シンフォギアにゲッター系女子をinさせてみたかった 作:ぱんそうこう
文章力が無いので書いててけっこうキツかったですが、本章もようやくこれで一段落、この次からはもう少し明るくなる予定です。
ある日の放課後、響はリディアンの用務員室に呼び出された。呼び出した主は竜、何でも大事な話があるとのことだった。
「お、お邪魔しま~す」
「来たな、まあ適当に座んな。茶くらいは出してやる」
竜か茶菓子を持ってきて響の向かいに座った。
響には自分が呼ばれた理由が分からない。敢えて心当たりを挙げるなら、一ヶ月前に「奏の代わりになる」と言って怒られたことくらいだろうか?もしやその事で何か言われるのではと戦々恐々していたのである。
「んな辛気臭ぇ顔すんな。別に取って食おうってわけじゃねえんだ」
「あの……ならわたしってどうして呼ばれたんですか?」
「お前に聞きたいことがあってな。……奏の最期のこと、聞かせてくれねえか」
辛い話になるだろうが、頼む。そう言って竜は響に頭を下げたのだった。
響は全てを話した。自分を守るために命を燃やし尽くしたこと、「生きていてくれてありがとう」と言い残したこと――笑いながら死に向かっていったことも、全て。
「……ったく……つくづくあいつらしいぜ」
竜は響の話をずっと黙って聞いていた。時に目を伏せ、時には拳を強く握りしめながら。
「悪かったな。わざわざきつい事思い出させちまって」
「わたしはいいんです。それより、どうしてこんなことを……」
「間に合わなかったのさ、俺は。着いたときにはもう全て終わっちまってた。結局、俺は奏の死に目に会うこともなく、あいつと別れちまった」
「悔しかったさ。あいつのことを俺なりに大事に思ってたつもりだったが……紙に書かれた上っ面くらいでしか知らねえんだ。あいつの死に様を」
薄情なもんだろ?と顔に自嘲の色を浮かべながら、それだけ言うと竜は黙りこんでしまった。
「……大事だったんですね。奏さんの事が」
「ああ。ぽっと出で右も左も分からねえ俺をあっさり受け入れて、色々と付き合ってくれたしな。感謝してもしきれねえさ」
「だったら、奏さんのことならきっと翼さんの方がよく知ってます。だったら別にわたしじゃなくても……」
いいんじゃないか……そう言おうとするのを竜は片手で制止した。そして時間を置いてからゆっくりと口を開く。
「……ああ、お前は間違っちゃいねえ。だが……見ちまったんだよ、あいつの顔を」
「俺はあの後しばらくは寝っぱなしだった。やっと起きて動けるようになって……その時だ。あいつのやつれきった顔を見たのは」
「それで、もう駄目だった。あんな状態の奴の傷に、塩を塗るような真似は出来ねえ」
「じゃあ……本当は翼さんのことが」
「尤も、あいつはもうそうは思っちゃいねえだろうがな……」
いつもは荒々しい竜の初めて見る顔。翼と互いに仲違いしていると思っていた竜から暗に示された、翼を気遣っているような言葉……だというのに、響は言葉を返すことが出来なかった。
それはネフシュタンの少女が襲来する、数日前のことだった。
――――――――――――――――
「ッ!了子さん!デュランダルを持って下がってくださいッ!」
まさしく最悪のタイミングだった。全員が消耗した上に、了子は非戦闘要員。上空の弦十郎が、己が出撃して時間を稼ぎ、装者たちを生かすべきだと動き始めてさえいたほどである。
「無茶よ!相手はブラックノイズ、そんな状態で勝てる相手ではないわ!」
「だとしても!今戦えるのはわたしたちだけなんです……!」
翼と了子を自分の背にして響が立ち上がる。しかし相手の強さを直に見たことがある響には、状況のまずさをよく知っているために、顔は緊張の色を隠しきれていない。それでも震える膝を奮い立たせ、戦うために前へ出る。
「否。奴の首を取るのは私の役目だ」
ぞくり、と肌が粟立ったその瞬間、響は背後から底冷えするような声を聞いた。
後ろを振り向くと、能面のような表情を貼り付けた翼がギアを纏っている。
「ちょっと、翼ちゃんまで……」
本調子でないのに大丈夫なのか。了子がその言葉を掛ける前に、心を読んだかのように先回りして、はっきりと言い放つ。
「確かに、体は本調子ではありません。ギアも重い。ですが、それが何だと言うのです?体はまだ動く。ならば奏の仇は私が討つのが道理でしょう……!」
「翼さん、私も」
「要らん!立花の力なぞ借りずとも、私は!」
「そんな!それじゃあ何にも変わらないじゃないですか!」
「止めるな立花!これは私の問題だ!」
「いいえッ!これはわたしの問題でもあるんですッ!たとえ一緒に戦えなくたって、立ってる場所も見ているものも同じなんですッ!だったら!」
今は二人で相手を――そう言いかけた時、ブラックノイズが体内から黒い瘴気を一面に吹き出した。一瞬で三人の視界を覆った闇は、ゆっくりと時間をかけて晴れていく。
その闇は二年前の惨劇の時、多くの観客を殺し合わせたもの……人の破壊衝動を呼び起こす呪い。
膝を着き、息を荒げながらも必死で呪いに耐える。破壊衝動に侵されながらも気力を頼りに立ち上がる。まだだ、まだ戦えるのだと心で叫び、必ず生きて帰ると胸に誓う。それこそが立花響の原動力故に。それこそが、何も知らぬ親友のたった一つの願い故に。
当然、翼にもその影響は及んでいた。しかしそれは弱さだと無理やり拒み、重い体に鞭を打って立ち上がる。
己の弱さが許せない。己の無力を許してはならない。故にこそ、独りで戦えなければならないのだ。
そして心に蓋をし、痛みに背を向け、血を吐きながら永遠に走り続ける。
――死すら許されぬ我が身には、もはやそれしか残されていないのだから。
負の感情が沸き上がる――それがさらに己の力を奪うことになるとも知らず。心の闇が生み出した負のスパイラルは翼の肉体を蝕みその力を奪い続けるが、それでもなお翼は戦うことを止めようとしない。
――そのツケは、誰もが想像し得ない形で回ってきた。
切れ味の鈍ったなまくらの剣なぞ恐るるに足らず。最早避けるまでもなし。ブラックノイズは天羽々斬の斬撃を受け止めながら即座に再生。そのまま剣を伝うように――翼の体内に入り込み、同化した。
「あああああああああああッ!!!!」
苦悶の絶叫を上げながら、これまでで最も濃く、ドス黒い瘴気が翼の肉体から噴き出し始める。それは次第に固形化し、翼の肉体を繭のように包み込む。
「ダメだああああーーーーーッ!!」
「翼ァァーーーーーーッ!」
その絶叫に反応した戦士が二人。
このままでは翼がもたない――そう直感した響がそれに従い吶喊する。上空のヘリから飛び降りた弦十郎が奇襲を仕掛ける。しかし時すでに遅く、弦十郎の拳でさえ繭の表面にヒビを入れることしか出来なかった。
やむなく一度距離を取った二人。そうしているうちにも繭は蠢き、次第にヒビを大きくしていく。
繭が割れ瘴気が完全に晴れた時、そこにはつり上がった瞳を不気味な赤色に輝かせ、その身を黒く染めた翼だけが残っていた。
「く」
「くく」
「こんなにも簡単なことだったのか」
「死ね!滅びろォ!……ゲッター!流竜ォォォォォ!!!」
翼の肉体が心に引かれて暴走する。翼が抱え、ブラックノイズが大きく増幅、表出させた負の想念が今ここに爆発する。
間に合わなかった流竜への怒り。その感情を抱いた己への怒り。ノイズへの怒り。己の無力を憎む心。その全てを内包した咆哮はどこか悲しげで、断末魔によく似ていた。
――――――――――――――――――――
「私の前から失せろォ!奏を返せエエエエエ!」
「ッ!くうううううううう!」
翼がこれまでにない、荒々しい動きで響に襲いかかる。普段と比べ、その技の冴えは失われているがスピードもパワーも格段に跳ね上がっており、今の響では抑えることさえままならないのが現実だった。
「ふんッ!!」
苦戦する響を見て弦十郎が加勢に入った。一度体勢を立て直させるために震脚でコンクリートを踏み砕き、その衝撃を利用して翼の足下を崩す。それに対する翼の反応は、「即座に跳躍して上空へ逃れる」だった。
(やはりな。今の翼は正気ではないが理性はあるように見える。これで暴走とは到底信じられん……おそらく、侵食したブラックノイズの影響だろうが……ならば!)
「おおおおおおおおッ!正気に戻れ翼ァッ!」
上空へ逃れた翼に拳の一撃を見舞う。翼も腕を交差させて防ごうとするが、衝撃までは防ぎきれずきりもみ回転しながら地面に落ちる。だが、まだ足りない。動きを止めることさえ、まだ。
「師匠!」
「助太刀だッ!ノイズがいなくなった今、俺も空でのうのうとしている訳にはいかないからなッ!」
「だったら、わたしにやらせてくれませんか!翼さんを放ってはおけません!」
「だが、あの状態の翼を止めるのは骨が折れるぞ。勝算はあるのか?」
「今の翼さんは、きっと溜まってたものが爆発しただけなんです。だったら、その想いをわたしが全部受け止めてみせますッ!」
「分かった!ならば俺がフォローに回る!響くんのやりたいように、何度でもぶつかっていけッ!」
「はいッ!」
師弟がここに並び立つ。目指すは闇に囚われた翼の解放。たとえ方法は解らずとも、一念で以て岩をも徹してみせんとする。正しき心で言葉と拳を交わせば、必ず事は成ると信じて。
――――――――――――――――――
「ははははははは!!!全て解ったぞ!ゲッターだ!ゲッターこそが諸悪の根源だったのだ!」
「そんなことありませんッ!戻ってきてくださいッ!」
三人の攻防は続いている。弦十郎が翼の動きを牽制し響と一対一になりやすい状況を作っていく。翼もそれに乗るように響に斬りかかり続け、響も拳擊で以て応じる。
「疾く失せろ!私は……竜を殺さねばならんのだ!未来のために!」
「仲間を殺して手に入れる未来なんてあっちゃいけないんですよッ!そんなことしたら、翼さんは二度と戻れなくなる!」
「構わん!それこそ私の望み!」
「嘘ですよそんなのッ!翼さんだって、ホントは竜さんが大事なんでしょう!?」
「そんなもの、毛ほども感じておらんわァッ!」
問答をしながらも打ち合いは続く。刃と腕甲が擦れる耳障りな音が幾度となく鳴り、火花が散る。――火花に混じり、微かな翠色の光が刹那の内に付いては消える。
「!ここだああああ!」
その時、翼が一瞬だけ剣を持つ腕を下げた。それを隙と見た響は、腕を下げた方とは逆の向きから全速力で襲い掛かる。
しかしそれは誘い。本命は――
「その素っ首落としてくれるッ!」
一拍早い斬り上げが響の首に吸い込まれていく。自分の方が届くのが早いと思っていた響は思わず動きを鈍らせてしまい、あわやという距離まで来てしまう。
「やらせるかッ!」
それを止めたのは弦十郎。響と剣の間に貫手を差し込み、その風圧と筋肉で剣を受け止める。そうして生まれた空白の時間を使い、響が一旦距離を取る。
「らしくないぞ翼。普段の流水の如き技巧はどうした?」
「そんなものは捨てました。私に必要なのは力!何者も打ち倒す力こそが!」
「そんなものがお前の望んだ力かッ!過去の研鑽を、今の己を否定するつもりかッ!」
「そうだッ!この力ならば、私はァァァァ!」
剣を受け止めた腕へとさらに押し込んでいく。厚く硬い腕も次第に刃が食い込んでいき、ゆっくりと血を流し始める。
「このまま斬り落として……」
「ぬるいぞ翼。いつものお前ならこんな腕、刹那のうちに落としてしまっていた……それも痛みさえ感じさせることなく、な」
「何……!」
「もう一度言うぞ。戻ってこい翼!このままでは本当に全て失ってしまうぞ!」
「そんなもの!とうに全て……!」
失ってしまった――そう言おうとしたところで気付く。刃が通らない……否、全く動かない。押そうと引こうと斬れる気配が無い。弦十郎がその腕に極限まで力を込め、筋肉を硬く締める――ただそれだけで、翼の剣はなまくらと化した。
舌打ちしてアームドギアを放棄、こちらも一度距離を取って仕切り直す。その前に響が立ちはだかった。
「そんな事!思ってるのは翼さんだけですッ!」
「どうして目を逸らすんですか!どうして見てくれないんですか!師匠も、緒川さんも、他のみんなも!みんなみんな、翼さんのことを心配してます!」
「今ならまだ間に合います!自分に負けないでくださいッ!」
「……お前に、何が分かるッ!!!」
翼がその矛先を響に向け、疾風の如く地を駆ける。
「何が防人だッ!何が剣だッ!私は何も守れなかったッ!人の命も!奏の命も!」
「あまつさえ守られたのは私の方だった……!何故だ!何故竜が私を守る!?奴が私を守る理由なぞ無い!だというのに……!」
「情けなかった!悔しかった!苦しかった!私だけが無力だった!私はどうすれば良かった!?答えろォォォォォーーーーーッ!!!」
平手を作り甲を上に、指を合わせて貫手を象る。響の胸を貫かんと、心の臓を打ち砕かんと、膨大な殺意を以て付き出される。それを弦十郎が身をもって庇おうとするのを制止した響は――優しい表情で何の抵抗もなく受け入れ、翼の体を抱きしめた。
口の端から血が垂れる。弦十郎に教わった気の扱いの応用によって貫手は心臓にまでたどり着かなかったが、いささか深めに突き刺さってしまった。しかしそれでも、響は表情一つ崩すことは無かった。
響の脳裏に映像が走っては消えていく。それは二年前から始まり、現在へと繋がる出会いの思い出。今の自分を作ってくれた全て。
(そうだ……)
(奏さんがわたしを救ってくれた!翼さんが、竜さんがわたしを助けてくれた!未来が今のわたしを肯定してくれた!クラスのみんなが、守りたいって気持ちを強くしてくれた!師匠が、武蔵さんがわたしに戦い方を教えてくれた!二課のみんなが、至らぬわたしを支えてくれた!)
(みんながいたからわたしがいるッ!この技は未完成――だけどこれは、みんながくれた力なんだッ!だったら使いどころは今しかない!そして、翼さんに伝えるんだ……絶対に独りじゃないってことを!無力なんかじゃないってことを!!!)
「……やっと、言ってくれましたね。そしてこれが、翼さんがずっと抱え続けていた悲しみ……ごめんなさい。わたし、翼さんの気持ちも考えないでずっと酷いことを言ってたんですね……」
「だけど、こんな事じゃ誰も救われません。翼さんは優しいから、きっと後で後悔します。だから、今度はわたしが助けます。翼さんをそこから引き上げてみせます――!」
ちょっと痛いですけど、我慢してくださいね?という言葉と共に、胸に突き刺さった翼の貫手をゆっくり引き抜く。自分の血が糸を引いているが、それを気にする必要はない。
掴んだ腕をそのままに、右足を軸にして回転する。さらに腰のバーニアを片側だけ吹かして加速。そして速度が最高点に達したところを見計らい、上空へ竜巻のような勢いで翼の体を投げる。
「うおおおおおおおお!!!!これが私にできる!全力全開だあああああああッ!!!!」
脚部のジャッキを強く引き絞り、高く跳び立つ。目指すは上空で体勢を立て直そうとしている翼さん自身!
腰のバーニアを吹かしてさらに加速する。エネルギーを全て腕に込めるとハンマーパーツが自動的に引き絞られる。エネルギーが加速度的に上昇していく。あとは束ねた力を全て、一点に集中してぶつけるのみ!
「最速で!最短で!真っ直ぐに!一直線に!」
「胸の想いをッ!わたしの覚悟をッ!全部ッ!余さずッ!伝えるためのォォォォォッ!!!」
【我流 大雪山おろし】
渾身の拳が炸裂したその瞬間、響の視界は翠色の閃光に呑まれていった。
『私は独りだ』
『私が戦わなければ』
『もう喪いたくない』
『助けてよ奏』
気付けば、響は廃墟の中に佇んでいた。
廃墟に炭が舞っている。変色した血がところどころを黒く染めている。廃墟を照らす光は夕日――瓦礫と炭の山の世界で、その橙に輝く光だけは美しかった。
そしてこの場所を立花響は知っている。
「ここは……二年前の、ライブ会場」
忘れる訳がない。忘れられる筈がない。あの日の地獄を覚えている。あの日の絶望を覚えている。
――だけど、あの日の希望もまた、この脳裏に強く焼き付いている。だからこそ、前へ進んでいける。それが立花響という少女の原風景。
では、翼さんは?この光景が翼さんの原風景だとすれば、二年前からずっと時間が止まったままなんじゃないか。
辺りを見回して探してみれば――いた。まだ新しいせいか、鮮やかな真紅の一際大きな血溜まりを背に、座り込んでいる。
「翼さん」
「よせ。私は、もう駄目だ」
「そんなこと言わないでください」
「お前にも見えるだろう?この景色が……薄皮一枚剥がせば、私の本質なぞこんなものだ。二年前と何も変わらない。ただ、無力に震えるだけの小娘に過ぎない」
「そんなことありません!だって、翼さんが守ってくれたから私がこうしてここにいられるんです!」
「それは!奏が守ったからだ……私ではない」
「どうしてそんなに自分を責めるんですか!翼さんに落ち度なんて……そんなの」
「では何故!竜は私から離れていったのだ!!!」
「簡単な話だ。私が奴のことを憎いと思ってしまったからだ。何故あの時、間に合わなかったのだと!何故奏を見殺しにしたのだと!」
「立花も立花だ!私こそお前を地獄に突き落とした元凶!だというのにお前は何も言わずにあろうことか私と共に戦いたいなどと!……立花は私を過分に評価しているようだが……所詮私はこの程度の安い女だ」
「もうやめてくれ!私が間違っているのは分かっている!これ以上私を惨めにしないでくれ!これ以上私を壊さないでくれ……」
「お前は太陽のようなものだ……陽の光は今の私には眩しすぎる。もう放っておいてくれないか……」
沈黙が場を覆う。項垂れる翼の顔は見えない。しかし――きっと涙を堪えているのだろうと、それだけは察せられた。
一秒が一分、一時間にさえ感じられるほどにゆっくりと時間が流れる。次に音が生まれたのは、どれほどか分からないほどの時間が流れてから。
翼の隣に座り、優しく語りかけるように話し始める。
「知ってますか?竜さん、前に私に聞きに来たんですよ。あの日の奏さんのこと」
「その時に言ってたんです。奏さんの死に目に会えなかったことが悔しくて、でもあんな顔した翼さんには聞けないんだ、って」
「翼さんがどんなに苦しかったかは……わたしにはわかりません。それは翼さんと竜さんだけの気持ちですから。でもきっと、竜さんが翼さんのことを想っていたことは本当だって思うんです。じゃなきゃ、あの時翼さんの絶唱を肩代わりなんてしないですよ」
「もう、やめましょう?ホントは全部分かってるはずなんです。翼さんの本心も、竜さんの本心も。だけど、ずっと目をそらしたままで……もっと素直になっていいんです。言いたいことを、もっといっぱい言ってもいいんです。竜さんだってきっとそれを望んでます」
「なら、立花はどうなんだ。私に言いたいことなぞ山ほどあるだろう」
「はい!そりゃあもう、いっぱいありますよ。二年前のお礼も、この間のお礼も、あとリディアンの近くのお好み焼き屋さんがおいしいことと、あと、ええっと……」
「違う!別にあるだろう?私へは……」
「翼さんを怒ったり恨んだりなんかしてませんよ。さっきも言ったじゃないですか。翼さんが……翼さんたちが守ってくれたから、こうして生きていられるんだって」
「それに、事件の後のリハビリだって、ずっと翼さんの歌に勇気付けられてきました。今のわたしは、そうやって色んな人に助けられてここまで来たんです。もちろん、翼さんも含めて」
「翼さんだってきっと同じです。緒川さん、師匠、二課のみんなが……みんななりに翼さんを助けようとしてた筈です。……あんまり表には出してないみたいですけど、竜さんも」
「だから、わたしからはこれだけ言わせてください」
「助けてくれて、ありがとうございます」
「守ってくれて、ありがとうございます」
「生きていてくれて、ありがとうございます」
「いい……のか?本当に、それだけで。お前には酷いことも言った筈だ。それを、そんな簡単に……」
「そんなの、当たり前じゃないですか。みんなに聞いても、きっと同じ答えをしてくれる筈ですよ」
翼がゆっくりと天に輝く夕日を仰ぐ。その顔は憑き物が落ちたような、何よりも優しい笑みだった。
「そう、か……私はまだ、独りぼっちではなかったのだな……」
それが最後の決め手だった。涙が溢れて止まらない。しかし、それを隠す気にはならなかったのだった。
それからしばらくして、ようやく翼が泣き止んだ頃。
「すまない。見苦しいところを見せてしまったな」
「いえいえ!人間は助け合いですよ!」
「そうだな。私はその心に助けられた……礼を言う、ありがとう」
「立花は確かに成長したと思う。以前とはずいぶん様変わりしたものだ。……だからこそ聞かせてくれ、立花が戦う理由を。ノイズとの戦いは遊びではない……いつ終わるかさえ分からぬ無明の世界だ。あるいは、一生かかっても終わらないかもしれない。その世界に足を踏み入れるのは軽い気持ちでは務まらん――お前は何のために戦っている?何を求めてその拳を握る?」
「わたし、人助けが趣味みたいなものなんです。他の人と競うのってあんまり好きじゃなくて……人助けなら、誰かと競うこともないから、って」
「ノイズと戦い始めたのもそうです。ノイズで困っている人がいて、わたしに何とかする力があるならわたしがやろうって思ってました」
「でもきっと、きっかけはあの事件だったと思います。奏さんがわたしを守るために命を燃やしたあの事件――奏さんだけじゃありません。たくさんの人があの時亡くなりました。だけど、わたしはこうして生きてます。学校に行って、みんなと笑って、ごはんだって食べられてます」
「だから、せめて誰かの助けになりたいんです。人助けがしたいんです。あの日、奏さんが言ってくれました――生きていてくれてありがとう、って。だから、わたしも誰かに伝えたいんです。同じように」
「だからこそ、わたしはみんなが生きる今日と、みんなが生きたい明日を。みんなのちょっとした日常を、守りたいんです。他でもない、その人に生きていてほしいから」
「立花らしいな。本当に、どこまでも前向きなお前らしい」
「その変哲も無い日常こそ、真に尊いものだ。今を生きる命を守ることこそ、防人の務め……どうやら私はそれさえ忘れてしまっていたらしい」
「ふふふ……そして、生きていてくれてありがとう、か。さっき私に言ってくれた言葉だな」
「あ……そういえば、そうでした!」
「何?まさか、無意識だったのか?」
「えへへ……そうみたいです。ホントに言いたいこと言っただけでしたから……」
「それだけ、奏の言葉が強く心に残っているんだろう。救った命の分だけ受け継がれるものがある……これほど簡単なことだったのか」
「本当に……強くなったな、立花」
「そんなことありませんって!まだまだ二課のみんなに助けられっぱなしですし……」
「未熟なのはお互い様、ということか。だが……悪くない。もしもお前が許してくれるなら……私と共に戦ってくれないか?他でもない、命を守るために」
「もちろんですッ!!!!!」
――――――――――――――――――――――
「う、う~ん……」
「気付いたか?響くん」
「あれ、ここって……もしかして、戻ってきたんですか!?」
「心配したぞ。意識を失ったまま二人して落ちてきたんだからな」
「二人して……って、そうだ、翼さん!」
「私はここだ、立花。お前には、ずいぶん大きな借りが出来てしまったよ」
「翼。体に異常は無いか?あのノイズは、響くんの一撃を受けた直後にお前の体から出て消えていったが……」
「心配には及びません。立花が、私を闇から助け出してくれましたから」
「そして申し訳ありません叔父様。私は、取り返しのつかないことをしてしまいました」
「いいや……これは俺たち大人の責任だ。お前の心の闇を分かったつもり、理解したつもりでいただけで結局何も出来なかったんだからな」
「理解を拒んだのは私です。思えば、それがすべての始まりでした……覚悟は出来ています。如何様にも、処罰を」
「その必要はないさ。さあ!まずは本部へ帰るぞ!ここから先は大人の時間だ、二人はゆっくり体を休めてくれ!」
氷に覆われた大地を目覚めさせるのは季節の風。立花響という太陽と共にやって来た春風は嵐を呼んだ。無明の中で道を探す者達は、今ここに一筋の光を見出だした。
手を繋ぎながら、いつまでも前向きに。
二人揃ってボロボロでも、そこには確かな未来への希望があった。
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後方に下がった了子は内心安堵していた。デュランダルの奪取こそ成らなかったものの、完全な起動とブラックノイズの襲来によって移送計画が頓挫したからである。
そして安堵の理由はそれだけではない。ブラックノイズの襲来は彼女にとって想定外だったが、何よりもあれが放ったモノこそ彼女を焦らせる代物だった。
(本当に、本当に危うかったぞ……)
(あれは、おそらく呪いの類いだろう。だがあれはあまりにも強すぎる。この私でさえ二体、三体分ともなれば正気を失っていただろう。情けないが、現れたのが一体のみで助かったと言うべきか)
一体分だから生身でギリギリ耐えられた。そして、耐えられたからこそ、その「声」を聞くことが出来たのだ。
(あれは一体何だったのだ?シンプルに考えるなら呪いの意思だろうが……ゲッターとどう関わりがある?)
(いや、そもそも何故あれはゲッターを知っている?たかがノイズごときに意志があるとでも?――あり得ん話ではない。ソロモンの杖が通用しない以上、あれはノイズとは別物と考えるべきだろう)
(『ゲッターを滅ぼせ』、か。奴等はさながら反ゲッター勢力といったところだろうな、面白い。存外、あの老人の執着もそこに由来するのやもしれん)
「人類は宇宙の癌」「ゲッターを滅ぼせ」――それだけが、ブラックノイズの呪いから読み取れたものであった。
ビッキーの大雪山おろしは未完成なのであと一手分が+αされました
元ネタは「ガンバレ!!ムサシ」です