シンフォギアにゲッター系女子をinさせてみたかった   作:ぱんそうこう

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背中

 

 

山中のとある洋館。そこでは一人の金髪の女性が大広間の巨大なモニターを前に思案を巡らせていた。

女性の名はフィーネ。幾度となく転生を繰り返すことで何千年という時を生きてきた精神の怪物である。

 

「妙ね。あそこまでダメージを受けたからにはもっと侵食されてもおかしくないと思うのだけれど」

 

モニターの内容は帰還した雪音クリスの肉体を侵食したネフシュタンの鎧のデータ。その侵食度が想定よりも遥かに低かったことである。

聖遺物の権能は絶対。それ故、普通ならばこんなことは起きよう筈がない。しかし、その女性はあの場に起こし得るイレギュラーが存在したことを知っていた。

あの場にあった因果は既にリストアップ済み。そしてその殆どがネフシュタンの侵食を止めることが出来ないことも把握済み。ブラックノイズが現れたことは想定外だったが、あれの性質を考えれば除外してもいいはずだ。となれば、消去法で答えは一つしかないだろう。

 

「ゲッター線……実に興味深い」

 

未知のエネルギー、ゲッター線。きっとあれにはまだまだ自分の知らない性質があるに違いないと確信する。その鍵の一つが、あの夜に放たれた流竜と風鳴翼による絶唱の二重奏。アームドギア無しにも関わらず通常の絶唱を凌駕する威力を出しただけでなく、絶唱の負荷を一人が全て引き受けるという予想外の結果を生み出したことはフィーネにとって融合症例に次ぐ興味の対象となっていた。

 

「何をやってもあの風鳴訃堂が黙らないから仕方なく作ったけれど……何がどう転ぶか分からないものね」

 

フィーネの正体は二課技術主任の櫻井了子である。彼女は自身の目的――統一言語の復活――へのアプローチの一環でFG式回天特機装束"シンフォギア"を製作した。しかしその際に当時二課司令を辞任したばかりの風鳴訃堂が横槍を入れ、ゲッターのギアを最初に作ることを強いられたのである。

この事は彼女にとって実に遺憾だった。制御不能・詳細不明のイレギュラーを計画に加えることの愚かしさを理解できぬ彼女ではない。それが原因で計算が崩れることなぞ許容できる筈がなく、ゲッターに対しては研究対象として興味こそ持っていたもののギアに加工するかと言われればそれはまた別の話であり。

最終的にフィーネは天羽々斬が「第一号聖遺物」であることを理由にゲッターを計画外の番外ギア、"SG-00"としてナンバリングし、水面下でその装者候補の選定を妨害しながら事実上存在しないものとして扱っていたのだった。

 

そんな中、手駒の一つとして設立した米国の研究機関『F.I.S』が正体不明の武装集団の襲撃によって壊滅の憂き目に遭った。これによって「将来的な保険」を含めて集めた人員の多くが死亡、あるいは行方不明となり、聖遺物も虎の子のギアも多くが散逸してしまったのである。これは彼女にしてみれば寝耳に水というべき事案であり、計画を当初から計画していた第一プラン、"カ・ディンギル"の一本に絞ることを余儀なくされることとなった。

どうにかこの計画を成立させる見通しが立ったのが二年前。"ネフシュタンの鎧"を奪取したことで完全聖遺物を複数組み合わせるプランを実現する目処が立ち、いよいよ計画を進行させようとしていたのであった。

 

そんな矢先に見えた新たな光明が立花響とゲッター線である。フィーネにとっても初見であるヒトと聖遺物の融合症例、加えてここに来て漸くその性質が明らかになり始めたゲッター線。いずれもさらなるブレイクスルーをもたらし得る代物であると考え、調査・研究を進めていたのだった。

 

(ヒトと聖遺物の融合症例、そしてゲッター線。これらを解明し、組み込むことができればさらなるパラダイムシフトも不可能ではない筈……)

 

次はどんな手を打つべきかしら、という言葉を飲み込む。研究もいいが、まずは失敗した子へのお仕置きと処置が先だと一旦思考を打ち切ったのだ。そして振り向いた先には機械に磔にされた雪音クリスの姿。

 

「さてクリス。ノイズに釣られたあの子を連れてくるのがあなたの仕事だったわよね。いくら他に装者が二人いるとはいえ、成果もなく空手で戻ってくるなんて……あなたは人に言われた仕事も出来ないのかしら?」

 

「……言い訳はしねぇ。連中を甘く見てたあたしの責任だ」

 

「そう。じゃあ私がこれからどうするか、賢いあなたならもうわかっているわよね?」

 

その言葉と共にクリスに電流が流される。

 

「ぐああああああああ!!!」

 

「可愛いわよ私のクリス。私だけが貴女を愛してあげられる……」

 

電撃を止めるフィーネ。するとゆっくりとした動きでクリスに近づいていき、耳元に顔を近づけるように抱きしめる。

クリスもそれに応えるようにフィーネの腕の中で大人しくし、さながら再確認するように問いかけた。

 

「ホントに、これでいいんだよな?お前に従ってりゃ、戦争を無くせるんだよな?」

 

首肯するフィーネ。そして優しげな、かつ妖艶な声で囁く。それはまるで聞き分けのない子供に言って聞かせるようであり、信者に託宣を下す教祖のようでもあった。

 

「ええ。私の言う通りにしておけば、それでいいのよ。でないと、嫌いになっちゃうわよ?」

 

痛みだけがヒトを繋ぐ唯一のモノ。それをクリスに教え込み、刷り込み、躾けていく。

 

暗闇は深く、未だ底を見せることはない。

少女は未だ、闇の中。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

「よしよし。嬢ちゃんは中々筋がいいな。これなら次に行っても良いだろうぜ」

 

「ホントですか!?ありがとうございますッ!」

 

二課本部に程近い位置にある森。そこに設置された修練場で武蔵による響の修行が行われていた。

武蔵が響に最初に教えていたのは受身である。戦うならただ攻撃を防ぐ、避けるだけでは駄目だ。いつか来るであろう格上を相手取るためにも、倒されたときに身を守り、復帰を早める受け身は覚えておいて損はないためであった。

 

 

巴武蔵は特異災害対策機動部一課の人間である。風鳴弦十郎との付き合いは長く、高校時代に武者修行の旅先で手合わせしたのがきっかけだった。

武蔵は高校を卒業してからは当時浅間山にあった新世代エネルギー研究所に作業員として就職。弦十郎は刑事の道を進み、後に公安に籍を置くことになった。互いに異なる道を進むことになったが、二人の関係が途切れることはなく。武蔵が一課に籍を移してからは再びかつてのように会うことも増え、他の二課の人間と一緒になって飲みに行く機会も生まれたのだった。

 

そんな彼のもとに、弦十郎から自分の弟子を見てやってほしいという旨の連絡が入ったのはつい先日。もちろん二つ返事で承諾したが、いささか弦十郎らしくないと思って問い詰めたところその弟子に精神面で少し不安な点があるので手伝ってほしいということだったのである。

 

(ったく。弦の奴も人が悪いぜ。いくら急な出張つっても鎌倉からのお叱りだろ?なら別に今日は休みにしてやってもいいじゃねえか。そんなに急ぎでやらなきゃならねぇ事なのかね)

 

目の前のその弟子が少女くらいの年頃、ということは大方例の新入りの装者だろう。一課でも新入りの装者が二課に入ったことは話の種に上がっていた。

一課はその職務上、二課の装者に命を救われることも多い。だからこそ天羽奏の殉職は一課の人間、特に現場で働く者に衝撃を与えたし、新人装者の誕生は大ニュースになった。

 

(メンタルなら別に俺じゃなくても慎次とか朔也、それこそ同じ女なんだから櫻井の姐さんなんかでも別にいいんじゃねえか?それとも俺の方がいい理由でもあるってえのか)

(まあいい。考えるのは得意じゃねえしな、鍛えてく内に分かってくるだろうぜ)

 

受けたからには本気でやる。弦が鍛えたからには俺もマジでやらなきゃ痛い目見ちまうだろうさ、と考えると一度思考を切り替えて響に次の修行を課していく。

 

 

「ここからはとにかく俺と組手だ!どっからでもかかって来いッ!」

 

はいッ!と響の元気のいい返事。両手にグローブをつけて拳を構える響に対し、武蔵はどこまでも自然体。構えることもせず、脱力して響の動きを見る。

 

「はああああッ!」

 

腹から声を出し、気合い十分に武蔵に向かっていく響。しかし放たれた拳は武蔵の目の前で乾いた音と共に受け止められる。

 

「悪くねえ。真っ直ぐで威力もあるが……腰が入ってねえな!」

 

「うわ、わわわわわ!」

 

拳を受け止められた響はそのまま投げられる。それも投げっぱなしではなく、響が受け身を取りやすいように配慮しての投げ方だ。

 

「パンチは腕で打つなよ!足腰を踏ん張って下半身で打て!次だッ!」

 

「わかりましたッ!」

 

響が次から次へと打ち込んでいく。武蔵はそれを全て危なげなく捌きながら、響の長所と短所の洗い出しを進めていった。

そして修行も時間と共にハードになっていき、響が慣れていくにつれて武蔵の投げも容赦が無くなっていくのだった。

 

 

 

そして昼も過ぎた頃。

 

 

「たは~~師匠も厳しかったですけど武蔵さんもおんなじくらい厳しいですよお」

 

「当たり前だろ。弦の修行を引き継ぐんだ、ヌルい修行じゃ逆に体がなまっちまうぜ」

 

修行に使っていた森の中で響が座り込む。尻餅をついて地面に座る彼女の体操服には土がところどころに付いており、この時間でどれだけ投げられたのかを如実に示していた。

 

「だが見事なもんだ。弦の教え方が良かったのもあるが、それ以上にお前さん自身の筋がいい。鍛え始めでここまで出来る奴はそうそういねえぜ」

 

「えへへ。そうですか~?そこまで褒められると照れちゃいますよ~」

 

「おいおい調子乗るんじゃねえぞ?あくまで鍛え始めにしちゃ、ってだけだ。ここから大成できるかはお前さん次第ってわけさ。くれぐれも修行は欠かさないようにすりゃあいい」

 

ま、弦の奴がいるからそこは心配してねえけどな、とだけ言い残すと続けて組手で感じたことを響に伝えていく。

 

「それよりも、だ。お前さん、パンチを当てる時にちょいと躊躇いがあったな。人に当てるのは苦手か?」

 

「う。それは……その……」

 

響がばつの悪そうな顔をする。その脳裏にはあの夜のことが過っていた。

 

「……わたしだってやらなきゃいけないって分かってるんです。だから強くなろうと思って、でも上手く行かなくて……」

 

「おっとすまねえ。何も責めてるわけじゃねえんだ。むしろお前さんの感覚が普通なんだぜ?初めての人間同士の戦いであんなもん見せられちまったら無理もねえや」

 

落ち込んだ響にフォローを入れる武蔵。

 

風鳴翼は防人となるべく幼い頃より訓練を受けてきた。その中で武器の扱いを、体さばきを学び、時には人と戦うことさえあると学んでいる。それ故に相手が命を脅かす者であれば戦うことを厭わない。

 

流竜は幼い頃から父親の元でただひたすらに「強くなれ」と非常に厳しい修行を課されていた。その教育の中では人間と戦うことは必然のことだった。加えて装者となってからの出会いと別れが彼女のスタンスを完成させた。即ち、「命を脅かすなら迷わず倒す。誰であろうと容赦はしない」と。

 

それに比べて立花響はつい最近まで戦いを知らないごく普通の女の子として生きていた。普通と少し違うところがあるとすれば、人一倍「誰かの助けになりたい」という思いが強いことだろうか。その一念で戦場に向かうことができる精神性を櫻井了子は「我々と同じこちら側の人間」と評したが、それでもまだ戦士としての一線を越えていない。

 

戦うために育った二人と響とではそもそもの環境が違いすぎる。だからこそ今こうして修行をしているのであるが、それでもその年季の差を一朝一夕で埋めようなんてのはまず無理があるだろう、というのが武蔵の考えだった。

 

弦が言って不安というのはおそらくこれだろう。あの二人の戦いぶりや守られたことへの負い目など、様々な要因から来る精神的な負担……それが原因だと察した。

 

(成程、確かにこりゃあ二課の連中だけじゃ厳しいか。本人も原因が分からないから表に出ない、特訓に付き合ってた弦だからこそ気付けた変化だったってわけだ。メディカルチェックはこまめにやってるだろうし、そこで表に出してるなら出てこない訳がねえ。大方、元々戦いに忌避感があったところにこないだの件が無意識的に影響した、ってところか?……ったく。あいつら何やってんだか、血みどろ残虐ファイトなんぞケツの青いひよっ子に見せていいもんじゃあるめえに)

 

「俺から言えるのはそうさな……戦うことはそんなに重いことじゃねえ。大事なのはむしろその後だと思ってる」

 

「戦った……後、ですか?」

 

「応よ。戦いはあくまで手段だ。戦うことで何を目指しているのか……お前さんはどう思ってる?」

 

「わたしは、ノイズと戦って誰かを守りたいって思ってます。もしノイズじゃない誰かと戦うことになったら……話し合いたい。なんで戦わなくちゃいけないのか、って気持ちを伝えたいです!」

 

それが立花響の本心にして、親友との語らいから見出だした戦いの先に求めるもの。「わたしはわたしのままで強くなる」――これがその答えなのだ。そしてそれを聞いた武蔵はとても満足そうだった。

 

「何だ、答えなんかとっくに出てんじゃねえかよ。要するに、戦った先に誰だろうが手を繋ぐこと……そいつがお前さんの『戦い』ってやつか」

 

「手を、繋ぐこと……そうですっ!」

 

「だったら、そいつにどこまでもマジになりな。そして敵とも分かり合うなんて言ってのけるお前さんだからこそ、戦うこと――前に進むことを躊躇っちゃいけねえ。敵さんってのはだいたい頑固でな、戦うことは避けられねえんだ。もし躊躇った時一番危ねえのは、お前さんとお前さんが守る人間なんだからよ」

 

「それは……竜さんにも言われました。躊躇ったり迷ったりしたら、人類全部が死ぬんだって」

 

「その言い方はちょいと極端だが、あながち間違っちゃいねえさ」

 

補足を入れながら肯定する。一課、そして研究所時代の「色々」な経験は今の武蔵の奥に深く根差している。だからこそ戦う必要性を理解しているし、響が向かう道が茨の道そのものであることも理解している。

だが目の前の若者がはっきりと己の道を定めたならば、自分にできるのはその背を押してやることだけだ。

 

「だが心配すんな、むしろ戦うことが誰かと手を繋ぐことにつながることだってある。

「例えば俺や弦みたいな武道家は、拳を合わせることで相手のことをわかろうとする。今日俺が講師を受けたのも、弦がお前さんの拳から不調を感じ取ったからだったからな」

 

「そうだったんですね。師匠がそんなことを……」

 

「戦いってのは、互いの信念のぶつかり合いだ。そこには必ずそいつの『譲れない何か』って奴が見えてくる。信念は、そいつの想いを言葉よりもはっきり俺たちに伝えてくれる。武道家にとってのそれは拳で、お前ら装者にとってのそれは……きっと、歌なんだろうよ」

 

「武蔵さん……」

 

「だから怖がる事はないぞ!自分を信じて前へ進め!なーに、手助けくらいはいくらでもしてやるさ。俺だけじゃねえ、二課の連中だってそうだ。子供は大人に迷惑かけてナンボなんだよ。だから気にするこたぁ無い」

「誰かを守り、分かり合うための戦い……。その優しさ、大事にしろよ?そいつがお前さんの戦いだってんならなおさらな」

 

それは年長者としての激励の言葉。子供を導く、大人としての助言。これだけの言葉を受けて、奮い立たないわけがない。

 

 

 

そして響は自分の進む道もようやく見えてきたような、そんな心持ちになった。

自分にはこうして支えてくれる人がいる。助けてくれる人がいる。そのことがものすごく嬉しいのだ。なら、きっと次は自分が支え、助ける番なんだ、と。

 

 

自分の『戦い』はここから始まる。もう迷わない。真っ直ぐに前を見て進むことが、みんなへの恩返しになるんだから。

 

(そのために、まずは翼さんと手を繋ぐんだ)

 

それは、翼さんと本当の意味で『仲間』になりたいから。翼さんと竜さんに助けられた分、今度はわたしが二人を助けたいから。

 

 

「さあ!腹も減ったことだし、二課の食堂でメシにしようぜ!お前さんの分は俺が奢ってやるから好きなだけ食え!」

 

「いいんですか!?だったら、ごはん四杯は食べちゃいますよ!」

 

「遠慮せず食え食え!俺はカツ丼五杯は食うぞ!それが終わったらラーメン三杯だ!」

 

「じゃ、じゃあわたしはそれにお好み焼き三枚も!」

 

「おいおい。食えとは言ったが食いすぎたらあとで全部吐いちまうぞ?」

 

「う。ごはん戻すのはちょーっと勘弁してほしいかも……」

 

「わははは!メシの後は俺のとっておきの必殺技を教えてやるからな。気合い入れなきゃ、マジで腹の中身ぶちまけちまうぞ!」

 

上機嫌に豪快な笑い声を上げて二課本部へ走っていく武蔵と、それを追いかける響。

 

新世代の戦士は気持ちを新たに、希望を抱いて前へ進んでいく。その背に守るべきものと支えてくれる多くの意志を受け止めながら。

それらすべてを、己の原動力として。

 

 




次回、皆さんお待ちかね(?)の置いていかれた女の話(予定)です。
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