シンフォギアにゲッター系女子をinさせてみたかった 作:ぱんそうこう
そういうわけでお待たせしました。最新話です。
洋館の近くにある湖畔に一人の少女が眉をしかめながら佇んでいる。
彼女は雪音クリス――二課のシンフォギア装者たちを襲撃したネフシュタンの鎧の主である。
(あいつ、あれだけの短時間で完全聖遺物を起動させやがった……あたしでも半年かかったってのに)
その思考を占めていたのは融合症例と呼ばれる少女――立花響――のことである。己に出来なかったことをいとも容易くやってのけた彼女に、クリスの主たるフィーネが熱を上げているというその事実がクリスを焦らせていた。
(クソッ……あいつを狙えって「そう」いうことなのかよ。まさか、あいつさえ奪えばもうあたしは用済みになっちまうのか……?いや、フィーネはあたしに戦争の火種をぶっ潰すだけの力をくれたんだ。まさか、まさかそんなことは……!
フィーネは両親を失い、信用も信頼もできない大人たちの元へ送られそうになった己を拾い上げてくれた、第二の親のようなもの。それを疑うことはしたくない。
だというのに最近のフィーネの様子はどうだ?自分の研究に夢中になって、しかもあたしより例の融合症例とやらを必要としているようにさえ見える。フィーネ自身はモルモットとしてその腑分けをしたいだけだと嘯いているが、果たしてそれがどこまで本当なのか。
しかも最近になってゲッター線なんて胡散臭い代物にまで手を出し始めてる。一度だけモニターに映った「早乙女レポート」とやらを盗み見たことがあるが、「ゲッター線が人類をサルから進化させた」なんて与太話にしてもちゃんちゃらおかしい事が書いてあったものだからそれだけでげんなりしてしまった。
しかもあろうことかフィーネは最近己にゲッター線を浴びせる実験なぞをし始める始末。確かに浴びれば心持ち体が軽くなったような気もするし、ネフシュタンの侵食も若干遅くなるようになった。加えて折られた鼻の骨もあっさり治癒してしまっていいことずくめなのだが――こうも都合がいいとなにやら致命的な代償を払わされるような気がしてならない。しかも聞けばゲッター線は宇宙放射線の一種だと言う。そんなものを浴びせられるとなれば、あまりいい気はしなかった。
「だけど、これでいいんだよな」
背後から近づく気配に気づき、徐に声を張る。
「そう。それでいいのよ。貴女はそのままでいなさい」
件の女性、フィーネ。世の女性が羨むスタイルを黒い衣服に包む彼女がクリスのもとへ歩いてきていた。
「今度はあたしの力だけでやってやる。こんなものは必要ねえ……次の戦いであたしはあたしの力を証明してやるよ」
そう言うと手に持ったデバイス――ソロモンの杖――をフィーネに投げ渡し、つかつかと早足でその場から去った。
ソロモンの杖を片手で受け取ったフィーネは、ただ無感情に、クリスには聞こえない声で答えるだけだった。
「そう。期待しているわ」
――そろそろ潮時かしら。
彼女は脳内で冷酷な計算を進めていた。
正直なところ、見ていて彼女はもうすぐ限界だろうと思う。
彼女は口は悪いが根はとても優しい子だ。目的のためなら己の手を汚していくことを厭わないが、その実心の底ではその手段に疑問を抱いている。気付いているかは知らないが、初めてノイズで人を殺させた時から彼女は何度も「これでいいのか」と尋ねるようになった。その度に彼女自身を肯定することで私が望むように動かしてきたが……ここに来てその頻度が上がっている。おそらく、自分で自分を納得させられていないのだろう。だからこそ他人の……私の同意を求め、安心を得ようとしている。
何より彼女は私が求めているものを履き違えている。私が求めるのはあくまで駒の一つとしての役割であり、それ以上でもそれ以下でもない。だが彼女は私にそれ以上のものを求めている。
それは親愛の皮を被った依存。彼女が私をどういう目で見ているかは分かる。親を失った子は愛に飢え、それ故に親の愛を懐かしみ、憧れる。それがかつて、親に愛されて育った子ならば尚のこと。
(尤も、そうなるように仕向けたのも私なのだけれど)
しかし、彼女の協力故に己が多くのものを手に入れられたのも事実。であれば、来るべき新世界で側に置いて可愛がるのもまた一興。
「そこまで言うならやってみせなさいクリス……私が貴女を愛してあげる……使える内は、ね」
もし彼女が不要になれば告げてやればいい。己のしてきたことが一切の無駄であったことを。そうなればどんな顔をするだろうか。どんな風に心を壊すだろうか。それを想像すると嗜虐心が湧いてくる。
邪魔だった広木大臣も米国政府の手で始末させた。おかげで「カ・ディンギル」も完成間近。融合症例のデータ収集はこのまま二課で続けていればいい。後は事を成し、無限とも言える時間を使ってゲッター線の謎を解き明かす。
ゲッター線を発見した早乙女博士はまごうことなき天才だった。しかし所詮は只人。有限の命たるその身でゲッター線を解き明かすには時間があまりにも少なすぎる。故に。
「感謝することね早乙女博士。ゲッター線の全てはこの私が解明して差し上げるわ」
――――――――――――――――――
「……う」
「――ッ!先生!患者が!」
「何だと!?早すぎる……すぐに処置を!」
寝ている間に、ずいぶん色々なものを見た気がする。
地球の誕生、生命の誕生、恐竜の隆盛と没落、人類の歴史――その全てを理解できたわけではない。しかし己が何を見ていたのか――否、見せられていたのかは理解できる。あれこそこの星の進化の記憶なのだと、そう確信できる。尤も、なぜそんなものを見せられたのかは分からないが……
(大方、あのストーカー野郎の仕業だろうがな……)
二年前、始まりの日に見た夢を思い出す。馬鹿でかい戦艦が、宇宙戦争をやってる光景。そしてその戦艦に乗ったストーカー野郎。どうせあの野郎が何かしたに違いない。もし違ったら全部あの風鳴のジジイの仕業だろう。俺が体験する不思議現象はだいたいそれで説明がつく筈だ。
(……ハッ。阿呆くせえ)
だがそんなことは俺には関係ない。たとえあれが何だろうが俺の知ったことではない。俺はただ、戦って前へ進むだけだ。
第一俺はまだオッサンだって風鳴のジジイだってぶっ倒せてねえんだ。そんなものに足を止められてる暇なんかありゃしねえ。翼のことじゃあるまいに、今更そんなことでうじうじ悩んでいられるか。
やるべきことはまだまだ多い。もっと強くなることも、翼とケリを着けることも。そのために、
視界の中でチラつく白衣を目の当たりにしたところでようやく思い出した。なぜ自分がここにいるのかを。
「そういや俺、また死にかけたんだったな」
その言葉は虚空へ溶け、何も返ってくることは無かったのだった。
――――――――――――――――――
デュランダル移送失敗から数日が経過して。再び愛すべき日常を謳歌する響の携帯に一本の通信が入る。
呼び出し人は緒川。用件は竜がICUを出て一般病棟へ移ったが、少し手が放せないので代わりに見舞いに行ってほしいということだった。
親友と行きつけのお好み焼き屋「ふらわー」へ行こうとしていた矢先のことで、再び親友に隠し事をすることに胸の痛みを覚えながらリディアンに隣接する病院へ向かう。
そして竜の病室に入ったその時である。
「ゑ?」
「あ」
窓を開け、点滴を抜いて病院着のまま窓枠に足を掛けた竜と目があった。竜の顔は告げている――「やべえ見つかった」と。
「」
「あばよッ!」
絶句する響。当然ながら竜はその隙を見逃さず、あっという間に窓から外へ飛び降りてしまう。呆気にとられた響が我に帰ったのはその後で。
「嘘ぉ!?ていうかここ三階――!」
いかに三階とはいえ相当高いはず。やっと集中治療が終わったのにまた大ケガするんじゃないかと急いで窓から身を乗り出すが、何のアクシデントもなく無事に着地しておりほっと胸を撫で下ろす。
(いやいやいやいや違う違う違う違う!何安心してるのわたし!?)
「ちょっと竜さん何抜け出してるんですか!?病人ですよね!?」
「こんなところにいてもしょうがねえ!ちょっくらシャバの空気吸って来るぜ!」
そう叫ぶと彼方へと走り去ってしまった。
「だからって脱走はダメですよぉ!?」
響もそう叫ぶとそのまま病室の中へ引っ込み、急いで二課へ通信を入れる。
「もしもし師匠!?竜さんが病院から脱走しました!」
『はぁっ!?』
二課職員による異口同音の大合唱。それもそのはず。流竜は確かに重傷だったはずである。ICUを出るのが予定より早かったとはいえ、まともに出歩けるような状態ではない……と、誰もがそう思っていた。それがまさか移って早々に脱走を企てるとは。
風鳴翼は深く深くため息をついた。
藤尭朔也が机に顔を突っ伏した。
友里あおいは頭を抱えた。
風鳴弦十郎は右手でこめかみを押さえている。
「あー、うむ。そう、だな。捜索はこちらでやっておくから、響くんは気にしないでくれ。その……なんというか、すまなかった」
弦十郎の申し訳なさそうな声。何ともいえない空気をまとったまま、通信はあっさりと切れてしまったのだった。
小日向未来は焦っていた。
最近親友の響の様子がおかしい。
リディアンに入学して以来急に付き合いが悪くなり、外出が多くなった。しかも何かで悩んでいるようにも見えて……特に用務員の流さんが交通事故に遭ってから顕著になっている。
(この間なんて朝早くに出て夜遅くにボロボロで帰ってきて、どれだけ心配したか。最近はノイズ災害も増えてきているし、危ない目にあっていなければいいんだけど……)
この間一緒にお風呂に入った時なんて知らない傷が付いてたり、何だか妙に筋肉がついてたりと自分の知らないところで何かをやっているようで。
そして今日。一緒にふらわーに行こうとしていたのにまた急用。今度こそ何してるのか聞きたいけれど、踏み込むのが少し怖い。聞いてしまったらこれまでの関係じゃいられなくなってしまいそうな……そんな怖さがあった。
「はぁ……」
用事のために寄った図書室でたまたま見つけた本。『素直になって、私』というタイトルを見てため息をつく。そんな簡単になれたら、勇気を出せたらどれだけ良かったか。
ふと窓の外を見る。空はまだ明るく透き通っていて、自分の心の中とは大違いだ。とその時、たまたまソレが視界の隅に入った。
「嘘……!」
人が病室の窓に足をかけている。今にも飛び降りそうなその光景に驚き、思わず荷物を取り落としてしまう。すわ自殺か――そう思って狼狽えているうちにその人は少し後ろを振り返ると、そのまま飛び降りてしまった。
「ひっ!」
数秒後の惨劇を想像して思わず目を閉じる。ゆっくりと、おそるおそる目を開けると、しかし想像していた景色は無い。いやそれよりも。
「えっ……響!?」
用事があると言っていた親友が飛び降りた後の病室から身を乗り出している。いやまさかそんなあの子に限ってそんな。でも最近悩んでいるみたいだったし、響は一人で抱え込みやすい子だし。でもまさか響が目の前で飛び降りなんて――!
こうなったらここがどこかなんて関係ない。廊下は走っちゃいけないなんてルールは知らない。
親友の命の危機を前に立ち上がらない訳がない!
(ごめん響!私が悪かったから!できることなら何でもするから!お願いだから早まらないで!)
その願いを胸に急いで校舎を駆け下りる。この時ほど元陸上部であったことを嬉しく思ったことはない。記録が伸び悩んで辞めてしまったけれど、それでも響の助けになってくれるなら本望!
切に願った再会は、予想に反しあっさりと成し遂げられた。
「ッ!響ぃぃぃ!」
「うえっ!?未来ぅ!?」
「ほんとに、ほんとにほんとに響なんだよね!?生きてる本物の響なんだよね!?」
「ど、どうしたの未来!?どうしてそんなに慌ててるのぉ!?」
病院の入り口あたりで病院から出てきた響と合流した。響の手を両手で握る未来は目に涙を溜めており、響と話しているという事実に感極まっていた。
「だって、だってぇ……響がいなくなっちゃうってぇ……」
「え、ええっと……話が、まったくもって見えないんだけど……」
当然である。響からすれば、竜が脱走してトボトボと病院から出てきた矢先に突然親友が泣きながらすがりついてきたのだから。
「だって……だって今、窓から……だから、響が、飛び降りちゃうんじゃないかって……」
「と、とりあえず!ゆっくり落ち着いて話そう!?ね?」
慌ててそう言うと、未来に連れ添って今一度校舎へ入っていった。
結論から言うと、話し合いは未来が顔を真っ赤にするだけの結果に終わった。
最初に飛び降りた人は身体能力がおかしい用務員が病室から脱走するため。窓から身を乗り出していたのは脱走者の行き先を確かめるため。二人の会話が聞こえなかったが故の誤解が生んだ喜劇だった。
「うう……私ってなんて早とちりを……」
「あ、あはははは……ごめんね未来。紛らわしいことしちゃって」
「ううん。勝手に勘違いしたのは私だし。それにその用務員さんの行き先も分かんなくなっちゃったし……用事って用務員さんのお見舞いだったんだ」
「あっ……うん、そうなんだよ。えへ、えへへへ……」
「でも、急にお見舞いなんて、いつの間に流さんとそんなに仲良くなったの?」
「仲良くなったっていうか、その……人に頼まれちゃって。今用事で手が放せないから行ってきてーって」
「それだけで?でも、あんまり知らない人に来られて流さんも迷惑だったりしない?」
「ううん。その……入学式の日に遅刻してきちゃったでしょ?あの時、実は竜さんに助けてもらってたんだ」
「そうだったの!?なんだか、あんまり想像出来ないんだけど……」
実はそんなに怖い人じゃないのかな?と首をかしげる未来。確か遅れた理由は木から下りられなくなった猫を助けるためだったはず。ということはその猫を助けるのを手伝ってもらっていたんだろう。
でも単なるお見舞いならそう言ってほしかったという気持ちがほんの少し沸いて出た。
「ああ見えて気遣いとかもできる人だよ?さっきみたいなこともあるんだけど……」
「もう……分かったから。だけど、何でもかんでも安請け合いはしないようにね?」
「うへぇ……がんばります……」
「分かればよろしい。じゃあ、今度こそ一緒にふらわーに行かない?もうお腹ペコペコなの」
その提案は望むところだった。ふらわーに行く予定が無くなったと思ったら予想だにしていなかった事件によってお見舞いもわずか数秒で終わってしまった。こんなことなら未来と一緒に行けば良かった……と思って気が沈んでいたところだったからである。
「未来……うん!今度こそ一緒に行こ!」
従ってその答えは花咲く笑顔。待ち望んだ最高の機会を得られたことに感謝しながら、二人は上機嫌になって並んでふらわーに歩を進めるのだった。
――――――――――――――――――
「ふっふーん!いやあ、すっかりお腹いっぱいですなあ!」
「ちょっと響食べ過ぎじゃない?」
「いやいやまだまだこんなものじゃないよ~?あと三枚は食べれるかも!」
「そんなこと言ってるとお腹に来ちゃうよ?ただでさえごはんが好きなんだから、気を付けないと」
「ぎくり。で、でも!未来と一緒に食べるごはんがおいしいのが悪いんだよッ!」
「もう。調子いいんだから!」
などと言いながら未来はまんざらでもなさそうにする。
思えば、こうして二人きりで出掛けるのは久しぶりだと思う。最近の響は悩んでばかりに思えたから本当に心配だったけど、今日の笑った響を見て安心した。ああ、響はやっぱり響のままなんだ、と。
この前の流星群の時のように、ここ最近の響は何かを抱え込んでいる。けれど今ならきっと勇気を出せる。だから―――そう考えた時だった。
「見つけたぜッ!融合症例ェェェェ!」
空から誰かが降ってきて、響が自分を庇うように前に出た。
(ッ!無関係な奴がいるのか……だったら!)
「さっさとあたしと一緒に来てもらおうか。痛い目見たくなけりゃあな」
その少女は、鞭のような何かを響に突きつけて着いてこいと要求する。
「逃げるよッ!未来!」
「う、うん!」
見るだけでも強い危険を感じ、すぐに後ろを向いて走って逃げる。
自分の手を引いて走る響の横顔は、自分が知らない響の顔だった。
「一体何なの!?あの子は!」
響は黙りこんで何も返さない。ただただ走り続けるだけ。
「響が一体何をしたっていうの!?いきなり急に一緒に来いだなんて!」
話している内にも彼女はこちらを追ってくる。まだ攻撃はしてこないけれど、それも時間の問題ではないかという剣幕だった。
「ごめん未来。ここからは一人で逃げて」
「そんな!響を置いてなんか行けないよ!一体何があるのか教えてよ!」
違う。こんなの私が望んだ聞き方じゃない。こんなどうしようもない時に、響のことを無理矢理聞き出すようなずるい真似はしたくなかったのに!
「ごめん。それは言えない……約束が、あるんだ」
「そんなの!私じゃ響の助けになれないの!?」
「……ごめんッ!」
そう言うと響は体を後ろに向け、迫る彼女と対峙した。
そして……
――Balwishal nescell gungnir tron――
「要救助者が、一人。救助をお願いします……ッ!」
「響!」
「ごめん……わたしは、未来を巻き込みたくないんだッ!」
それだけ告げると響は彼女に立ち向かい、一緒に向こうの方へと消えてしまった。
「響……」
私はただ、呆然とすることしかできなかった。しばらくすると、黒服の人たちが来て。
色々な説明をしてくれたけれど、それはまったく頭に入ってこなくて。
まるで手を繋いでいたはずの響が一瞬で手の届かないところに行ってしまったような……そんな感覚に襲われ続けていた。
最近あんまり感想がもらえなくて寂しい…
いやまあ自分の文があまり良いものではないからっていうのは分かってるんですけど
感想を下さると死ぬほど喜ぶのでよろしくお願いします(乞食)