シンフォギアにゲッター系女子をinさせてみたかった   作:ぱんそうこう

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今話では、本作でずっとやりたかったことをやりました。


転機

 

竜と翼が運び込まれた病院。その休憩スペースに、響は一人で座っていた。

 

「風鳴翼さんについては命に別状はありません。傷の治療が済み次第、すぐに退院できるでしょう。ですが、流竜さんについては未だ予断を許さない状況です。少なくともあと一ヶ月は絶対安静が必要かと思われます」

 

「分かりました。二人を、よろしくお願いします」

 

すぐ近くで弦十郎が医師に頭を下げている。その後、弦十郎は他の二課職員を連れて去っていくのだった。

 

 

 

響は心の底から後悔していた。自分のせいで翼が傷つき、竜は死に瀕しているのだと。

 

「何やってたんだろう。わたし……」

 

響はノイズに拘束されながら竜と翼の戦いをずっと見ていた。それは彼女が想像していたようなノイズから人を守るものではなく、血腥く泥臭い人間同士の戦い。互いを傷つけ命を奪い合う、「本物」の戦場。そこへ放り込まれた響は、ただただ無力だった。

 

ずっと信じていた。同じ人間なら、言葉が通じるなら、きっとわかり合える。戦う必要なんかどこにもないと。

でも現実は真逆。

 

同じ人間だった。でも戦っていた。

性別も同じだった。でも戦っていた。

言葉も同じだった。でも戦っていた。

 

和解の余地はそこにはない。ただ、目の前の敵を打ち倒す……その意志だけが、その場所に渦巻いていた。

 

「わたしのせいで、わたしが何にも出来ないから、翼さんも竜さんも……」

 

今の響の心を支配していたのは自責だ。「戦い」を甘く見ていたこと。自分がどれだけ守られていたかということ。自分が狙われていたのに、何もできなかったこと――その夜に起きた全てが、彼女の心を苛んでいた。

 

 

「あなたが気に病む必要はありませんよ」

 

その声を聞いて顔を上げる。声の主は二課のエージェントで、翼のマネージャーでもある緒川慎次だった。

 

「結果がどうであれ、お二人は自ら望んで絶唱を歌ったんです。決して、あなたの責任などではありません」

 

そう言って自販機で暖かいコーヒーを買い、響に渡す。少しでも気持ちを落ち着かせてほしいという緒川なりの配慮だった。

 

「二年前、翼さんはあるアーティストユニットを組んでいました」

 

「ツヴァイウィング……ですね」

 

「ええ。その時のパートナーが、天羽奏さん。今貴女の胸にあるガングニールの装者でもありました」

 

ゆっくりと緒川が話し出す。それは響に説明するというよりも、自身の罪を告白するようであった。

 

「そして竜さんはツヴァイウィング結成後にスカウトを受け、装者として活動を始めました。彼女はアーティストになることこそありませんでしたが、お二人とは良き仲間、良きチームとしてよく三人一緒になって行動していたものです。」

 

あの頃は三人でお泊まり会をしていたくらいだったんですよ、と当時を懐かしむ。もはや戻らない過去の平穏……その光景は今でも緒川の脳裏に残っている。だからこそ、二年前のあの日はまさしく悪夢だった。

 

「全てが変わったのは二年前のあの日……奏さんが絶唱を歌った時でした」

 

絶唱。装者への負荷を厭わず、ギアの力を限界以上に引き出す諸刃の剣。それは圧倒的な力でノイズを悉く散滅せしめ、ブラックノイズを撤退に追い込むほどだった。しかし――

 

「奏さんは、被害を少しでも減らすために絶唱を口にしました。……その代償は彼女の命。奏さんは、命を救うために自らの命を燃やし尽くしたんです」

 

「……それは、わたしを救うためですか」

 

その問いに、緒川はあえて何も言わなかった。もしも肯定すれば響はさらなる自責を背負ってしまうと思ったから。しかし否定すれば、同時に響を、翼を、竜を救おうとした奏の意志を裏切ることになると思ったから。

 

「あの時は、竜さんも会場で人命救助を行っていまして。ブラックノイズが引き起こした、観客の暴走とそれに伴う観客同士の殺し合い……それを抑えていたのが竜さんだったんです。――自分も、死ぬほどの傷を負いながら」

 

顔の傷はその時に付いたものです、と補足する。リディアンでは生徒に何かと噂されることの多い竜の傷は、誰かを守るための向かい傷だった。

 

「それ以来、竜さんはしばらく昏睡状態に陥りました。無理もありません、竜さんを診た医師の方によりますと、どうして生きているのかが不思議なほどの傷だったそうですから」

 

「そして奏さんの殉職と共にツヴァイウィングは解散。翼さんも竜さんも、奏さんが抜けた穴を埋めるべく、がむしゃらになって戦いました。――思えば、お二人の関係が壊れ始めたのはこの頃だったと思います」

 

緒川の顔が沈む。緒川の心を襲っていたのは無力感。翼の側で二人がバラバラになっていく様を目の当たりにして、いくら手を尽くしても分裂を止められなかったことが大人として情けなかった。

 

「竜さんが復帰してから、お二人は距離を置き始めました。奏さんを失い、仲間とも心が通わなくなって。孤独感の中で、翼さんは同じ年代の女の子が知って然るべき恋愛や遊びも覚えず、ただ防人の務めを果たすため、仲間への感情にさえ蓋をしてでも自分を殺して生きてきました。そして今日、使命を果たすため死ぬことすら覚悟して絶唱を……」

 

そして今日。二人の関係にようやく光明が見えかけたというのに、二人は永遠の離別をしようとしている。

 

(本当に、嘘が下手ですね。貴女は……)

 

どのような原理で絶唱の負荷を肩代わりしたかは分からない。しかし、アームドギア無しでの絶唱のよる負荷の大きさを竜が知らない筈はない。それを余さず二人分背負うことに、どれだけの想いが込められているだろうか。

竜は確かに「翼のためではない」と言い放ったが、そんな筈はない。きっとあれは竜なりの気遣い――自分で勝手にしたことだ、気にするなというメッセージ――だろう。

 

「竜さんも同じです。奏さんが亡くなってから、竜さんはこれまで以上に強さを求めるようになりました。退院したての頃、まだ体も本調子でないのに出撃したり、司令に幾度となく手合わせを申し込んだり……ストイックに修練を積んでいました。もう二度と、何も取りこぼさないために。きっと今日の絶唱も、その想いに従ってのことなのだと思います」

 

それが二度と失わないという、竜の言葉の意味。そして、確かに竜は守り抜いた。響も、翼の命さえも。

 

「わたし、何にも知らなかったんですね……翼さんのことも、竜さんのことも」

 

響は緒川が話している間、両手でコップを持ったままずっと俯いていた。心が沈んでいたこともあるが、目の前の緒川と目を合わせられなかったからだ。合わせる顔が無い、と言い換えてもいいかもしれない。

 

そして全てを聞いた響は、自然と涙を流していた。その残酷な生き方に、その在り方に。己の思慮の浅さを恥じながら。

 

「わたし、何にも知らないで、一緒に戦いたいだなんて、奏さんの、代わりになる、だなんて、言って……」

 

「僕も、いいえ……誰も奏さんの代わりなんて望んではいません。響さんが貴女しかいないように、奏さんも一人しかいないんですから」

 

「そうだ、僕から一つお願いがあるんです。聞いてくれませんか?」

「翼さんを、竜さんを嫌わないであげてください。世界で一人ぼっちにしないであげてください。これ以上、あのお二人を孤独の中に置かないであげてください……」

 

僕には、何もできませんでしたから。

緒川はどうにかその言葉を飲み込んだ。しかしその声には、後悔の色が滲み出ていた。

 

 

 

 

長い夜から一夜が明けた。

立花響は今一度日常へ帰った。しかしそれでもなお響の心は晴れなかった。これは朝のHRで流竜が交通事故で入院したという連絡があったことも一因だった。

 

ずっと考えている。

自分にできることは何だろう。自分はどうすれば誰かを守れるようになるんだろう。

シンフォギアという力を手に入れてから、誰かを守りたい、誰かを助けたいと思って戦ってきた……いや、あれは戦ってきたとは言えないけれど。

 

初めての「戦場」は、とても怖かった。二人とも鬼気迫る顔で傷つきながら、血を流しながら、死ぬことまで覚悟して戦っていた。わたしは想像したことのない光景に圧倒されて、ただただ後ろで足手まといになっていただけだった。

思えば、わたしはずっと守られてきた。二年前は奏さんに守られて、今だって奏さんのガングニールに命を救われている。そして今度は翼さんと竜さんにも。

 

でもきっとこのままじゃいられないし、いちゃいけない。自分の未熟を、このままにしちゃいけない。自分のせいでこうなったからには、誰かに守られるだけじゃなくて自分の力で守っていかなきゃいけない。翼さんや竜さんほど大きいものではないけれど、わたしにも守りたい物はあるのだから。

 

じゃあ、どうすればいいんだろう?

 

 

「ひーびき!」

 

「うひゃあっ!」

 

背後から首筋に冷たいものを当てられて気が動転する。振り替えって見てみれば、親友の小日向未来がペットボトルを差し出していた。

 

「もう未来!驚かさないでよお」

 

未来はそれに笑うことで応えた。響もいつも通りの親友の姿に安心すると共に、心配させないために「いつも通り」振る舞おうとする。

 

「最近、一人でいることが増えたんじゃない?」

 

「そんなことないよ?だってわたし、一人じゃなんにもできないし……ここに入ったのだって未来が進学するからって一緒についてきたわけだし、それに……ほら!ここって学費がびっくりするぐらい安いじゃない?だから、」

 

笑ってごまかしながら、お母さんやお祖母ちゃんの負担も減らせるし、と言いかけたところで未来が静かに手を重ねてくる。真っ直ぐに響の目を見て、何もかもお見通しだと言わんばかりに。

 

「……ごめん。やっぱり、未来には隠し事できないね」

 

「だって響、無理してるんだもん」

 

「でも、ごめん。もう少し一人で考えさせて。これは、わたしが考えなきゃいけないことだから」

 

わたしがどうすべきか、どうなればいいのか。何のために戦うのか、本当に守りたいものは何か。

「誰かを助ける」「誰かを守る」――それが、わたしの戦う動機。だけど、これから戦場に立つなら、その「誰か」と戦うことだって、きっとある。ネフシュタンのあの子のように。その時、わたしはどうすればいいんだろう。

その答えは、わたしにしか見つけられないことだから。

 

「わかった。でも、これだけは覚えてて。例え響がどんなに悩んで考えて答えを出したとしても、どれだけ前に進んだとしても。響は響のままでいて」

 

「わたしの、ままで?」

 

「そ。変わってしまうんじゃなくて、響のままで成長するの。それだったらいくらでも応援する。響は響のままじゃなきゃ嫌だもん」

 

「わたし、わたしのままでいていいの?」

 

「何当たり前のこと言ってるの。だって、この世に響は一人しかいないじゃない」

 

未来の言葉と緒川さんの言葉が頭の中で重なった。わたしはわたししかいない――言葉だけでは当たり前のこと。

だけど、わたしはずっとその意味を知らなかった。「奏さんの代わり」――そんなの、ありえないんだ。奏さんは一人しかいないから。だから翼さんも竜さんも怒っていた。だから、わたしは戦えるように、変わらなきゃいけないと思っていた。だけど、そうじゃないんだ。

 

未来がいてくれて良かったと、心から思う。じゃなきゃ、また間違えるところだった。

わたしはわたしのままでいい。奏さんのことを翼さんや竜さんが大事に思っていたように、わたしにも大事に思ってくれる人がいる。他の誰かになる必要はないんだ。

 

 

「ありがとう、未来。わたし、わたしのまま歩いていけそうな気がする」

 

「じゃあ響。この前の流星群、一緒に見ない?録画しておいたんだ」

 

「ホントに!?みせてみせてー!」

 

本当は未来と一緒に見るはずだった流星群。約束したのに、ノイズのせいで守れなかった約束。それを録っておいてくれたということで、これ幸いにと飛びつくように未来から携帯を受け取るが、画面は真っ暗で何も写っていない。

 

「これ……なんにも見えないよ?」

 

「ごめん。光量不足みたい」

 

「ダメじゃん!!」

 

互いに顔を見合わせると、自然と笑いと涙が漏れる。やっぱり未来はわたしの日だまりだ。そんな日だまりと一緒に過ごす日常は、こんなにも温かくて愛おしい。

 

「じゃあ、次は一緒に見よっか!」

 

「うん。約束だよ」

 

わたしにだって、守りたいものがある。今日は何をしようか、だとか今日の晩ごはんはなんだろうか、だとか。今はこんな何でもない日常や、こんな小さな約束くらいしか守れないのかもしれないけれど、それでいいんだ。

 

わたしは、わたしのまま強くなればいい。そしていつか、わたしの守る手をもっと伸ばせるようになればいい。

まずは、そのためにも――

 

 

「たのもーーーー!!!」

 

「どうしたんだ響くん。こんな急に……」

 

「わたしに!戦い方を教えてください!」

 

「俺が、君にか?」

 

「はい!弦十郎さんならきっとすごい武術とか知ってるんじゃないかと思って!」

 

「ふむ。……いいだろう。だが、俺のやり方は厳しいぞ」

 

「望むところですッ!」

 

「よしッ!いい返事だ!」

「ところで、響くんはアクション映画は嗜む方かな?」

 

「ほえ?」

 

ありがとう未来。ほんのちょっぴり、一瞬だけ不安になったけど、必ず強くなってみせるから。例え本当のことを言えなかったとしても、未来との約束はもう破りたくないから。誰かの約束も、日常も、必ず守るから。

 

 

 

――――――――――――――

 

修行は確かに厳しかった。ある時は映画を見ながら動き方の確認を、またある時は基礎トレーニングを、またある時は筋力トレーニングを繰り返した。

最初は映画で鍛練だなんてと思ったけど、とんでもない。すごくわかりやすくて、お手本にするには最高のマニュアルだった。

 

朝早くに起きて一日中トレーニングをする生活は朝寝坊しがちなわたしにはとても辛かったけど、それでも一つ一つが自分の糧になると思うとどんどんやる気が上がっていった。

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして。

 

 

 

「ええっ!?師匠、今日出張なんですか!?」

 

「本当にすまん!わざわざ来てもらったというのに……急に呼び出しがかかってしまってな、響くんに連絡を入れる暇も無かったんだ。本当に申し訳ない!」

 

「じゃあ、今日の修行はお休みなんですか?」

 

「いいや。代わりに特別講師の方に来てもらっている。今回はその方に指導してもらってくれ。何、たまには俺以外の人の指導を受けるのもいい経験になるはずだ」

 

「特別講師、ですか?」

 

「その通り。俺の昔馴染みでな、今回の事を話したところ快く了承してくれたよ。ついでに、俺たち二課と関係のある人物でもある」

 

入ってきてくれ、という弦十郎の言葉を受けて入ってきたのは、柔道着を着た恰幅のいい男性。

 

「おう。こいつが弦の言ってた鍛えてほしい奴か?」

「俺は巴武蔵ってんだ。よろしくな、お嬢ちゃん」

 

その人は大きな腹に巻いた黒帯を軽く叩くと、白い歯を見せて響に笑いかけるのだった。




本家ゲッター3のエントリーだ!
というわけでみんな大好き柔道家、巴武蔵参戦です。
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