シンフォギアにゲッター系女子をinさせてみたかった   作:ぱんそうこう

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今回は短めで話もそんなに進みません。
次回から本格的に事態が動いていく予定です。


墜ちる翼

 

暗い。

 

暗い。

 

暗い。

 

自分がどこにいるかは分からない。辺りは一面闇の中。一片の光も無い、純粋な「無」の世界。

 

どれだけの時が経っただろう。もはや考えることさえ億劫になった時、目の前の空間が揺らいだ。

 

思わず間抜けな声が漏れる。その瞬間、全ては連鎖的に起こった。

 

極光が目の前を覆う。無数の光が弾け、新たな光を生み出していく。そして光が止んだとき、そこには「有」があった。

 

俺はこの時、ようやく自分が宇宙にいることを理解した。

 

世界は続く。生命が生まれ、死んでいく。文明が生まれ、滅んでいく。これが、これこそが、この星の記憶。

 

 

生命の、進化の記憶だ。

 

 

 

――――――――――――

 

その日、風鳴翼は病室のベッドで目を覚ました。

 

体は動かない訳では無いが、節々が痛んで億劫だ。

ふと、ここで違和感に気付く。はて、私はこのような痛みに屈する女だったろうか……

 

『珍しくお寝坊さんじゃないか翼。朝はとっくに過ぎちゃったぞ?』

 

目の前で奏がベッドの手すりに手をかけて、上半身をこちらに乗り出している。どうやらわざわざ起こしに来てくれたらしい。でも何故だろう。奏と一緒にいることは当たり前の筈なのに、無性に泣きたくなる。

 

それをはっきりと認識した瞬間、意識が覚醒した。

 

「奏!!!」

 

思わず目の前の空間に手を伸ばす。しかし瞬き一瞬もの間に奏の姿は消えてしまった。

 

「……まさか、夢……だったのか……?」

 

この病室には私以外に誰もいない。従って見間違いなど起きようがない。となれば、今のは一体……?

そして思い出す。己が何故ここにいるのか。何故体が痛むのか。何故体が億劫なのか……。

 

「そうか、また死にぞこなってしまったのか……」

 

体が痛いのではない。心が痛いのだ。

体が億劫なのではない。心が億劫なのだ。

そして私はあの流竜に救われた。否、救われてしまったのだ―――

 

無力感が心を苛む。無様な己を嗤う。

何が誇りだ。何が防人の覚悟を見せる、だ。偉そうなことを言っておきながら、結局私も立花と何も変わらない、守られる側の人間だった。

 

「お前は、何故私なぞを庇ったのだ……?」

 

私にそのような価値も資格も無いというのに。その言葉は最後まで出ることは無かったが、声色はその感情を如実に表していた。

 

翼が竜に対して隔意を抱いていたのは事実。如何にネフシュタンの鎧という共通の敵を前に一時は纏まったとはいえ決着をつけた訳ではない。故に理解できない。竜の行動原理が。自らの死を背負ってまで、己を生き長らえさせたその根源が。

 

 

 

『本当にそうか?』

 

 

 

 

まただ。また奏の声がする。幻聴が聞こえるとは、どうやら本当に精神をやられてしまったらしい。奏は死んだ、もういない。そんなことは、私が一番よく分かっているというのに。

けれど、今はこの幻がとても心地いい。どうしようもなく奏に会いたい。奏の声が聞きたい。例えそれが幻だと分かっていても、私の妄想が生んだ産物だとしても。

 

 

 

それから数分ほど。定期的にこちらの様子を見に来ているのであろう看護師がやってきた。程なくして担当の医師が、さらに数十分もすれば叔父様や緒川さんが代わる代わる病室に来た。

 

「無事、とは言い切れんだろうが、しかし生きていてくれて良かった。今はゆっくり養生してくれ」

 

 

違う。

 

 

「おそらく近い内に退院できると思いますが、油断は禁物ですからね。働き詰めだった分、今はゆっくりなさってください。ともあれ、生きていて下さって本当に良かったです」

 

 

違う。

 

 

「命が助かって良かった」

 

 

違う!

 

 

「生きていてくれてよかった」

 

 

違う違う!

 

 

誰もが己の生存に安堵の声を上げている。だがそれは思い違いというものだ。

私の命に意味も価値も無い。死にぞこなったところで何かが生まれる訳でも、何かを残す訳でもない。故にその安堵はまさしく無意味なのだ。

 

このような思いをするぐらいなら、いっそ死ねばよかったのだ。そうすれば奏の元にだって行けたものを……

 

病院のベッドの上で色々な考えがぐるぐると頭の中を回っている。退院まではあと数日ほど、それまでは安静だと聞いている。来客も落ち着いている今、これといってすることもない。暇を持て余せば持て余した分、余計なことばかりを考えてしまう。

思えば、こうして何も無い時間というのは一度も無かった。いつもはアーティストとしての仕事か装者としての任務が入っており、それ以外の日は修行ばかり。暇を持て余すということを知らず、必然「暇を潰す」といことも知らない。

頭と精神がぐちゃぐちゃになるばかりで眠ることもできず、ただただ無為に時間だけが過ぎていく。ようやく意識を落とすことができたのはすっかり日も落ちきり、病室も消灯時間を超えて久しい頃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気付けば、翼は闇の中で浮かぶように立っていた。

 

「これは……一体?」

 

周囲には何も見えない。一寸先も見えない闇の世界で、しかし奇妙なことにギアを纏う己の姿ははっきりと見える。

 

「闇の世界にただ独り――ふ、これが私にはお似合いということか」

 

自嘲の笑みが零れる。しかしこの孤独感こそ望むべきもの。日中のことを思うと、いっそ心地よささえ覚えてしまう。

 

今しばらくの静寂に浸り続ける。さながら水の中を漂っているような感覚に安らぎを感じていると、視界の端に仄かな翠色の光が見えた。

それと共に静寂を破る声が聞こえてくる。

 

 

 

『本当にそう思うか?』

 

「奏……」

 

声の方向を向けば翠色の光を纏う奏の姿があった。その様子に少し驚くも、奏と話せることに比べれば些事だと切り捨てる。

 

「そう思うも何も、これが事実なのよ。無能な私は独りがお似合い――ううん、独りでなきゃいけないの」

 

『違う。翼はただ、逃げてるだけだ。本当は全部分かってるのに』

 

「逃げてる?私が?」

 

『そうだ。響のことも、竜のこともそうやって自分で自分をがんじがらめにしてしまってる。本当は、もっと簡単なことなんだって分かってるのに』

『ほんっっっと、翼は真面目すぎ。前々から言ってただろ?あんまり真面目過ぎると、いつかポッキリ折れちゃいそうだーってさ』

 

「私は……もう折れてもいい。生きていたくない。このまま消えてなくなってしまいたい……。そうだ、このままずっとここにいればいいのよ。そうすれば、いつまでも奏と一緒に……」

 

『そいつはダメだ。ここはちょっとした偶然から生まれた空間――夢みたいなものだ。夢は夢……いつかは覚めなきゃいけない。それに、いつまでもアタシの背中を追ってばかりじゃ何にも始まらないぞ?』

 

「そんな!私、奏がいなきゃ何にも出来ない!」

 

『そんなことないさ。翼はもうアタシがいなくたってやっていける。たくさんの命を守っていける』

 

「でも!」

 

『守った命の数だけ、受け継がれるものがある。だから、生きるのを諦めないでくれ。残酷かもしれないけれど、これが翼に託す、アタシの願いだ』

 

「そんな……死ぬことさえ、許されないというの?」

 

『そうだ。これからみんなにはもっと残酷な未来が待ってる――だからこそ、アタシは二人に後を託したんだ。人類に偉大な遺産を残すために』

 

「わからないよ!残酷な未来!?偉大な遺産!?奏は何を言ってるの!?一体何を見ているの!?」

 

『答えはここにはない。だから、行ってきな。そしてアタシがどこにいるのか――それを決めるのは翼自身だ』

 

 

 

 

――三つの心を一つにしろ。それが、未来を導く力になる。

 

 

 

 

それだけ言い残すと奏は消えていった。それと同時に翼は自分がどこかへ落ちていく感覚を味わっていた。周りに目を向ければ、闇黒の空間に小さな光の粒が点々としている。それらは次第に増えていき、翼の足元で巨大な銀河を形どる。そうして翼はまばゆい銀河の中へと落ちていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

『良かったのか?あれで』

 

『いいさ。そろそろ翼もアタシ離れしなきゃいけないと思ってた頃だしな』

 

『そうじゃない。もっと話したいことは他にたくさんあっただろうに……絶唱によって放たれた通常の数値を遥かに越える超高濃度のゲッター線――それがもたらした刹那の刻をあんな風に終わらせても』

 

『いいんだよ。これで優しく慰めでもしたら、きっと翼は二度と立ち直れない。そうなったらアイツの意思を無駄にしてしまうじゃないか』

 

『その割には案の定甘やかしてたけどな』

 

『やめてくれよ!あれがアタシの精一杯なんだから!翼と一緒にいるとなんかこう、甘やかしたくなるんだよ。もし妹が生きてたらあんな風になってるのかなー?、みたいな感じでさ』

『それより、アンタはどうなんだよ。条件は竜も同じだってのに、そっちは会いすらしなかったじゃないか』

 

『俺はいいんだよ。今はエンペラーが上映会をやってるようだし、そうホイホイと行くわけにもいかんだろう。それに、俺のことはちゃんと明日への原動力にしてるみたいだからな。もしこれで会いでもしたら、いよいよ化けて出てきやがったかって今度こそ股間を蹴り潰されそうだ』

 

『ははっ!なんじゃそりゃ。アイツそんなに手が早いのか?』

 

『いいや、そういうわけじゃないが。まぁ、ちょっとしたナンパの思い出ってやつさ』

 

『くくくっ……ナンパってなんだよナンパって。アイツにそんなことやるなんて命知らずにも程があるだろっ……』

 

『仕方ないだろ!?たまたま会ったとはいえ、ギアの話を路上でするわけにもいかないからな』

 

『アンタ変なところで真面目だな!?いつもはあんなに面白おかしいのに……ホントそういうとこだぞ』

 

『やっぱり君もそんな風に思ってたのか……はあ』

 

『気にすんなって!あーもう面倒くさいなあ!この話はおしまい!それよりも……』

 

『そうだな。できることはやった。後は、あいつらを信じるだけだ』

 

『頼むよ三人とも。いや……四人って言う方が正しいか。絶対に了子さんを止めてくれ。でないと因果がまずいことになっちまう』

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

「今のはなんだったのだ……」

 

翼が目を覚ました時、まず最初に感じたのは困惑だった。覚めた今でも奏の声が鮮明に思い出されるほど、夢にしてはあまりにもリアルすぎる感覚。何より夢の内容を一字一句覚えていることがあまりにも奇妙だった。

 

「奏は私に何を伝えようとしていたんだ……?」

 

奏に伝えられた言葉を考える。「受け継がれるもの」「残酷な未来」「偉大な遺産」「三つの心」――そして、私が逃げているという言葉の意味は何か。私が分かっていることとは一体何か。

 

 

 

その意味は見えない。今は、まだ。

 

 

 




本作の奏はエア奏ではありません
それだけははっきりと真実を伝えたかった
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