題ない。貴様こそ随分悪運が強いではないか」

 

「そいつはお互い様だろうが。……わかってんだろうな?」

 

「無論だ。二年前の因縁……全てここで清算する。くれぐれも、遅れを取ってくれるなよ」

 

「言われなくたって百も承知だ。黒ノイズ野郎は知らねえが……ネフシュタンの狙いはひよっ子だ。必ずぶっ倒すぞ」

 

「言われずとも」

 

目を合わせぬまま、並んで話す。――思えば、こうして翼とまともに話すのはいつぶりだろうか。ほんの二年ほどしか経っていない筈なのに、もっと長い時間が経ったように思う。

 

「…………」

「…………」

 

沈黙。最初に口を開いたのは翼だった。

 

「……久し振り、だな。こうして長く話すのは」

 

「……確かにな。こんな時でもなきゃ良かったんだろうが」

 

互いにわだかまりを抱える二人。しかし共通の敵を前に、この時だけは相手への感情を忘れ、互いに纏まろうとしていた。

 

「征くぞ。ここで終わらせる」

「応ッ!」

 

会話を短く切り上げると、二人はそれぞれの敵へと向かって走り出す。

ほんの僅かな心地よさと、これが最期かもしれないという想いを胸に秘めて。

 

 

 

 

「ふ……よもや貴様までも現れるとはな……ッ!」

 

歓喜。ネフシュタンの鎧とブラックノイズという二つの強敵を同時に相手をしなければならないという絶望的な状況にもかかわらず、翼の内心は歓喜で満たされていた。

 

「奏の残したガングニール、ネフシュタンの鎧、そして貴様。二年前の因縁が斯くも一夜に揃うとは、なんという残酷な巡り合わせ。だがこの残酷は、私にとって心地いいッ!」

「ここで終わらせてやる……貴様も、ネフシュタンも!二年前より続く因縁の全てをッ!」

 

覚悟は決めた。生き恥を晒すのも今宵で最後。この好機を逃してはならない、たとえ刺し違えてでもここで終わらせる。

それが己にできる唯一の贖罪だと信じて。

 

 

 

響を逃がした竜の行動に、ネフシュタンの少女は腹を立てていた。

 

「ちっ。余計なことしやがって……お陰であいつを逃がしちまった」

 

だが、と少女がほくそ笑む。

 

「ノイズならこいつで操れねぇ訳がねえ。ソイツもあの融合症例共々、手土産に持ち帰ってやるか」

 

そう言って背後にマウントさせていたデバイスを得意げに取り出す。

しかし何も起こらない。

 

「なんだと……?こいつ、コマンドを受け付けねえ。まさか、ノイズと別物だってのか?」

「ちっ……しょうがねえ。ならせいぜいあいつらと共倒れになってくれるように動くか」

 

そう言って混沌とした戦場に戻っていく。ブラックノイズへの違和感を忘れ、まずは目的の障害を排除するために。

 

 

———————————————

 

 

(ああ……頭に来るぜ)

 

散々煽ってくるクソガキ。奏を殺しやがった黒いノイズ。

どっちも等しくクソくらえ。この手で叩き潰せるのなら今すぐにでもぶっ潰してやりてえ。

二年だ。奏が死んでからこの二年、この時をずっと待っていた。手前のケツは手前で拭く。あの時間に合わなかった分も、あの時守れなかった分も、全部この手でケジメをつける。

 

「あいつら……ただじゃおかねえ」

 

特にブラックノイズ。この二年間まるで出てこなかったってのに、よりによってこんな時に出てくる辺り、奴の性格は相当悪いんだろう。しかしノコノコ出てきたなら好都合。

 

鎧を剥ぎ取り、黒ノイズ野郎はぶっ殺す。シンプルで分かりやすい。なら、あとは気合でどうにかすればいい。倒せないなら、さっきより強くなればいい。奴がどんな能力を持ってようが知ったことじゃない。発揮する前に殺せば万事解決なのだ———!

 

「人間の恐ろしさを思い知らせてやる……!」 

 

命を燃やせ。怒りを燃やせ。明日のために戦うのなら、今がその時だ。

 

 

–——————————————

 

 

響が差し向けられたノイズを全て倒し、竜と翼を微力ながら手助けしようと来たとき、戦況は絶望的だった。明らかに竜と翼は追い詰められている。だというのにネフシュタンもブラックノイズも消耗した形跡が見られない。

 

それもそのはず。ネフシュタンの少女がノイズを自由に呼び出せることから、戦っている最中に増援をいくらでも呼び出せるためである。結果、二人はその対処に追われ、かつそちらに気をとられれば少女とブラックノイズはその隙を突いてくる。

相手は連携なぞしていないというのに、純粋な性能差と少女の立ち回りで押され続けている。確かに時としてブラックノイズが少女を襲うこともあるが、その頻度は二人の、特に竜の比ではなかった。その負担が二人を確実に追い込んでいたのである。

 

 

 

「ぐ……!!」

 

翼が膝を着く。ギアは欠け、剣にもヒビが入っている。翼自身も頭から血を流しており、はっきり言って剣を支えに立っているのさえやっとだ。

二年前、奏と共に戦った時でさえ敗北を喫することとなり、奏を失った。今は竜と共闘している状況だが、あちらの方が狙われる回数が多く、こちらもネフシュタンを相手取りながら救援を出すほどの余裕は無い。それぞれに一対一を強いられた現状、これは必然的な帰結でもあった。

 

「翼さん!」

「来るな立花!私は……私はまだ折れてなどいないッ!」

 

駆け寄ろうとする響を、自分はまだ戦えるのだと止める。

そうだ、まだ諦めるわけにはいかない。

脳裏に過るのはあの日。奏が腕の中で塵と消えたあの時。

 

「二度と失うものか!二度と奪わせてなるものか!奏に誓ったのだ……二度と、繰り返させぬのだとッ!」

 

まだ己は戦える。体が限界を迎えても尚立ち上がり、己の使命を果たさんとする。その原動力こそ、意志と覚悟。

 

「己を鍛え、いつ死しても構わないと思っていた。だが無様にも生き残り、こうして恥を晒し続けている……。だが、それも今日までのこと!貴様らを討ち、この身の汚名を雪がせてもらう!」

 

そして響に目を向けると、

 

「立花!!これからお前に防人の生き様を……覚悟を見せてやるッ!お前のその目に!胸に!しかと焼き付けろ!!」

 

と叫ぶのだった。

 

 

 

 

 

竜もまた確実に限界が近づいていた。

 

元々至近距離での戦闘が主となる竜はドリルでの高速戦闘に切り替えていた。ブラックノイズは何故か自分を重点的に狙ってくるため、一ヶ所に止まる方が逆に消耗することになるからだ。

それを察知した少女もこれまでの戦い方をやめ、待ちを重視した戦い方へ移行する。ブラックノイズをぶつけるために、足止めを優先することを選んだからだ。

 

「ドリルミサイルッ!!」

 

「ちょっせぇ!んな豆鉄砲なんざ当たらねえんだよッ!!」

 

アームドギアのドリルを射出する。しかし少女は紙一重でかわすと振り返って竜の首に鞭を回し、その首を締め上げる。

 

「ぐぎ……ぎぎ……」

「ゲッターの装者は一番やべえって聞いてたが……この程度かよ。大したことねえじゃねえか」

 

このまま締め落としてやるかと軽く考える。

歌えない状況。ギアの出力もまともに上がらず、その上首を締め上げられては意識を保つことさえ危ういだろう。圧倒的優位を確保したことで、しかし同時に少女に油断が生まれた。

 

無論、首の鞭を緩めるような手温い真似はしていない。怠ったのは周囲の警戒。これまで竜が直接攻撃しかしてこなかったが故の、「これ以上飛び道具は無いだろう」そして、「歌うのを封じた以上、さらなるパワーはもう出ないだろう」という、思い込み。

 

「でめ"え"……な"め"で"ん"じゃね"え"ぞ!!!」

 

首に回された鞭を強く掴み、力ずくで僅かに隙間を作る。そして上空から撃ち放たれる、無数の手斧。

 

「全てを捨ててッ!俺は戦うッ!今がその時だァ!!!」

 

 

ゲッタートマホークブーメラン

 

 

「何ッ!?」

 

警戒外の上空からの奇襲。歌の威力も乗ったそれに反応が僅かに遅れ、鞭の拘束が緩む。

 

脱出に成功したことで、どうにか最大の窮地は脱した。咳き込みながら態勢を立て直すが、しかしまだ窮地は終わっていない。

 

左腕に痛み。見れば、ネフシュタンの鞭が刺さり、傷から血が流れていた。

 

「へへ……やっぱあたしにこういうのは向いてねえな」

「いい加減にあたしもそいつを連れて帰りてえんだ。さっさと潰させてもらうぜ」

 

そこのお荷物を置いて逃げるってんなら見逃してやろうか?と少女が言い放つ。

 

その言葉に、完全にキレた。

 

「黙れよ。確かにこいつは足手まといだ。人の心にずけずけと踏み込んできやがるし、やる気はあっても力がねえ。この前までギアを纏っている癖にずっとノイズから逃げ回ってたような奴だよ」

 

いい加減にしろ、散々好き勝手言いやがって。出来損ない?大したことない?そんなもの、言われなくたって分かってる。

思えば、二年前のあの日から俺は死んでいた。奏のことを後悔するあまり、翼にらしくねえことをした。おかげですっかり腑抜けて、今じゃ生きた屍みたいなもんだ。笑えねえ。

 

「だかなァ!こんなのでも今は仲間で、奏の忘れ形見なんだよ……!だったら守ってやんなきゃ、俺が俺を許せねえッ!奏に一生顔向けできねえんだッ!!」

 

だがそれももう終わりだ。とっくに死んでたんだ、今さら死んでも変わらねえ。そして、どうせ死ぬなら何かを残したい。それは己の生きた証ではなく、もっと偉大な遺産。

 

「俺は前に進む――翼のことだってそうだ!もう逃げちゃいられねえ!何もかも、正面からぶち抜いてやるッ!」

 

その前に、その為にも――

 

「てめえにたっぷりと味わわせてやるぜ……ゲッターの恐ろしさをな!!!」

 

 

 

 

 

 

 

同じ敵と戦う二人。そして至る結論は同じ。守るべきものも同じ。この二年。すれ違い、分かり合えず生きていた二人はこの瞬間、確かに心を一つにした。故に、これは必然の同調。

 

 

 

「「Gatrandis babel ziggurat edenal」」

 

翼と目が合った。驚いた顔をしていた。でも、止まれなかった。

 

「「Emustronzen fine el baral zizzl」」

 

竜と目が合った。同じ考えだったことに少し驚いたが、この時だけは蟠りも邪念も無く、純粋な心で歌えていた。だからこそ、止まりたくなかった。

 

「「Gatrandis babel ziggurat edenal」」

 

翼が真剣な目をしている。覚悟を決めた目だ。恐れも何も無い、純粋な目だった。なんだ、いい顔できるじゃねえか。——絶唱を歌えば死ぬかもしれない。俺も、あいつも。やっと通じ合えた気がするってのにこれで終わりかと思うと、なんとなく嫌だ。なんとなくもったいねえ。そんな気がする。

 

「「Emustronzen fine el zizzl」」

 

光が炸裂する寸前、竜の笑う顔が見えた。

 

 

「「おおおおおおォォォーーーーーーッ!!」」

 

翠色の――ゲッター線の奔流が渦を巻く。莫大かつ濃密なエネルギーは戦場全てを覆い、多数のノイズを無へと還す。ネフシュタンの大部分を破砕し、大地を抉り、森を、無残な姿へ変貌させた。

 

 

 

 

そして。

 

「奏……?」

竜は、光の向こうに、奏の顔を見た気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソ……なんて無茶苦茶しやがる」

 

ネフシュタンの少女――雪音クリスはネフシュタン侵食の痛みに耐えながら逃亡する。鞭を竜の腕に刺したのが仇となり、離脱を許されないまま絶唱のダメージをモロに受けてしまった。それにより、ネフシュタンによる体の侵食が進行しているためである。手ぶらで帰るのは許容したくはないが、自身の目的――武力を持つ者を全てぶっ倒すこと――を果たせないままに死ぬつもりはない。

 

「仕方ねえ。ここは一旦引き上げだ……!」

 

 

 

 

 

 

 

翼は困惑していた。自分が受ける筈のバックファイアを殆ど感じない。本来ならば全身から血を噴き出し、立つことさえ、意識を保つことさえままならないほどの傷を負っている筈だというのに。

そしてそれは駆けつけた弦十郎と了子とて同じだった。特に了子はギアの開発者。その知見から、アームドギア無しでの絶唱がどれだけ危険かを知っていた。だからこそ、翼が殆どバックファイアを受けていないということが不可解だった。

 

ふと思い至る。竜はどうした?と。己と同じく絶唱を歌った筈だ。ということは、まさか――

 

「竜!まさか、お前は……!」

見れば、顔の穴という穴から血を噴き出している竜の姿。

 

「何故だ!何故私を庇った!何故お前が私にそこまでする!?私は……私は……!」

 

「甘ったれてんじゃねえぞ!!!」

「いいか!!俺が全部ひっ被ったのはお前の命を心配したからじゃねえ!響を一人にしないためだ!死ぬのが一人ならそれだけ短期間で立ち直れる!貴重な装者をいっぺんに失うわけにはいかねえからだ……!」

 

「だからと言って!お前が一人で背負う必要がどこにあった!何故私なんだ!何故私だけを置いていこうとするんだ!お前も!奏も!!」

 

「……さあな。お前にはまだやることがあるからなんじゃねえのか?」

 

そして表情を崩す。翼の目をまっすぐに見据える。口角を上げて、穏やかな顔になって。

 

「……良かった。今度は、間に合ったぜ」

 

そう言うと、血溜まりの中に倒れ込んだ。

 

 

 

暗い闇に、翼の絶叫が響き渡った。




シンフォギアで急所狙いの殺し合いを繰り広げる奴らの図
なお当初の予定だと真夜中に女の子同士が重なりあって互いの(赤い)体液でぐちょぐちょになっていた模様
えっちシーンかな?(すっとぼけ)

次回、響視点がメインです(予定)
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